初めて仕えた神様は 作:メイドさん大好き
祭り、親と巡りたかった。
二人で手を繋いで、笑って。
ヘスティア様と一緒に巡って色んなものを食べたい。
【怪物祭】とは一年に一度行われるオラリオの一大行事だ。
これまではヘスティア様のバイトを手伝っていたのみでマトモには回れなかった。
今年は休みがとれたとかでベル君と私とヘスティア様で一緒に回れる。
そう思って楽しみにしていた。
ベル君への手助けをしたい、そのために少し【神の宴】に出てくる。
頑張って【怪物祭】には間に合わせるとヘスティア様は出ていってしまった。
「ローズ。大丈夫だって、帰ってくるよきっと」
「かくしょうない」
「神様だよ?僕たちを蔑ろにするわけないじゃん!」
「でも、やっといっしょにいけるとおもったのに」
約束を破った、ヘスティア様は簡単に言葉を覆した。
その事実が私をベッドに突っ伏させている。
ヘスティア様を信頼しているし信仰もしているし愛してもいる。
この世にある尊敬や愛の言葉を何度言っても届かないくらいにはヘスティア様を信仰しているつもりだ。
ヘスティア様と一緒に廻りたかったのだ、ベル君には悪いけれどヘスティア様という存在は特別なものなのだ。
一緒に、そんなことが特別であることを今知った。
「むぅ」
じたばたして、我儘を言って暴れたい。
それは出来ないけれどヘスティア様に少しは恨み言を言いたい気分だ。
「ローズは神様が信じられないの?」
「やくそくやぶったもん」
「破ってなんかない。間に合わせるって言ってたんでしょ?」
「ぜったいくるなんてわかんないじゃん」
「なら信じなきゃ。僕達が応援したら神様も身が入るよきっと」
「‥‥‥」
言いくるめられている気がしないでもない。
ヘスティア様なら、私たちの応援も受けとりそうだなぁ、なんて思ったり。
「かみさまをしんじてないわけじゃない」
「ならっ!待ってみようよ!」
「‥‥‥かえってくるなら」
「帰ってくるって!神様が僕たちを裏切ったことなんてある?ないよね!?」
「‥‥‥」
率直にいえば拗ねているのである。
あと、アワアワとしているベル君を見てるの楽しい。
布団に潜っているからあんまり見えないのはあれだが。
「でもやだ」
「え?」
「うごかない」
「ちょっ」
「まかせた」
「えぇ‥‥‥」
取り敢えず寝てやる。
とりあえずベル君に迷惑をかけてやるとしよう。
「おやすみ」
「おやすみ」
最終的にベル君は笑顔でおやすみと言ってくれる。
いや、優しいな君。
そんな最高な君に甘えて私は眠る。
「‥‥‥神様、どうかお早めに」
「スヤァ」
【神の宴】とは神が主催する神のみが出席する宴のことである。
今回はガネーシャが主催となって開催され、その場所は【ガネーシャ・ファミリア】の
今年の【
ちなみに【アイアム・ガネーシャ】の外観はガネーシャそのものであり、入口は股間である。
使用人や雑用という感じには人間もいるが、やはり賓客は神のみだ。
そんな場所をヘスティアは苦手だとして行くのを嫌がっていた。
ローズと一緒に買ったドレスもクローゼットの中で温めていたくらいだ。
神のノリ、というものを理解できるが故に苦手だと切り捨てて
しかし、今回この場に来たのは
「‥‥‥はぁ」
ため息をつく。
理由は至極当然のこと、
「怒ってるよねぇぇぇ‥‥‥!」
ベルにローズを任せ、逃げるように
ベルは笑顔だったけれど、ローズは絶望的な顔をしていたことを思い出して余計に落ち込んでいる。
美味しいはずの料理がとてつもなく台無しなのだ。
「心を鬼にして‥‥‥はぁぁぁぁっ」
目的はある、しかし心が削られていく痛みと引き換えにするくらいならと思い直す材料にするには易い。
豪勢なこの場でズーン、という効果音すら聞こえるくらいに落ち込んでいるヘスティアに神ですら近づけないでいる。
ノリがいいというか、空気を読まない神ですら近づけないのだから相当である。
「‥‥‥ヘスティア?」
「ああ、ヘファイストス。元気かい?」
「あなたのそんな姿見てたら元気なんて出ないわよ。で、どうしたの?」
「それがねぇ」
ヘスティアは死んだ瞳でヘファイストスに事情を話す。
その話を聞いていくうちにヘファイストスの顔は苦笑に変わっていった。
「それは、まあ正直に話したら良かったんじゃないの?」
「ローズ君は不安定なんだよ。1年半前のこともあるし」
「人格が変わったって話?」
「そうとも言いきれないんだよねぇ。よく分からないんだよ」
一年半前からローズは変わった。
そのことでヘスティアはヘファイストスやミアハなど、友神に相談していたのだ。
今回の出席はそのことに関すること、それに気になることもあったから。
「ずっと一緒にいたんじゃないの?」
「いたんだけどね、それで一層かな」
ローズの行動原理や口調は一切変わらなかった。
変わったのは有能さだけ。
それまでのローズはお世辞にも有能とはいえず、戦闘のみに秀でていた。
しかし、変わった後は家事も完璧に行えるようになり、スキルが変質した。
「能力以外は何も変わってなかったんだよ」
「それは、奇妙ね」
「だよね。出自も身体のこともあまり分かってないし」
普通の人間ではない、人でないものに寄っていることはわかっている。
出自のことは一切分かっていないし、その身体のことも人をベースにした被造物であろうことだけはわかっている。
「人間じゃないってこと?」
「いや、魂は
さもないと【
「そりゃそうよね」
「うん。そうなると余計にあの子の正体が掴めないんだ」
「物に魂が宿るものかしらね?」
「そもそもあんな身体を作れるものかな」
「無限の可能性はあるけれど、考えがたいわよね‥‥‥」
ヘスティアはヘファイストスにはほとんどの情報を話している。
血の特別な力について、ローズの不自然なまでの戦闘能力。
メイドさんになる前からローズは強すぎたのである。
明らかに戦闘に特化しているし、戦闘のことしか知らなかった。
「ヘスティア」
「うおっ!‥‥‥なぁんだ、フレイヤか」
「驚きすぎよ」
フレイヤ、長い銀髪と白いドレスは他の女神と比べても際立っている。
そんな彼女はヘスティアの反応に不機嫌そう言葉を零すが、すぐに微笑に変わった。
「ローズは元気?」
「元気だよ。今は機嫌損ねてると思うけど」
「愛されてるのね。嫉妬しちゃうわ」
やっぱり、苦手だと心の中で呟く。
纏っている雰囲気が独特のものだし、何もかもを見られている感覚もあるからだろう。
「あの子、私に対しては事務的なんだもの」
「それは残念だったね」
「フフフ、そうね」
常にフレイヤは微笑みを絶やさない。
それが魅力でもあるのだがヘスティアから見れば不気味である。
「じゃあローズのことなんだけど」
「分かったのかいっ?」
「いいえ、まったく」
フレイヤは自身のファミリアを動員して探ってくれている。
頼んではいない、勝手にやってくれているからそれに甘えているだけだ。
「そうかい‥‥‥。無理はしないでおくれよ?」
「大丈夫よ」
「それならいいけどさ」
即答してきた。
笑顔の奥に何があるのか分からなくなってくる。
「うーん、考えれば考えるほど分かんないなぁ」
「記憶を失ってるのが痛いところよねぇ」
「‥‥‥魂のことなんだけど」
「魂?」
人の中枢、人が人たる所以のもの。
魂があるからこそ恩恵が刻めるとそれくらいには重要なものである。
確かフレイヤは魂を見れたはずだが、それがどうしたのだろうか。
「一年半前が転機だったのよね?」
「ああ、うん。そうだけど」
「混ざりあってたように見えたわ。足りないところを補ってた、という方が正しいのかしらね」
「えっと、どういうことかな」
「私にもよく分からないのよ。今まで見たことのない魂だったんだもの。それはベルもだけど」
「へぇ、ん?最後何か言ったかい?」
「なんでもないわ」
何か呟いたように聞こえたが、内容は分からなかった。
気にするほどのことではないだろうと気にしないことにする。
「とりあえずよく分かんないってことだね」
「そうなるわね」
「‥‥‥そういえばさ、ヘファイストス」
「なに?」
「ローズ君の大太刀のことだけど」
前に一度見せたことがある。
その時に見解を聞いたのだが、それから色々あったせいで忘れてしまっているようだ。
ということでもう一度聞いた。
「あの子専用の武器ね」
「‥‥‥?それにしては大きすぎないかい?」
背中に背負えているだけでも不思議なくらいには大きい。
刀身だけでもローズの身長を遥かに越え、魔法発動時でやっと身長と同じくらいの長さである。
重さも尋常ではないし、それ以上に扱いが難しい。
「でも他の人には扱えないでしょう?」
「それは、そうだろうけどさ」
「それに彼女なら扱えてるし。あんな武器なんて他にはないわよ。確実に
「ああ、そういうやつね」
「質も良かったわ。第一等級武装にも引けを取らないくらい。使われてる鉱石も見たことなくてね、整備されてたとしてもあれだけ長い年月使われてても全く傷んでないのよ。それも何百年単位よ!?」
「え、ええっと、ヘファイストス?」
「あれは極東の技術ね。元々目を見張るものがあったけどあれは化け物だわ。初めてカタナを見た時にビビッと来たのよ。あれは斬ることに特化してるわね。叩き潰すには強度が‥‥‥」
「ヘファイストス!!」
「なによ。まだ途中なんだけど?」
「ごめん。全然分からない」
「えっ、ああそうよね。ごめんなさい」
ヘファイストスは鍛治神である。
だから鍛治に関しては熱くなることがあるのだが、下界歴も高い。
つまり、大体の武器や防具は見慣れているだろうと質問してしまった。
ローズの武器はそんなヘファイストスを興奮させるくらいには異常だということだろう。
「まあ、つまりあの子の武器は
「それはぁ、凄いんだろうねぇ」
「うん、よく分からないわ」
「でしょうね」
完全に専門外である二人の反応にそれは当然だと諦めるヘファイストス。
「おー、面白そうな話してるやんけ」
「‥‥‥チッ」
「聞こえとるぞどチビ」
赤髪の胸平さん、その名は天界の
真っ黒いドレスに身を包んで片手にワインの入ったグラスを持っている。
そんなロキはヘスティアの反応に分かりやすく不機嫌な顔になった。
「あら、ロキ」
「ロキじゃない。久しぶりね」
「久し振りやのー、ファイたんにフレイヤ。‥‥‥あとどチビ」
分かりやすいエセ関西弁。
あとは変態だろうか、それがロキのキャラである。
あとは絶壁だからかロキは一方的にヘスティアを毛嫌いしている。
出会う度に突っかかってくるためにヘスティアもまたロキのことを毛嫌いしている。
「ローズたんの話しやろ?」
「そうだね」
「ウチにも教えろや」
「断る」
【豊饒の女主人】にいる時点でロキに察知されないわけがない。
なのでヘファイストスやフレイヤよりは遅かったが、ローズの存在は【ロキ・ファミリア】に知れている。
首脳陣とアイズくらいにしか知られてはいないがファミリア間の関係ならば関係ないだろう。
そんなロキは三角形の協力関係に入っていない。
理由は、単に遅かったからだ。
あとヘスティアがロキが嫌いなのもあるし、変な情報を握られると面倒なことになるという懸念点もある。
「なんでやねん」
「自分の貧相な胸に聞きなよ」
「‥‥‥」
ヘスティアはロキに情報を漏らすのを絶対に嫌がる。
ロキもロキで会う度にローズの話をして、情報を欲しがるので余計に拒絶されている。
良い交換条件でもあればいいのだが、この場では条件が悪すぎた。
「君は自分の
ヘスティアは先日の酒場での1件を根に持っている。
自分の
「はぁ?なんでおどれにそないなことが」
「酒場」
「あ?」
「【
「‥‥‥新入団員がおったんか」
「ボクもその新入団員も、ローズ君もその場にいたよ」
「‥‥‥マジ?」
「マジ☆」
ヘスティアは笑顔で言い放つ。
ロキは冷や汗を垂れ流し始めた。
その光景を想起したのだろう、哀れなことだが自業自得だ。
「酒は飲んでも呑まれるな、なんてよく言われてることだろ?」
笑顔で迫る。
知っているだろうか、元々笑顔とは攻撃的なものなのである。
目は笑っていなかった。
「さて、どうする?」
肩に手を置くのは死刑宣告のようなものであっただろうか。
先のことがトドメになり、完全にチャンスは途絶えたのである。
「すまんかった」
「おー、素直だね」
「またベート連れて詫びに行」
「いらない」
ヘスティアはロキの言葉を遮る。
「ベル君はねぇ、全く気にしてなかったんだー。その代わりにダンジョンに行っちゃったんだけどね」
遮られたことに驚いて反応が遅れる。
「もちろん生きて帰ってきたよ。ローズ君が連れて帰ってくれてね、無傷だったんだよ。しかも半月で九階層に到達してたんだ。凄いよね。それで起きた時にベル君何言ったと思う?」
口を開けないのだろうか、ロキは目を丸くさせたままだ。
「自己責任ですから、だってさ。ボクがバイトに遅刻しそうになった時にねぇ、聞いてみたら達観した顔でそう言ったんだよぉ」
「‥‥‥何を」
やっと声を発することができた。
「何もしなくていいよ。謝礼も謝罪も要らない。だから、二度と関わってくるな」
笑顔から表情が消えての死刑宣告。
「待、待ってくれ」
「ヘファイストスー!頼みがあるんだけどいいかな?」
「え?ま、まあ話だけなら聞くけど」
「やったっ!ありがとね!」
表情をコロッと変えてヘファイストスに話しかける。
その内容は頼みがあるという内容であった。
その顔には確かに感情があった。
翌日のことだ。
ヘスティア様は帰ってこなかった。
神の宴はもう終わっているだろうに、ヘファイストス様に頼みが通ったのだろうと納得することにする。
ならば、【
「べるははたらかなくていいよ」
「‥‥‥りょーかーい」
ベル君の了承を得た。
ならば存分に暴れ回ってやるとする。
【竜の特大剣】は非常にストレス発散に最適な武器だ。
吹っ飛ばして、蹴散らして、ぶっ潰す。
「ふぅぅぅっ」
ああ、非常に気分がいい。
一撃でモンスターが消し飛ぶのは非常に気分がいい。
勿論、魔石は残すようにぶった切ってるのでベル君に拾ってもらっている。
「発散にはなった?」
「まだまだ」
「ああ、存分にね」
「やるぞー」
おー、という掛け声にベル君は苦笑で返す。
君はノリが悪いな、まあいいだろう。
鬱憤は発散するのが健康的にも良いことなのだ。
ストレスは悪い影響しか及ぼさないためである。
もちろんメイド服への返り血は許さない。
「ななかいそー」
「ははは、来ていいのかなぁ」
「いいんだよぅ。ひとりできてたでしょ」
「そうだけどさぁ。で、ここで何するの?」
「きらーあんとがり」
「‥‥‥まーさーかー?」
「しょゆこと」
「生き残れるかなぁ?」
キラーアントを瀕死まで追い詰めて、仲間を集めさせるフェロモンを出させて纏めて狩る。
一気に百近いキラーアントが出てくるのは間違いないことで、ストレス発散には間違いないことかもしれないが、危険極まりないことだ。
しかし、まあベル君にも越えられたし過去に一度やったこともあるのでいけるでしょう。
「うわぁ、やっぱり気持ち悪い」
「あかいめだまに。おー、めんだめん」
面にキラーアントが染まっている。
これはこれでおぞましく、絶望の色に染まるのは当然のことと思える。
虫平気だったから良かった、虫苦手ならここで卒倒していただろう。
ベル君も同じような感想をこぼしていたのだろうな。
「けつじんっと」
詠唱を済ませ、適当に特大剣に血を浴びせる。
それで【メイドさん殺法 其ノ壱 血刃】が特大剣に付与された。
これでリーチは二倍、それに装甲をほとんど貫通するようになる。
「がんばるぞー」
「頑張れー」
ベル君もまたナイフと大剣を構えている。
無骨なものだ、そんな武器が私は好きである。
ベル君はどうかは知らないけれど。
「おー、かーご!」
「モンスターが中に入ってるけど、
「そう。あれをとうぎじょうでちょうきょうするの」
「凄いね」
キラーアントは余裕で突破した後に【ガネーシャ・ファミリア】の運ぶカーゴを見つけた。
【ガネーシャ・ファミリア】にはかなりお世話になったし彼等は特徴的だ。
「かみさまくるかな」
「来るから!信じようよ!」
「うむ、がんばってもらおう」
【
まあ、ヘスティア様を信仰しているので祈るだけはしておく。
「おまつりがたのしみー」
「そ、そうだねぇ」
設定とストーリーはおまけです。
偉い人にはそれがわからんのです。
ローズちゃんは古い人が作った人形のようなもの。
そこに魂が根付き、そして転生した魂が混じった。
ちなみに擬似的な不老を実現していた作者さんはどこかにいるかもしれない。
そんな感じかな?
メイドじゃないんや。メイドさんなのだ。