初めて仕えた神様は 作:メイドさん大好き
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ヘスティアはというと、バベルにあるヘファイストスの工房にいた。
その手には黒いナイフ、ミスリル製のヘファイストスによる
その武器はヘファイストスによると
未だにヘスティアにはよく分かっていないのだが、作るのならとローズが教えたことだ。
べるせんようなら、ぱりぃができなきゃだめですよ。
そんな言葉がヘスティアの脳裏に再び浮び上がる。
「休んだ方がいいわよ。何日寝てなかったか覚えてる?」
「大丈夫さ。疲れくらいローズ君やベル君を見れば吹っ飛ぶ!」
「それは謎理論ね。気をつけなさいよ?行き倒れなんてしないでよね」
諦めたようにヘファイストスがヘスティアに警告をする。
ヘファイストスは寝ていなかった彼女に休むように促していたが、頑なに拒んでいたのだ。
あの子たちに報いないととひたむきに臨んでいた。
「大丈夫だって言ってるだろ?」
ヘスティアは元気に振る舞うが、目の下にある隈がその天真爛漫さによる可愛さを邪魔している。
そんな姿では
「一時間でも仮眠していきなさい。私が起こすから」
窓から見える空はまだ日は昇っていない。
太陽が登る前、つまりは早朝だ。
だから多少は眠っても許される。
ヘファイストス自身は徹夜仕事には慣れているしこれから眠るので問題はないのだ。
「‥‥‥うーん」
「ローズやベルって子を心配させるつもりなの?今の姿見れば間違いなく心配するわよ」
「なら甘えようかな」
「それがいいわ。毛布持ってくるから寝なさい」
「ありがとうね」
ヘスティアはヘファイストスの言葉に従い、執務室にあるソファに寝転がる。
「おやすみ。少しでも疲れとりなさいな」
「ありがと、ね」
すぐに眠りに落ちたのだろう。
ヘスティアは瞼を閉じて、寝息をたてはじめた。
「寝たわね」
ヘファイストスはポンポンとヘスティアの頭を叩く。
その目は親友を見る目ではなく、娘を見るような目であった。
確かにヘスティアの寝顔は可愛く、すーすーと寝息をたてる彼女は一部を除いて童女に見える。
「‥‥‥」
その手はヘスティアを撫でる手に変わる。
ヘファイストスは少し目を閉じた。
眠っている訳ではなく、なにやら思考を巡らせているようだ。
記憶にはない、知識の中。
私の家とは違う、綺麗なワンルーム。
タワーマンションというものだろう、窓からは見慣れぬ町の風景が見える。
どこもかしこも高い建物ばかりで、四角い建物だ。
自分の姿は少しも変わっておらず、鏡で見える自分の姿は変わらないメイド服のままだった。
それにしてはここは誰の気配もない。
冷蔵庫の中には何も入ってなかったし、戸棚やタンス、クローゼットにも何も入っていなかった。
上等そうな机や椅子、あと大きいソファや大きいベッドがあるくらいだ。
「うっわ、部屋多いなぁ」
ワンルームではなかった。
居間と寝室とお風呂、あと何も無い部屋。
全ての設備が上等で、快適だった。
スイッチ一つでほとんど解決なのだから凄いものである。
「‥‥‥」
快適、ではあるのだろう。
それになんだか懐かしい気分にもなる。
壁一面に取り付けられた窓から見渡す世界は絶景と呼べるものである。
しかし、何故か不愉快にもなる。
この場にいるだけで感情のほとんどが負のものへと塗り替えられるようだ。
記憶にはなく、知識の中のみにあるのに妙に懐かしさがある。
オラリオやその外にこんな高度な文明があるようには思えない。
なんでこんなことがあるのかは予測すらつかなかった。
「‥‥‥母さん」
なぜこんな言葉が溢れてきたのか分からない。
私に残る母の記憶などヘスティア様のみだ。
その他のことなんて塵ほどもない。
酷く不愉快だ。
母さんと言葉を発すると吐き気がしてくる。
だからヘスティア様のことは神様と呼んでいることを思い出した。
「何で?」
ヘスティア様以外に母なんていない。
覚えていないだけで母に嫌な思い出でもあるのだろうか。
いや、トラウマなのだろう。
何も思い出せない、何も分からないのにこんな思いをしているのだ。
それ以外には考えられない。
「なんで?」
そういえばこの身体は歳を取らないらしい。
身長が少しも伸びないのがいい証拠だ。
ならばヒューマンか、エルフなのか、それとも獣人か。
でも詳しい種族は分からないらしかった。
「ナンデ?」
母なんているのか、その問いに答えられるものはいないけれど、この身体には存在しない。
吐き気がするほどの母親というものを私は実感を持って知っている。
明らかにおかしいことだ。
「混乱してるな」
「‥‥‥ッ!?」
「夢だからな、なんでもありなんだよ」
寝室にあった椅子を置くといきなり現れた男は音もなく座る。
顔は普通、体型は痩せ型。
ただの普通の男、という印象である。
「あなたは?」
「名前は‥‥‥意味ないだろ。今はお前と同じだな」
「意味が分からない」
「んー、そうなるわな」
いきなり現れてこの男は何を言っているんだと警戒する。
男は背もたれに背中を預けて私を見ている。
選り好み、というか品定めをしているような目だ。
「今の生活が大切だろ?」
「当然でしょ」
「そう、当然だ。今の生活と比べたら私の人生はゴミ同然だったからなぁ」
「‥‥‥はぁ?」
何を言っているんだこの男は。
意味の分からない言葉の羅列に更に頭が混乱してくる。
「だって、お前の知識って私のものだからな」
「‥‥‥!」
「気づいたな」
一年半前のメイドさん生の転機を思い出す。
家事が急にできるようになったり、色々と聡くなったり、戦闘においてもそれまでより有能になれた。
「‥‥‥ありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとうございます」
この男のおかげでヘスティア様に奉仕ができる。
それが分かると頭を下げずにはいられなかった。
「転生、いや憑依か。あなたの体にいさせてもらえて感謝している」
「でも‥‥‥」
「トラウマ抱えてるから迷惑かけると思うけど、許してくれ」
「そんなモノ迷惑ではありませんが?」
「‥‥‥分かってたけど強いなあなた」
「恩の方が遥かに大きいので」
今こんな感じに思考できているのもこの人のおかげなのかー、そう思っていると頭が上がらない気がする。
地べたに座りたいけれど何故か動けない。
「転生って言ってましたけど」
「死因でも聞きたいのか?」
「個人的な興味で」
「おっけー、老衰だぞ」
トラックに轢かれたとかではないらしい。
しっかりと天寿を全うしたあとなんだと意外に思った。
異世界転生とか転移とかは学生がメインだと思っていたのだ。
この人の知識なんだろうけど。
「知識が共有されてるってことはここにあなたがいるのおかしくないですか?」
「記憶も完全に統合されてたらおかしいな」
「??」
「記憶も統合されてるだろ的な顔をするんじゃない」
完全には分からないけど多少は融合しているだろう。
だって吐き気催すし、一人でいると気分悪いし。
「完全に思い出すとお前倒れるぞ」
「えっ」
「耐性できるまで話し相手になってね」
「耐性って、どういう?」
「トラウマ耐性。いやぁ、ウチの母親とか肉親大体ゴミでさ。私が実家出てからも金無心してきたし、会社に直接きやがったりー、家に上がり込まれたりーで大変だったわけよ。しかも私って女見る目なくてねー、金持ち逃げされたのが何回あったか。成功して会社持ったあとが酷かったね。あなたのところに来るまでに会った中だと一番良かったやつが高校来の親友くらいだったんだよね。あ、子供はいなかったぞ」
「へ、へぇ」
「私の記憶覗く気になれた?」
「ナレマセーン」
「デスヨネー」
どれだけ酷い人生なんだと苦笑が極まってくる。
家族に裏切られて、女に裏切られて、多分その他にも無限に裏切られて口汚く罵られてきたのだろう。
驚く程に思い浮かべた全てに実感があるのだ。
裏切りを始めとした虐めや嘲り、嫌なことに全て実感が溢れている。
「ヘスティア様とかベル君とかものすごく癒されるのよ」
「分かります」
「だよね!いやー、これまでが洗い流されるわぁ」
非常に恍惚とした顔をしている。
なんだか安心してくるような気がしてきた。
教えられたことが真実であり、今が幸せだということに安堵したのだろうか。
「ヘスティア様帰ってきたらいいな。絶対に間に合わせるだろうけどさ、無理してでも」
「無理は、して欲しくないですね」
「拗ねたくせに」
「無理はしてほしくなくても一緒には周りたいんです!」
「我儘は言うもんだぞ!
「そうですね、今度一緒にお出かけしてもらいましょう」
「それがいい。感想聞かせてな」
「はい!」
豪快に笑う男に背中を押してもらったようだ、なんだか欲望が増したような気がする。
この場は夢なのだろう。
でなければ
「それにしてもヘスティア様と怪物祭周れないかもしれないってだけで私と会えるくらいに不安定になるんだな」
「繊細なんですよ私は」
「多分私も泣くからなぁ」
「「HAHAHA!」」
ヘスティア様大好きな私達二人は意気投合。
それからの夢でもヘスティア様についてや日常の楽しさを語り合ったのである。
トラウマ耐性できるのは、嫌だなぁ。
地獄を見るのはやだなぁ。
「んぅ、ゆめ」
ベル君の胸の中で目が覚める。
ヘスティア様の気配はどこにもなく、ベル君は薄く瞼を開いた。
「あさ?」
「うん、あさだよ」
「‥‥‥おはよ」
「おはよう」
ふわぁ、と欠伸をして伸びをするベル君。
伸びが終わるとベル君は顔を洗いに行った。
私は洗わなくともヘスティア様かベル君の顔を見れば完璧に目が覚める。
それはメイドさんの権能であり、メイドさんの神様に祈りを捧げなければとも思える。
「かえってきてない」
「ん、確かにね。ヘファイストス様のとこ?」
「たぶん」
ヘファイストス様のところにいるであろうことはわかっている。
ベル君には別の目的が話されていたらしく、ベル君にもヘファイストス様のところに多分いると話していたらしい。
肝心の目的は意地でも話してはくれなかったが。
「迎えに行ってみようか」
「とおしてもらえる?」
「そう言われると怪しいなぁ」
私もヘファイストス様のところに行ったことはない。
ベル君は言わずもがなである。
いくらヘスティア様の眷属だと言っても信用されるかどうかなど分からない。
だから結構リスキーであるのだ。
「じゃあギリギリまで待とうか」
「そうしよう」
すれ違いをしてしまうと祭という特殊な環境下において合流は絶望的になる。
祭をヘスティア様とベル君と周りたい、絶対にそうしなければならないのだ。
「‥‥‥」
バベルの最上階の女神の私室。
そこにいるのはオラリオ最高派閥の片割れである【フレイヤ・ファミリア】の主神であるフレイヤとオラリオ最強と呼ばれる【
フレイヤは普段着である黒い衣装である。
露出が多く、ローズによると見れたものではないらしい。
そんな彼女が目の前に出現させているのは【神の鏡】と呼ばれる。
テレビ、といったらいいだろうか。
任意の場所をこれを通して見ることができるものである。
神々の中で決められている
【
そんなことは関係ないとフレイヤは今の推しであるローズマリーを見ている。
「‥‥フレイヤ様」
「ありがとう、オッタル」
鼻血を流しながら。
オッタルからティッシュを受け取ると雑に丸めて鼻の中に突っ込んだ。
美の女神といえる様相では、いやこれはこれで美しいかもしれない。
だが美の女神がしていい格好ではないだろう。
しかしオッタルがそれを指摘することはない。
フレイヤが意地でも直さなかったからである
「いいわね」
「盗み見は感心できることではありませんが」
「そうね。でもやめられないのよ」
【ヘスティア・ファミリア】の
最近のフレイヤの日課であった。
その度に鼻血を撒き散らすのでオッタルの胃はきゅっと痛みを訴えている。
後片付けを担うのは疲れるのである。
「あの少年へちょっかいはかけられないのですか?」
「かけないわよ、今はね。今は暖かい風景を見ていたいわね」
「同感です」
どうやら、ベルへのちょっかいは今はかけないらしい。
かけないのはちょっかいであって【試練】は与えるつもりのようだが。
「オッタル、ローズの守り頼める?」
「‥‥‥かしこまりました」
フレイヤは察しがいいというか、神特有の変態であることを除けば非常に有能な女神である。
ベルやローズを見ている中でも様々な場所を見ているらしい。
だからだろうか、ファミリア経営も上手いことやりのけており、それに都市の情勢も大体知っているのだ。
流石はラスボスである。
怪物祭編始まり。
フレイヤによる介入はないの出てくるのは食人花だけ。
こんな状況どこかであったよなぁ?
まあ、そんなにピンチにはなりませんけれどね。
次は、ほのぼのを目指します。
ロキ視点も書かねばならぬか。
ローズの中のことについて。
分かりにくいと思うので解説を挟みましょう。
二重人格のようなものですが、男の方が表面に出てくることはまずありません。
二人の心は既にほとんど融合を果たしており、ローズの姿をした幼女は表層意識、前世の姿をした男は深層意識の役割を与えられただけです。
幼女はペルソナ使いで男がペルソナって感じですかね。
この二人は揃ってはじめてローズマリーです。
男の方が来る前は例えるならば虚無でした。
知識を持たず、常識を持たず、感情を持たず、持っているものは大太刀のみ。
メイドさんへの憧れすらありませんでした。
男が入ってきてやっと色々と手に入れることができたのです。
メイドさんになって、戦い方を手に入れて。
だから幼女が男に恩義を感じるのは当然のことなのです。
昔から行動の再優先順位はヘスティアさまでしたけどね!
男の魂は後から魂を補う形で入ってきました。
抵抗なく受け入れたのはローズを作った作者が何かしらやったからです。
何をやったかって?
まだ決めてないです。