初めて仕えた神様は   作:メイドさん大好き

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帰還


二十一話

月明かりが眩しい夜。

白衣を着た金髪の女が魔石灯も灯っていない部屋で、椅子に座っている。

窓から見えるのは人気のない通りのみ。

端麗な顔に宿る表情は無であった。

特に何も考えておらず、ただ虚空を見つめている。

呆けた顔からはそれがよくわかる。

 

そんな彼女の様子とは対照的に部屋は物騒であった。

月明かりに照らされている執務室、そこは女のいるべき場所ではない。

部屋の主はというと、執務机にいる。

力をなくしたように机に突っ伏していて、動く様子はない。

寝ているように見えるけれど、背中を見ると風穴が空いているのが分かるだろう。

 

暗殺、完璧な闇討ちだ。

ちょうど背中の位置にあった椅子の背もたれに穴が空いている。

ソファに腰かけている女が下手人、白衣の右袖に血が付着していることからも明らかだ。

 

「‥‥‥」

 

机の上に積み重ねていた書類を手に取る。

綺麗に整理された棚から引っ張り出してきたのだ。

棚の中は今でも綺麗に整理されており、気になることといえば空白ができていることくらいだろう。

 

この館の主は自分の部下に失望し、興味をなくしている。

その部下もまた、主が作り出す酒に依存し善性を失わせている。

団長たる目の前の男もそうだ。

欲望に取り憑かれ、無様に殺されることになった。

オラリオの暗部の一つである【闇派閥(イヴィルス)】と関係を持ち、組織をより良いものにしようとしなかったためである。

情報を引き出すために拷問されなかっただけマシといえるだろう。

 

この男は想像以上の間抜けだったらしい。

バレたら確実に捕まるようなことを執務室に堂々と保管していたからだ。

ありがたいことではあったらしいが、見つけた時には頭を抱えていた。

 

「‥‥‥見つけました?」

 

ガチャり、と扉が開く。

黒髪短髪の、スーツ姿のこれまた女性だ。

特に武装はしておらず血も被っていないようである。

 

「随分と黒いことやってたみたいね。ソーマ様とは話せた?」

 

「ええ、まあ。ぶん殴ったら話聞いてくれましたよ」

 

「さすが私の娘ね。ねぇ、ミュナ?」

 

女の言葉にミュナと呼ばれた女性は複雑そうな顔をする。

嬉しそうな顔をしていた女はそれを見て口を閉ざし、書類に目を移した。

 

「‥‥‥あの子はどう?」

 

書類を眺めながら、話題を変える。

そんな様子を眺めていたミュナは少し考える様子を見せた後に口を開いた。

 

「ヘスティア様の元で幸せにやってますよ」

 

「それは良かった。最近の話、聞かせてくれる?」

 

「お安い御用ですよ」

 

死体がある部屋でよくもまあ普通に話せるものだ。

傍から見たらそう思えるだろうが、どちらも血には慣れている。

彼女ら以外にこの館で生きているのは神ソーマのみだ。

その他は、叫び声もあげられず騒ぎも起こせなかった。

 

ミュナは女の隣に座る。

フカフカなソファは高級なものであり、顔が驚きに染まった。

 

「どうしたの?」

 

「いや、いいソファだなぁって」

 

「金だけはあったみたいだからね、堪能しときなさい」

 

「言われずとも堪能しますよー」

 

ソファに体をうずめて、ミュナは親友のことを話し始める。

入ったファミリアの新人のこと、パーティを組んだこと、主神様のこと、二人で会って話したことを余さず話していった。

その話を聞いて、顔を綻ばせながら女は書類をめくっていく。

確認を終わらせると、書類のコピーを作った。

どうやったかなどは全く分からないけれど、精巧で完璧なものであることは間違いない。

 

「よし」

 

「あ、終わりました?」

 

「ええ。でももっと話してくれてもいいのよ?」

 

「明日、いやもう今日か。デートがあるので、そろそろ」

 

「デート?ああ、リリルカって子とのやつね。楽しんでらっしゃいな」

 

コピーした書類を棚に押し込み、本来のものを虚空に収納する。

そして時空を歪ませてそこを通るようにミュナに言った。

 

色々と次元が違うことをしている女であるが、生きている年数が違うのでそこは問題ない。

わりとなんでもできてしまうのが彼女である。

この都市に帰ってきたのはつい先日のことだ。

用があって都市を出ていき、残るは都市でのことらしかった。

 

「じゃ、また今度」

 

「近いうちに来てくださいね」

 

「約束はしかねるわね」

 

「‥‥‥ふーん」

 

今でも多忙らしい女の様子にミュナは頬を膨らませる。

その様子に女はクスッと微笑み、送り出した。

見送ると時空の歪みを一旦消し、また別の場所に続く歪みを作り出してそこに入っていった。

残るのは内鍵のかかった部屋と自殺と思えない死体。

その他には何も証拠は残っていない、そんな部屋だ。

完全犯罪、というやつである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何か隠してません?」

 

「いや?隠してないけど」

 

早朝にも関わらずカップルが何組かイチャイチャしている広場がある。

中央には噴水があり、その周りにベンチが配置されていて、その一つにリリルカが座っている。

ミュナが座っているのは手すりだ。

 

「ふーん」

 

「信用してないね」

 

「当たり前でしょうよ」

 

「そうなの?」

 

「そうです」

 

足をブラつかせて、リリルカは口を尖らせる。

眩しいとミュナは眉間に皺を寄せ、リリルカの言葉には特に反応を返さない。

市壁から顔を覗かせる太陽の光は見事に【アモールの広場】に降り注いでいる。

 

「だって、昨日帰りが遅かったじゃないですか。何してたんです?」

 

「あー、内緒」

 

気付かれていたのかという反応を示し、笑顔でリリルカの言葉を流す。

 

「‥‥‥リリのことはなんでも知ってるくせに」

 

「探ってみなさいな」

 

「やめときます」

 

ミュナの提案にリリルカは即答する。

底なし沼のように引きずり込まれる、そんな予感がしたらしかった。

もう既に手遅れであることは内緒である。

 

「今日どこに行くのかとか気にならないの?」

 

「考えたら負けだと思ってるんで」

 

「えぇ‥‥‥、家族として接してくれてもいいのよ?」

 

「いきなり人を拉致って着せ替え人形にする人たちを家族扱いしろと?」

 

「あれはあなたが盗みしたからでしょ。保護してあげてるんだから感謝して欲しいくらいなんだけど」

 

「それは、まあ感謝はしてますけど」

 

「ならいいわよね!」

 

「それでも毎日はキツイですよ!」

 

「なら店員さんになってもらおうかしらね」

 

「むぅ、空いてる時間なら受け入れます」

 

「ヨシっ!可愛い看板娘ゲット!」

 

「‥‥‥」

 

笑顔でガッツポーズをするミュナにそれを見て複雑そうなかおをするリリルカ。

二人はこんな調子で会話を続け、待ち人を待つ。

常にこんな調子で、リリルカが手玉に取られていることが多い。

 

「ども」

 

「おわっ、いたんですか」

 

「遅かったね。どうしてたの?」

 

「かみさまがなかなかおきなくて」

 

ローズはリリルカよりも小さい上に隠密ができる。

ふっふー、とリリルカを驚かせたことにご満悦な様子であった。

イタズラ好きな前世のローズを思い出したのか、少し吹き出す。

 

「どうしたんです?」

 

「いや、なんでもないよ」

 

「そう?ならいこっか」

 

「そうだね。じゃ、ローズ。案内頼む」

 

「おーけー」

 

楽しいデートの幕開けだ。

ゆっくりと腰を落ち着けて、甘いものを食べよう。

そんな目的のもと、ローズがまとめた甘味スポットを回ることになった。

 

「そういえばさローズ」

 

「ん、なに?」

 

「なんでそんな喋り方してるの?」

 

店に入ってドカ盛りパフェを注文したり、はたまた、餡蜜を食べたり。

心の赴くままに色々と食べることは楽しいものだ。

 

「ようじょってこんなしゃべりかたでしょ?」

 

「舌が回らない時期はそうだけど、八でしょ。ならもう普通に喋れるでしょ」

 

「へ?」

 

「私も子供いなかったけどさ、親戚の子供預かったことはあるんだよね。八歳くらいの子はそんな話し方しません」

 

んー、とリリルカの顔が喜びにみちるのを見るのは充足した時間であったとミュナは語る。

ローズはローズでその舌で店のレシピを盗んでいた。

それと同時にリリルカの可愛い顔を見ていたらしい。

超可愛かったと語っていた。

ヘスティア様やベルには叶わないけれど。

 

「‥‥‥まじ?」

 

「マジも大マジ。ま、それが気に入ってるならいいけどさ」

 

「‥‥‥そっかぁ」

 

帰る時間はすっかり夕方。

ローズは【豊饒の女主人】にバイトを出かけ、ミュナとリリルカは家へと帰った。

かの酒場に行けるほどに懐は潤っておらず、腹も満たされたことであったから、帰れば直ぐに眠ることになる。

歯磨きは欠かせないことであったが。

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