初めて仕えた神様は   作:メイドさん大好き

23 / 45
第二十二話

帰ったら、可愛い子供たちの姿がなかった。

置き手紙はあったので読んでみるとバイトで夜遅くになるという。

じゃが丸くんの屋台にへファイストスの手伝い、バイトが重なって、帰り道は真っ暗だった。

疲れで今日のことを忘れていたのだろう。

週に二度になったという【豊饒の女主人】でのバイトだ。

ベル君のメイドさんとしてのスキルをさらに育てるためらしい。

 

無理はして欲しくはないが、望んだことだ。

そうやって割り切らなければならないのだろう。

死なないで欲しいと祈りながら待つことしかできない。

歯痒さを感じながら、日々の労働に勤しむしかないのは苦痛である。

 

労働の後に帰ってきた時だ。

置き手紙を読んだ後に、ソレは見えた。

置き手紙の置かれていたテーブルの目の前、白衣の女性がソファに足を組んで座っている。

一気にヘスティアの顔が不機嫌な色に変わった。

 

「そんな顔しないでよ、カミサマ」

 

「こんな顔にもなるさ」

 

何せ、苦手な人物なのだ。

目の前の【博士】はなんの説明も無くローズを押し付けてきた。

勝手に廃教会内にローズを置いていき、勝手に地下室に侵入し、世話を頼むと言い残してオラリオを去っていった。

彼女のために色々としてくれたのは分かるが、なんとも複雑な気分である。

 

「まあ、気持ちは分かるけどさぁ」

 

「‥‥‥分かるなら」

 

「あの子には会えないよ?」

 

悪びれる様子などはなく、あっけらかんと言い放つ。

そんな【博士】にボクはジト目を向けた。

 

「娘とも会えないくらいに忙しいのかな?」

 

「そうなるわねぇ。会いたいんだけど」

 

嫌味を言ったつもりがあまり聞いていない様子にため息をつく。

【博士】の方はそんなヘスティアを見て、笑顔を崩さない。

 

「憎たらしいね」

 

「三千年生きてますから」

 

またため息をついた。

人の身で【不老不死】に辿り着き、数多の死に触れながら生きてきた狂人。

容易なことでは心は掻き乱されないし、行動の指針はいつだってブレない。

そんな彼女はいつだってボクには理解できない考えで行動している。

どこかフレイヤと同じ雰囲気を感じて、だから苦手なのだ。

なるべく話したくないというのが本音である。

 

「で?ローズ君に用がないなら何をしに来たんだい?」

 

「貴方への報告。ローズちゃんにも関係あることだから聞いてもらわなくちゃダメなのよね」

 

「‥‥‥ローズ君に危険が及ぶのかい?」

 

「ええ。ローズちゃんの身体のことと、英雄の卵(ベル君)のことをちょっとね」

 

「は?ローズ君はともかく」

 

「そこはいいから。一旦移動しましょ」

 

「えっ、ちょっと」

 

「うふふー♪」

 

【博士】の手がボクの肩に見えた。

目の前からするはずの笑い声が後ろから聞こえて、視界の隅には魔法陣が一瞬チラ見えしてしまう。

 

「【転送(テレポート)】」

 

地下室で最後に見たのは艶やかな【博士】の唇であった。

血のように赤い、三日月に吊り上がった唇が淡々と言葉を吐いていたところだ。

光に包まれることも、真っ暗に染まることもなく、元々いたかのように人工の灯りで照らされている石畳の通りが見えるようになる。

星が輝く夜空もまた、既視感があった。

 

「いきなり何をっ、ムグ」

 

「あそこだとゆっくり話せないからね。テキトーな場所に案内しただけ」

 

何をした、そう聞こうとして唇を塞がれる。

理由を述べると指は直ぐに離された。

 

「‥‥‥ここはどこなんだい?」

 

通りの真ん中、という雰囲気ではない。

何となくではあるが通りにしては違和感があるし、話の内容や【博士】本人の事情からも歩きながら話をするとは思えなかった。

 

「地下。色々遊んでてね、そのままだったみたい」

 

【博士】がパチンと指を鳴らす。

壁紙が剥がれるようにリアルな夜空と石畳が消えていき、薄汚い石の壁が見えてくるようになる。

光源である魔石灯から発せられる光は部屋の全貌を照らせていない。

不気味さはそれが原因であり、この場所に生活設備がないように思えた。

あるのは魔石灯が置かれている机と二脚の椅子。

それに通りがあると錯覚していたこの部屋にそれほどの広さはなかった。

メインストリートならば、その半分の幅くらいだろうか。

正方形の室内でメインストリート程の広さがあると錯覚してしまった。

実力だけはあるのだと再確認する。

 

「さて、お酒かなんかいる?」

 

「いらない。早く本題を話してくれ」

 

どこからか一升瓶を取り出した【博士】に座るように急かす。

美味しいのに、と残念そうに呟いた【博士】は瓶を床に置いて机を隔てた向こう側の椅子に座った。

おもてなしの精神など、彼女にはないだろうことは知っているのだ。

 

「なら何から話して欲しい?ローズちゃんのことかベル君のことか、色々あるけど」

 

「‥‥‥なら、ローズ君のことから」

 

「了解。ローズちゃんのことからね」

 

ローズ君が特殊であることくらいは容易にわかることだ。

その詳細は【ステイタス】を見ても分からないことである。

最初期は【魔法】も【スキル】もなく、発現する頃には【メイドさん】に染まっていた。

わかることといえば【メイドさん】への並々ならぬ執着心くらいのものだ。

 

「あ、その前にゲスト呼ばなきゃ」

 

「ミュナ君かい?」

 

「ミュナもいるけれど、本命はミュナじゃないわね」

 

「‥‥‥これってリリ君にも関わりある話?」

 

「正解。よく分かったわね」

 

「ボクは腐っても神だよ?」

 

「そっか、たしかに。じゃあ呼ぶわね」

 

パチン、と指を鳴らす音が狭い地下室を反響する。

ドヤ顔がまあまあムカつくのだが、実際やってることはすごいことだ。

 

「‥‥‥もしかして指パッチンでドヤ顔してる?」

 

なんとなく、思い浮かんだことである。

魔法を行使した時より、指パッチンをした瞬間にドヤ顔をボクに向けてきた。

 

「え?指パッチンってすごいことじゃないの?」

 

「それは分かんないけどさ。どっちかと言うと魔法の方がすごいんじゃないかなって」

 

「‥‥頑張って覚えたのに」

 

「あっ、ごめんよ」

 

【博士】にとっては魔法より指パッチンの方が凄い判定らしい。

すっかり慣れ親しんだものよりも最近覚えたことの方を尊ぶタイプなのだろうか。

それにどうやら指パッチンは魔法を発動する合図のようなものでもないようだ。

マジでただ自慢するためだけのようである。

 

「‥‥‥」

 

「‥‥‥【来たれ】」

 

不貞腐れた様子の【博士】は沈んだ声色で詠唱を行う。

短文詠唱の後に椅子が無から現れ、その下に輝かしい六芒星が現れる。

光り輝くそれは頼りない魔石灯よりも明るく狭い地下室を照らし、全容が見えてきた。

壁に固定された人の絵画、その全てに赤くバツ印が書かれていて隅にはどうやら棚が見える。

一瞬では内容までは見ることはかなわなかったが、目の前の【博士】がなにか後ろめたいことをしているのは分かってしまった。

 

「‥‥‥寝てない?」

 

光が収束し、椅子の上に座っている二人が見えてくる。

その内の一人、栗毛の小人族(パルゥム)の寝息と寝顔が目立っていたが。

 

「あのねぇ、今呼ぶ?」

 

もう一人、ミュナが【博士】を睨んで語気を強めた。

共に呼び出された小人族(パルゥム)の、リリを意識してのことかあまり声は大きくない。

 

「あらら、ごめんなさいね」

 

「さっきまで大喜びしてたのよ?ソーマ様が恩恵解除してくれたからね」

 

「おっ、それはいいことねぇ。それで疲れて寝ちゃったの?」

 

「大正解。分かったなら戻してくれる?」

 

ミュナは素早くリリ君を膝枕しながら、【博士】に言う。

んー、と【博士】は少し考えたあとに首を横に振る。

 

「チャンスは今日しかないし」

 

「明日からダンジョンに潜るのは知ってる。リリちゃんには私から話すよ」

 

「だーめ。私に会った方が色々と好都合なのよ」

 

「‥‥‥チッ」

 

いつ見ても仲のいい親子には見えない。

いい親には見えないし、傍若無人なところもあるし。

ボクも苦手なので仕方ないだろう。

‥‥‥それにしてもなんでリリ君に自分のことを伝えなければないのだろうか。

 

「大体、リリちゃんに伝えなくてもヴェルフに伝えたらいいでしょうに」

 

「ヴェルフ?誰よそれ」

 

「ヴェルフ・クロッゾっていう、ローズ専用の鍛冶師よ。多分だけどパーティには加わるからね」

 

「クロッゾ君!あの青年君の子孫かぁ、なら安心ね」

 

「なら帰っていい?」

 

「あ、いいわよ。送るわね」

 

「さっさとしてね。ヘスティア様、また今度」

 

「うん、またね」

 

光り輝く魔法陣とともに二人は消えていく。

何のために呼んだかは分からないけれど、進展はあったみたいだ。

 

「で、ローズ君のことは?」

 

「分かってるわよ。まずはぁ」

 

【博士】はコホン、という咳払いをした後に話し出す。

 

「あの子の体は色々な種族を合わせたものっていうのは分かってるわよね」

 

「うん。獣人以外の種族だろ?」

 

「正解。ヒューマンにエルフ、ドワーフと小人族(パルゥム)で、後は精霊も入ってるわ」

 

「‥‥‥精霊?」

 

精霊といえば、神の半身とも呼べる者たちだ。

子を孕めない、世界と繋がる存在である。

 

「自我のない低級の精霊を、ギュッとね。そしたら失敗しちゃって、ミュナが生まれたわ。自我のない、戦闘能力もない、文字通りの失敗作」

 

「は?君は何を言って」

 

「だから外法を使って別世界から魂を引っ張ってきたのよ。それで次は失敗しないようにって別の精霊をスカウトしたの。今回は上級精霊をね」

 

何を言っているのか理解できなかった。

今までも十分に冒涜的であることには違いはなかったのだ。

人の死体を使って、【人形】を作っていたのだから。

【医者】として、体の部位を作れるようにと始めたことらしい。

けれど、とても理解できることではなかった。

 

「計算に計算を重ねて、頑張ったんだけどね。また失敗しちゃったのよ。戦闘能力は最高だけど、それ以外がダメ。それにね、気づいちゃった」

 

そこが限界なんだって、と【博士】は言った。

 

「限界も何もッ!!なんでそんなことを」

 

「移植のためよ」

 

「は?」

 

「臓器の移植、無くした四肢の移植。どんなに頑張っても脳だけが作れなかったのよ、だから禁忌(精霊)に手を出しただけ」

 

無理だったけど、と乾いた笑いを見せた。

 

「まあ、他の意図もあったけどね。完璧に人体が作れるようになったら完璧な臓器が作れるってことでしょ?つまりはそういうことよ。あ、もちろん精霊には合意もらってるし、人体作るのに使った素材も昔と違って人工のものよ」

 

「‥‥‥もういいよ。で、続きは?」

 

目の前の狂人について考えるのをやめることにする。

背もたれにもたれかかって、力を抜いて息を吐いた。

 

「いや、ローズちゃんに関してはもうないわよ」

 

「‥‥‥なら次は?」

 

「ベル君のこと」

 

「早く言ってくれ」

 

「おっけー。じゃあさ、ベル君の出生は知ってる?」

 

「知らないよ。何かあるのかい?」

 

「それが、あるのです!たまぁに会いに行ってたからね。なんと、【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】の冒険者の間の子供です」

 

「‥‥‥へぇー」

 

「しかも、【アルゴノゥト】と姿がそっくり!」

 

「そーなんだー」

 

「反応うっす」

 

「それが何?かな」

 

親が誰だろうと、誰と姿がそっくりだろうとあまり関係ないだろう。

確かに【博士】はゼウスとヘラの両派閥とも関係があるので信憑性は十分だ。

三千年も生きているのだから、アルゴノゥトのことも知っているのも分かる。

しかしながら、どうでもいいというのが本音だ。

 

「はいはい。じゃあ真の本題に入りまーす」

 

「待ってましたー」

 

「待ってたんならもっと雰囲気出してくれる?」

 

「早く帰りたーい」

 

「あ、もういいです」

 

【博士】は少なくとも今は娘を守るように行動をする。

都市から出たのもそのためらしい。

だから、ボクが情報を得たとしてもあまり変わりはしないと思う。

なので、二人が帰ってきていないかのほうが心配だ。

 

 




【博士】のやりたいことはもう一つに定まってます。
彼女が本格的に出てくると原作がぶっ壊れる、というか今でも十分ぶっ壊してますけど、表には絶対に立たせません。
闇派閥の幹部だったので出てこれませんけど。
というか世間的には死んだことにされてますので。

ベル君の強化イベントはアイズに任せません。
今作だと【ヘスティア・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】はほぼ関わりもたないのです。
なのでアイズとの絡みもほぼゼロになる予定。
これからどうなるのかな?
それは、誰にも分かりませんねぇ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。