初めて仕えた神様は   作:メイドさん大好き

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次から真面目にやります。


第二十三話

迷宮都市において、絶対的な認知度を誇る建物はバベルだろう。

ダンジョンの蓋という役割を果たすその巨塔、日々多くの冒険者が蓋の下へと潜っていっている。

一日につき、死んで行く冒険者も少なくない。

大派閥であろうが、零細派閥であろうが、関係のない話だ。

数こそは治安の最悪であった【暗黒期】よりは少なくなってはいるがそれでもダンジョンで死ぬのであれば派閥闘争など関係ない。

それでも尚、ダンジョンに赴く冒険者が減らないのだから不思議なものである。

 

冒険者とは【神の恩恵(ファルナ)】を神より賜った者のことを言う。

オラリオ、引いてはこの【神時代】において強さとは背中に刻まれたファルナの数値、その中でもレベルから判断されることが多い。

冒険者は原則、ファルナを与えられた神の組織である【ファミリア】として行動する。

稀に【ファミリア】に属さず【無所属(フリー)】として活動する冒険者もいるが、本当にごく稀だ。

 

ごく稀の中でも稀。

恩恵すら貰っていない者もいるにはいるがまあ、有り得ない。

いたとしても管理機関(ギルド)の恩恵も受けられないし、そもそもダンジョン攻略が至難の業となる。

いるとすれば伝説になるような、不死の、万能の、化け物くらいのものだ。

 

そんな存在は確かにいる。

怪物(モンスター)なんてものが暗い巣穴より這い出してきて、不老不死の神々が娯楽のためだけに降臨しているような世界だ。

人の身で不死に到達している化け物がいてもおかしくはない。

魔法に、武術に、知識に、全てにおいて神にも劣らないような化け物がいてもおかしくない。

 

彼女は医師であった。

それしか、彼女はもう覚えていない。

目的のために、いつしか手段と目的は入れ替わり。

人のためがいつしか自分のためと。

 

【博士】と呼ばれているのは老神がそう呼び始めたからだ。

本当の名前は、もう既に彼女の中にない。

人形()達は彼女のことを母と慕い、共に歩んだ者たちは博士と教えを仰いだ。

九魔姫(ナインヘル)】はその中の一人ではないものの、彼女の弟子の一人である。

勇者(ブレイバー)】も【重傑(エルガルム)】も彼女に助けられ、苦しめられてきた。

 

【暗黒期】にて【静寂】や【暴喰】と共に敵として現れた時には共に現れた二人の存在が薄かったくらいである。

はっきり言って今の【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】が協力したとしても倒せるかどうかは怪しい。

いや、倒せないだろう。

九魔姫(ナインヘル)】ですら、行使できる魔法は九つまでである。

【博士】はそもそも覚えている魔法が桁違いで、今判明しているだけでも同時行使可能な魔法は三つ。

遠距離に留まらず近接でも、中距離でも戦える万能性。

正しく化け物と思える性能をしている。

 

 ―――小さい、翡翠色のエルフが白衣の女の前で正座をしている。

 

実に姫のような笑い方をしていた。

右にも左にも、見えているのが不思議なくらいに書物が積まれている。

女は、その中の一つを読み聞かせて勉強だと笑う。

 

 ―――髭を蓄えた、逞しいドワーフが白衣の女の攻撃によって吹っ飛ばされている。

 

鍛え抜かれた体が、鎧が剥がれて丸見えになった。

両手に持っている大斧も刃こぼれが酷くてもう使えないだろう。

しかし、本人は笑っている。

実に、満足げだ。

 

 ―――目の前で白衣を着た女が笑っている。

 

声は聞こえない、手が見えた。

触られた感覚などはなく何もしていないのだろう。

 

よく分からないものである。

いつだって、彼女は気分屋でよく分からないやつであった。

 

これは夢だろう。

彼女ならば分身くらいできても不思議ではないが、夢であろう。

同期(友人)たちが見たことのないくらいに若返っているのが見えたからだ。

 

「‥‥‥ん」

 

妙な区切りというか、なんというか。

特に何も起こることなく目が覚めた。

 

「あ、起きた」

 

少し言葉を失った後にああそういうことかと納得する。

近くにこの女がいたからあんな夢を見たのだろう、そんな感じだ。

 

「‥‥‥なんで君がここにいるんだい?」

 

「挨拶。せっかく帰ってきたし」

 

普通のように不法侵入している点は目を瞑ろう。

それより気になる点が視界に飛び込んできているし、部屋にも被害が及んでいるからである。

 

「その顔はどうしたんだい?」

 

―――顔が半分えぐれているのだ。

朝一番に見るものではなく、そのせいで眠気などは吹っ飛んでしまっている。

驚かなかったのはまあまあ長い付き合いだからだろう。

脳がはみ出ていて、歯茎が剥き出し、血もダラッダラ流れている。

普通なら死んでいるだろろうグロテスクな様であった。

 

「アイズちゃんにやられた!」

 

「‥‥‥はぁ?」

 

笑顔で無い胸を張って言い放つ彼女であるが、疑うのは自然なことであった。

アイズはそんな子ではないことは知っていることだ。

昔のアイズでしかも恨みの対象であったならばわからなくもないが、アイズにとって彼女は結構縁近い。

それに結構親しいはずである。

 

「模擬戦とかしてたかい?」

 

「ん、してたわね」

 

「‥‥‥ああ、そういうことね」

 

少しずつ再生しはじめている【博士】の顔を見て納得した。

普通ならば攻撃されても一瞬で修復される。

しかし、アイズの力ならば【回復魔法】を使わない限りは修復が遅くなるのだ。

痛いことが嫌いな彼女のことだ、一撃食らったので逃げてきたと思えば納得はできる。

 

「リヴェリアちゃんに会いたいわねー」

 

「それより訓練場に戻りなよ」

 

「えー」

 

「面倒くさくなるなら最初からやらない方がいいよ‥‥‥?」

 

 気分屋にも程がある。

三千年も生きれはこんな感じになるのかと思うと長生きはしたくないものだと重ね重ね思う

表情をコロコロと変え、感情が読みづらい。

そもそも、表に出しているものなどは信じられないのだ。

腹の底では全く別のことを考えているのが今までの経験から予測できている。

 

「で、本当のところは何をしに来たんだい?アイズをからかいに来ただけじゃないんだろう」

 

「挨拶に来ただけだって言ってるでしょ」

 

「一番最初に言ったことが本当だったことなんて一度もなかったけどな」

 

「そうだっけ?」

 

「‥‥‥」

 

 なんだか馬鹿らしく、天を仰ぎたい思いになる。

行動が不可解すぎるのだ。

現在の【博士】の目的は娘であるローズマリーの保護であることはわかっている。

オラリオを出たのもそのためであるが、何をしていたかは定かではない。

今現在、誰がローズマリーを狙っているかも分かっていない状態でもあるのだ。

【博士】の技術を知れば欲する者も多いだろうが、普通ならば知ることすらできない。

思い至る者たちは確かに存在するが既に滅びた者達である。

 

「とりあえず、訓練場に戻ってくれないかな」

 

「んー、分かった」

 

「ーーー素直だねぇ」

 

考えるのは無駄だろうと考えを頭から振り払う。

とりあえず【博士】を追い払おうと言ってみたが受け入れられるとは思っていなかった。

妙に気持ち悪く感じてしまう。

 

「話しておきたいことはあるけど、アイズちゃん優先だしねぇ」

 

「ならあとで良くなかったかい?」

 

僕のところに来るの、と付け加える。

アイズのあとにならもっとゆっくり話ができただろう。

正直、起き抜けにグロテスクなものを見せられるわ、苦手な奴の相手をさせられるわで散々だ。

もう少しゆっくり寝ていたかったのもある。

なので、追い出したかったのだが―――。

 

「フィン―――?」

 

 

当然のように連れ出された。

【博士】が指パッチンするのは見えた。

 

見えた瞬間には景色が一変したのである。

慣れ親しんだ訓練場であることと元より常識外の生物であると認識していたおかげでそんなに驚かずに済んだ。

 

「いきなりやらないでくれ!」

 

それでも心臓に悪いのは事実だ。

そう訴えるが彼女は意に介していないようで、薄ら笑いを浮かべている。

いつでも違う種類の笑いを浮かべているのが本当に気色が悪い。

仮にも元人間とは思えないくらいである。

 

「ごめんね☆」

 

丁度ムカつく顔だ。

舌を出したあざとい顔、端正なだけに頭にくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっぱり【ロキ・ファミリア】との関わりは断てなかったんや。
【博士】の設定的にアイズと合わせやすいしなぁ。
次回から頑張ります。
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