初めて仕えた神様は   作:メイドさん大好き

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次回からローズ視点に戻ります。


第二十四話

【博士】は、強い。

亀の甲より年の功とはよく言ったもので、【博士】に勝てるのは地上にて【隻眼の黒龍】くらいのものであろう。

アイズと【博士】は知り合いである。

【博士】には知識でも技でも、唯一身体能力のみは勝てている要素だ。

【神の恩恵】を賜った【冒険者】と何も無い【一般人】ではその差は歴然。

それも【第一級冒険者】と呼ばれるアイズとの差は絶望的と言える。

しかし、その差はないも同然のものへと変える技を【博士】は持っている。

象と蟻が戦うならば、戦いにすらならない。

いくら、特殊なものを持っていようがそれは確定事項だ。

そんな常識は彼女には通用しない。

神々の言う反則(チート)を使っている、そんなことすら一番に頭に浮かんだ浮かんでくるほどに彼女は常識の中にいない。

オラリオ内で、彼女に勝てた者は誰一人としていないと、神々の中で語られている。

だからこそ、まだ超えられるわけがないのだ。

特別な子であろうと、強さに執着していようと。

 

アイズ・ヴァレンシュタインの実力は確かなものである。

多少力押しであろうともレベル6にまで上っているのが証拠だ。

使っている細剣【デスペレート】もまた、彼女に見合う第一等級武装である。

神の恩恵(ファルナ)】による、体の強化もただのきっかけに過ぎない。

ここに立っている【剣姫】は決して才能にあぐらをかいても、運が良かっただけでもない。

 

「【風よ(テンペスト)】」

 

札を切った。

アイズは最初から全開で、相手に襲い掛かる。

付与魔法(エンチャント)であるが性能は異常と評される、【エアリエル】を使って。

 

速さは目にとらえられないほど。

そんな速さから繰り出される剣は、いうまでもなく絶大。

 

「さっきは油断したけど」

 

【博士】はその目にしかとアイズを収める。

見える方向に、右手を伸ばして手のひらを向けた。

何をするかはわからない、しかし何かをするのは必定。

 

「―――もう当たってあげないわ」

 

「―――!!」

 

アイズの耳にそのつぶやきはしっかりと聞こえた。

そしてほどなくして【博士】の手のひらに魔法陣が現れる。

 

「甘い」

 

俊足の突きは左手で流される。

見えたはずもなく、流すことのできる力ではなかったはずであった。

しかし、【博士】は顔色を変えずになしてみせた。

アイズの顔に驚きは出ない。

予想ができたこと、これまでも幾度となくされたことであるからだ。

 

「おお」

 

「‥‥‥避けられた!」

 

いつもは無表情なその顔に、確かに笑みが浮かぶ。

伸ばされ、握られていた【博士】の拳は確かに空を切っていた。

流され、懐に拳をお見舞される。

これまではそれが当たり前であった。

 

避けられた、確かな一歩である。

 

「ふーん」

 

しかし【博士】はここで終わるようなタマではないことも事実。

戦闘においても、何においても、対策を何重にも立てて絶対に勝つのが彼女だ。

頭の中での計算が幾重にも積み重なって、それが一秒にも満たない時間で計算されている。

 

もしも、そんな可能性を潰す。

どんな対策をも無に帰させる。

 

既に、全ては組み上がっていた。

 

「短絡的なのは変わってないけど進歩は見事。一流には程遠いけど及第点ね」

 

アイズは既に身を翻し、【博士】から離れている。

アイズの周りにあった風はもう消えている、無論として【博士】の仕業だ。

無詠唱による【魔法】の行使、瞬く間に魔法が展開されていく。

【博士】の恐ろしいところの一部がそれである。

 

「‥‥‥【吹き荒れろ(テンペスト)】!!」

 

「無駄よ」

 

短文詠唱の後、先程の風とは比べ物にならない暴風がアイズの周りを包む。

もう、付与魔法(エンチャント)の範疇に収まっていない程だ。

しかしそれを見ることができたのも瞬。

 

「また‥‥‥!」

 

「私の前じゃ魔法は無駄よ」

 

「そんなことっ!」

 

わかっている。

そう叫ぶように細剣を構え、アイズは疾走った。

第一級冒険者の脚力は整備された訓練場の地面を舞い上がらせる。

 

「不合格」

 

アイズの剣技は、【博士】には通用しない。

力と技、それらはほとんど剣のみで行われている。

それもレイピア、攻撃方法は限られてくるのだ。

アイズは見た目に合わず直情型、故に読みやすい。

 

【博士】は吐き捨てるように呟くと迎撃に移った。

簡単に、不機嫌そうに、一つ一つを丁寧に捌いていく。

アイズの攻撃はほとんどが突きだ。

何の変哲もない、磨きあげられてこそはいるものの極めたとはいえない、そんなものである。

格闘も、それほど良いものでもなかった。

 

「‥‥‥!?」

 

「言ったわよね?」

 

怒気を孕んだ、小さくドスの効いた声。

アイズは目を見開かせてデスぺレートを見つめる。

滴る血と、貫かれた【博士】の掌。

その掌はデスぺレートの柄を掴んでいた。

 

左手に見える白衣、なぜだかアイズは見上げることができなかった。

しかし、そうすると【博士】の右腕が見えてそれが首に伸びていくのが見える。

 

「極めるなら一つを極めなさいって」

 

相手に技を見切られる心配より、一撃で仕留められるように技を練り上げろ。

【博士】は過去にそんなことを言っていた。

【博士】のような例外を除けば、人生のうちに極められるのは精々一つの技くらいである。

そもそも、同じ敵と相対することの方が少ない。

ならば、一撃で仕留めた方が合理的だろう。

【博士】の考え方はこうであった。

 

【博士】の場合は()()を極めた先がこうだっただけであり、アイズの場合は何を極めれば良いかと言うと、突きだろう。

レイピアという武器を使っている以上、その答えにたどり着くのはそう難しくない。

 

そもそもレイピア、特にアイズの扱うデスペレートは突きに特化している。

【リル・ラファーガ】という決め技があるが、それも突き技だ。

アイズの技の中に神業は存在しない。

【リル・ラファーガ】もまた、【エアリエル】をまとった捨て身のただの突進に過ぎない。

【博士】は冷淡に判断を下したうえで、教えを守っていないアイズに()()()

 

「自分に合った一つを極める。早く強くなりたいなら其れが合理的って言ったわよね。魔法に頼らず一撃必殺の技を作れとも言ったわよね」

 

アイズの奥の手は【エアリエル】という魔法一本。

それではだめだと【博士】はアイズを詰めていく。

アイズはまだまだ若く、まだ16歳だ。

格闘は未熟でも、剣は熟達させた方がいい。

魔法は基礎ができていればもう十分だ。

 

「はあ、怠けすぎね。やる気なくなってきたわ」

 

怒り終わるとため息をついて肩を落とす。

 

 

「なら、何をすれば」

 

「突きをあなたなりに進化させなさい。風なしで」

 

自分で実践し、作ったものならば体になじみやすい。

 

「じゃ、私帰る。フィーン!後よろしく」

 

「―――はいはい」

 

面倒ごとを吹っ掛けられるのは予想できていた。

それに、槍を扱う僕ならばアイズに良いものを与えられるだろう。

楽観的に見えて思慮深い、リスペクトも関心もしないが、槍を持ってアイズのもとに向かって歩き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――え?」

 

「はぁい、ベル」

 

バベル前、セントラルパーク。

にっこり笑顔の【博士】がベルの目の前に姿を現した。

 

「えっえっ、なんであなたがここにぃ?」

 

「死んだと思った?生きてました!」

 

状況が理解できず、何度見をしたことだろうか。

死んだと思っていた肉親に近い人物が生きていたのである。

そりゃあ、動揺もするしパニックにもなる。

 

「ごめんね、今まであなたの前にこれなくて」

 

「大丈夫、だよ。僕は僕で楽しいからさ」

 

「へぇ。あれ?ハーレムへの道は順調とか?」

 

「やめてよっ!それは、あのぅ―――」

 

「やめたのね。うん、それがいいわ!!」

 

うんうん、と【博士】は何度もうなづく。

セクハラ行為ばかりしていた祖父を彼女はよく殴り飛ばしていた。

殴り飛ばした後にはよく、あんな奴にはなってはだめだと言っていたことを覚えている。

男のロマンを語っていた時もよく祖父が吹き飛ぶのを見ていた。

安堵に近い溜息をつくと【博士】はさらに言葉を紡ぐ。

 

「さて、だれか待ってるの?」

 

「うん、サポーターの子なんだけど」

 

「オーケー。なら手短に済ませるわね」

 

はい、と分厚い本を手渡される。

表紙に書かれているのは初級編、という文字だけだ。

 

「今日のところはこれだけ。またね」

 

「え、あちょ」

 

本に目を落とし、気を取られているとすでに博士の姿はなかった。

相変わらずの姿に安堵とともにため息が漏れ出る。

また来るのかと思えば少し気が重くなった。

 

「ベル様?」

 

「ベル?」

 

「あっ二人とも」

 

待ち人が現れ、一旦【博士】のことは頭から抜く。

何故だか渡された本のことを聞かれたが、古い知り合いからもらったと言う。

まあ、それ以上に違和感があった。

 

「あれ、ローズ?」

 

「どうしたの、ベル」

 

やっぱり、変だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




牙突ってかっこいいですよね。
つまりそういうことです。
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