初めて仕えた神様は 作:メイドさん大好き
【猛者】は必ず、主神の期待に応える。
友の期待も背負っている今、彼の目の前にいる試練の脅威は正史より高いものとなっていることは否めないだろう。
これで死んだとしたら、友に恨まれるだろうかと少し考えたがすぐに頭から振り払う。
強さに対しての考え方、主の対しての考え方。
彼とその友の間でその二つは似通っているのだ。
家族を失ったことへ悲しみこそすれ彼に対して恨みはしないだろう。
試練を厚く、高くそびえたつ壁とした。
【メイドさん】という存在は友人が特殊な存在とはいえ強い。
覚醒したのなら試練など軽々と突破してしまうだろう。
中層、十七階層。
真下には安全階層であり、迷宮の楽園と呼ばれる十八階層が広がっている。
猛牛と猛者が、そこにいた。
無論として最強の冒険者である猛者にとって牛など敵ではない。
その証拠として彼は息も切らさずに猛牛の前に立っていた。
膝をついた猛牛は体中を傷だらけにしてはいるが闘志は切らしていない。
猛牛の体は肥大化し、体色すらも変わっている。
魔石を食み【強化種】と呼ばれる化け物に変わっていた。
それでも尚として、目の前の人間には及んでいなかった。
戦意は消えているはず。
しかし、猛牛の目からは光は消えていなかった。
育てたかいがあると猛者の口から零れる。
そして確かに口元には笑みが浮かんでいた。
持ち込んだカーゴの中に、大人しく入っていった。
ベル・クラネル
Lv 1
「力」 SS 1106
「耐久」 S 903
「器用」 SSS 1901
「敏捷」 SSS 2304
「冥土」 S 999
魔法
【冥土打雷】
補助魔法
詠唱式【我主の名のもとに秘儀をもって汝らを打ち滅ぼさん】
スキル
【
もう、突っ込むまいと思っていたが明らかに異常だ。
スキルは同名のものが私にあった。
しかし、発現してから二か月かかった。
ランクアップ可能になるまで、二か月だ。
それでも世間的には異常だというのに一か月でベルは至っている。
他のステータスは関係なく、ただ冥土の数値が重要なだけで一番成長しにくい数値でもある。
「数値も見た?」
「え?いつもこんな感じだけど」
「―――」
よくよく見ればその他の成長も著しい。
てかすべて限界突破している。
私も同様ではあったけれど私より飛躍しているようだ。
多分、私との特訓のおかげだと思われる。
まあ、早く上に上がってくれるなら最高だ。
オッタルの用意する試練のこともあるし、成長してくれているのはありがたい。
「無理はしないようにね」
「毎朝のトレーニングしてる張本人が言う?」
「あれは無理には入らないでしょ」
「ま、たしかに?」
どうやらベルは慣れすぎたらしい。
市壁での走り込みや私との鬼ごっこに組手。
十分に無理のうちには入ってくるとは思うが元気なのだから問題はない、と信じたい。
「服着て手伝って」
「了解」
この話題を続けるのは不毛と判断して手伝いを頼む。
すると、ベルは素直に応じてくれた。
残る作業は残り少なく、すぐに済むものだ。
「うん、美味しいね」
「ベルの上達っぷりはすごいですね」
「ローズがすごいんだよ」
「二人とも凄いんだよ!いや、いいねぇ」
ニコニコ笑顔のヘスティア様。
眩いくらいのその笑顔につられて私も笑みが浮かんだ。
美味しいごはんとはそれだけで心の平穏と士気を高めるものだ。
味わえる環境と余裕もあればなおよし、である。
うむ、やっぱり美味いものはよい。
いつでも、安定して美味しいもの食べられるのは、こんな人たちと食べられるのはやはり恵まれているのだろう。
その後はいつも通り、ヘスティア様と三人で家事を完遂して眠りにつく。
日常通りに起床、その後にまた日常通りに市壁にベルと足を運んだ。
今回の早朝のトレーニングの目標はベルの魔法の試しである。
いつものメニューを一通りこなした後の組み手の時間だ。
「余裕になってきたね」
「ま、一か月もやってるとね。それで次は」
「魔法の試し。詠唱は覚えた?」
「ばっちり」
攻撃魔法ではなく補助魔法であるから問題はないだろう。
短文詠唱ではないし、規模に不安は残りはするが問題はないと思う。
「よし、とりあえず詠唱してみて」
「了解」
ふぅ、とゆっくりとベルは息を吐く。
トレーニングの疲れはしっかりと彼の中にあるはずだが、それを感じさせない。
「【我主の名のもとに秘儀をもって汝らを打ち滅ぼさん】」
集中、ロングソードとパリングナイフを持ったベルは初めての詠唱は見事なものだった。
目を閉じ、イメージを確立させたのちに魔法は発動する。
人の信じる力に神の恩恵による奇跡、それが魔法である。
精神力を糧に発動し、自身の力としてこの世に力を出現させるのだ。
その基本をベルはしっかりと掴んでいる。
それに少し磨けば並行詠唱をも可能だと思わせる。
「―――おお、これは」
「どっかで見たことある」
剣に紫電は纏われていない。
てか黄色のものではなく紫の電気はベルらしい。
主に体に紫電が纏われて、髪も少し逆立っている程度。
そもそも紫電はほとんど見えないのだ。
たまに見える紫電と逆立つ髪がなんだか既視感があったのだが気にしないことにする。
「調子は?」
「最高」
「おっけー。とりあえずやりますか」
「うん。腕試しだね」
とりあえず、だ。
簡単な魔法の効力の確認、平たく言えば死合いを始めることにした。
ベルは最初から持っていたロングソードとパリングダガーを、私は無銘を構える。
死にかけても正直問題ない。
ベルに殺されかけたとしても、全力に切り替えればいいだけだ。
ベルは、まあ何度も死にかけてたし問題ない。
剣を切っ先を私に向け、左腕を右腕に乗せてナイフを逆手に切っ先を私に向けた。
儀礼だと私が教えたものだ。
赤い瞳が私に向く、私に殺気と敵意が向いてくる。
強く、猛き、彼は私を倒しに来る。
「やりますか」
「うん。いざ」
「「参る」」
ビリビリと電気の感覚が伝わる。
電光石火、そんな言葉が似合った。
「速い」
「当たり前っ!」
ベルの顔に笑みが見えた、私の顔にも笑みが浮かぶ。
身体能力が大幅に向上している。
運動機能に電気が作用しているのだろう、鍛え上げた体術も重なって捌くのが厳しくなっていた。
まあ、厳しくなっているだけである。
避けられないわけではない。
ただ、死が目の前にあるだけのこと。
いつもとそう変わりはない。
両手にある武器、それを扱うベルはすでに二つの武器を扱う器に至っている。
しかしながらだ。
「ぐぅっ」
ベルの武器はいまだ手に持つ二つの武器のみ。
私の武器は無銘以外にも五体がある。
ベルの技は五体を武器にするまでは至っていない。
足でさばき、刀でさばき、掌底を腹にぶち込んだ。
「流石」
吹き飛ばされはした、が体勢は崩していない。
慣れていないのだろう、魔法に。
しかし、ダメージは確かにある。
「ま、だ!」
逆手から順手に、パリングナイフを持ち替えた。
正面にナイフを構え、ロングソードは下げられる。
上達したパリィとベルの眼は侮れない。
右腕でもパリィができるように構えられ、下段であっても迎撃できるようにしてある。
完成されてはいるがそれも私が教えたものだ。
「超反応、弱点もカバーできるようになってる。とか?」
「わかんないよ?」
「フッ、阿呆め」
紫電によって運動神経が何倍にも発達しているのは当たり前のこと。
神経そのものが発達する、太くなった神経が見えるほどに発達しているのは異常だ。
どこかで見たことのあるようなそれによって五感が研ぎ澄まされているのも当たり前である。
まあ、五感が発達しすぎているなら対抗策もあるものだが、今はいい。
とりあえず、勝利をもらう。
ベル君が超強くて、ステイタスもあほみたいに高い。
しかも魔法もあり、パリィや駆け引きも多少はできる。
まだランクアップが控えているので伸びしろもある。
超強いベル君はお好きですか?
でももちろんレベル3以上には勝てませんよ。