初めて仕えた神様は 作:メイドさん大好き
不死とは、戦闘においては便利なものである。
痛みが厄介な時はあるけれど精神が肉体を凌駕していれば問題ない。
魔法は、常に発動させていた。
もはや避けをしなくなっていった。
耐久力が皆無なベルは一撃で体が消えていく。
しかし、次見える頃には治っている。
何とも奇妙なことであるが、何がどうなっているかは分かる。
体そのものが火となっているのだ。
決して枯れない、決して燃え尽きない火の塊。
人としての力はもう超越してしまっている不死の力。
私は灰だ。
だから、好きに造形を変えられた。
灰に役割を持たせることでいかようにも扱えた。
私は私を人間だと思ったことなどない。
血、力、初めからあった不死。
ある日突然備わったもう一人の私ともう一人の私に付随する知識の山。
それから人に憧れ、ヘスティア様を愛し、メイドさんとして力を求めた。
ベルに不死が付与されるとしたら、私のせいだろう。
ベルのすべてが変質してしまうだろう。
もう手遅れだ。
ベルの求めた力はもうベルにある。
もう、ベルに入ってしまった。
「リリ」
「なんですか?」
リリルカは落ち着いている。
いや、安堵したが正しいだろうか。
諦観にも見える。
「今のベルについてどう思う」
「―――」
リリルカは少し驚いたのちに口を閉ざす。
リリルカには覚醒について話していない。
ミュナが話した可能性もあるが、それはあり得ない。
彼女は覚醒について、死にかけてから潜在能力を開放する儀式、くらいしか知らない。
彼女は経験していないから、当たり前である。
「―――永遠に燃え続ける炎なんて存在しない」
誰かの受け売りであるようなセリフだ。
「薪のようですね。ベル様らしいです」
言いえて妙、といったところか。
英雄など世界のために燃やされる薪に過ぎない。
世界が続くための贄だ。
人生を戦いに投じることになるだろう。
それでも彼は受け入れる、私はヘスティア様のためなら受け入れる。
「そう。確かにね」
ベルは炎。
決して燃え尽きることがない、一つに囚われた。
だから、物凄く不器用だ。
形は変えられるが、私のようには扱えない。
翼となって空を飛ぶことはできるだろう。
炎弾を作り出すことはできるだろう。
しかし、そこが限界だ。
その炎に役割を持たせることができない。
どんなに修練を積もうと、変わらないことだろう。
まあ不死の付与だけでとんでもない魔法である。
だってもう、ミノタウロスを殺す一歩手前だ。
「余裕だね」
にこりと笑って、炎に捲かれるミノタウロスを見る。
いつの間にやら【ロキ・ファミリア】もいるが、ベルの様子に釘付けだ。
ミノタウロスの灰化を確認。
魔石は、落ちていないようだ。
中身をしっかり焼いたようで安心である。
「―――ローズ」
「よくやったね。覚醒だ」
「ハハハ、良かったぁ」
疲れているみたいだ。
覚醒は頭がおかしくなるくらいには体に悪いことだ。
話せているのが不思議だ。
「どうだった?」
「かっこよかった。火は、いいもんだね」
「でしょ?ん、ちょっと眠くなってきたな」
「運ぶよ。休んでて」
「あり、がと」
糸が切れたようにベルが倒れこむ。
よいしょ、とベルを抱えて、背中に、腰にベルのものを差して。
帰る準備を整える。
「リリ、帰るよ」
「あ、はい!」
リリに一声をかけると真っ直ぐ、出口に向かおうとする。
何故だか【ロキ・ファミリア】は話しかけてこなかったけれど。
てか、なんでここに彼らはいるのだろうか。
「―――では、好い旅を」
これくらいは礼儀だ。
そう思って一言言ってから帰る。
帰り道はゆっくり、慌ただしいものではなかった。
鼻歌すら歌えるような帰り道であったといえよう。
ベルの体に外傷はないし、精神枯渇でもない。
ただ覚醒によって疲れて眠っているだけだ。
「帰りましたー。っていないか」
まだヘスティア様はバイトから帰っていていないみたいである。
すこし報告が遅れるだけでそんなに影響はない。
よいしょー、とベルをシャワー室に放り込む。
「リリー!ベルの着替え更衣室に置いといてー」
「分かりましたー!」
ついでに自分もお風呂を済ませてしまおう。
そんな感じに最早慣れたベルを風呂に入れる行為。
ベルがファミリアに入ったばかりのころは結構こんな感じだった。
まあ、入ってから一か月くらいなのだが気にしないでおこう。
センシティブなので光景は飛ばす。
普通に隅々まで洗っただけなので特に変なことはないけどネ。
「あがったよ」
「はーい」
ベッドにベルを投げ込んで、私はソファに座る。
隣に何とかリリルカを座らせて。
何故かというとですな、ベル君の中に何かあるのだ。
明らかに私の影響、同じメイドさん仲間として何か移ってしまったような気がする。
私は勘を外したことがない。
それに私は私自身について知らなさすぎる。
「何を知ってるの?」
「はい?」
白々しく、リリルカは首をかしげる。
その嘘はきっと、私のためのものだ。
「私の知らないこと」
「それは、なんでリリに?」
目を見開かせ、驚いたようにリリルカは私に聞く。
どこかあきらめも伝わってきた。
「なんとなく」
「嘘ですね」
「んー、何となくに変わりはないんだよ。後はリリの言動かな」
「ですよね。あー、隠し事は得意なはずなんですけどね」
ため息をついて、自嘲気味にリリは笑った。
「私のこと、何か知ってるの?」
「知ってる、とはいっても少しだけですよ。母親、【博士】と少し話しただけです」
母親、そう聞いて胸が高まった。
その記憶は意図的に開かれていないのだ。
どんな人なのか、どんなド外道なのか、私の体について知っているのか、いろいろな疑問が頭に浮かんでくる。
「マジで?教えて」
「そんなに教えてもらってはないんですよね。自分の素性とベル様に関してのことくらいです」
「そう、か。ってベルのこと?」
母はベルにかかわりがあるらしい。
もしかしてだが、本を渡した人物か?
「正解ですよ、ローズ様」
「心読んだ?」
「いえ、何となく。ベル様に本を渡した人、【ソーマ・ファミリア】を壊滅させた人物。どちらも【博士】らしいです」
「あー、リリにとっては大恩があると」
「ええ。ですがお二人に付いて行っているのは仕方なく、ではありませんよ」
「それは安心した」
一瞬思いついたことを否定してくれて安堵する。
【博士】から脅されているわけでもないようで安心した。
「後は、ベルの不死化の件だけど」
「あれってメイドさんに覚醒したからなんですよね?」
「うん。それは大正解なんだけどね、なんだか嫌な予感がしてさ」
「んー、リリは何も聞いてませんよ?」
「私のことも?」
「娘としか」
「そう」
ならばわからない。
何も、分からない。
リリは嘘をついていないのは分かる。
「うーん、違和感」
「確かに魔法で不死化ですもんね。感覚マヒしてました」
「普通はあり得ないもんね。メイドさんが異常というよりは」
「ベル様とローズ様が異常ですね。【博士】のせいだと思います」
「そうなんだ。まあ、不死だしね」
【博士】といえば、完全な不死にたどり着いたことで有名だ。
【博士】以外の呼称としては【賢者】という呼び名もある。
逆に名前という名前はどんな物語にも登場していない。
どんな英雄譚にも登場しているのに、名前は判明していない。
珍しいことである。
「まあ、会ったらぶん殴って聞く」
「それがいいですね」
何はどうあれ、どんな理由があれ、一度捨てられた。
一度ぶん殴って、一度殺すくらいしないと収まらないものがある。
「さて、中層にはいつ行く?」
「もう一人は欲しいですね。理想は後衛ですけど、ローズ様は後衛もできますよね?」
「できるよ。なら前衛でもいいわけか」
事実である。
前衛のみではなく、後衛も私はできるのだ。
その場合は魔法の使用が必須なわけだが、そうなるとヴェルフがパーティ候補に入る。
魔法も強いのでぜひとも欲しい人材だ。
「まあ、まだ中層には行かないってことでいい?」
「ええまあ。二つ名発表を待ってパーティメンバー募集ですかね。望むべくなら知り合いがいいです」
「トラブルは嫌だからね。うーん、ならヴェルフかな?」
明日、ギルドにランクアップの報告。
その後の二つ名発表まではこれまで通りに。
ということでリリとの話は決着した。
ヴェルフのことはまた後で。