初めて仕えた神様は   作:メイドさん大好き

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第三十五話

事の発端は、ベル・クラネルの判断だった。

これまで、十三階層のこれまでの戦闘から天狗になっていたのかもしれない。

火のないところに煙は立たず、何かをやらない限り何もない。

乱戦などしたから異常事態にあった。

 

【タケミカヅチ・ファミリア】と、接触をしたのだ。

進行方向上、かち合ってしまった。

ただそれだけであった。

走り去っていき、少女がなにか気づいた顔をして。

リリルカが【タケミカヅチ・ファミリア】だと気づいた。

その後からモンスターが沢山やってきた。

 

怪物進呈(パス・パレード)ですッ!』

 

『だろうな!』

 

『これは、すごいね』

 

ヴェルフは大刀を、リリルカはリトルボウガンを、ベルは簡単にヴェルフに打ってもらった竜の特大剣を。

それぞれ構え、炎がベルを包む。

発生源はベルから、体を炎へと変えたのだ。

縛っていたはずの魔法を使用したのである。

 

越えられる、簡単に、この程度なら。

 

少年はそう思った。

逃げればよかったものを、後でそう思うこともあろう。

しかしこの時にその選択肢はなかった。

一重に、少年がお人好しだったからである。

 

輸血液は無事、その他はすべておじゃん。

少年のおかげでその場は切り抜けられた。

切り抜けられた、だけだ。

出力を間違えたのか地面が抜けたのだ。

三人、全員が巻き込まれた。

 

炎に姿を変じ、二人を助けようとした。

しかし、体そのものが炎でありつまり熱い。

バックパック燃える、服や鎧すら燃える。

つまり無理で無駄だ。

 

そんな時に、何かが来た。

何かが、体を貫いた。

何かが、聞こえた気がした。

 

『な、ぁ』

 

今、少年の体は火だ。

余すところなく、全てが燃え上がり、故に物理攻撃は当たらないはずだった。

飛べない、と気づくまで時間はかからない。

 

『だ、れ?』

 

『お姉様の、匂い』

 

壊れたように、どことなく人の喋り方ではない。

分かることは胸を貫かれ、落ちていくことのみだった。

 

「ベル様!」

 

胸に穴が空き、少し気絶して。

リリルカに揺さぶられ少年は目を覚ます。

 

「あ、ああ。寝てた?」

 

「胸に風穴が空いてて、死んだかと」

 

「ああ。流石はローズの弟子だな」

 

「‥‥‥ま、だよねぇ」

 

記憶通り、少年は頭が痛くなるような幻肢痛を感じた。

普通、胸を貫かれたら死ぬ。

しかし少年と少年の師は簡単には死ねない。

胸を見ると既にふさがっている。

輸血液は減ってはいないものの、幾つかは無駄になっていた。

 

「問題は、ないかな」

 

「‥‥‥はぁ、良かったぁ」

 

どれほど落ちたのか、どうやって生き残るか。

自分の腰のバックパックの中のアイテムは幾つか無駄になっている。

小さいそれがそうなっているのだからリリルカの大きなそれがどうなっているかなど想像に難くない。

それに、リリルカは無傷だ。

ヴェルフはなかなかに重症っぽいが。

 

「今はどんな状況か、聞いていい?」

 

重々しく、リリルカの口が開かれる。

物資は少年のものの他は全て使えない。

バックパックもボロボロだという。

回復薬もヴェルフに使ったものが最後。

少年は自然回復でなんとかなるとして、自然回復も精神力を用いるため魔法は使えない。

 

「上に戻るのは無謀、かな。物資がない」

 

「はい。ベル様がいればいける、という訳でもないかと」

 

「ならどうすんだ?」

 

上に戻るのは階段を探す必要がある。

物資がない以上、それにマップもない以上、それを選ぶのは無謀というものである。

ここから飛んで戻る、ということも可能ではあるがそれをすれば少年自身が精神疲弊をしてしまう可能性がとんでもなく高い。

 

さすればどうすればいいか、それを決めるには中層というダンジョンの構造を考えることから始まる。

中層には縦穴がある。

階段以外で繋がる、階層間の通り道。

ありがたいことに、それは大量にあるのだ。

それによって下に降りることは容易である。

 

ひとつしかない階段を探してさまようか、それとも縦穴を通って18階層に行き、補給をして上るか。

生存率が高いのはどちらか、考えてみれば簡単だ。

 

「下、ですね」

 

「うん。縦穴がある」

 

「ああ、なら目的地は」

 

「十八階層だね」

 

指針の決定、後は行動を起こすのみだ。

皆、傷はなく元気ではあるがそれでも物資がないので戦闘は避ける他ない。

【ミアハ・ファミリア】より、頂いた物資が一つのみ、この状況に使えるものがあった。

強臭袋(モルブル)、モンスターが苦手とする匂いを発することによってモンスターを寄せつけないようにするアイテムだ。

無論、ヒトにとっても苦手な匂いである。

 

「貰っててよかった」

 

「臭いはきついですけどね」

 

「━━━どうにかなんねぇか」

 

「無理でしょ」

 

リリルカとヴェルフは鼻声、少年は特に気にしてない風である。

回りを警戒しながら、袋を持っているリリルカの後ろを少年とヴェルフが追従する。

このまま、十八階層に着ければ良いが、と考えるがおそらく不可能だろう。

そんな早くにつけるなど、夢も夢だ。

 

「取り敢えず縦穴探しだね」

 

「ああ。できるだけ早くだな」

 

「効果が切れる前に、が最善ですね」

 

リラックスして、先に進む。

油断はしないが力は抜いて、メリハリを大切に、そんな感じである。

 

先へ先へと、アイテムのおかげでサクサクと進む。

しかし、そんな時間も長くは続かない。

効果が、切れた。

リリルカの言葉を聞き、戦闘態勢を少年はとる。

魔法の準備をヴェルフがする。

リリルカは援護の構えである。

強行突破、縦穴を探して何千里。

運良く16階層であったからまだマシと言えただろうか。

 

「流石ヴェルフ」

 

「まぁ、この程度はな。近接はお前に全部任せちまってるし」

 

「問題ないよ。一番自由に動けるのが僕だけだからね」

 

輸血液はまだ一つも減っていない。

残量は三個、十分とはいえないがあって困るものでもない。

無茶とも言える行軍ではあるが、何とか現実味を帯びてきたところだろう。

縦穴を発見し、降り、十七階層に到達。

しかもその下は正規ルートときた。

目的地はもう目前だと心を震わせる。

 

━━━なんだあれは。

 

三人の目が丸く、【嘆きの大壁】に注がれる。

辿り着いた興奮、そんなものより動揺が勝った。

大きな魔石とその前に少女がいる。

黒い装束に、赤い髪が映えている、小さい少女。

メイド服を着ていればローズマリーととてもよく似ていただろう。

黒い装束には返り血だと思われる赤が付着している。

 

彼女が大きな魔石を生み出した。

つまり、ゴライアスを殺したのは彼女。

そう関連づけられた。

 

「あれは‥‥‥」

 

ピシッと、少年は縦穴を指さす。

何故か、簡単な話だ。

 

「ベル様」

 

「ベル」

 

「時間は稼ぐ。行って」

 

赤い瞳が揺れる。

中心には背中を向けた黒装束の少女が写っていた。

火花が見える、周りに炎の残滓が浮かぶ。

 

「あ、」

 

ローズマリーの声であった。

 

「お姉様?お姉様の匂いがする」

 

誰だ、誰のことを言っているのだ。

分からない、分からない、そんなこと分かりゃしない。

だからこそ、その血で確かめるのだ。

 

「お姉様、いない」

 

「僕は男ですからね」

 

「あなたから匂いがする」

 

「臭いですか?ちゃんとシャワーは浴びてるハズなんですが」

 

「お姉様の、お姉様の、お姉様はどこ?」

 

「あなたのお姉様を僕は知らないのですが、名前は?」

 

「名前?お姉様はお姉様でお姉様お姉様オネエサマオネエサマオネエサマ」

 

壊れたように、同じ言葉を繰り返す。

ポキッ、そんな音が少女の首から聞こえた。

青い瞳は少年を捉えている。

そして、消えた。

 

「え?」

 

【竜の特大剣】が地面に落ちる。

握っていた、その筈であった。

なれど落ちた、それが意味するところは簡単な話だ。

痛い、そう思う暇もない。

残った左手でパリングダガーを強く握り、少女を迎え撃たねばならない。

 

甲高い、金属がぶつかり合う音が響く。

少女の拳が、ダガーとかち合ったのだ。

 

「クッソ、なんだこれ!」

 

火が少年の周りを包む。

いつもの如く、転生の炎によって少年の体が炎へと変じる。

腕が瞬時に再生され、特大剣を持ち直した。

 

「なんなんだ、貴方は!」

 

返答はない。

握っていた拳は既に下ろされ、代わりに左手に銃、右手にノコギリが握られていた。

ノコギリは何か変に感じる。

 

縦穴を見る。

負ける、と頭の片端に浮かんだ。

もう、リリルカとヴェルフは飛び込んだだろう。

もう、意地になっている。

 

特大剣に血を垂らし、火を巻き上げる。

右腕のみが炎へと変じている。

 

━━━燃やしてやろう。

 




新キャラです。
まあ、分かりやすいですねぇ。
装備は、ブラッドボーンをやったら分かりますよ!
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