初めて仕えた神様は 作:メイドさん大好き
右腕と右足の炭化、左目が潰れ、左足の指がもうない。
これが、ベルの現在の状態だ。
生きていることすら怪しく、生きていたとしてもこれ以上冒険者を続けることはできないだろう。
そう思われたことだろう。
【ロキ・ファミリア】の設営したテント群、その少し外れた場所にある博士のテント。
そこに、ベルが押し込まれていた。
リリルカとヴェルフは【ロキ・ファミリア】のテントで世話になっている。
ならばなぜ博士のテントにベルがいるのか。
「回復は、してるわね」
炭化した腕はほとんど治っているが、足は治っていない。
目は治っているようであった。
重症化しすぎて、回復が遅れているのだろうか。
そんなことを考える。
うんうんと博士は唸る。
この程度なら、ローズは半日で簡単に治る。
1時間くらいで目を覚まして、元気に動き回るはずだ。
もちろん博士やローズなどの人形と人間のベルを比べるのはかなり非常識ではある。
あるのだが体はほぼ同質になっているはずなのだ。
なので起きていなければおかしいのだが、起きない。
血質、とは文字通り血の質のことだ。
血質が良ければ、とある武器が使えるようになる。
目立った武器がローズの【無銘】だ。
血質が上がることによりあの武器は鋭さが増し、軽くなる。
血質がないとなまくらになり、とてつもなく重くなり、折れやすくなる。
博士は後天的だが年季が段違いで、ローズは言わずもがな血質にこだわって作りあげたものだ。
故にベルは血質が相当に悪いのだろう。
魔法使用時はそれを炎でカバーしているのだと思われるが。
「調べましょうか」
奇天烈な、何に使うか分からない器具を手に取る。
どこか、邪悪な笑みが見えるがそれを使うのだろう。
何をするのか、それは当人にしか分からぬことだ。
「うーむ、これは」
ベルの血を器具に通し、その結果を紙に写す。
少しの間、渋い顔でその結果に目を通していた。
「‥‥‥」
書き出されている結果は、中途半端。
不死性はほぼ皆無、今生きているのは完全に魔法のおかげだ。
否、ベルの意地で血を無理矢理活性化させているに過ぎない。
このまま放っておけば早死にするだろう。
予想はできていたことだが、目の前にすると項垂れるものだ。
そう促したのは他ならぬ【博士】ではあるが、であった。
「【血の変成】を急ピッチにする方法は、あれしかないわねぇ」
そう言って、ため息をついた。
【血の変成】を早めたことは一度だけある。
ローズを作る時にその血が必要だったからだ。
【博士】の血は長い期間、じっくりと熟成させたもの。
それをいきなり、同じものにするのは当然ながら危険が大きい。
下手したら、いや下手をせずともベルは死ぬ。
しかし、近いうちに死ぬ可能性はそれより高い。
「もう、やるしかないわねぇ」
と、ベルを試練に導くことを決める。
具体的にどんな試練か、それを決めようとしてあることに気づく。
外のこと、結界が侵入を確認したのだ。
八人、そしてそのうち二人が神だ。
しかも分かったことがもうひとつ、ローズマリーがいる。
腹を括らなければならず、そのために立ち上がった。
「ベルがこんなことになった原因ね。とりあえず話さなきゃ」
十七階層、嘆きの大壁。
燃えたような跡は円形に、そして至る所に残されている。
「ベルが本気でやりあった跡ね」
ゴライアスとの戦闘ではないと、リューさんが言った。
爆発したかのような跡、壁は少し削られ所々地面がへこんでいる。
「これを、レベル2の冒険者が?」
アスフィさんが信じられないといった風に言葉をこぼす。
当たり前だろう、こんな風景をレベル2が作り出すのは無理だ。
レベル3、4でもできる人物はそう多くないだろう。
それも、エルフのように攻撃魔法でこの状況を作り出したのではないだろうということだ。
ベルの魔法はあくまで
「ええ。後先考えてないですねこれ」
愚か、としか思えない暴れっぷりだ。
しかしそこまでの強敵が現れたようにも思う。
どういうかは会ってから言おう、そう決めた。
「まあ、この下にいるのは確実ですね」
ヘスティア様に目配せし、頷いてくれた。
まだ死んでいないとの裏付けだ。
「そうだね。心配だから早く行こう」
「はい。障害はないみたいですし」
こんな戦いに巻き込まれればゴライアスだろうと無事では済まないし、ゴライアスがいてこんな戦闘はしないだろう。
それに、18階層ではモンスターは発生しない。
そんなに強力なモンスターがいる訳でもないと思う。
少し前に見たことのある、十八階層。
特に何も思うことはなく、どこにベル君がいるのかと考える。
「どこかで休んでいるのでしょうが‥‥‥」
「テントは持ってきてないでしょうし、宿屋は高すぎますけど、どこでしょうね?」
ゴライアスはいなかったため、それを売ればまあ宿で休めはする。
当然の話だがパーティはボロボロ、あんな暴れ方をしたのなら先に二人は逃がしておいただろう。
となれば宿で休んでいる、のは恐らく無理だ。
逃がした以上は縦穴から落ちたことは確実だろう。
ならば助けてもらっているのではなかろうか、それが確実ではなかろうか。
そんなことを思った。
「あー、リューさんも同じ意見です?」
「ええ。概ねそうかと」
「‥‥‥行きま」
「ローズ君」
「ヘスティア様?」
「多分、いる場所は分かる。案内していいかな?」
ヘスティア様はベル君のいる場所がわかる、ということか。
よく分からないが、嘘は言っていないだろう。
「お願いします」
「ありがとう。こっちだよ」
街の方向とは逆、森の方向。
となればどこかのファミリアにでも世話になっているのだろうか。
テントを張って休めるようなファミリアとなると、まあ限定されてくる。
━━━確実にあのファミリアだろうなぁ。
そんなことを思い、護衛しながらついて行くことにことになった。
少しローズと離れたリューとヘスティア。
ローズはリューなら安心だろうと承諾、ヘスティアに告げられた場所へヘスティアとリューを除いた人で向かう。
「まさか、あの方ですか?」
「あー、エルフくんも世話になったんだっけ。まあそうだよ」
「ローズに会わせるのは不味いのでは?」
「そうだねぇ。でもいずれは会わなきゃいけないんだよ、あの二人は」
「そう、ですね」
「あの戦闘痕、君はどう思う?」
ヘスティアがリューに問う。
「ゴライアスとの戦闘痕ではないでしょう。恐らくは」
「懸念が現実になった訳だね」
リューはその現実に、歯噛みをする。
二人が想像する人物が懸念していたことが現実になったのだ。
だからこそ、ローズとベルを保護する人物を会わせなければならないとヘスティアは決断し、ここまでついてきた。
「それだけかい?」
「はい。送ります」
「ありがとう」
少しの魔力を感じたが、特に気にすることもなく。
いつの間にか、リューさんとヘスティア様が戻ってきていて。
ひとつのテントの前まで来ていた。
人工的に作られたであろう広場、そこに一つだけあるテント。
「ここだね」
「ここ、ですか」
なんだか、嫌だ。
ここにいるのに、少しというかかなり嫌悪感がある。
「ローズ君。少し待っててくれるかな?」
「はい?いや、ついていきますよ」
「いや、ボク一人で入る」
「神様?」
「‥‥‥まあその必要はないわね」
テントの幕を開け、女性が姿を現す。
見たことがある、その姿を見た。
手が自然と背中の無銘へと延びていく。
「‥‥‥言葉は不要、まずは殺りあってから」
女が何かを言っている。
無銘を抜いた。
斬ること、目の前の女を斬ること、それのみが頭を支配する。
この展開は予定通りなんだが、なんか予定通りじゃない。