初めて仕えた神様は 作:メイドさん大好き
飛び起きて、周りを見る。
テントの中で、見たこともない器具がたくさんあって。
そして腕はなく、武器もない。
「神様!?」
テントの幕を開いて、見知った人が入ってきた。
見知っているが、いるはずのない人だ。
覚えている限りではここはダンジョン、神様がいるはずがない。
「久しぶり」
「あ、お久しぶりです。なんで、神様がここにいるんです‥‥‥?」
「んー、ローズ君の手綱掴んでおきたいからかな」
「はい?」
まあ、ヘスティア様がいればローズに関しては問題ないだろう。
確かに外は相当の修羅場のようではあるが。
「外はどうなってるんですか?」
「親子喧嘩中だよ」
「親子?誰とです?」
「まあ見ればわかるけど、見ない方がいいね」
「??」
訳が分からない。
ここに連れてきてくれたのは博士だ。
器具を見れば分かる、村で見たものとほぼ同じだから。
となると、あの人とローズが?
「まあさ、気にしない気にしない」
「そうだよベル君。気にしない方がいいさ」
帽子を被っている男神が後ろにいた。
まあ、最初から分かってはいたが。
ヘスティア様の驚きで薄れていた。
というかなんかいっぱいいる。
「寝てるところに大勢でごめんね。外、かなりの修羅場でさ」
「【タケミカヅチ・ファミリア】のお三人と‥‥‥知らない方が2人」
確か命さんと千草さん、桜花さんだったか。
ローズがいないのが気がかりではある。
恐らくとして、ヘスティア様がこの人たちを引き連れてきてくれたのは僕のせいだろう。
三人方は償いとかで、ヘスティア様はさっき言ったことだろうか、あとの二人は本当に分からない。
外も相当に気になるが、このお二人さんのことも相当に気になる。
「ああ、自己紹介がまだだったね。オレはヘルメス【ヘルメス・ファミリア】の主神だぜ」
「アスフィ・アル・アンドロメダと申します」
「あ、ありがとうございます。ベル・クラネルです」
アスフィさん、アスフィさんか。
何より目が死んでいるのがものすごく気にはなるが気にしない。
ものすごく苦労が伺い知れるが気にしない。
「で、外で誰と誰が戦ってるんですかね」
「博士とローズ君だよ」
「ほぉ、へぇ。‥‥‥やばくないですか」
「ものすごくヤバいね。何とか止めようとしたけど無理だったよ」
「神様の言うことも聞かないとなると、相当ですね。回復してたら良かったんですが」
肘の辺りまで回復した腕を見る。
回復遅くねぇ?とも思うが、まあ
回復が遅いのも仕方ないだろうか。
まあ大技も使ってしまったし、仕方ない。
そういえば名前決めてなかったな、あれの名前どうしよう。
「よし、見てきます」
「親子喧嘩をかい?」
「もちろんです。起きたんでもう回復できますし」
「死なないようにね?」
「ええ、行ってきます」
そう言って、外に出る。
周りは森、まあそれ以上に気になるところが当然ある。
怪獣大戦争か?あれ。
とりあえず、腕の回復だ。
「あ、ベル?ちょっと待っててね」
「どうしたんです?」
「いやまあ。色々とね。ちょっと待ってて、親子の対話してるから」
「うん。待ってて、ベル」
地面に描かれた魔法陣の中、博士とローズが向かい合っている形だ。
今は僕に気づいて戦闘の手を一旦止めている状態のようである。
「やめて、って言っても無駄だよね」
「どうせ死なないし」
「この人が私の母親らしいし?反抗期ってやつをその身に味合わせようと思ってね」
まず、博士とは幼少の頃からの付き合いだ。
実験に付き合わされたり、魔導書の開発に付き合わされたり、なんだか変な注射されたり。
色々やらされてきたがそれらは僕にとって実りあるものだったはずだ。
特に謎の注射とそのあとのトレーニング。
‥‥‥本当になんだったのだろうかアレ。
そしてローズマリー、言わずもがなメイドさんの僕の師匠にして家族。
共に過ごした中でのあのヘスティア様とローズの組み合わせはどんな人だろうとその心を砕くだろう。
特訓は死なないギリギリを攻めたものであり、実りはありすぎた。
恐らく、あれに耐えられたのは投薬のおかげなのだろうなと思う。
毎日の死にかけるまでの手合せとそのあと一時間くらいの鬼ごっこ。
アレは普通なら死ぬ、確実に死ぬ。
この二人、どちらも似てるっちゃ似てる。
頑固だし割と自由人だし、自分のやりたいこと譲らないし。
ヘスティア様がいる分、ローズの方が少しマシなくらいだろうか。
ヘスティア様にも止められたであろう、なのに相対しているというとこはそういうことだ。
「楽しんでくださいね」
「了解、寝てなさいよ」
「精神力回復してないんでしょ?」
「お断りしまーす」
適当に切り株に座り、二人の戦いを見ることにした。
二人の戦いは参考にできるだろう、というか絶対にする。
博士の強さは折り紙付き、ローズもまたオラリオの派閥から一目置かれている強さだ。
参考にならないはずがない。
腸が煮えくり返るような思いだが、何とか抑えて目の前の女に殺意を注ぐ。
いくら殺しても死なないサンドバッグは貴重なのだ。
それに、私を捨てやがったことも忘れてはいけない。
それ以外にも
ヘスティア様にはそんなものないのだから不思議だ。
「武器はなしでいいので?」
「あー、あった方がいい?」
質問に質問を返すな、と言いたいところではあるがそこは相手に任せるところだ。
「ご勝手に」
「ならこれでいいわよ」
と、右の拳を私の方に突き出す。
左腕は背中に回している。
そして瞳が、赤に変わっていた。
「どう?」
ニッコリとした笑みが私に向けられる。
背中にゾワッと変な悪寒が感じられた。
「黙ってください」
ニヤケ顔は抜けないが、黙りはする。
ムカつきはするがそこは我慢だ。
すぐにぶつければそれでいい。
少しの硬直時間の後に先にしかけたのは私だった。
「おー、速いね」
「黙って斬られてろっ」
メイドさん秘技 灰。
パックリと手首を開くと中から黒い灰がこぼれ落ちた。
それをあらゆるものに変える、それが私の灰である。
灰を変える先は爆竹。
博士の前に粉を振りかけ、バチバチとやかましい音が鳴り響く。
視界を塞ぎ、耳を音で塞ぐ。
「‥‥‥」
いないことが分かる。
爆竹を再生成し、後ろに振りまく。
「おー」
気の抜けた声を、博士は発する。
ケラケラと笑いながら後ろに飛び退いた。
これは遊び感覚なのだろう、ムカつく。
━━━使ってやる。
結界の中で紫色の蝶が飛ぶ。
そして私の腕を黒いナニカが覆う。
「おー、綺麗ね。これなんだったかしら」
「黙っててくれます?」
「やだ☆」
若作りはやめろよと口から出そうであった。
手がプルプル震えてきた、ムカつきが天元突破してきそうだ。
ただ血を刀に纏わせる。
そして、血を体に纏わせる。
「おー。凄いわねぇ」
「黙ってろって聞こえませんでした?」
灰による人形の生成。
私と全く同じ姿の、無銘を持っていないバージョンが姿を現す。
「使いこなしてるわねぇ」
「感動するなら死んでください」
「誰だって死にたくはないわよ?」
「‥‥‥は?」
無名を振り下ろしたそこに博士はいない。
それは当然と言ってもいい話だ。
それよりも私と同じ思考パターンの、同じ姿の、そして戦闘力は私より少し低いくらいの人形の頭がない。
「よゆーね」
「‥‥‥」
「さて、そろそろ真面目にやりましょうか」
自然と無銘を握る力が強まる。
決着は次回に続く。
予想はつきますね。