初めて仕えた神様は   作:メイドさん大好き

42 / 45
第四十一話

博士のテントの中、健やかな顔でローズは眠っている。

もう目は元通りになり、体もくっついている。

意識はないままだが、その原因は博士が攻撃を通すための小細工によるものらしい。

数日以内には元気になるだろうとのことだ。

死んだように眠っているが、生きている。

昨日あたりの僕と同じようなものだと思うと少しあれだが笑みがこぼれる。

 

「何笑ってるの?」

 

「ん?ああ、一緒だなって」

 

「悪趣味ぃ」

 

からかうように博士は言う。

 

「悪趣味なのはわかってますけど…。ローズって人間じゃなかったんでしょう?」

 

「そうねぇ。まあ今も人間じゃないわよ。まだお人形さん」

 

「なら僕が人間やめただけですか」

 

「そうなるわね」

 

「手放しには喜べはしませんね…。まあ別にいいですけど」

 

人間であることに固執することはない。

モンスターになったわけではないので割とどうでもいいのだ。

見た目に変化はなく、生活に悪影響が出るわけでもない。

ヘスティア様を守れるならば、ローズの横に立てるならば。

むしろ望むところだ。

 

「ローズと観光でもしたかったんですが」

 

それはそれとして。

初めて来たこの階層をローズと一緒に巡ってみたかった。

いずれ目を覚ますだろうがまだ覚まさない。

 

「あなたが親らしくすれば反抗期にもならなかったのでは?」

 

責めるように、そんなことを言ってみる。

博士は博士なりの考えがあることは当然のことだが少しの恨み言である。

 

「しょーがないでしょー?色々やりすぎてケツ拭くのに必死だったんだから」

 

「自業自得じゃないですか!?」

 

「長く生きすぎて狂ってたんですー」

 

「アホですね…」

 

「若造には私の悩みはわかんないわよねー」

 

「はいはい」

 

博士の軽口に呆れ、僕は立ち上がる。

 

「あら、どっか行くの?」

 

「街に行くらしいです」

 

「私も行きたい」

 

「ローズのこと見ててください」

 

「はーい」

 

案内できるくらいに詳しくなっておこう。

次にローズと来た時に共に巡れるように。

 

そう決めて、テントを出ようとする。

 

「あ、ちくと待てベル」

 

入口の布に手をかけようとした時だ。

 

「なんです?」

 

「特大剣なくなっちゃったわよね?新しくヴェルフ君と一緒にササッとやっちゃうから楽しみにねー」

 

「あー、わかりました」

 

【竜の特大剣】はあの人形と戦った時に溶け落ちた。

よく考えてみれば腕がいいとはいえ素材が素材である、

ベルの炎はまだ極まっていないとはいえかなり持った方だろう。

【無銘】を打った博士がヴェルフを手伝う、安心も安心である。

 

「お願いしますね」

 

「だから、ヴェルフくん呼んできてね」

 

「……はいはい」

 

 

 

 

 

 

 

 

【神の力】の再現。

【超越存在】の創造。

かつて彼女が志した二つの事柄。

彼女の出身地は今では聖地と呼ばれる場所。

そこで【炎】によって彼女は不老となった。

そして目的のために不死となり探求を極めようとした。

そのために【英雄】を助け、世界を巡る。

神の写し身とされる【精霊】を知ることを【英雄】達の人間の奇跡を知ることを。

すべからく知るべきであったと彼女は語る。

 

人の神秘を彼女は知った。

精霊の神秘を彼女は知った。

だからこそ、彼女は発狂した。

彼女の同胞の末路を見届け、【英雄】たちの末路を見届け、無辜の人々が求める【英雄】の姿。

そして何よりも自分の求めるものの途方の無さに。

故に彼女は【人形】を作り始めた。

【超越存在】の模倣の為になんでもした。

 

その果てが【ローズマリー】である。

あらゆる人種を寄せ集め、精霊も混ぜ合わせ。

地上に存在したあらゆる神秘を寄せ集めて擬似的な【超越存在】を実現した。

 

「……」

 

ローズマリーの傷の治りが遅い。

何故なら、博士の血を混ぜたからである。

【血とは魂の代価】だ。

彼女には博士の記憶が一部入り込んでいる。

3000年間の記憶であれば一部でも膨大な量だ。

それに嫌いな相手の、見たくもない記憶である。

それも条件反射で襲うような相手の記憶。

そりゃ受け入れたくないだろう。

 

「…おい」

 

「あ、生きてた」

 

「頭の中がなんか落ち着かないんだけど」

 

「私の血入れたからね」

 

「あ?」

 

「わおすごい殺気」

 

動けないのが幸いして襲いかかられはしない。

殺気と殺意が集中して博士に注がれるだけだ。

 

「うっわ汚点だわ…」

 

「とんでもない物言いねあんた」

 

「勝手な都合で作って捨てるヤツに言われたくねー」

 

「とんでもなく口が悪い」

 

「中の人に言ってくださーい。あなたが選んだ人材でーす」

 

「おー確かに。そこを見込んだのだけれど」

 

「で、体が動かないです」

 

「まだ治りきってないからねー。動かさないわよ」

 

「寝とけと」

 

「そゆこと」

 

黒いテントの中、点滴やフラスコなどのものが散乱しているのが見える。

腕がぐちゃぐちゃなのも、片目が潰れているのも分かる。

本来なら直ぐに治る、そうでなくとも輸血液ですぐに再生する程度のものだ。

しかし治っていない。

 

「これ治ったら何があるんです?」

 

「色々。強くなれるのは確実ね」

 

「ふーん……。多分悪夢みますよねコレ」

 

「それは二人で乗り越えて?」

 

「クソ無責任なクソ博士だ」

 

「重ねるねー」

 

「だってクソじゃん」

 

「それはそう。今も昔もイカれても、私は変わんないからねー」

 

「じゃ、がんばれー」

 

「…はーい」

 

これから行われるのは【継承】だ。

【全知全能】たる博士の一部を私が受け継ぐ。

そのために博士の血を継ぎ、血を昇華させ、悲願を半分達成させる。

そのために、無限といえる博士の人生を追体験する。

彼女は忘れていると言っているが魂は覚えているのだ。

ならば、血を分け与えられれば。

そういうことである。

 

そして瞼を閉じなければ傷は回復しない。

血は既に私の中に入っている。

ならば混ぜ合わさり、適合し、昇華しなければあらゆる治療薬も特性も効果は何も発揮されない。

何故ならば、今の私は人でも怪物でも神でもない。

何者でもない、生命体でもないのだ。

文字通りただの【人形】である。

感情の発露はできる、ただそれだけだ。

なんとも意地の悪いことをするものだ。

だから今の私はもう眠るしかない。

どれくらいかかるかも分からないが、もう瞼を閉じるしかない。

 

「……おやすみ」

 

「おやすみ」

 

穏やかで母のような笑顔。

そんな笑顔を見て、私は瞼を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いってぇなどこ見てんだクソガ……」

 

 

「あ、すみません」

 

「お、おう。こっちこそ悪かったな坊主」

 

ならず者らしい男とぶつかり、少し身構えたが特に何もなかった。

どこかで見たことがあるような気がするが気にするだけ無駄だろう。

 

「……?」

 

しかし気になるものは気になる。

突っかかろうとしたら僕の顔を見て去っていったように見える。

近くにアイズさんもティオナさんもいなかった。

屋台で装備を選んでいる背中が見える。

そのため僕を見て逃げ帰っていったということになる。

よくわからん。

 

「よく分かんないな」

 

「ベル!」

 

「アルゴノゥトくん!」

 

「あ、はーい」

 

屋台で防具を見ているらしい二人に呼ばれる。

今の僕には武器がない。

今の僕には防具がないがあっても意味はない。

【パリングダガー】は戦闘用ではあるが敵を殺せるものではない。

【神殺しの炎】もまた、僕が未熟故にまだ武器にはならない。

今やれるのはただの特攻、ただそれだけだ。

やれることをやって、殺しきられそうになった。

まだ、僕は弱いのだ。

 

「防具、ですか?」

 

「うん!鎧ダメになっちゃってたでしょ?」

 

「ああ……ソウデスネ」

 

自分でぶっ壊したのは言わないでおこう。

炎を使うには仕方のないこととはいえヴェルフに怒られた。

今は博士と武器を打ってくれている、そんなヴェルフにこっぴどく。

 

「高いですね…」

 

この街、リヴィラの物価は異常に高い。

ダンジョンの中での唯一の補給源となればどれだけ足元を見ても買わざるを得ない。

だから買えるギリギリまで値段をつり上げる。

そんな場所である、らしい。

あんまりよく分からないが。

 

【こーでぃねーと】とやらをしてくれるらしい。

甘んじて受けるとしよう。




割とメンタルは弱いので発狂は何回かしている博士です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。