初めて仕えた神様は 作:メイドさん大好き
ベル君のメインウェポンはナイフのはずである。
何故か背中にロングソードが見えた。
刃こぼれが見えて、昨日のミノタウロス戦で消耗したのだろう。
支給品のナイフは姿形もない。
ベルによれば片目を潰した時に失ったらしい。
血まみれになったから直ぐに帰ってきたようでナイフは紛失したらしい。
「今日ってバイトだよね」
「うん。えんかいがあるみたい」
「へぇ、何の宴会かな」
「わかんない」
バイト先で、今夜は何かの宴会があるらしい。
これまではこんなに大きな仕事はなかったから少し緊張している。
週一で勤務している酒場は確か【ロキ・ファミリア】が常連だったはず。
それと遠征からは昨日帰ってきたのだろう、となれば帰還の宴会だと想像がつく。
まあそんなこと考えても仕方ないけれど。
「そのけんさ」
「これ?」
私はロングソードを指さす。
少し刃こぼれしたその剣は少しいいものに見える。
【ヘファイストス・ファミリア】の新人用のフロアの掘り出し物だろうか。
「だれの?」
「え、僕の」
「いや、つくったひと」
「ああ、ヴェルフ・クロッゾって人だね」
「ほーん」
クロッゾという姓のせいで色々な噂がある赤髪の鍛冶師さん。
ネーミングセンスには難があるけれど腕と人格は確かな人だ。
私の無銘になんか変な名前つけようとしてたし。
「へんなえんもあるねぇ」
「えっ、どういうこと?」
「これをせいびしてくれてるひとだよ」
背中に差している大太刀を示して言ってみる。
ヴェルフには非常にお世話になっている。
魔剣に興味を示さなかったのがポイントになったみたいだ。
昨日のこともそうだが、ロングソードもだ。
不思議な縁で繋がっているらしい。
「ということは‥‥」
「しりあい、というかせんぞくのかじし?」
「‥‥‥マジ?」
「まじ」
本当ならばヴェルフもメイドさん沼に浸からせたかったけれど不可能だった。
鍛冶師ってのは頑固者が多いと聞いたが凄いな、あの一途。
でも想い人のメイド服姿を見たら鼻血吹いて卒倒するでしょう。
そこら辺は普通の男だな。
「ならさその鍛冶師さんに取り次いでもらうことは」
「できるけど?」
「ありがとうっ」
刃こぼれしたロングソード。
やっぱりヴェルフは将来有望であることがわかる作品だ。
彼は憧れた人が人だから、燻っている場合じゃないんだけどなぁ。
ベル君と接していい感じに触発されてくれたまえ。
まだ早いと思うけど。
「そういえばさ」
「なに?」
「ローズの魔法って2つあるんだよね」
いきなりなんだベル君。
いくら私でも少し驚いた。
「あるけど」
「一つは見たことあるんだけどさ、もう一つはどんなやつ?」
「いやあるで‥‥‥ああ、目の前では見せたことないね」
「なんか血を纏って鬼の形相で追いかけられたことはあるけど」
訓練の一つである市壁で行う鬼ごっこ。
ベル君の目の前で使ったことがあるのは素手での血刃。
神殺しは訓練の時に使いはしたけどベル君は逃げるのに夢中で見てはいなかったのか。
悲鳴上げられて逃げられたのは少し心にきた。
「ひめいあげられるのはしょっく」
「いや、いつも笑ってるローズがいきなり鬼の形相になるのは怖いよ。いい加減慣れたけどさ」
「かわいいでしょ」
「怖いよ」
「かわいいっていって」
「いやこわ‥‥」
「かわいいよね?」
「ア、ハイ。カワイイデス」
「よろしい」
メイドさんを怖いというのはなんと失礼なことか。
メイドさんはいつだって可愛く、気高く、強くなければならない。
怖いなんてあってはならないのだ。
筋肉モリモリだろうがなんだろうが。
「それでさ」
「まほうのこと?」
「うん」
「だんじょんにはいってからね。ついかえいしょうもつかってあげる」
「いいの?」
「だいさーびす」
「ありがとう!」
やっぱりベル君は魔法に憧れているんだなぁ。
スキルあるから覚えられるとは思うが、覚えたら覚えたで面倒くさそう。
目のキラキラ具合が半端ない。
‥‥‥ドン引きしないよな、しないよね?
「ということでつかいたいとおもう」
「おー」
パチパチと拍手してくれるベル君。
しっかりと周りを警戒していて偉いぞベル君。
ということで大太刀を抜きます。
ベル君の前だと訓練の時にしか抜いたことの無い大太刀を抜きます。
「【我が主が為に何人たりとも道を阻むことは許されない】」
詠唱、しっかり脳裏にヘスティア様の姿を幻視して祈りを捧げる。
私のメイド服は特注だ。
お腹の部分がちょっと突き刺せるくらいに開いている。
おへそは見えない、少し上にある。
やることはわかるだろう、そこに
「我が神よ、捧げ物を受け取り給え」
「‥‥‥ッッ!ローズ!?」
「もんだいない」
大太刀を突き刺す。
勢い良く抜いたら、血が吹き出してきた。
これでいいのだ、周りに飛び散るくらいがちょうどいい。
大太刀には自動的に血液エンチャントが為され、吹き出した血は黒いモヤとなって身体の中に戻っていく。
痣のようなものが体に出現したら身体の強化は完了だ。
これで2秒ほど、並行詠唱はメイドさんの嗜みとはいえ戦闘中に使うのは難しい。
「つぎ」
「‥‥‥うん」
「【絶望を贈ろうか】」
あと、何故か詠唱は舌足らずにならないことは突っ込んではいけない。
「黒い、羽根?」
ベル君の目が丸くなる。
何故か、私の背中に黒い翼が生えたからだ。
そして体を覆い尽くすくらいに大きな翼で体を隠す。
「おっけー。どうよ」
「え‥‥‥っとぉ」
大人びた声が耳に届く。
大太刀も片手で握れるくらいの大きさに見える。
ベル君も私より小さく見えた、やっぱりこの体って大きいんだな。
「ん?どうしたのよ、その顔」
「いや、いや!ホントにローズなの?」
「そうだよ」
「面影は、あるね」
「失礼だなぁ」
すっかり見下ろす立場になって、周りの風景が変わって見える。
メイド服は背丈に同じくらいのサイズになってくれている。
やっばりだ。
「美人だなぁ」
「タラシにでもなるの?」
「ならないよ!でもホントに美人だね」
「ふっふーん。メイドさんだからね」
「なんかギャップがある」
腰まで届く赤い髪に赤いミニスカなメイド服。
胸がないのは少し不満だが、こんな感じのスタイルもいいから大丈夫。
ベル君も美人だと褒めてくれているから悪い気分ではない。
寧ろいい気分だ、鼻を鳴らすくらいには。
「その状態だとどれくらい強いの?」
「ん?んー、分からん」
「分かんないの?」
「うん。これ使ったの二回目だしね」
廃教会の裏でヘスティア様の前で試しに使ってみた時だ。
あの時もヘスティア様がえらく褒めてくれたことを思い出す。
あの時のヘスティア様の慌てようは可愛かった。
ああ、あの人は正しく女神で母親だ。
「でもま、結構強いと思うよ」
「うわぁ、挑むのは無謀?」
「当たり前じゃん」
「いつもですら勝てないのに‥‥‥!」
フフフ、そんな妖しい笑みを見せてみる。
幼女の時ならば可愛いと撫でられるだけだけど今ならば赤面してくれるはずだ。
「その姿ってどれくらい持つの?」
あれ、全く動揺してない。
それどころか普通に質問してきた。
あれか、私のことは意識するまでもないってか。
「うーん、一時間くらい?」
「うおっ。持つね」
「持ちすぎるんだよね」
解除はできないが
使い勝手は悪いが、強力な魔法だ。
だからこそあまり使わないのだが。
「あー、余裕もって終わらせようよ」
「バイトもあるしね」
夜のバイトに備えて早めに終わらせてしまう。
今日は夜の営業に合わせるので夕方くらいだろうか。
懐中時計を確認しながら探索を続けていく。
ベル君とローズ(大人)の探索。
神殺しは血による肉体強化と肉体を一時的に成長させる効果。
ベル君は血刃と神殺しは使えないねぇ。
この状態のローズちゃんはめちゃんこ強いです。
身長も190くらいありますし。
ローズさんですねこれは。