エリカ可愛いヤッターをしたいだけの小説   作:†土鍋†

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キャラ崩壊注意。


第一話

 

 自己肯定感。

 

 聞きかじった知識によると自分の価値や存在意義を肯定できているか――砕きに砕いて雑に言うなれば、良い事をして自分の事を褒めてあげていますか? という意味になる。

 これが高ければ高いほど日々に満足してポジティブに生きる事ができ、今日を生きるエネルギーになる。らしい。

 目覚ましより5分早く起きて爽やかな目覚めを迎えた自分をほめちぎっても良いだろうし、ゲームで良い戦績を取った事だって十分良い事だ。やるじゃん俺と褒めた後にコンビニデザートでも買えばちょっとしたハッピーだろう。

 

 話が変わるが俺は前世ではとんでもないクソ野郎だった。

 自分が良ければそれでよかった。糸の切れた凧のようにふらふらと日々の隙間を縫って生活をし、自分の事を思って苦言を呈してくれた人にもめんどくさいと冷たい反応を返した。楽を求めて他者との関係を切り捨て、周りを顧みず、そしてあっけなく死んだ。

 馬鹿は死ぬまで治らない。だが、さすがに死んだら反省の一つや二つだってする。柄にもなく自分の前世について知恵熱が出るほどに鑑みた結果――聖人君子とまではいかなくても自分を肯定してあげられるような人になりたい。言葉にするのはこっ恥ずかしいが、挨拶とお礼を欠かさないような人であれと、そう決意をした。

 

 

 した結果が――。

 

 

 ここはタマムシ第一中等部の玄関、時刻は放課後である。どうにも身の入らない授業を終えて早々と教室から姿を消した俺は……ガツンと額を壁に押し当てた。

 ひんやりとした感覚が急に火照った俺の熱を奪い、ほんのりと冷静な自分が戻ってくる。

 

「あー……、なんだ、悪ィ」

「いえ」

 

 急な俺の奇行にドン引いた様子もなく、なぜだか楽しそうな声色でかえってきた一言の返事。聖女か? いや俺を奇行に走らせたのは彼女の一言なんだけどさ。

 言葉にするのも面倒な感情を飲み込むために頭をガリガリとかきまわすと声の主の姿をしっかりと見つめた。

 

 彼女を見て受ける第一印象は、楚々(そそ)

 

 放課後の喧騒が切り揃えられた前髪をさらりと揺らす。

 かつてモニター越しに見た姿よりも一回り小さく、眦はほんの少し鋭く疲労の色を覗かせていた。どうせ会話する機会もないだろうと視界の端に入れるだけの存在だった彼女。

 無遠慮に見つめていたからだろうか。吸い込まれそうな黒々と輝く瞳を小さく開いた後、桜色をした形の良い唇をきゅっと(すぼ)め、胸の前で右手で左手を包んだ。

 

 学校内外問わずに有名な超絶美少女、花樫(はながし)エリカがそこにはいた。

 

 彼女は上体をぐっと俺に近づけ見上げると再び同じ言葉をつぶやいた。

 

「私に――わるい事を教えてください」

 

 背中がビリビリとしびれるような甘さを含んだ声色だった。

 色で例えるならば薄桃色だろうか、香りで例えるならば紫丁香花(むらさきはしどい)。上品で透き通った、しかししっかりと存在感のある甘い香り。こうかは ばつぐんだ 。

 間違っても男にそういうことを言うなよ、そう答えられればどれだけ良かっただろうか。彼女が口にした言葉について俺は心当たりがあった。

 ありすぎて罪悪感をじくじくと訴える心がそらもうすさまじい事になるレベルで。

 

 発端は昨夜の事だった。

 

 

 

 ▼

 

 

 

 時刻は22時。中学生が外に出るには遅い時間、俺は夜風を切ってランニングをしていた。

 

 一拍事に新鮮な空気を全身に取り込めば、薄く引き伸ばした意識が叩き起こされる。夏の茹るような熱気もすっかり影を潜め、心地よい冷たさを含んだ夜の空気が心地よい。

 前方で黒い尻尾を揺らして走る相棒――ブラッキーの姿を横目に勝手知ったる裏道を走り抜ける。

 ポケモン勝負は体力が物を言う。簡単に最強になる術なんてものは無く、ならばコツコツ鍛えるのが正解だろうと始めた夜のランニング。気が付けば、ポケモンとコミュニケーションをとる大事な時間の一つになっていた。

 石に掘られた”タマムシ第一地区公園”の文字の前で足を止め、ゆっくり歩きながら熱のたまった体をほぐすようにぐっと伸びを一つ。

 相棒たるブラッキーも俺の真似をするように前屈姿勢をとると尻をぴんと突きあげ、尻尾をふわりと揺らした。

 可愛いなぁコイツと口の中で呟くと両手でブラッキーを抱きかかえ、駐輪場を超えて公園の中へと足を進める。

 

 橙色の街頭で照らされた公園、そこには回転ジャングルジムや砂場、ぶら下がりシーソーといった前世ではすっかり姿を消した危ない遊具と。――キィキィと心細気に鳴るブランコ、そして話した事もないクラスメイト、エリカの姿があった。

 

 足音を立てていたからだろう、俺へと視線を向けていた彼女と目が合う。

 抱き抱えられぷらーんっと伸びて揺れるブラッキー。

 一抹の気後れを感じる俺。

 

 どうすっかなーっとブラッキーをぷらぷら揺らしていると、居心地が悪かったのだろう、ブラッキーは文句を鳴き声に込めて体をよじった。

 

「悪い悪い」

 

 謝罪と共に両手を離せば怒りの猫パンチが俺の足を襲う。

 ……ま。喋る必要もねぇだろ。整地された草むらの上で胡坐をかき、ご機嫌斜めな相棒のご機嫌取りに勤しむ事にした。

 

 

 心地の良い夜だ。

 虫ポケモンが立てる鳴き声がさざ波のように寄せては返す。夜の音を楽しみながら夜空を仰ぎ見れば、まるで海を空に流し込んだように深く、済んだ夜空が広がっていた。

 空から零れる柔らかな月明りが地上へと差し込み、世界を仄かに輝かせる。

 連綿と広がる草の絨毯の上でブラッキーが小さく跳ねた。きゅぷーっきゅぷーっと楽し気な鳴き声を上げて跳ね転げまわる。

 

 心地の良い夜だ。

 ……心地の良い夜、だった。

 

 キィコ、キィコと擦れる音。

 横目で音の発生源を見れば、ぼんやりと地面を見つめながら足先だけで小さくブランコを揺らすクラスメイトの姿。

 

「……っくしっ」

 

 彼女が小さなくしゃみを漏らした。

 季節は秋口。運動していた俺は心地よいものの、夜風に晒された身は冷えるだろう。痒くもないのに頭をガリガリと掻くと立ち上がった。

 

「ブラッキー、ちょっと待ってろ」

 

 耳をピンと立てて俺の顔を見上げる相棒に小さく頷くと、公園の入り口にある自動販売機へと足を進めた。

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