拓巳がピットに戻った時、先に戻っていたシャルルが笑顔で迎える。
「お疲れ様、拓巳。近くで見てたけど、凄い戦いだったよ!」
「ありがと、俺の頼み聞いてくれて。それに、俺達の方は引き分けになったから、勝てたのはシャルルのおかげだね」
素直な賞賛をするシャルルに、拓巳は自分の頼みを聞いてくれた上に、勝ってくれたことにお礼する。
時同じく、ピットに戻ってきた一夏は、申し訳なさそうに箒に謝る。
「ごめんな箒。わがまま聞いてもらっただけじゃなくて、勝つことができなくて……」
「何を言っている。あれほどの闘いを見せられて責めるわけないだろう。それに、お前は負けてはいなかった。私がシャルルに勝っていれば、私達の勝ちでいれた……」
そう。この戦いの勝敗を決めたのはシャルルと箒の戦いだった。
(私にも、専用機があれば……)
箒の胸中で無力ゆえの願望が出たが、それはないものねだりだと思ったのかすぐに首を横に振る。
「機体性能の良し悪しで勝敗が決まる訳じゃない。スペックに差があるなら、技術で食らいつけばいいのだ」
実際、数日前の授業で、真耶は訓練機で専用機を纏った拓巳と悠冱のコンビ相手に終始優勢で抑え、勝利した。自分には専用機がない。ならば、あそこまで強くなればいいのだと決意を固めた箒だった。
管制室で観戦していた千冬と真耶も、あの激闘を讃えていた。
「すごい戦いでしたね」
「ああ。あれほど気持ちのいい戦いを見せられると、私も久々にIS戦をしたくなってくるな」
一夏と拓巳の一騎打ち、まだ荒削りな部分こそあれど、あのバトルには確かに心を揺さぶるものを感じていた。
「それにしても、僅か数ヶ月であそこまでISを動かせるようになるなんて……少し、あの子達に嫉妬してしまいます」
俯く真耶。表情こそ穏やかだったが、その中には確かに悔しさが混じっていた。
かつては日本代表候補生にも選ばれたこともある彼女だが、そこに入るために長い時間をかけて、人生で一番と言っても過言ではない程努力した。そういう経験をした彼女にとって、たった数ヶ月であそこまでの動きをできるようになった5人の成長速度は羨ましいと思い、そう呟いてしまった。
「私から言わせてみればまだまだだが、これからの成長が楽しみだな」
「その言葉、先輩だから言えるんですよ?」
千冬の発言に真耶は苦笑いしながら呆れる。
「しかし、篠ノ之とデュノアもそうだが、これから試合をする連中は不憫なものだな」
「へっ?」
どういうことだと言わんばかりの目で見ながら首を傾げる真耶を、今度は千冬がため息を吐く。
「最初の試合であそこまでの魂のぶつけ合いとも言える激闘を見せられたんだぞ?実際、この試合の勝敗を決めたあの2人の相方達の戦いが終わっても特に反応がなかったのがその例だ」
「……あっ」
その言葉で察した真耶は、心の中で合掌していた。
「ふん、織斑一夏、やはり貴様は教官の家族に相応しくない」
会場が盛り上がっている一方、ラウラは一夏の評価をさらに落とした。
理由は至極単純、一夏が負けたからだ。ラウラが歩んできた人生は厳しいもので実力がないものは常に蹴落とされていた。つまり結果こそ全てなのだ。
だからこそ、彼女には分からなかった。勝者はともかく、敗者にもあれほどの声援を送るのかを。
そして2試合目以降、千冬の懸念通りにそれほど盛り上がりを見せる事はなかった。
もちろん、ほかの参加者が拓巳と一夏の実力より低いからではない。むしろ、中には訓練機でありながらあの2人以上の技術の持ち主や優れた戦略など、目を見張るものや盛り上がった場面は確かにあった。ただし、それらの試合全てが、第一試合にあった何かが欠けていたのか、それ以上のものは無かった。
そして最終試合、残った3人の男性の登場に、観客席のボルテージは再び上がる
〈さぁ、最初の試合でいきなり大盛り上がりを見せてくれた男性操縦者、残りの三人が集った一回戦最後の試合も、間もなく始まります!!〉
歓声が響くピットでは、颯也と零滋が準備していた。
「零滋、言っておくが……」
颯也はある不安があった。普段はあまり怒らない零滋だが、その代わりに一度キレると治るのに時間がかかる。特に今回はタッグマッチ。怒りに身を任せて単独行動される可能性もあった。
「わかってる。あのチビは俺達2人でやっつけるんでしょ?」
「ならいい」
颯也は零滋が理解しているとわかった後、2人はISを展開し、カタパルトに足を乗せる。
「月原颯也!ダブルオー!」
「成宮零滋、バルバトス」
「「出る!」」
出撃した2人は、そのまま指定の位置に向かう。
「遅かったな」
腕を組み、余裕の笑みを浮かべるラウラを、颯也と零滋は殺気を込めて睨みつける。
「おい、あの2人は私がやる。お前は邪魔をせず、ゆっくり見物していろ。いいな?」
だが、2人がただ睨んでいるだけとしか考えていないラウラは悠冱にこう告げる。手を出すなと。
「……わかった。ただし、このままだと負けると判断したら勝手に動く。それでいいな」
「ないとは思うが、それくらいならいいだろう」
あのまま反対しても面倒ごとになると気づいていた悠冱は条件付きで了承し、ラウラも会話という名の要求を済ませると2人を見る。
試合が始まる合図がなった直後、ラウラは先手必勝と言わんばかりにワイヤーブレードを射出、まるで蛇のような動きで颯也と零滋を襲う。
「ちぃっ!」
「……邪魔!」
だが、颯也はGNソードⅡロングとGNビームサーベルを抜刀し、ワイヤーを切り裂く。零滋もすぐに地面に着地し、ホバー軌道を巧みに使って野獣を彷彿とさせる動きで回避、避けきれないと思ったブレードはソードメイスで叩き落しながら突き進む。
(悠冱のやつ、動く気配はないな。……なら)
「零滋!プランBだ!」
零滋が返答するように頷くのを確認した颯也は、GNバスターソードⅡからGNフィールドを展開、自身に襲いかかってきたワイヤーブレードを全て弾く。
「なるほど、あれがGNフィールドか。確かに厄介だ。……なら」
今の颯也にワイヤーブレードは効果がないと悟ったラウラは零滋に攻撃を集中させる。流石にソードメイスだけで捌ききれず、ツインメイスに持ち替えて叩き落とす。
やがて、颯也が密かにラウラの元に接近しているのを目視した零滋は、攻撃できると思ったタイミングで左腕のロケット砲を展開し、それをラウラに向けて放つ。だが、それと同時にワイヤーの一つが横薙ぎするような軌道で零滋を叩き飛ばす。
「ふん」
その行動にラウラは僅かに眉を上げるが、次の瞬間には自身に向かってくる弾丸をAICで止める。
「あの状況の中で捨て身の攻撃をするか。見事だが、あまいな」
「それはこちらの台詞だ!」
上空からGNカタールを抜刀した颯也が切り掛かる。そう、零滋が被弾してでも単発砲を撃ったのは颯也を気付かせないようにする為だったのだ。
「ちっ!」
ラウラはAICを解除して襲撃をバックジャンプで回避、AICを解除したことで止めていた弾丸が再び襲うが、これも体を逸らしてギリギリではあるが回避する。だが、颯也はすぐに手に持っていたGNカタールをツインエッジモードにし、それをラウラに向けて投げる。
それに対して先程の攻撃で体勢を崩したラウラは、プラズマ手刀を展開し、GNカタールを弾き飛ばす。
その間に、背後に回り込んでいた零滋が、両腕のロケット砲から変えた単発砲をラウラに向け、それを同時に放つ。先ほどよりも速く迫る弾丸に、ラウラは体制を整える間も無く直撃してしまう。
作戦が上手く行ってることを確認した2人は、以降もラウラと一定の距離保ちながら、それぞれが対角線上にいるようなフォーメンションを維持し、一方に注意を向けられたらもう一方が死角をついて攻める。
2対1という状況かつ、シンプルであるが故に隙がないこの戦法に苛立ちを隠せないラウラ。
(埒が明かん!まずは……!)
この状況を打開するためにラウラがとったのは、悠冱に助けを求めるのではなく、先に1人を落とし、そのあとにもう1人を倒すという戦法に切り替えた。
「貴様からだ!」
まず最初に狙ったのは颯也。先ほどまでの彼の援護が煩わしかった彼女はレールキャノンの標準を最短で合わせ、狙い撃つ。そして、零滋の援護に向かおうとした途端に放たれた唐突な一撃に颯也は驚いてしまい、回避を試みるも左肩に直撃を受ける。
それを確認したラウラは両手のプラズマ手刀を展開し、
「ぐっ!?」
接近攻撃すると予想した颯也はGNソードⅡブラスターを手に持って迎撃体勢を整えた次の瞬間、ラウラは左手のプラズマ手刀を解除し、AICを使ったことで動きを止められてしまう。
「これで余計なマネはできまいな」
勝ち誇った笑みを浮かべながら、背部のレールキャノンを展開し、颯也に照準を合わす。
「そうだな。……だが、俺ばかりに気を取られていいのか?」
その忠告と同時にハイパーセンサーからアラート音が鳴り響き、慌てて後ろを振り向く。そこで彼女の目に映ったのは、零滋だった。
「しまっ!?」
「吹っ飛べ!」
避ける間もなく、零滋が全力で振り下ろしたソードメイスの一撃をまともに受けたラウラはそのまま飛ばされ、地面に直撃する。
「これで終わりだ!!」
AICから解放された颯也がGNソードⅡブラスターを構え、立ちあがろうとしたラウラに向けた。指をかけたトリガーを引こうとした瞬間。突然ハイパーセンサーが危険を知らせるアラートを鳴らす。
「なっ!?」
真横から黄色の野太いビームが颯也を覆うとしていた。颯也は咄嗟に左肩にマウントしているGNバスターソードⅡをシールドモードにしてGNフィールドを展開、防ぐことに成功する。
「俺を忘れるな」
ビームが消えると、颯也にバスターライフルを向けている悠冱が見えていた。
(追い詰められた上に、助けられた?私が?素人に?)
「大丈夫か?」
「貴様!邪魔をするなとあれほど!!」
「さっき言ったはずだ。このままだと負けると思ったら俺は動くとな。第一、これはタッグマッチだ。お前が落とされたら、その後は俺がこの2人を同時に相手しなきゃならねぇだろうが。どあほう」
「あっ!?」
あほ呼ばわりされて、呆然とするラウラ。しかし、それは関係ないといわんばかりに悠冱はそれに、と言葉を続ける。
「俺は仲間になった奴を見捨てるようなクズじゃねぇ。例えお前のような奴でもな。……まっ、本音を言えば俺があいつらに負けたくないだけだがな」
そう告げたのち、悠冱は出力を抑えたビームを零滋に向けて放つ。
「お前の損傷は小さくはない。ここからは俺が前衛に入る。援護は頼むぞ」
今度はシールドからビームサーベルを取り出し、こちらに向かってくる零滋を止めに入る。
(なぜだ!?なぜ、私はこんな奴らに勝てないんだ!?)
代表候補性2人を圧倒した自分が、素人同然とも言える颯也と零滋に苦戦し、更には同じ立場の悠冱に助けられた。これにはラウラも奥歯を噛み締める。これは、彼女にとって耐えがたい屈辱だった。
"力を望むか?"
「誰だ!?」
男性操縦者達の戦いを悔しさと怒りに満ちた目で見ていたラウラに向けて何処かからか尋ねられた質問。
"汝、力を望むか?"
しかし、その声はラウラの質問に耳を貸さず、問い続ける。そして、このまま聞いてもらちが明かないと思ったラウラは答えた。
(……当然だ!私は欲しい!1人で戦える力を!あいつらを叩き潰せる力を!!)
あの
"良かろう。その力で全てを壊せ。愚かな人よ"
「なに!?」
謎の声にどういうことかを問い詰めようとした矢先、電撃のような痛みが全身を襲う。
「があぁぁぁぁぁ!!」
電流の影響でラウラは目の前が真っ暗になり、意識を失ってしまう。しかし、それを待っていたかのように、ホロウィンドウに次々と文字が自動入力されていく。
《Damage Level》………D.
《Mind Condition》………Uqlift.
《Certification》………Clear.
《Valkyrie Trace System Type_K》………Active