ポン! クラッシュ! クラッシュ!
ポンッポンッポンッ!
魂は巡る。
現世に生まれ、現世に生まれたものがあの世に帰還し、再び現世へと舞い戻る。
魂の円環。
そんな円環の中に一つの異物が現れた。
それはとある漫画の権化。
全てのものをグルメだの、ノッキンだの、釘パンチだの、に脳内で変換するとある漫画の厄介オタクだった。
常識をグルメスパイザーでクラッシュしたそいつは、その術式や行動すらもが厄介極まりない爆弾であった。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
秘匿死刑が決定した虎杖悠仁。
彼は現存する特級呪物『宿儺の指』をすべて取り込むことを決意していた。
延命のためではない。
呪いに殺される人間を少しでも減らすために、祖父の「人を助けろ」という呪いを全うするために、だった。
向かう先は、東京都立呪術高等専門学校。
東京郊外の山奥に存在する高専は日本に2校しか存在しない呪術師の教育機関である。
呪術師として活動するために、少年はそこにやってきたのである。
そこで自身が取り込んでしまった呪い『両面宿儺』の説明を受けているのであるが。
「それじゃ、半分だ。『呪いの王』は両面宿儺の一側面に過ぎない」
「え、あんた誰?」
「トリコ。俺もこの
そこに現れたのは冒頭に語られた人物。
過去に連載されていたグルメファンタジー漫画『トリコ』にぞっこんな上に、全く無関係な事象をもトリコに紐付けする男。
本名が謎の、トリコを自称するだけの男である。
IGOという単語にクエスチョンマークを浮かべる虎杖の隣で、黒い目隠しをした五条悟が反応した。
「やあ、トリコ。君は相変わらずだね」
「五条先生……。俺からもスクナの説明をしたいんだが、問題ないかい?」
「別に構わないけど、ホラは吹かないでくれよな」
虎杖から見ても、その男は筋骨隆々だった。
単純な身体能力で負けているとは思わないが、それだけでは測れない力を漂わせる男、話を信じるなら同年代の少年の話に、耳を傾ける。
「……そのもう一つの側面ってのは一体なに?」
「『食材の王』としての側面だ」
「はあっ!?」
「そもそも、両面宿儺が女子供を狙う目的とはなんだ?」
「え? 趣味?」
「旨味を集めるためさ。女子供だけじゃない。
あらゆる生物を食い尽くして地上に散らばった旨味を集めるために両面宿儺は虐殺を行うのさ」
「でもよぉ。旨味を集めて一体なんの得があるのさ。美味いから喰ってるだけじゃねぇの?」
「よく考えてみろ。牛や豚を育てるときに牧草や餌にもこだわるだろ?
あれは美味い生き物を育てようとするときには、その生育環境もさることながら、食わせる餌が味を左右する大きな要因になるからだ。
両面宿儺は旨味を取り込み味を増す、つまり、奴には『食材の王』としての側面がある。
俺はそいつを『GOD』と名付けた」
GODとは数百年に一度起こるグルメ日食時に活動する化け物で、地球上のあらゆる生物を喰らい旨味を確保する『食材の王』にして『捕食者の王』。
両面宿儺とは千年以上もの昔に実在した最強の呪術師であり、呪術全盛時代の呪術師が総力を挙げて挑んでも勝てなかった『呪いの王』。
!?
似ている。
GODと両面宿儺はそっくりだ!
トリコは少なくともそう考えていた。
「相変わらずイカれてるね~~トリコは。
悠仁、気をつけなよ。コイツ狂ってるから」
「おいおい。この世界の食を守る
「なんども言ってるけど、僕は美食屋でも調理師でもグルメなんちゃらでもないからな。
お前の世界観に他人を巻き込むのはやめてくれよ」
そんなこんなで話をしている、と目的地に到着。
そこには東京高トップである夜蛾が待ち受けていた。
「何をしに来た?」
そこで虎杖は向き合うことになる。
自らの決意と。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
「虎杖の方は合格だ、と……さて今度はお前に問おう。お前は何しにここに来た?」
虎杖は言った。
宿儺を取り込みなんとかできるのが自分だけなのなら、この使命から逃げたら後悔する。
生き様で後悔はしたくないから。
それで合格した。
虎杖の方はだ。
トリコをスカウトしたのは五条だ。
当然、夜蛾も五条を通じてトリコのことを耳にしてはいる。
だが、それだけで合格にはしてやれない。
何故なら、呪術師に悔いのない死はないから。
モチベーション、ある程度のイカれ具合は必須。
それが夜蛾の自論だった。
「決まってるだろ! 未知の味を探究するためさ!」
「は?」
「始まったよ」
だが、この男のイカれ具合はある程度じゃ済まない。
なにせこの世のあらゆる事象をトリコの世界観に落とし込まなければ気が済まない、真正のイカれ野郎がこのトリコである。
男は自身のイカれ具合を発揮していく。
「世界にはまだまだ美味いもんが溢れている。
今この瞬間にも新たな
俺はその未知なる味に魅せられた男。
美食屋、料理人、再生屋、既存にあるどんな呼び方をするのかは任せるが、俺が知って欲しいことはただ一つ。
俺が
「……」
「そして、いつか作るんだ! 俺だけのメニュー、人生のフルコースを!」
それはもはやトリコのみにしかわからない話。
だが、語りかけてくるだけで熱さを感じるほどの熱意はまさしく本物。
夜蛾は胸を打たれたようにサングラスの裏で目を閉じてから、ため息混じりでいった。
「ぶっちぎりでイカれてやがる」
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
そんなわけでめでたく入学となったトリコと虎杖が、五条に連れられてやってきたのは廃墟。
生徒の適性を見るために、適当な呪霊を祓わせよう。
そういう意図の催しであったのだが――。
「どうだい、トリコ」
「ああ、俺の好みの匂いがする……トラブルの匂いがな!」
実は当初予定していた場所ではない。
最初に用意していた廃ビルがあったのだ。
しかし、そこにいた呪霊はせいぜい4級か3級。
一年のイカれ具合を見ることはできたが、トリコという大型新人を測るには少し物足りない。
だから、五条が隠し球として用意していた大型レジャー施設の廃墟。
そこに来ていたのだ。
「よし! じゃ、行ってくる!
お土産を楽しみにしておけ!」
意気揚々と廃墟の中へと進んでいくトリコ。
中に入ればこもっている呪いのプレッシャーは相当なもの。
入り口の時点でビリビリと肌を突き刺す空気だ。
「お前らもついて来るのか……」
「おう、お前に何かあったら困るし、これは俺たちのテストでもあるからな」
「別に~~。私は仕方なくだけど」
虎杖と本日最初に合流した紅一点、釘崎野薔薇も同行している。
釘崎の呪術は釘から呪力を流し込む、釘を利用した術式。
トリコの必殺技は数発のパンチを同時に叩き込み、釘をトンカチで叩くように何度も衝撃を叩きつける『釘パンチ』。
!?
似ている。
釘崎の術式と釘パンチはそっくりだ!
釘崎の術式≒釘パンチ。
つまり、釘パンチの使い手でもある釘崎はトリコなのでは?
そんな思考回路で『お前もトリコ?』と絡んできたトリコを釘崎は露骨なまでに遠ざけている。
それだけじゃない。
「やはり、この廃墟はプールだったな。
呪詛カブリに、怨サケ。
やはり、こういう水を連想させるところには海鮮系の
湧いて出てきた魚をイメージさせる呪霊を手当たり次第に捕まえては食っているのである。
バリバリ、ボリボリという咀嚼音は釘崎にとっても不快なもので一刻も早くこの任務を片付けたいという気持ちを強くさせる。
「あんた、やめなさいよ! 気色悪い!」
「あ。そうか悪い悪い。お前も食いたかったのか! ほらよ」
「私がいつそんな発言した!? 脳まで呪いに侵されてるのか、この変態マッチョマンは!」
「ははは! いいから食ってみろよ、スーパーで買う魚よりかはよっぽど美味いぞ」
「誰があんたみたいな狂人から食い物を受け取るもんですか!
それにそんなお腹壊すようなもの食うわけないでしょ!」
「うおっ! 待てっ! こら!」
目の前に差し出された呪霊を前に叫ぶ釘崎。
釘崎の怒りが理解できずに困惑するトリコ。
そんな2人を横目に虎杖は騒いでいる。
その先にいるのは件の呪霊、トリコが言うところの呪詛カブリ。
虎杖は手早くソレを捕まえると、口に運んだ。
「……げぇー、まっず。お前よくこんなもん食えるな」
「ちょ、やめなさいよ! 呪いなんて負の感情でできたもんが美味いわけないでしょうが!」
あまりにも美味しそうに食べるトリコに触発されたらしいが、味はまずいの一言。
宿儺の指ほどひどい味じゃないものの、トリコの手の中にある呪霊がなんとなく美味しそうに見えていたこともあり、落胆は大きい。
「ああ、虎杖、それじゃダメだ。ちょっと手の中にあるもん貸せ」
「おう」
「ん~~よいしょと」
トリコは虎杖から、マダラ模様の入った呪いの魚、マダラサバを受け取ると呪力を流し込む。
変化は劇的だった。
くすんだ色がうっすらと明るくなり、光の粉を振りかけたかのような輝きを放つ。
「食ってみろ」
「おう……んっまーーい!」
「嘘でしょ!?」
その味をなんと言えば良いか。
プリプリに引き締まった身に、噛むたびに出てくる旨味。
虎杖は自分が味の良し悪しをわかる人間だとは思えないが、一つだけ言えることがあった。
「うわー、米が欲しかった! できれば醤油もッ!」
醤油をつけてご飯と一緒に口に運べば絶対に美味しい。
「安心しろ。そのリクエストには後から答えてやるよ」
「トリコッ!?」
「グルメボックスを持ってきている。この中に入れればどんな
「まさか……」
「ああ、後で食おうぜ」
「ありがとうトリコ! 後で伏黒と五条先生にも食わせてやろうぜ」
「おう、腕を振るってご馳走してやる!」
「なに作ってもらおうかな……刺身だろ、煮魚だろ、いっそのこと鍋にするのもいいかもしれないし。
迷うなぁ!」
「この悪食どもめ……」
はしゃぐ虎杖とトリコから居心地悪そうに距離を取った釘崎だった。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
「五条先生……大丈夫なんですか?」
「なにがだい」
一方、廃墟の外で待機している五条悟と伏黒恵。
伏黒は懸念があるようだった。
「……こんな報告を聞いたことがあります。
無数の呪霊が生態系を織りなす、呪霊の巣窟があるとか……」
「ここがそうだと言いたいのかい?」
「なんで、3人だけに任したんですか?
どう考えても、荷が重い」
低級の呪霊でも徒党を組めば脅威となりうる。
そこに少数でも1級、いや、2級程度でもいい。
万一でもそんな呪霊が混じっていれば、それはもはや1級術師が出張る案件だ。
「あ、やっぱり恵もそう思う?」
「は? ふざけてるんですか?
なんの考えもないなら、今からでも3人を連れ戻してきますよ?」
伏黒の苛立った声に五条は答えた。
「恵の意見はもっともだけど、こうでもしないと、見れないんだよ。
アイツの、トリコの実力をね」
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
元々、この廃墟はプールと温泉、そして、宿泊施設が併設してあるレジャー施設だった。
規模はデカく、棲みついている呪霊は半端な数ではない。
そんな呪霊達は生態系を作っている。
無数の下級呪霊はより強い呪霊に食われ、ソレもまたさらに強い呪霊に食われる。
呪いの受け皿たる廃墟はその禍々しさを増し、更なる呪いを引き寄せる。
呪いは確かに生きていた。
小規模な呪いの楽園には小さな王がいた。
水棲生物を模したその呪霊は騙し騙されの日々を生き抜き、他の呪いを食い散らかして強くなっていった。
「妙だな。
トリコたちはこの施設の最奥に向かう道すがらひとりごちた。
この施設は呪霊にとっては楽園だ。
淀んだ空気、埃と垢の溜まった床に錆びた壁。
全ての要素が呪霊を育む最適の条件。
だと言うのに、トリコが担ぐグルメボックスはようやく満杯になったと言うところ。
これほどの立地ならボックスの口から呪霊が山のようにはみ出してもおかしくはない。
「いいじゃない……。そっちの方が仕事が早く済んで」
釘崎はかなづちを投げやりに回した。
勝手に盛り上がる2人を尻目にテンションは低い。
「聞いてた話ほどじゃないわね。あんまり強い呪力も感じないし、これなら楽勝ね」
「じゃあ、トリコ、終わったら早速飯でも食おうぜ。釘崎もどうだ」
「嫌よぉ。気持ち悪い」
「……」
じゃれる虎杖と釘崎に混ざることなく思案げにトリコは歩を進める。
そうなのだ。
呪力は小さい。
廃墟の規模から想定されるものよりも遥かに小さい。
だが、だからこそ解せないのだ。
それならこの呪いの楽園により多くの呪いが集まっていなければ理屈が合わない。
「虎杖、釘崎、下がれ」
そして、最奥に広がる巨大なプール。
ウォータースライダーもある。
もっとも、水が通っているわけがないが。
そんなプールの底から登って来るものがあった。
「おかしいと思ってたんだ。
普通、これほどの施設の中には強大な生き物がいるはずだ」
そいつは8本足で大きな口を持った呪霊だった。
既存のいかなる生き物とは異なった形態をしているが、あえていうのなら現実に存在したワニをさらに巨大で凶悪にしたような形。
全長20メートル、推定される体重12トン。
仮に通常兵器が有効だと仮定して、最新式のグルメ戦車ですら仕留めきれないだろう、なんてことをトリコは考えた。
「わざと呪力を抑えて誘い込んでいたんだな。
呪いを、そして、俺たちを……ッ!」
「な……なによコイツ……」
「の……呪いじゃない、恐竜だ」
でかい顎、太い胴体と尻尾、鋭い牙。
釘崎と虎杖は自然色濃いその威容に圧倒された。
それはもはや呪いというよりかは現代に蘇った恐竜と呼ぶほうが相応しく――。
「どけぇ!」
ワニがその巨体からは想像もつかないほどの俊敏さで飛びかかる。
トリコは2人を突き飛ばして前に出るとワニに突っかかる。
顎を開いていたワニの噛みつきを横へと回避する。
呪力をまとったパンチ。
それを叩き込む。
廃墟の澱んだ空気をシェイクする衝撃。
だが、ワニは耐えた。
頭部を揺らす勢いそのまま、尻尾での攻撃に移行。
トリコの胴体に叩き込む。
「むぅ!」
推定12トンの重さが乗った尻尾攻撃にさしものトリコも呻き声を上げた。
だが、ここで堪えられないようではトリコの名を名乗れない!
すぐさま尻尾を掴むとトリコはワニを振り回して、床へと叩きつけた。
「な、なによこれ……」
「恐竜が2頭かよ……」
もはや、恐竜同士の闘いにどう手を出せばいいのかわからない。
釘崎の術式では、ワニの表皮を突破できないだろうし、虎杖の武器『トザマ』でも同じだろう。
万一他の呪霊が乱入してきてもいいように警戒はしているが……。
呪霊が近寄ってくる様子はない。
「素晴らしい!」
トリコはコンクリートの凹みから即座に立ち上がるワニを見て思う。
コイツはかの有名な『ガララワニ』で間違いない、と。
「なぜ、バロン諸島に存在するはずの貴様がここにいるのか、敢えて問うまい!
そんなことより、よくぞ成長したな。それほどのデカさに!」
しかも、その姿が原作に登場した規格外の個体と姿のみならず能力まで似通っているのだから、トリコが好きという理由だけでトリコを名乗るこの男の感動は一層深い。
何故なら、このガララワニを食いたいと何度も何度も願ったことがあるくらいなのだから――。
「お前に敬意を表して俺も人間の武器を見せよう! フォークとナイフを!」
この日初めてトリコは臨戦体制に入る。
瞬間――廃墟に残っていた数少ない呪霊は逃走。
通常、生まれた場所に固執するはずの呪霊があっさり、故郷を捨てた。
ガララワニの逃走を止めたものは王者としてのプライドではなく、命の危機を味わったことのない無知さ。
両手を構えたその瞬間、トリコが背負うオーラ。
その威容はまさしく鬼!
これこそが細胞が宿し、呪霊を食うことによって育ててきた、グルメ細胞の悪魔!
「この世のすべての呪霊に感謝を込めて……いただきます」
手を合わせた合掌。
そんな姿勢のトリコをガララワニは襲う。
体格差は一目瞭然で自然体のトリコは為すすべないかに見える。
だが――。
「フォークッ!」
左手で作ったフォークがガララワニに突き刺さり、フォークを突き刺したままガララワニを持ち上げた。
身動きの取れないガララワニに対してさらに――。
「ナイフッ!」
ナイフを象った右手がガララワニの首に吸い込まれた。
ガララワニの頭は胴体から切り離された。
「ごちそうさまでした」
トリコは肉片として降り注ぐ光景を背に再びの合掌。
遺憾なくその実力を見せつけるのだった。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
ガララワニの肉を堪能するトリコ。
しかし、それはフルコースを埋めるメニューとなるには至らず、世界にはまだまだ旨いものがあふれている。
彼にとって呪霊とは探求すべき未知なる味。
その最終目標は――。
「俺は
その前途は多難。
しかし、それでもトリコはあきらめることはない。
未知なる味がこの世に尽きない限りは。
世はグルメ時代。
未知なる味を探求する時代!
2021/4/17 冒頭を修正