呪霊の天敵、もしくは頭グルメスパイザー   作:泣き虫くん

6 / 10
姉妹校交流会、すなわち、グルメフェスティバル開幕!

「いやー。またまた特級を退けて、しかも新しい呪術師の卵を発掘するなんてねぇ。

 先生の指導がいいのかな? うちのトリコは一味も二味も違うねぇー」

 

 交流会直前。

 高専にあるモダンな一室で五条は鼻高々だった。

 理由は先の任務でのトリコを名乗る異常者の活躍にある。

 とある映画館で起きた、不良高校生3人の怪死事件。

 トリコはその任務で特級に分類される、おおよそ、最高位の呪霊を撃退したのである。

 呪術師としての力を示したトリコに対して五条はウキウキとした気分だった。

 

 もっとも、その過程において、現場ではしゃいだり、目撃者の少年を連れ回して呪霊の寝ぐらに踏み込んだり、色々な暴挙があったが、五条はそこから目を逸らした。

 現場ではしゃぐのは今さら。

 さらに、これは呪霊の撃退後に少年の口から語られたことだが、少年は呪霊と良好な関係を築いていたと思い込んでいたらしい。

 これがどれほど危険なことかは言うまでもない。

 荒療治になってしまったが、トリコの介入により呪霊との関係を断てたのはプラスだった。

 かつ、その少年は呪術師としての才能を目覚めさせており、高専への転入も決定したとなれば、五条として言うことなしだった。

 

 そんなふうに上機嫌の五条の正面には、1人の男が座っていた。

 スーツを着こなした男は、1級呪術師の七海。

 彼はため息をついた。

 

「そんなに自慢の生徒だったらご自分で引率したらどうですか?

 あなたでもスリリングな体験ができますよ」

 

 何を隠そう、この七海という男、トリコの引率を担当した呪術師である。

 社会人として働いていた経験があるだけのことはあり、七海は常識と良識を持ち合わせている優秀な呪術師であるが、相手はあのイカれだ。

 トリコを完全に制御することはできず、トリコのやらかしをフォローする役回りに徹することになる。

 

 そして、それは五条でもあまり変わりないのだろう。

 むしろ、最強の呪術師である五条にとっては他の全術師は足手纏いでしかないので、トリコと組むメリットは薄い。

 七海の少し意地悪な提案に、五条はゆっくりと首を振った。

 

「いやだよ。だってあいつ制御するのすんごくしんどいんだもん。

 普段、どんだけあいつに振り回されてると思ってんだよ……」

 

 軽薄に笑いながらも、どこか哀愁を漂わせるその姿は、最強とは程遠く。

 いかに五条であろうと教え子の前では、1人の悩める教師にすぎないことを容易に想像させた。

 思えば、五条も相当な問題児であったはずだ。

 教師にも反抗的で、先輩が相手だろうと煽り倒すし、誰彼構わず無遠慮な言葉を投げかける。

 それがかつての五条だった。

 そんな五条がトリコという本物のイカれに振り回される(を指導する)側に回るのを見ると、因果というものを感じずにはいられない。

 

「まあ、しかし、彼についてはある程度分かりましたが、イカれた言動とそれによる暴挙を除けば、優秀とすら思えました。

 それに彼は彼で、案外、物事をちゃんと考えているようにも見えます。

 吉野くんとツギハギの呪霊、トリコくんが言うところのチューインミート、との関係にいち早く気づいたのも彼ですし、ただイカれているというわけではなさそうですよ」

 

「……そっか。なんか、お前にそう言われると少し安心するよ。

 呪術師やってると誰かと組むことも珍しくないけど、あいつイカれてるからさ……」

 

 今回の任務は、その難度もさることながら、トリコのような狂人が、他人と組んで任務を遂行できるのかを確かめるための試金石でもあった。

 それがどうにか、仮に問題行動のオンパレードだろうと、結果的には被害者を最小限に抑えることができたので上々と言えるだろう。

 五条は満足げに、そして、安堵したように呟いたのだった。

 

「おう! 五条先生、早く京都姉妹校交流会(グルメフェスティバル)に行こうぜ! もう、お腹ぺこぺこでさぁ!」

 

「……いやぁ、もう、本当に何をどう解釈したら交流会がグルメフェスティバルになるのかね?」

 

「さあ、団体戦の内容に反応しているんじゃないですか?

 あれは呪霊が出てくる競技ですし」

 

「どっから情報が漏れるんだよ。お前はトリコに毒されてくれるなよ」

 

「その言い方は心外ですね。ただ、環境に順応しただけですよ。そのほうが効率的なだけのことです」

 

 トリコは部屋にやってくるとウキウキとした様子でしゃべり出した。

 その内容は異常の一言。

 任務を共にしたおかげか慣れた様子で語る七海に対して、五条はドン引きする。

 

 しかし、ここでドン引きしてもいられない。

 なにせ、死んだと思っていた仲間が生きていた、なんてことは呪術師でもそうはない。

 しかも、トリコは土手っ腹に文字通り穴が空いて、そこから血が噴き出すのを見られた上で、大往生したのである。

 絶対に驚くはずだった。

 というか驚かないわけがない。

 ならば、やるしかない。

 サプライズを。

 五条は気を取り直して、場の主導権を奪うかのようにして、笑った。

 

「やるでしょ、サプライズ」

 

「ああ、いっぱいの呪霊(食材)みんなに持ってってやる──」

 

「大丈夫だ! 僕に任せてくれ。トリコは何もしないでいい……というか、何もしないでくれ! 頼むからッ!」

 

「ええー?」

 

 トリコ相手にどこか空回りする五条。

 それを見て、七海は苦笑するのであった。

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 トリコが死んでいる間。

 伏黒と釘崎はどうしていたのかというと──。

 

「パンダホォオオール!」

 

「うぎゃぁあああ! ちくしょぉおおお!」

 

「……ッ!」

 

 2年生たちから直々にしごきを受けていた。

 理由は近々行われる、京都姉妹校交流会にある。

 交流会とは京都にある姉妹校との間で行われる呪術合戦のことである。

 交流会という名前の割には物騒な内容であるが、やはり、あくまで交流会。

 呪術を競い合うという研鑽の意味合いが強かった。

 

 そんな交流会に伏黒と釘崎に参加することになっていた。

 本来、交流会に1年が出ることはないが、今年は3年生が停学を喰らっている。

 その穴埋めとして1年生が駆り出されているのである。

 

 交流会に向けて行われている2年生からのしごき。

 これに伏黒と釘崎は喰らいついた。

 その原動力は無力感と悔しさである。

 というのも、1年生は任務で特級に遭遇している。

 少年院に出現した呪霊から取り残された在院生を救出するという任務だった。

 そこで遭遇した特級相手に1年生たちは何もできず、トリコだけが特級の相手をして捜索する時間を稼いだのであった。

 

 ちなみに、その後、トリコは宿儺の指を取り込んだ呪霊を喰い、死亡するという間抜けをさらしてしまう。

 さらに、謎の蘇生を果たしてからは秘密裏に囲われているため、その生存は五条や虎杖ほか数名以外には知らないのであるが……。

 

 閑話休題。

 ともかく、このときに味わった無力感、そして、よりにもよってトリコに助けられてしまったという悔しさ。

 これらは2人に強くならねばという意識を植え付けていた。

 もうあのときの思いを味わいたくない。

 そう思えばより一層、2年生との組み手にも力が入った。

 

 訓練期間にあった出来事といえば、京都校からの来訪者の件を忘れてはいけない。

 京都校から男女2人の生徒がやってきたのだ。

 いかにもスレンダーな美女という風情の女子は嫌がらせにでもやってきたのか。

 『呪霊を好んで喰う常識をわきまえない奴が呪術師づらしていただなんて、本当、呪術師の面汚しよね』とトリコを揶揄する発言をする。

 しかし、それはただの正論だった。

 伏黒と釘崎は激しく同意した。

 

「分かってるじゃない」

 

「へ?」

 

「最悪なのよあいつ。人に呪霊を勧めてくるわ、任務のことを新しい呪霊(食材)との出会いとしか思っていないからテンション高いし、呪術師のこと美食なんたらとかいうし……あいつはクソ!」

 

「……ダ、ダメじゃない……いくらなんでも同僚のことをそんなに悪く言っちゃあ」

 

「良いのよ。あの特級クラスのアホは例外よ。あー、あいつの死に方思い出したらなんか腹立ってきた!

 何よ、今際の際がごちそうさまでしたって……あんたもアホだと思わない!?」

 

「……まともじゃないわね……」

 

「まあ、だから……なんていうか……全く悲しくないんだけどね。

 あいつ、死ぬ瞬間まで微塵も後悔してなかったわよ。特級呪物喰っておいて」

 

 釘崎にいたっては女子の両手を握り、むしろ、賞賛する勢いだった。

 そんな反応がくると思ってもみなかったのか、女子はタジタジとなり、自分のペースに持ち込めなかった。

 

「おいおい、愚痴に付き合わされるとは……仲良くやってるみたいじゃないか?」

 

「ちょっと!? 冗談じゃないんですけど!?」

 

「私、真依さんのこと好きになれそうですよ!」

 

「嘘でしょ!? 私はあなたのことが嫌いになりそうなのに!?」

 

「まあ、そんなことよりもだ、そこの1年! お前の好みの女のタイプはなんだ?

 ちなみに俺の好きなタイプはケツとタッパがでかい女です」

 

「はあ?」

 

 かと思えば、もう片方の筋骨隆々の男子は訳のわからない因縁をつけてくる始末。

 伏黒が考えに考えて答えを捻り出すも、お気に召さなかったのか、その意見を退屈だと切り捨てて体術のみで一方的にボコってきた。

 2年生が間に入ることで中断になったが、こちらの方は、誰かが止めなければ血なまぐさい結果になっていたろう。

 

 他にも色々あった。

 トリコの遺品を整理したり、トリコが溜め込んでいた呪霊(食料)があまりにも多くて運搬に苦労したり、そこで伏黒と一緒に作業をしていた虎杖の中の宿儺が影の使い方のヒントを授けてきたり──。

 そんなこんなあった。

 そして、交流会当日。

 来訪してきた京都校の面々とそれを出迎える東京校の面々。

 その間には微妙な緊張感があった。

 

 五条は、そんな場面に遅れてやってきた。

 毎度ながら遅刻気味のこの男はそれを気にしている様子もなく、飛び入り参加のメンバー紹介を始めたのだった。

 

「じゃあ、今日は2人ばかし紹介するね。

 まず、1人目! 吉野順平くん! 素人のくせにぶっつけ本番で呪術を使ったから根性はあるよ! はい拍手ぅ!」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

「おー、順平こっちだ」

 

 まずは、編入が決まった順平から。

 いきなり同じ学年のみならず、先輩はおろか姉妹校のメンバーが勢揃いという中で紹介された順平は恐縮。

 挨拶が終わると、この中で唯一の知り合い、虎杖の近くにそそくさと移動した。

 そして、五条は台車で運んできた箱に向き直る。

 

 そうトリコを押し込んだ箱である。

 中からトリコが出てきて全員びっくり仰天。

 

 まさか、死んでいたはずのトリコが出てくるとは誰も思うまい。

 そうほくそ笑んで勢いよく箱を開けた。

 そこには──。

 

「……何これ?」

 

「いや、悟が持って来たんだろ」

 

「段取りぐらいしっかりしとけよな」

 

 肉、魚、野菜、果物。

 それらが新鮮な状態で入っており、淡く輝いていた。

 しかし、よくよく見ればそれらはどこかグロテスクで、この世に存在する既存のどの食材とも合致しないものばかり。

 それらはトリコによって仕留められた呪霊の死体なのである。

 トリコによって食用に変換された呪霊たちであった。

 

 トリコはどこへ何をしに行ったのか?

 嫌な予感がした、そのときだった。

 東京校学長、夜蛾正道が声を張り上げたのは。

 

「ガッデム! 忌庫に侵入者だと!?」

 

 騒然となる。

 高専は貴重な呪具や呪物の宝庫。

 特に忌庫と呼ばれる収集箇所には、より貴重なものが集められているのである。

 高専敷地内に何百と存在するダミーの神社仏閣の内一個だけが忌庫に繋がっている秘匿性の高さからも、集められたもののレベルもうかがいしれるというもの。

 その忌庫に侵入者が来たとなれば、それは一大事であった。

 

「いや、それは無いでしょ。外部から無関係の人間が入ってきたら、その時点で未登録の呪力に反応するはずだからね。

 もっとも、例外はあるけど」

 

 五条が補足するようにつぶやいた。

 通常、未登録の呪力があれば結界が反応する。

 結界で覆われた高専に一歩でも足を踏み入れたら、その時点でアラートがなるのだ。

 なので、本当に侵入者がいるのであれば、警報が鳴り響いているはずだが、山奥特有の静寂さは依然そのままだ。

 結界をすり抜けるなんらかの方法を有していないのであれば、夜蛾の言葉には矛盾が生じていることになる。

 

「その侵入者がどのような手段を使ったのかは不明です。しかし、それ以上に、どうも妙なのです」

 

「妙だと?」

 

 報告にやってきた男はどうにも歯切れの悪い様子だった。

 夜蛾は先を促した。

 

「どうもその男、侵入者なのですが、忌庫の見張りと口論になっているそうでして……」

 

「口論だと!? 戦闘ではなく!?」

 

「ええ、なんでも、忌庫のとある呪物たちの所有権を主張しているようで……頑として譲らないのです」

 

「何を呑気に侵入者と問答をしているんだ? 何故捕縛しない!?」

 

 忌庫の扉を見つけたこともそうだが、侵入者を捕らえるべき見張りが問答に答えるなど、状況があまりにも妙すぎる。

 徐々に語気を強めていく夜蛾に対して、報告の男は怯えた様子を見せながらも答えた。

 

「捕縛は試みております! しかし、恥ずかしながら相手との実力差はあまりにも大きく、こちら側がいなされるばかり!

 反撃を覚悟したのですが、男は預けていたものを引き取りにきただけだと言うばかりで戦闘を行う様子はなく、結果問答という形に──」

 

「貴様では話にならん。その男の特徴だけ教えろ」

 

 要領の得ない報告を夜蛾は中断させた。

 敵意があろうが、無かろうが、侵入者は侵入者。

 呪物を流出させるわけにはいかない。

 報告にやってきた男はできるだけ簡潔に答えた。

 

「身長220センチ、髪は青、筋肉モリモリマッチョマンの変態です」

 

「!?」

 

 今までひょうひょうと聞いていた五条が反応した。

 反応しない結界。

 覚えのある……というよりも覚えがありすぎる侵入者の特徴。

 いつの間にか、箱から消えていたトリコ。

 それら符号の組み合わせが意味する答えは1つ。

 五条は先ほどとは打って変わって、静かに冷や汗を流した。

 生徒たちの中でも、先ほど合流した順平、そして、虎杖といった、あのイカれ(・・・)の生存を知っているものも恐る恐るといった表情である。

 

「へぇー、どっかで聞いたことあるような格好ね。まるで、あいつみたいじゃない」

 

「あんな奴が他にもいたんだな」

 

「実はこっそり生きてたりとか?」

 

「それは流石にないだろうけどな」

 

「そりゃそうよね。生きてたらぶん殴ろうと思ってたけど」

 

 その生存こそ知らないがトリコのことは知っている1年生メンバー。

 彼らもその特徴があまりにもトリコと一致していることに気がついていた。                                     

 流石に生き返ったとは思ってもみないようだったが、実はそれは正解で、真相を知るものはぎくりとなっていた。

 そして──。

 

「よぉ! 伏黒! 釘崎! 元気してたかお前ら!」

 

「!?」

 

 トリコは空気を読まずに現れた。

 その様に一同驚愕。

 伏黒と釘崎は目の前で血を吹き出して大往生したトリコが生きていたことに衝撃を覚え、京都校の者も伝聞だけとはいえ死んだ人間が目の前にいるという異常事態に困惑した。

 さらに言うのなら、その格好もまた怪しさ満点だった。

 なにせ、その背には背丈の倍以上はある風呂敷を背負っていたのだから。

 その中に入っているのは呪物かはたまた呪具か。

 外からは判断できないが、どちらにせよとんでもない量である。

 トリコの生存をあらかじめ知っていたメンバーも、予想以上の奇行には驚きを隠せない。

 

「トリコー!? お前本当に何やってくれてんの!?」

 

「どういうことだ馬鹿目隠し!? トリコって言えば任務中に死んだって話じゃないのか!?」

 

「そうだぞ、悟! ちゃんと説明しろ!」

 

「しゃけ!」

 

 東京校の大部分のメンバーが説明を求め、五条に詰め寄った。

 場は混迷を極めつつあった。

 そして──。

 

「え、え、こっちに来ますよ!?」

 

「な、なんなのよあいつ……茶髪の1年から聞いてるより数倍はイカれてるんですけど!」

 

「あれが1年……? 嘘でしょ……? 怖ッ! 筋肉スゴッ!」

 

「西宮、真依、三輪……後ろに下がってろ」

 

 トリコは京都校の方へと歩み寄る。

 その無遠慮な歩みに女子は恐怖した。

 そんな不審者まるだしのトリコを警戒してか、和装の男と人型の傀儡が立ち塞がった。

 

「……ッ」

 

「でかいナ」

 

 トリコは2メートルを超えた巨漢だ。

 自然見上げる形になった彼らは、トリコの肉体に圧倒された。

 もし、この男が狼藉を働いたとしてどこまで対抗できるか、分からない。

 緊張が走った。

 トリコが口を開く。

 

「お前、GTロボか? 結構、カスタムしてんじゃないか!」

 

「……は?」 

 

 朗らかに放たれた台詞の意味が誰も分からなかった。

 かろうじて敵意がないであろうことは察せられたが、それでも、理解を超えた言動に誰しもが言葉を失った。

 唯一、話しかけられた張本人だけがかろうじて言葉を返す。

 

「なんの話ダ?」

 

「それGTロボだろ?」

 

「え、メカ丸ってハイテク(そういう奴)だったんですか? 量産機?」

 

「ちょっと、黙ってなさいよ、三輪! こっちに関心が向いたらどうするのよ?」

 

 メカ丸の意外な名称に反応する三輪を、真依がさえぎった。

 メカ丸はただの傀儡である。

 

「なんだ、それハ?」

 

「おいおい、自分で使ってるものの名前もしらねぇのか?

 そいつの名前は、グルメテレイグジスタンスロボット、略してGTロボだ。

 遠隔で操作が可能な高性能ロボットで火山や深海みたいな人間が足を踏み入れない場所の探査にも重宝されている代物さ。

 その高性能っぷりは操縦者本人の気迫や雰囲気も伝わってくるほど……。

 現にビンビンに感じてるぜ……お前の不健康っぷりもな」

 

「ナニ!?」

 

 突然の核心に迫った台詞にGTロボの操縦者は、遠隔操作する地で眉をひそめた。

 

呪力(食欲のエネルギー)がでかい……ってことは先天的にグルメ細胞の悪魔を宿した副作用と考えるのが妥当か」

 

「ならばなんダというんダ! 文句でもあるのカ?」

 

 深く心に突き刺さったのだろう。

 メカ丸はスピーカーから、刺々しい言葉を発した。

 

「ま、そう怒るな。もし、お前がその病気(・・)を治したいってなら呪霊(こいつ)を試してみるんだな。

 捧げるものが少しはマシになれば、グルメ細胞の悪魔も機嫌を直してくれるかもしれないだろ?」

 

「は?」

 

 トリコは、怒りを受け流して、背負っている呪霊(食材)の一部をメカ丸へと突きつけた。

 メカ丸の拒否を許さない、ありがた迷惑な行いである。

 なんにせよ、どこか間抜けにも見える、しかし、歪でありながらどこか真っ当にも見えないこともない気遣いを見せつけられた一同の肩から力が抜けていった。

 ただ1人、ドレッドヘアーの男が頷きながら一歩前へと出てきた。

 

「どうやら、かなり骨のある奴が出てきたようだな」

 

「東堂、あまり、こちらから絡むな……相手は一応は生徒だとは思うが、不審者だぞ」

 

「そう言うな……虎穴に入らんずば虎子を得ず、高田ちゃんもそう言っている」

 

「それは故事成語だろ」

 

 ここで伏黒を一度ボコボコにした男、東堂が参戦。

 加茂が止めるのも聞かないでトリコに恒例の質問をぶつけた。

 

「そんなことよりもだ……お前、どんな女がタイプだ?」

 

 トリコは即答する。

 

「食事を残さない女」

 

「その即答ぶりには好感が持てるな……だが、いささか残念だ。なんの捻りも性癖も感じられ──」

 

「そんなことより、お前これ食えよ! なんか知らんが、訳分からんこと言うほどに腹減ってるんだろう!」

 

「なに!? この味は!?」

 

 トリコは東堂の様子を空腹による錯乱とでも解釈したようだ。

 善意でその手に握る呪霊(食材)を東堂の口にへと放り込む。 

 東堂も東堂で、拒めばいいものを、その舌に流れ込む味に抗いがたいものを感じ、そのまま飲み込んだ。

 その味に深い感銘を受けたのだろうか。

 東堂は呆然と虚空を見上げ、その目からは一筋の涙が流れ落ちた。

 

「……そうだ、そうだったよな。兄さんは、あのときも、いつだって、今のように俺に飯を恵んでくれた……!」

 

「!?」

 

「あのとき……? 今の間違いじゃなくてか?」

 

 感涙に咽び泣く東堂の様子にめんどくさそうな顔をする京都勢。

 隠しもしないで、渋い顔をする彼らの態度から、東堂の普段の扱いがうかがい知れるというものである。

 

 そんな風に、トリコが京都勢と絡んでいる間にあらかたの説明は終わったのだろう。

 釘崎が背後から肩に手を乗せてくる。

 

「お、どうした、そんな怖い顔して?」

 

「……私らに言うべきことがあるだろ?」

 

 釘崎の声にはただならぬ迫力があった。

 今までにないほどに辛辣な声色である。

 トリコは答えた。

 

「おう、お前らの分もちゃんとあるから、一緒に喰おうぜ──」

 

「謝れ! この特級クラスのアホ!」

 

「うげぇ!」

 

 釘崎がその手に握っていた金槌をトリコの側頭部へと叩きつけた。

 そして──。

 

「なぜ、あの男が生きておるんだ? 本当に……いや、本当に、どういうことだ?」

 

 そんなカオスの裏で、京都からやってきた京都校の学長、楽巌寺が冷や汗を垂らして真面目に動揺していた。

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

 

 

「ったく本当に何やってんのよ、アンタは!」

 

「俺が何やったってんだよ?」

 

「忌庫に侵入しといて何言ってんのよ!?」

 

「おいおい、それは誤解だ。

 俺はただ忌庫(グルメバンク)の外から職員を丸め込んで、俺の資産(食材)を返してもらっただけだぜ。

 一歩たりとも侵入しちゃいないし、反撃もしていないんだ。

 俺は何一つ悪いことはしてないんだ……そうだな、あえて言うなら、俺の生存を隠していた五条先生が悪い。

 そのせいで話がしづらくて敵わんかった」

 

「こ……こいつ……ッ! 言……言わせておけば……ッ!」

 

 死んだ人間が生きていた。

 それだけでもサプライズだというのに、忌庫への侵入などという騒動も加えてくれやがった、トリコに対して、釘崎はどこまでも刺々しい。

 しかし、トリコには気にした素振りなどない。

 出てくる理屈も屁理屈ではあるが、ヤバい処分を受けないギリギリのラインを見極める狡猾さはあるらしい。

 現にトリコへの制裁は五条からの本気ビンタ1発で済んでいる。

 そして──。

 

「えぇぇぇえええ! なんでぇ!」

 

「お前が……! しっかり見張らないからこうなった!

 見ろ、悟が目を離した隙にこんなことになった!」

 

「痛ててて! トリコ、覚えてろよぉ!」

 

 五条は五条で監督不行き届けとして、夜蛾から制裁を喰らっていた。

 

 ともかく、釘崎が納得できるはずがない。

 顔を真っ赤にして、釘崎はいまだに怒りが収まるところを知らなかった。

 

「まあまあ、釘崎が怒るのも分かるが、今はひとまず我慢しようや。

 一応、トリコが生きてたことを隠してたのは悟主導だしな」

 

 しかし、今はチームミーティング。

 その貴重な時間を潰すわけにもいかない。

 東京校の2年生であるパンダが、釘崎をなだめた。

 トリコはパンダを一瞥すると目の色を変えた。

 

「ウッヒョおおお! 般若パンダじゃん! うまそぉおおお!」

 

「ヒィッ!?」

 

「は?」

 

「おかか?」

 

 突如、よだれを垂らしたトリコの発言に空気が凍った。

 パンダ以外の2年生、呪具使いの禪院真希と呪言師・狗巻棘も予想を超えたトリコの反応に呆然としている。

 全員が『本気かこいつ!?』と戸惑い、パンダは当然怯えた。

 トリコはそんな空気も応えていないようで、ケロリとした顔で言った。

 

「ははは! 冗談だよ! いくら俺でも先輩を喰うほど見境がないわけじゃない。

 それより、チキチキ呪霊討伐猛レース(チキチキグルメレース)の作戦はどうする?

 俺と順平が加わったせいで、プランがめちゃくちゃだと思うが」

 

「話の腰を折ってるのはテメェだろうが!」

 

「いたぁ!」

 

 釘崎が金槌を本気でトリコに叩きつけた。

 どうやら、ツッコミという状況限定で、釘崎はトリコにダメージを与えられるようになっている模様。

 それは後を引かないが確かな痛みはあるようで、トリコも痛そうに呻いた。

 初対面の2年生は『やべぇ……こいつ本物のイカれだ』とドン引きするも、時間は限られている。

 気を取り直して、作戦会議を再開した。

 今度は絶対に話の腰は折らせないとばかりに、釘崎はいつでもツッコミを入れられる体勢だ。

 

「ひとまず、新規で入ってきた2人の能力を知らんことには作戦も練り直せない。

 順平は何ができるんだ?」

 

「……ク、クラゲの式神を操れます。こんなやつです」

 

「ほぉ、式神使いか……結構、でかいな」

 

 ようやく話す機会を得た順平は澱月を披露。

 触手を打ち込むことによる遠距離攻撃や毒の生成、そして、術者の身を守ることができることなどを説明した。

 

「お、じゃあ次は俺の番か」

 

 そうして、トリコは説明を始めた。

 その戦闘能力はさることながら、探査能力は驚きを持って受けとめられた。

 曰く、猟犬以上の嗅覚。

 さらに獲物を見つけることは得意なので、2級呪霊を見つけるのは造作もないとのこと。

 流石に盛っているのではないかと2年生たちは疑うが、1年生は全員がトリコの嗅覚を知っている。

 特に、虎杖と順平は先の事件でその凄まじさをこれでもかと見せつけられたため、疑いはなかった。

 

「なら、基本的には作戦に変更はないな。トリコ、お前は2級呪霊を祓え。

 東堂は突っかかってくるだろうが無視しろ……いいな?」

 

「任せときな、呪霊(獲物)を追跡することにかけちゃあ、俺は五条先生にも負けんから。あー美味!」

 

 もとより、トリコの興味の比重は戦いよりも食によっている。

 呪具使い・真希の念押しに、トリコはやけにすんなりと頷いた。

 持ち出してきた呪物もとい呪霊(食材)を取り出してそれにむしゃぶりつく。

 

「いやー、それにしても、先輩らも面白いメンバーだよな」

 

「お! 俺らの凄さわかっちゃう?」

 

「ああ、新種の呪骸(チェインアニマル)に、声で銀河を支配していた術式(グルメ細胞の悪魔)をその身に宿した呪言師(美食屋)

 呪力(食欲のエネルギー)を代償に(グルメ細胞の悪魔)から腕力を授かった呪具使い(グルメ騎士)

 どいつもこいつも曲者揃いだ」

 

「……それって本当に俺らのことで合ってる? 別人じゃなくて?」

 

「……しゃけ? おかか?」

 

「いや、曲者のお前に曲者って言われたくねーんだよ。て言うかそれよりもトリコぉ? それが噂の食べられる呪霊ってやつか?」

 

「ああ、呪霊(グルメ食材)の一種、スーパーマンゴーだ」

 

「やけに、旨そうな見た目と匂いだな……」

 

 意味不明な単語の羅列を叩き込まれてパンダと狗巻は混乱。

 一方、真希の興味はトリコの喰うものへと移っている。

 マンゴーのようなそれ、曰く、スーパーマンゴーは芳醇な香りと輝きを放つ。

 高級フルーツとして通用しそうな、呪霊であることが嘘としか思えない果実に一同は思わず生唾を飲んだ。

 

「おう、トリコ。俺にも一つくれよ」

 

「僕も少し貰おっかな」

 

「小僧! 俺を忘れるな!」

 

「はいはい」

 

 虎杖と順平はマンゴーを受け取り、ついでに、宿儺は虎杖の身体から口を生やして、そのままかぶりついた。

 その幸せそうな顔ときたら、まるで天にも昇るかのようだ。

 しかし、いくら美味そうでも呪霊は呪霊。

 腹が減っていたら釣られていたかもしれないが、今はあいにくそこまで空きっ腹でもない。

 それにこの展開は異常である。

 

 何故、こうも呪霊が美味そうになっているのか?

 いくら呪霊が美味そうで、喰うことに興味があったとしても、宿儺(呪いの王)はノリが良すぎないか?

 そもそも、編入して早々にこの展開に順応している順平って何者?

 

 特に2年生は初対面である。

 受けた衝撃は大きく、唖然とした。

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 一方、京都校。

 彼らもまた東京校から充てがわれた部屋にてミーティングを行なっていたのであるが、澱んだ空気が滞留しているかように息苦しい雰囲気であった。

 邪な、あるいは、薄暗い謀でも企んでいる空気感である。

 きっかけは開始早々、楽巌寺学長の一言だった。

 

「宿儺の器……虎杖悠仁を殺せ」

 

 宿儺の器暗殺指令。

 宿儺が身体の主導権を握れば、大惨事は避けられない。

 楽巌寺は、いや、呪術界の上層部は等しく、虎杖を危険視していた。

 そして──。

 

「ターゲットはもう1人おる。トリコじゃ」

 

 京都校の生徒たちに動揺が走った。

 虎杖を殺せという指令はまだわかる。

 彼には宿儺の器という背景がある。

 感覚が非術師に近い三輪も、殺しは嫌で嫌で仕方がないが、その点は説明するまでもなく理解していた。

 しかし、トリコにはそのようなものは一切ない。

 呪霊を喰うというが、それは術式によるもの。

 忌避感が拭えなくとも、それだけでは殺す理由たりえない。

 そんな生徒たちの内心を察してか、楽巌寺は続けた。

 

「確かにトリコが呪霊を喰うのは術式によるもの。それ自体は問題のない行為だ。

 しかし、奴は一度死に生き返っておる、それもおそらく宿儺の手によって」

 

「宿儺となんらかの契約を交わしたかもしれない……と?」

 

「それは懸念の1つでもある……じゃが、問題はそんなことではない。

 加茂よ、敵対術師にとどめを刺すときに気をつけることはなんだ?」

 

「死後、呪いに転じるのを防ぐため、呪力でとどめを刺します」

 

「その通りじゃ……では、もう1つ質問する。

 呪物を喰い、それを取り込めずに死亡した場合、その死因はなんだ?」

 

「それは……呪物による呪いで死んだということになるので、呪力でとどめを刺されたのと同義になるかと……あ」

 

 和装の糸目男子、加茂。

 彼は楽巌寺と問答している間に気がついた。

 呪いでとどめを刺されれば、生き返ることはあり得ない。

 ならば、呪術的にはどう考えても(・・・・・・・・・・・)、トリコが生きてここにいることはありえないことなのだ。

 なぜなら、トリコの死因は──。

 

「気付いたようだな加茂よ。

 一応、聞いていないものもおるかもしれんから話しておくが、トリコの死因は宿儺の指を喰ったこと。

 それが、生きて、ここにいることの異常性はもはや語る必要はなかろう」

 

 そこでようやく一同は楽巌寺の言わんとすることを理解した。

 呪術で殺されたものは蘇生できない、という呪術の法則。

 それを何の背景もない、一介の狂人が覆したのだ。

 呪術に長く携わり熟知している楽巌寺が、そして、上層部が危機感を抱かないわけがない。

 強さはともかくとして、呪いの王である宿儺や、現代最強の五条さえも、異常性という一点のみにおいてはトリコには及ばない。

 それは逆に言えば、彼ら以上の脅威と見做されるには十分すぎる下地でもあった。

 

「どうします? 虎杖くんのほうはまだしもトリコさんは絶対に強いですよね。

 正直、私の刀で傷をひとつでもつけられる気がしないんですが……」

 

 指令を受けたからにはやるしかない。

 だが、三輪は弱気な台詞を吐いた。

 トリコは身長2メートル超えの大男だ。

 筋肉も発達している。

 そんな大男が呪力を纏って殴ってきたらそれだけでひとたまりもなさそうだ。

 それに──。

 

「東堂先輩の力を借りるのは無理そうというか、それだけじゃすまなさそうですし。

 学長もどっか行っちゃったし」

 

 京都校にもトリコと対抗できるかもしれない男がいた。

 ドレッドヘアー丁髷のようにまとめた筋骨隆々の男。

 東堂である。

 しかし、ミーティングの途中だというのに、東堂はこの部屋にはいない。

 学長の指令を聞いた直後に、襖を蹴破り出ていったのだ。

 問題はそのときの東堂の様子だ。

 そのときの台詞がこれである。

 

「一体、兄さんがどれだけ人間界の食の発展に貢献してきたと思っている?

 一体、どれほど大勢の人間が彼の施しによって救われたと思っている?

 それをグルメ細胞の悪魔が暴走するかも知れないからってだけで切り捨てるのか!?

 高専(IGO)の掲げる理想、崇高な理念は一体どこへ行ってしまったというんだ!?

 やるなら貴様らだけで勝手にやれ!?

 俺は絶対に手を貸さんからな!!」

 

 異常だった。

 完全にトリコの側に立ってものを言っている。

 これでは協力を得られないどころの話ではない。

 

「……確かにあの様子じゃ最悪、東堂が俺たちの敵に回る可能性もあるナ」

 

 メカ丸の口から出た最悪の想像に一同が顔を歪める。

 ただでさえ、標的は未知数なのに、本来味方であるはずの東堂が敵に回ってしまえば指令を果たすなどできるはずもない。

 暗礁に乗り上げた計画。

 蔓延し始めた脱力感を断ち切るように加茂が言った。

 

「高専に所属する呪術師の中に、トリコのような狂人がいること自体が由々しき事態。

 加茂家嫡流として呪術師の品格が貶められてしまうことは許せない。

 一刻も早く始末しなければ。

 全員でトリコに襲撃をかける……状況を見て判断するしかないが、虎杖はそのあとだ」

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 そして、チキチキ呪霊討伐猛レースが始まる直前。

 準備を整えていざ戦場に赴かんとする東京校の生徒たち。

 その中で一際目立つものがいた。

 

「今日はいったいどんな味に出会えるんだろうなー。楽しみだぜ」

 

 そいつの名はトリコ。

 呪術師と美食屋を同一視し、あらゆる呪霊を食の対象とみなす男である。

 そんな彼にとっては、この交流会はビュッフェの形態を変えたものにしか過ぎないのであった。

 

「相変わらずね……このイカれっぷりは」

 

 他のものが苦笑するか、ドン引きするかしている。

 そんな中、釘崎だけが舌打ちした。

 不機嫌である。

 

「釘崎、どうした? これからチキチキ呪霊討伐猛レース(チキチキグルメレース)だってのに浮かない顔してよぉ」

 

 トリコは純朴な表情で疑問を口にしてきた。

 釘崎はそんなトリコを見ていると、なんだか怒っていることさえも馬鹿らしくなってきた。

 しかし、それでも言い返さないことには気が済まない。

 力の抜けた声で、釘崎は答えたのであった。

 

「……うっさいわね。普通、交流会でそんなウキウキしないっての」

 

「まあ、理由はなんとなく想像つくぜ」

 

「は?」

 

「お前、呪霊(グルメ食材)を毛嫌いしてるもんな。

 流石に気づいてきたぜ」

 

「そう……もっと早く察して欲しかったわ」

 

 あまりにも今さらすぎるトリコの言葉である。

 それを初対面のときに気づいてくれればどれだけ良かったことか。

 トリコはさらに続けた。

 

呪霊(グルメ食材)は歴史の比較的に浅い部類だ。

 新しいものを受け入れられないってのは、まあ、理解できるぜ」

 

「ひょっとして、遺伝子組み換え食品が嫌とか、食品衛生がどうのこうのって次元の話してる?」

 

 前言撤回。

 トリコはやはりトリコだ。

 呪霊が食の選択肢の一つとして世間一般に浸透していると確信していなければ、到底出てこない台詞である。

 

「だからさ、今日は楽しみにしていてくれよ。

 まだ、誰も見たこと無いようなうまい呪霊(もん)を猟るからさ……一緒に食べようぜ?」

 

「はぁ……」

 

 この上なく不快な台詞だった。

 イカれている自覚すらないくせに、ぶっちぎりでイカれている。

 この男には何を言っても無駄だと思った。

 

「あー、はいはい。どうせ、無駄だろうけど」

 

「ははは、そう言っていられるのも今のうちさ。思わずよだれを垂らすほどの呪霊(もん)を持ってきてやるからな」

 

 もう、時間が迫っている。

 そろそろ、出発しなければならないのであった。

 戦いの舞台へと通じる道の門に一同は歩を進める。

 気合を入れるために、釘崎が口火を切った。

 

「真依さんには悪いけど圧勝よ! 真希さんのためにも!」

 

「そういうのやめろ……っていうか、真依のどこにそんな気に入る要素があった?」

 

「明太子!」

 

「勝とう……真希のためにも!」

 

 家の都合で過小評価されている真希。

 そんな真希のために勝つぞ、と釘崎、狗巻、パンダが意気込み、そのたびに真希がいやそうな顔をする。

 順平はそれを微笑ましそうに眺めている。

 良い雰囲気だ。

 今なら、誰が相手でも負ける気がしなかった。

 

「そんじゃあ、まあ、勝つぞ──」

 

「野郎どもッ! 腹いっぱい食おうぜッ!」

 

「だから! バイキングじゃねえのよ!」

 

「……お前、さっきまであんだけ食ってたろ……まだ足りないとかイカれすぎんだろ」

 

「本当に今年はとんでもないやつが入ってきたな。憂太以来か?」

 

「それ去年だろ。毎年、とんでもねぇやつ入ってくるじゃん」

 

「しゃけ、おかか」

 

「あはは……」

 

「……」

 

 釘崎がツッコミ、2年勢が真顔でドン引き、順平がそれらを眺めて控えめに笑った。

 その裏で、せっかくの音頭をイカれた台詞で遮られた虎杖はしょんぼりとした。

 伏黒はそれらの流れをドライに受け流した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。