お前ら人間じゃねぇ!   作:四季織

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 今更のヒロアカ二次創作。

 設定やら性格やらつたない部分があったら申し訳ありません。


プロローグ

 簡潔に行こう。

 

 転生した。

 

 しかも流行りの? TS転生だ。

 人生に絶望するほど悲惨でもなく、しかし人生を楽しんでいるというほど恵まれていたわけではなかった俺は一切のためらいなくその事実を受け入れることができた。

 主にPCの中にやり残したものがないでもないが、人生再出発の対価と思えば安いものだ。

 転生特典とでもいうのだろうか、幸いなことに容姿にも恵まれていたのもその一助となっているだろう。

 白髪に黒目。細く長い手足。うーむ、テンプレ美少女。

 まぁ身長と胸部、その他女性的魅力足りえる部分の発育が著しく悪いが別に男からモテたいという意識が芽生えることは今のところないので別段困っていない。

 第二次成長期を迎えずに成長を終えてしまったのかと今世の両親から心配されるほどにちんちくりんな体だが、女性受けがいいので精神的に男性である身からすれば役得といってもいい。

 男性的な欲求も同時にないので言うほどではないが。

 幼少期はぼんやりとした、まるで夢の中にいるような感覚だった。

 覚醒するまでの期間に女性の体である事実を精神が受け入れたのだろうか。

 

 と、語りはしたが正直女性であるという事実はこの世界がどこであるかを認識したと同時にあまり関係なくなった。

 4歳の誕生日、今世の両親から出たセリフ。

 

(ひじり)ももう4歳、早いものだ。そろそろ個性が発現する年か。どんなものになるか楽しみだなぁ」

 

 厳密にいえば夢の中で第二の人生を歩んでいるような状態から覚醒したのはこの時だっただろう。

 個性。

 言葉通りならば他の人と違う人特有の性質・性格・特性を指す言葉だ。

 だがどうだろう。どう考えても父のセリフはそういった意味の言葉として用いられたようには聞こえなかった。

 

「こせい……?」

 

 たずねるように発したそのセリフは、体が幼いせいか精神が成人でもしたっ足らずになった。

 声も悪くない、今世の恵まれ具合はなかなかどうして素晴らしいようだ。

 

「ええ、聖はママ似だから個性もママに似るかしらね」

 

「おいおい個性までママに似てしまったらパパ泣いちゃうよ。聖、個性はパパのほうが強いぞ。【屈強】! けがも病気も心配なしな便利な個性だぞ!」

 

「聖は女の子なのよ? そんな暑苦しい個性よりママのほうがいいわ。【飛行】、聖は可愛いから妖精みたいになるはずよ」

 

 そんなことを考えているだろうとは思いもよらないであろう両親が俺を見つめながら盛り上がる。

 ラブラブだな、妬ましい。

 子を持つ親がいまだに厨二病か。

 そんなことも思うよりも先、覚醒した精神から前世の記憶が引っ張り出された。

 

 僕のヒーローアカデミア。

 

 超常の力が個性として認識されるほどに世界に広まった世界で、ヒーローを目指す少年の成長を描くコミック作品。

 その事実を認識した瞬間、全身がびりびりと震えた。

 武者震い、そんなものを生まれ変わって幼女の体で初めて体験するとは思わなかった。

 どうりで白い髪にツッコミが入らないはずだ。

 ヒーロー。

 ヒーローだ。

 前世はお世辞にも目立つ人間ではなかった。

 運にも才能にも、何より性格的に多くの他者から認められる努力というものができなかった。

 だがこの世界ならば。

 転生し恵まれた容姿を得ている今、個性も恵まれたものであることは確実だろう。

 転生ってそういうものだろう?

 

 かくして俺は個性を得た。

 

 個性【聖剣】。

 

 圧倒的な破壊も、圧倒的な救済も、万能感を得るには十分すぎる個性。

 綿密に読んだわけではないあの作品の登場人物を一人一人思い浮かべて、そのどれをも圧倒できると確信できる力。

 前世以上に生まれと才能が人生を決定づけるこの世界で、類まれなる力を得たという事実。

 笑いが止まらない。

 齢4つの少女が浮かべるものとしては異様すぎるその様子に、困惑を通り越し恐怖すら浮かべる両親を振り切り空へと翔け上がる。

 雲すら眼下に収め、改めて圧倒的な力を得たのだと再認識し来る将来の自分を夢想する。

 ヴィランになるつもりなど毛頭ない。

 ヒーローになろう。

 英雄に。

 オールフォーワン、死柄木、脳無、ハイエンド、ヤクザに10万を超える異能解放軍。

 英雄譚を飾るに十分な敵はたくさんいる。

 世界として存在する時点でより様々な敵や事件があることだろう。

 そのすべてを屠ってやる。

 蹂躙し、討滅し、消し潰す。

 そしてヒーローになる。

 

「あぁ~あ…………」

 

 月を見上げ、それを両断するように剣を掲げる。

 月の光ではない明らかに自ら青く発光している剣にうつる少女はその整った顔を醜くゆがめて笑っていた。

 ああ、美少女は得だな。こんな汚いこと考え汚く笑っても絵になる。

 

蒼軌(あおき)(ひじり)だ。俺は、蒼軌聖。この体、この世界、この力で生きていこう」

 

 そして再び月を見上げながら、その月を切り落とさんばかりに力を振りぬいて()は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんてこと、思っていた時期が私にもありました」

 

 高いビルの上。

 一見余裕をもって眼下を見下ろしている少女が一人。

 小学生にすら間違われるが今年で16になる少女は、その幼さに不釣り合いな両刃の美しい剣をだらりと下げながら、困惑し唖然とだらしなくその表情をゆがめていた。

 目の前の光景に、そのあまりにも想定と違う現実に。

 

 一人。

 緑色系の縮毛と顔のそばかす、人当たりのよさそうな少年。

 しかしその体は異様なまでに引き締まっていた。

 障害として立ちはだかるロボットを目にもとまらぬ速さで殴り、蹴り、粉砕し、蹴散らしていく。

 単純な身体能力だけで動き回っているのだろうか、一挙手一投足に暴力的な暴風が発生しあたりの人影が木の葉のように舞っている姿は何の冗談か。

 さらにはその吹き飛んだ人影を瞬時に回収し安全圏へと連れていく作業も同時並行しているのだからもはやギャグの次元である。

 心なしかロボットも逃げ腰のように感じられた。

 一筋の希望、ビルをも飲み込もうかという巨大なロボットの出現。

 吹き飛ばされていた人影たちがいい加減にしてくれと逃げ出す。

 しかし少年はその巨躯を前に一切ひるむ様子を見せず平然ととびかかると、それを一殴り。

 災害すら想起させるその巨大な図体が空を舞い、ビルを粉砕しながらすっ飛んでいく光景は今日日映画ですら見られないド派手で圧倒的な光景だ。

 文字通り圧倒されたのだろう惚けて逃げ遅れた人影らを回収し、ぎこちなく笑う彼はなるほどヒーローとして持つべきものを持っているのだろう。   

 助けられた少年少女らが、その少年へと羨望の瞳を向けていることに。しかし彼は気が付かず、再度その力を前にするにはあまりに頼りないロボットらに襲い掛かっていた。

 

 一人。

 ショートボブにした茶髪、快活な性格を想起させる麗らかな雰囲気の少女。

 その彼女の周囲にはえげつないひしゃげ方をしたロボットが所狭しと転がっていた。

 ふわりふわりと不思議な形で空を舞う少女がひたりひたりとロボットたちに、まるでハイタッチをするかのように軽く手を触れる。

 何をされたのか気が付くこともできず、空を舞う少女を追おうとするロボットたち。

 メキャリ。

 と、金属が無理やり変形させられる嫌な音が響きロボットたちはスクラップと化す。

 ふぅ、とかわいらしくため息をつく彼女にうわぁと言いたげな周囲の雰囲気は伝わっていないのだろうか。

 一応それなりの状況判断能力を持つらしいロボットたちは近距離戦は不可能と悟ったのか遠距離兵装を持ち出した。

 ミサイルである。

 生身の人間相手に本気か? と驚愕したのもつかの間。

 数十を超える過剰な兵器であったはずのそれは、少女へと一矢報いる前に見えない何かに押しつぶされたかのように圧壊し、墜落し、またもやスクラップの山の仲間入りを果たした。

 ロボットは的確に状況を判断した。

 無理だと。

 振り返り撤退を選んだロボットはしかし。

 水平に落ちてきた(・・・・・・・・)少女と見事ハイタッチをかわしたのだった。

 

 一人。

 眼鏡をかけた七三分け、見るからに真面目を地で行く雰囲気の少年。

 その姿をとらえられた人間はいったいこの場に何人いただろうか。

 バン、と何かが破裂する音。

 それが音速の壁を突き破った音だと理解できたのはビルの上に立つ少女だけだっただろう。

 地を駆け回る戦闘機を思わせる少年は、そのスピードだけであればまた一機巨大ロボを粉砕した少年を凌駕するであろうその勢いそのままに辻斬りのごとくロボットたちを蹴り壊していく。

 勢いのあまり蹴っているのかソニックブームで粉砕しているのかいまいち判断に困るところである。

 大地はおろか垂直なビルの壁すら駆け回り、駆けあがり、跳びまわる。

 器用なのか能力なのか、周囲への影響はあまりないのは彼の実力と努力を実感させた。

 そんな彼が唐突に止まるときがある。

 申し訳ない。

 突然目の前に現れた彼にそういわれた人数はすでに15を超える。

 すべてが確認できたわけではなかったが、どうやら走行の過程で制御しきれず飛ばした破片や突風の被害を受けた相手に律義に謝罪しているようだった。

 動きを認識できていない相手からしてみれば何のことやらである。

 

 

 そんな、文字どおり無双といっていい活躍をする彼らを見下ろしながら少女は頭を抱える。

 彼らの顔には見覚えがあった。

 知り合いというわけではない。

 しかし知り合いになるのだと、友人になるのだと昔から知っていた人物たちだった。

 

 緑谷 出久。

 

 麗日 お茶子。

 

 飯田 天哉。

 

 ()が知る物語において最も明確に記憶している登場人物たちだ。

 それぞれの個性すら覚えている。

 OFA、 無重力(ゼログラビティ)、エンジン。

 だが彼らは、記憶にある彼らとあまりにもちがっていた。

 確かに異物の介入によって彼らの在り方が変わるのはあり得る。そういう世界もあるだろうと、彼だからこそ明確に考えられた。

 ――いや俺何もしてねぇし。

 思わず素が出たことも気が付かず、少女は独り言ちる。

 そうしている間にも彼ら彼女らは蹂躙を続けている。

 爆音が、轟音が、異音が響くたび、目の前の光景が現実であことを明確に認識させられる。

 言いたいことはたくさんあった。

 聞きたいこともたくさんあった。

 だが未だ彼らとの接点を持たない今の彼女が口にできる言葉は多くなかった。

 すなわち。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前ら人間じゃねぇ!」

 




読んでくださりありがとうございました。

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