お前ら人間じゃねぇ!   作:四季織

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あけましておめでとうございます

お正月はいかがお過ごしでしょうか

私はソシャゲのイベントで暇をつぶす日々です

パニグレはいいぞ(唐突


第三話

『それでは蒼軌少女! 君に学び舎で会える日を楽しみにしているよ!』

 

 プツンと余韻もなく途切れた映像。

 一人きりの部屋の中、繰り返し再生していたそれを放り捨てベットに寝転がる。

 試験から二週間と少し、ようやく送られてきた雄英からの通知。

 その中に封入されていたのはNo.1ヒーローたるオールマイト直々の合格メッセージだった。

 

『おめでとう聖! お前はすごい子だと常々思っていたが、まさか雄英に合格するとはな。お父さんも鼻が高いぞ』

 

『うんうん、あなたは自慢の娘よ聖。本当におめでとう!』

 

『……ありがとう! お父さん、お母さん』

 

 いい年こいた大人が無邪気のように声を上げ、母に至ってはこれでもかといわんばかりに抱きしめてくる。

 ぎりぎりで不満げな声を出さずに済んだ俺をしつこいくらいに称賛し、普段はまずいかない豪華な店での食事にも行き盛大にお祝いしてもらった。中学の友人に連絡すれば、鳴りやまない通知に目を回した。

 

 幸せだったはずのその瞬間を思い返しながら、しかし俺の顔はしかめっ面から変わらない。

 

 目を見張るような倍率である雄英の狭き門。そのごくごくわずかな席を得たという事実は、実際のところそれほど俺の心を動かすものではなかった。

 試験など受かって当然どころか障害の一つとしてすら考えていたものではない。

 ただのアピールショーでしかなかったはずなのだ。

 

 10分という短い時間で廃墟と化した風景。

 

 圧倒的な力の差を見せつけられ何もできないまま終わり、茫然自失状態の膨大な数の受験生たち。

 

 俺が圧倒的で派手な力を示し作るはずだったその光景は、しかしある意味然るべき姿であるといえるこの世界の主人公、緑谷出久によって作り上げられたのだ。

 個性によって冷静さを欠くことがなかったにもかかわらず、俺は未だにあの光景が夢か何かだったのではないかと考えてしまう。

 試験の後、称賛するふりをして緑谷出久含めほか2名の誰かに接触するつもりだったのだが、試験会場のあまりの様にそんな雰囲気でもなく、結局交流を持つことはかなわなかった。

 だからもしかしたら。

 実はあの3人は原作の登場人物の3人ではなく、時間がずれていて実は彼らの次の世代であり、俺は原作キャラたちの子供の時間軸にきていたりするのではないか。

 オールマイトが現役である時点でありえない、そんな考えまで浮かんでいた。

 親に祝われ、友に祝われ、学校で表彰までされて。

 それでもなお一時として心の靄が晴れる時間はなかった。

 今世は不自由なく生きてきたせいだろう、想定外のことが起きるだけでここまで不快になってしまうとは。

 

「俺が最強じゃ、ないのか」

 

 原作では実技試験上位者の名前はオールマイトがレスキューポイントの存在と共に教えてくれていたはずだが、届いた映像や資料の中にそういった情報はなかった。

 だから厳密には1番かそうでないかはわからないが、まぁあのバカげた破壊を上回ったとは思えない。

 ビルをぶち壊し街を破壊する行為はヒーローに求められる姿ではないだろうが、雄英の方針は火力重視、細かいことは気にしない。

 さらには飯田天哉。彼のせいであまり多く倒せなかったというのもある。

 レスキューはそれなりに稼げただろうが、甘く見積もっても1位を、それも圧倒的なポイントを稼げたとはいいがたい。

 

「……剣よ」

 

 呼びかければ、瞬きの間に剣が目の前に現れる。

 突き刺さっていながら床を傷つけてはないそれを引き抜き、側面を額に当てる。

 光が染み渡り精神が静かになる。

 まるで依存だ、わずかな精神不和でこうも個性に頼っていては話にならない。

 静かな思考の波の中、浮かび上がる一つの疑問。

 

 彼らだけなのだろうか。

 

 ほかの受験生はああではなかった。見るからに未熟で脆弱なその他大勢には圧倒できただろう。

 強大な力を持っていたのは原作キャラクターであるあの三人だけだ。

 だが、自分のいた会場すべてはもちろんほかの会場まで目を広げられたわけではないので正確にはわからない。

 しかしその共通点を持った彼らが総じて大きな力を持っていたのだ、ほかの面子もそうである可能性は高い。

 

「高校生活は、今までのようにはいかないかもしれないな……」

 

 華々しいデビューを夢想していた二回目の青春への不安は、さすがの聖剣も消してくれることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わかっちゃいたけどドアがでかい」

 

 思うことはたくさんあれど、時間は進む。

 あっという間に迎えた入学当日。

 でかすぎる1-Aの文字が刻まれた扉を前にお約束のリアクションを取っておく。

 身長139にはイヤーきついです。首が痛い。見上げる必要はないんだが。

 とりあえず確認すべきはクラスメイトの顔だ。

 見かけた3人だけであれだけパワーバランスが違うのだ、下手すればクラスメイトがすでに違う可能性がある。そもそも俺が受かった時点で誰かしらの脱落が決定している。

 可能性として高いのは峰田実か青山優雅あたりか、峰田実のほうは女性の身である故の願望もあるが……。

 さすがにそのあたりはどうにもならない、幸いヒーローを志す者ばかりのクラス、仲良くなることはむずかしくないだろう。

 意を決し、その巨大なドアへと手を伸ばそうと――

 

 

「こんなところで何してるんだ、あんた。学校見学に来た小学生?」

 

 

 けだるげな低い声。

 想定したどんな声とも違うその声に、とっさに振り向く。

 この世界では割と当たり前な奇抜な髪色である紫色の立った髪。目元には濃い隈と陰のある表情。

 おいおい……いきなりイレギュラーか?

 

「小学生とは失礼な。こう見えても私はこの雄英高校ヒーロー科に合格したエリートなのですよ?」

 

「はっ、奇遇だな。俺もなんだ」

 

「それはそれは。本当に奇遇ですね。もしかして目的地も同じだったりするんじゃないですか?」

 

「だろうな。だからさっさと入ってくれると嬉しんだが」

 

 まじかよ、普通科じゃなくてヒーロー科の教室(ここ)にか?

 目の前に立つその男子生徒、自己紹介をせずともその名前は知っている。

 心操人使。

 声をかけ、答えさせるだけで相手を操る洗脳とかいうぶっ飛んだ個性を持ったキャラクター。

 様々な制限がありながら、その凶悪さは初見だったり突発的な状況下であれば無類の強さを誇る個性を持つ彼はしかし、火力重視な個性ばかりが有利な実技試験において芳しい成績を収められず普通科に通う生徒であるはずだ。

 そんな彼がヒーロー科に? あるとは思っていたがいきなりのイレギュラーに早くも剣を取り出したい衝動に駆られる。

 

「すいません、どうも緊張しちゃって。ついにここまで来たんだなぁって」

 

「そうかい」

 

「同じクラスということはこれから3年間一緒ですね。私は蒼軌聖といいます、よろしくお願いします」

 

「……心操人使だ。よろしく。とりあえず教室に入れてくれないか」

 

 あ、不愛想すぎて会話が続かないタイプだこれ。

 いや出入り口でだらだらするのはよくないけども。

 無言で扉を開けば、彼は早々に教室へと入っていった。

 なんでこう、情報収集の機会に恵まれないのか。容姿パワーが効かないのも地味にショックだ。

 まぁ1-Aである以上個性について知る機会はすぐに来る。後回しにしても問題ないだろう。

 

 

「あー! 女子! ようやく女の子来てくれた―!」

 

 

 ファーストコンタクトに失敗しとぼとぼと教室に入る俺に、一転高い大声がかかる。

 その声の主を確認し、俺はようやく安堵が心に宿るのを感じた。

 狭い教室の中、机の間を器用にすり抜けながら声の主は俺の手を取る。

 

「よかったー、全然女の子来ないからもしかしたら女子いないんじゃないかって不安だったんだー。白い髪! 小さい! 可愛い! 私芦戸三奈! 名前なんて言うの!?」

 

「おおう、怒涛……。私は蒼軌聖です、よろしくお願いします。私も女の子がいてくれてうれしいです」

 

「わっ、声もかわいい! ひじりちゃん? でいいよね、よろしくね! 私も三奈でいいよ!」

 

「はい、三奈ちゃん!」

 

 三奈ちゃんって言われちゃったー、とハイテンションに騒ぐ女子。明るいピンクの髪にピンクの肌、色が反転した目に2本の黄色い触角。見たまま、聞いたまま、芦戸三奈その人だ。

 ようやく違和感なく、知っている通りのキャラクターとの接触に思わずこちらまでテンションが高くなる。

 ああ、初対面なのに知っている通りというだけでこの安心感……。彼女とは仲良くやっていけそうだ。

 

「おー、よかったな芦戸。女子仲間出来て」

 

「本当、よかったよー。一安心! あっ、聖ちゃん、紹介するね。来て来て!」

 

 遠くからかかった声に、私の手を取ったままだった三奈がぐいぐいと一人の少年のもとへと俺を連れていく。

 朱色に近い赤色の瞳と逆立った真っ赤な髪。これまた見覚えのある容姿に安堵の感情が一層広がった。

 

「聖ちゃん、こちら高校デビューマンこと切島鋭児郎だよ!」

 

「おうっ、俺は切島鋭児郎。よろしくな、蒼軌! ……って、余計なこと言うなよ芦戸!」

 

「よろしくお願いします、切島君。デビューマンですか、一体どのような?」

 

「たとえばねー、この角っぽい髪形とか~」

 

「やめろ芦戸!」

 

 切島鋭児郎、熱血漢の明るいクラスのムードメーカーになる予定のキャラクターだ。

 立て続けに現れる想像していた通りの姿性格で仮想の人物から級友になった彼女らに、久々に心からの笑顔がこぼれる。

 あと切芦カップリングいいよね、俺は好きだよ。

 

 そのまま彼女らと他愛のない会話を続けつつ、周囲にも気を配ることは忘れない。

 数人しかいなかった教室には、そう時間もかからず続々と生徒が集まってきた。

 さすがの三奈も来る人来る人すべてに声をかけることはしなかったので軽い挨拶以外は会話の輪に人が増えることはなかったが、特徴の権化たる1-Aの面子、一目見れば見知った人物かそうでないかくらいはすぐに分かった。

 続々とそろっていくクラスメイト。

 その中にはすでに例の飯田天哉の姿もあった。

 

「机に足をかけるな! 雄英の先輩方や机の制作者方に申し訳ないと思わないのか!?」

 

「思わねーよ!!!てめーどこ中だよ端役が!!」

 

 緑谷出久と共に俺の予定をぶち壊してくれた彼は、おおよそそうとは思えない想像通りの姿で爆豪勝己との言い合いを繰り広げていた。生で見ると割と真面目にヒーローを志してる人間には見えないな、爆豪勝己。

 やれやれと心の中で首を振り、そのまま視線を滑らせ人数を確認する。あれ、麗日お茶子がもういる? タイミングもちがっているのか。

 現在教室にそろっている面子は19名。いないのは緑谷出久、そして峰田実と瀬呂範太。

 まさか緑谷出久が落ちたとは考えづらい、入りきれなかったのは峰田実と瀬呂範太か……どう受かったのか想像できないランキング上位(俺個人の)の峰田実はともかく、瀬呂範太はああ見えてかなり有能な人物であったはずだが。

 そんなことを考えた瞬間、噂をすればなんとやら。教室の扉がまた開かれた。

 

「――っ、テメェ……」

 

 入ってきたその人物が声を上げるよりも先に反応したのは、爆豪勝己だった。

 

「かっちゃん……受かったんだね、おめでとう」

 

「当然だろうが。ンなことよりてめぇだ、どんなトリックを使いやがった。いくらテメェでも雄英に受かるなんざできるわけがねぇ」

 

「僕なんかが(・・・・)、とは言わないんだね。ありがとう、かっちゃん」

 

「ッチ、うぜぇ……」

 

 ええ、何その空気。

 爆豪勝己の声音に含まれた緑谷出久への態度、決して友好的ではないがあの見下しきったものでもない雰囲気。

 どちらかというと中盤、緑谷出久との差が縮まってきて怒りながらもその事実を受け止めている自分に困惑している状態を感じさせる。

 すでに緑谷出久の実力を爆豪勝己が認めてる?

 いや、確かにぱっと見の見た目で一番大きな変化があるのは緑谷出久だ。

 筋骨隆々、身長も爆豪勝己とそう変わらない。

 無個性であることに悲観し、雄英を受けるといいながら筋トレ一つしていなかった貧弱な姿ではない。

 あの図体は1年やそこらでできるものじゃない、相当な努力を昔からしてきたのだろう。

 そんな努力をしていたからこそ、彼らの関係性にも何かしらの変化があったのだろうか。

 

「あ、君は……!」

 

 緑谷出久と目があう。

 入学当日ということで浮足立つ教室内でなんか意味深なやり取りをしていた彼らの様子に、三奈が興味を示しひそひそと俺と切島に内緒話などするものだから、思わず明確に目を向けてしまったせいだ。

 爆豪勝己との短くも明確に分けありげなやり取りを終えた緑谷出久が、そのでかい図体でずんずんとこちらによって来る。

 いや怖いな、筋骨隆々のそばかす男怖い。

 

「君、あの時の子だよね。僕が吹き飛ばしちゃった……」

 

「……ああ、あなたあの時の暴風の発生主ですか。さすが移動するだけで私を吹き飛ばすほどの力強さを持つだけあって合格したんですね。おめでとうございます」

 

「うっ、ご、ごめん。あの時は僕も無我夢中で……。本当にごめん、けがはなかった?」

 

「ええ、おかげさまで。無事に入学することができました」

 

「……ほんとうにごめんなさい……」

 

「かまいませんって、お互いの合格を祝福しようじゃないですか」

 

 少し意地の悪い返しになったのは仕方がないだろう。彼以上がいるとは思いたくないが、すくなくとも1位の座を奪われた相手だ。

 しかし、思ったより落ち着いた雰囲気だ。初期は麗日お茶子なんかと話すだけでも挙動不審だったはずだが。

 筋肉のおかげかな?

 筋肉はすべてを解決するっていうし。

 

「ありがとう。これからよろしくね」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 そう言って去っていく彼を見送り、何かあったの? と聞いてくる三奈へと向き直り軽く事情を説明してやる。

 とりあえず顔は覚えられているようだが、あの落ち着きよう、簡単にオールマイトの秘密を共有する仲にはなれなさそうだ。のちの行動にも響くので知らないままにするかどうかはいまだ決めかねているが、難しいようなら諦めるのもかまわない。

 二人の邂逅にあのばかげた力の秘密があるかもしれないが、今のところは彼が鍛えまくったからくそ強いのだとでも思っておくことにしよう。

 願わくば、彼のトレーニング方法を学んで自身の強化に転用できればいいのだが。まさか筋トレだけではないだろう。

 

 

 

「お友達ごっこがしたいなら余所へ行け。ここはヒーロー科だぞ」

 

 

 

 所々でできた輪で繰り広げられていた会話。

 ざわざわと騒がしかった教室に響いた静かな声に、その騒がしさはぴたりとやんだ。

 いや、有能かよ。

 8秒かかってないじゃん。

 

「まぁまぁ、人の話は聞けるようだな。担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

 芋虫スタイルではいってくる、と思いきや普通に歩いて入ってきた。

 とはいえだらしない恰好は予想と違わず、背後で三奈が「担任、あれで……?」とか小さくつぶやいている。やめとけ耳いいだろうから。

 

「早速だが、体操服着てグラウンドに出ろ」

 

 唐突すぎるその発言にはさすがに驚かされたのか、わずかにざわつく教室。

 多少の予想外はあったが、よかった、ここは特に変わらず予定通りのようだ。

 個性把握テスト。

 2つ目のアピールポイントとして幼いころから注視していたイベントだが、あの入試試験からは目的が変わっていたイベント。

 すなわち、クラスメイトの個性把握。

 あのばかげた力を持っているのが果たしてあの3人だけなのか、それともクラスメイト全員なのか。そうだとすれば、一体どのような力をもっているのか。

 そして、果たしてそれは俺にとってどの程度のものなのか。

 別段彼らと敵対するわけではないが、その力の差は今後に大きな影響をもたらすはずだ。

 

 このイベントで少しでも見極めさせてもらおう。

 未だ事態を飲み込めていないクラスメイトをしり目に、俺は一人こぶしを握り締めた。




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