お前ら人間じゃねぇ!   作:四季織

6 / 12
かつてクラスメイト全員の投擲姿とそれへのリアクションを求められたヒロアカ二次創作があっただろうか

今回のお話はボールに対する謎の信頼の上で成り立っています


第五話

 いやー、やっぱり人間じゃないわ緑谷出久。

 先生の話聞いてた? これから個性把握テストを行うって言ってたよね? いきなり測定不能だしちゃ何も把握できやしないでしょうが。

 

「て、て、て、てめぇぇえええデクぁあああああーーーーー!!!」

 

 爆豪勝己が叫ぶ。

 知ってた。

 入学当日に言い渡された個性把握テストを行うという事実。

 普通ならば体育館なりにいき入学式を行うはずの今日、われら1-Aは雄英特有のバカでかいグランドで体操服に身を包んでいた。

 相澤消太、1-Aの担任にしてプロヒーロー。合理的な思考で時間を無駄に使わないことを求めるある意味渋い男。

 そんな彼が担任になったのが運の尽き。

 これから3年間、彼によって1-Aの生徒たちは地獄を見ることになる。

 かと言われればそんなことはなく、クリスマスを迎えるころにはエリちゃんという少女を迎えクリスマスパーティを開けるほどに青春を謳歌できる。

 除籍指導回数は通算154回、昨年度は1クラス全員を除籍処分にしたやばい奴というのが最初期の設定だったが、作品が進むにつれそれだけの人物ではないことが明かされる。

 しかし今現在は交流も深くない相手、下手なこと言うと普通に除籍処分を言い渡されかねないので大人しく、しかしヒーローとしての姿を見せなければならない。

 その考えを実行するうえで、個性を使った体力テストの先発に緑谷が選ばれたのは僥倖だった。

 早速クラスメイトを守るというアピールができたのだ。

 しかし、僥倖? いや、その前のセリフ。

 

『実技入試成績のトップは緑谷だったな。中学のときソフトボール投げ何メートルだった?』

 

 これには、わかっていたこととはいえ心をえぐられた。

 やっぱりあいつが1位、か。

 わかっちゃいた、わかっちゃいたが……そうかぁ、俺は1位じゃないのかぁ……。

 まぁ一瞬で見えなくなったボールとあたりに散見する被害を見せられれば認めざるを得ない。

 万能の化身たる俺の聖剣。

 その強化対象を腕力に集中運用したとしてもああはならない。

 咄嗟に同級生らを守れたのも薄々こうなるであろうことを想定していたからだ。

 

「守ってくれてありがと聖ちゃん。話には聞いてたけど、緑谷ってほんとやばいんだね」

 

「やばいですよ。あれはもう人間じゃない」

 

「人間じゃないって……いやまぁ、うん」

 

 おお、同意してくれるのか三奈ちゃん。俺はもう君に惚れそうだよ。もっとよしよししてくれていいんだよ。

 ざわざわと騒がしいクラスメイト。

 ああ、もしかしてやばいのはあの3人だけ? そうだと俺はもう安心できるんだけど。

 

「下がれ爆豪、まだ説明の途中だ」

 

「ンーーー!!! ヴグーーー!!!」

 

 そして簀巻きにされる爆豪。

 あっけなく捕まるその姿に安堵しかけ、いやいやわれらが担任の個性を忘れてはいけないと思いなおす。

 

 【抹消】

 

 一目見るだけで瞬きをしない限り相手の個性を消すというこれまたとんでも個性。

 俺の【聖剣】には個性の効果に抵抗(レジスト)する力があるが、あの個性相手でも発動するかは疑問が残る。

 そう考えるとあの緑谷ですら無効化できるのだから改めてチートな個性だと思わされる。

 ラスボスに善戦していたのもあの個性ありきだったし。

 

「あと蒼軌、いい判断だ」

 

「ありがとうございます」

 

 いいぞー、そんな人からの高評価。

 好感度アップだ。

 

「測定不能ってなんだ……」

 

「思い出した、どっかで見たことあると思ったら! 同じ試験会場で会場ごとでっかいロボットぶっ壊してた人や!」

 

「筋肉ムキムキだから増強系だとは思ってたけど……オールマイトかよ」

 

「それな、オールマイト思った。投げただけであんなになる?」

 

「圧倒されてる場合じゃない、俺たちもあれくらいやらなきゃってことだろ」

 

「えー、無理無理私増強系じゃないし」

 

「この種目でなくてもいい、あの男を先鋒に立たせた判断。何かしらを示せということだろう」

 

「つまり僕のまばゆさを見せつければいいんだね☆」

 

「なんかキャラ濃い奴いるんだけど」

 

 騒がしさに意識を向ければ、さすがは入学できた面子、あれだけの力を見せられても試験中に見たような茫然とした様子の者は一人もいない。

 まじで? 俺でも割と力の差を見せつけれられてナイーブになったんだけど。

 

「さて、まぁ参考にはならなかったがわかっただろう。今からお前たちにやってもらうのはこういうことだ」

 

 どうにか大人しくなったらしい爆豪勝己を追い返した先生が、改めて生徒全員のほうを向き直る。

 

「お前たちの個性は入試の映像と一緒にある程度どんなものか見せてもらった。鍛えてきたやつもいるし、強力なだけのものをただぶっ放してるやつ、すでにほぼ使いこなしてるやつもいる。正直個性使用禁止の体力テストを基にしたこれで測りきれるとは思ってないが、まぁ昔から知ってる基準の中で振るえば自他の個性がどんなものかわかりやすいだろう」

 

 緑谷がその言葉にびくりと肩を震わせていた。

 お前あの有様見せつけといて自分がぶっ放してるだけのやつ区分だと思ってるのか?

 どちらかといえば鍛えてきたやつの極致だろ。

 

「このテストで最低限自分を知り、相手を知れ。これから3年間雄英は全力で君達に苦難を与え続ける。更に向こうへ…PlusUltraさ」

 

 先生らしい最低限の言葉でそう締めくくる。

 その言葉にあれ、と思う。

 例の発破がない。

 浮足立った1-Aの面子に全力を出させるため、気を引き締めさせるため言うはずの除籍処分の存在。

 ほかならぬ先生自身が圧倒されて言い忘れてしまったのか?

 

「出席番号で行く。蒼軌、お前からだ」

 

「あ、はい」

 

「聖ちゃん頑張って! でも頑張りすぎないで! すぐに私だから!」

 

「ええ……」

 

 ぶんぶんと、今生の別れかといわせるほどに手を取って上下に振りたくられながら三奈ちゃんに送り出される。

 そうだ、先生の心配をしている場合じゃない。

 あおき、なんて名前だからなんかあるたびに今度から真っ先に指標にされるのは俺なのだ。

 これも前までなら少し加減してやるかー、なんて軽く考えられていたものだがそうもいかない。

 全力でやるしかない。

 

「【能力向上:指定・筋力】」

 

 指定された円の中に入り、強化先に光を一極集中する。

 回復も精神安定も聴力視覚等のほかの強化対象を一切無視してパワーに全振りする。

 おおよそ在学中に使う予定のなかった特化。

 

「本当、想定外だらけです――」

 

 そしてボールを思い切り。

 

「っね!」

 

 聖剣で打った。

 

「打ったあああああーーー!?」

 

「おいボール投げでボール打ったぞ! ありなのかあれ!」

 

「あり」

 

「やったぁ」

 

「というかあの剣なに!? いいものっぽいけどそんなバットみたいに使っていいの!?」

 

「投げてないじゃん!」

 

「あんな小さい子すら何でもありかよ……」

 

「素晴らしいフォームだったな」

 

「そこ?」

 

 割と何でもありなのだ、八百万が原作で好き放題してたらしいし。

 

「測定距離外、お前もか蒼軌」

 

「いやぁー、ボールなくなりそうですね」

 

「…………」

 

 さっき上げたはずの好感度が下がった音が聞こえる。

 これは話題をそらすしかない。

 

「ところで先生、測定距離外? 測定不能と何が違うんです?」

 

「測定不能は文字通り様々な要因で移動過程や結果すらわからない状態。測定距離外は反応を探れる範囲を超過して確認が取れない状態。どっちにしろ得点としてはマックス超えだ」

 

 はえー。

 測定できないと、できたけど技術的に到達距離が観測できない。一応度肝を抜ける数値ではあるけど圧倒的かつ1番かといわれればそうではないだろう。

 というか特化強化やばい。

 やるつもりなかったから反動がもろに来て両腕と体がすこぶる痛い。聖剣、早く治して。

 

「嘘つき! 聖ちゃんはサポート系だと思ったのに!」

 

「申し訳ない」

 

 肩を掴んで揺さぶられる。やめてまだ体痛いの。

 だがまぁとりあえず負けず劣らずの結果は出せただろう。数字はないが。

 問題はこれからだ。

 知っている3人を除いた16人がどのような個性を持っているのか。

 ついにそれを知るときが来たのだ。

 願わくば、これ以上想定外が起きることは勘弁してほしい。

 

 

 

 

 

2.青山優雅

 

「きらめき☆」

 

 過剰なまでの仕草、どこか芝居ががったフォームから繰り出されたのは一筋の光だった。

 手のひらから射出されたその光は一直線にボールを押し出し、10を数えるころにはボールは遥かかなたへと消えていた。

 その光景を見届けた彼はどうだといわんばかりの自信に満ちた顔で、また過剰な仕草で担任を振り返る。

 体のいたるところから無駄にレーザーを放出、屈折させ、セルフパフォーマンスも忘れない。

 

「5021.4m」

 

「僕の美しい個性、どう☆」

 

「数字出た!」

 

「けどまた投げてない!」

 

「初めて数字出たけどそれでもやばい!」

 

「5キロ! あの一瞬で!?」

 

 フフフ、と満足げにうなずきながら、彼は文字通り優雅に戻っていった。

 なおその姿に彼の求めていた反応が返ってくることはなかった。

 

 

3.芦戸三奈

 

「とぉりゃぁあああーーー!」

 

 直前まで先ほど記録できない記録を出した少女に抗議していた彼女は、男らしい掛け声とともにボールを投げる。

 初めてまともに投げてもらえたボールの歓喜の声はしかし、結果につながることはなく。

 今までの圧倒的な光景とは違い、あるべき姿ともいえる白線で距離を示された範囲の中へと吸い込まれていき。

 

「40m」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛ーーー! 聖ちゃんーーー! 切島ーーー!」

 

「ぐえぁ……よ、よしよし」

 

「いや十分だろ。女子で40ってかなりだと思うぞ」

 

「測定不能が欲しいのぉ!」

 

「そんな無茶な」

 

 自身より頭一つ分小さい少女にタックルを決めながら泣くように彼女は戻っていった。

 本来ならば平均をはるかに上回る結果も、最初の3人のせいで彼女の慰めにはならなかった。

 

 

4.蛙吹梅雨

 

「ケロっ!」

 

 カエルを思わせる容姿、そして個性ゆえかヒーローを目指すうえでのキャラクターなのかカエルっぽい口調(?)の女子。

 先ほど投げてもらえて泣いて喜んでいたボールは一転またもやまともに使われることはなく。

 ドロップキックじみた両足蹴りでまたもや空の彼方に消えることとなった。

 

「1416.5m」

 

「蹴った!」

 

「またボール見えなくなった!」

 

「40mああああーーー!」

 

「落ち着け芦戸!」

 

 ケロ、とまた一鳴き。

 満足のいく結果だったらしい少女は笑顔を浮かべながら戻っていった。

 

 

5.飯田天哉

 

「おおっ!」

 

 白髪の少女が警戒した視線を向けているとはつゆ知らず、眼鏡をかけた真面目そうな少年は気合の入った声を上げる。

 まただよ、といい加減慣れてしまったボールはまたも、だがさきよりも莫大な力で蹴り飛ばされる。

 一瞬ボールがはじけたのではと心配になるような破裂音が響き、しかしそうではないとすぐにわかる。

 

「測定距離外」

 

「数字さん! 消えないで数字さん!」

 

「また消えたのか……数字(やつ)にこの戦いは厳しいのかもしれない」

 

「ブツブツブツブ……」

 

「三奈ちゃん!」

 

 ぃよし、とガッツポーズ。

 すぐに気が付いたように礼儀正しく教師へ礼を述べ、彼は戻っていった。

 

6.麗日お茶子

 

「えい!」

 

 今度は特に気にしていないらしい白髪の少女をしり目に、可愛らしく軽くボールを放った麗らかな少女。

 目の前で落ちるんじゃないかと思われるような放り方だったにも関わらず、ボールは一向に重力には従わず。

 一言二言少女と声をかわすと、担任はうんざりしたようにため息をついた。

 

「無限」

 

「新しい概念きた」

 

「今までとはまた違った空恐ろしさを感じさせる言葉きた」

 

「風船みたいになってるのに風に大きく左右されてない……どうなってるの、あれ?」

 

「あ、私の個性はね――」

 

 今までにない記録の出かたに興味を持ったらしい筋骨隆々の少年の質問に快く答えながら、少女は戻っていった。

 

 

7.尾白猿夫

 

「はっ!」

 

 3本の尾を腰からはやした少年。

 緑谷出久ほどではないが鍛えられた体をした彼は、しかし尾でボールを打ち据えた。

 3本をまとめて丸太のようなサイズになったそれをすさまじい勢いでたたきつけられたボールは当たり前のように見えなくなる。

 

「4101.3m」

 

「なんかもう普通だな」

 

「うん、なんか慣れてきた」

 

「ええ酷い。もうちょっとこう、うわー! とかすげー! とかさ」

 

「悪い。やっぱ普通だわ」

 

 今までとは違った反応を示すクラスメイト。順番に恵まれなかったのだ。

 抗議の声を上げながら、次はなんとか6本までならいけるか、などとつぶやきながら少年は戻っていった。

 

 

8.上鳴電気

 

「おっしゃあ! 見とけよ俺の投擲を!」

 

 今までさんざんツッコミを入れていた稲妻模様のメッシュの入った金髪をしたチャラそうな少年。

 小物臭の漂う彼はしかし、その投擲をもって評価を覆すこととなる。

 バチり、と漏電した電気のような音。

 その姿が一瞬ブレる。まるで投げる前と投げた後の姿を、わずかな時間の隙間にあるはずの動作を切り取ったかのような、一瞬の挙動。

 

「測定不能」

 

「え、なに? 投げた?」

 

「見えた?」

 

「ううん、見えへんかった」

 

「なんだよ、見とけって言ったじゃねぇか」

 

 言いながら、その反応が欲しかったというように得意げな笑みを浮かべる。

 詳細を訪ねるクラスメイトに勿体ぶりながら、彼は戻っていった。

 

 

9.切島鋭児郎

 

「おォりゃあああぁーーー!!!」

 

 気合十分。男らしい掛け声とともに力強く投擲されるボール。

 ボール投げの姿として、これ以上ない正しい姿。

 されどその気合とは裏腹に増強個性を持たない者でもそのボールの軌跡を追うことはたやすく。

 

「76m」

 

「ぐはぁあー!」

 

「き、切島くーん!」

 

「切島ぁ! 信じてたよぉ!」

 

「そんな信頼は嫌だー!」

 

 崩れ落ちた彼は白い少女とピンクの少女に肩を貸され、ズルズルと引きずられながら戻っていった。

 入学当日にして両手に花。そんなうらやましい姿に、しかし恨み言を言う者はいなかった。

 

 

10.口田甲司

 

「【頼みましたよ、翼を持ちし者たちよ】」

 

 岩石のような頭が特徴的で大柄な、それでいて意外とか細い声で話す少年。

 彼が投擲の前に何事かつぶやくと、少なくとも視界の届く範囲にはいなかったはずの数十を超える種類を問わない多くの鳥たちがどこからともなく現れた。

 ペットに餌をやるような気軽さで投げられたそれを鳥たちは掴み上げ、そのまま空の彼方へと持ち去っていった。

 

「測定距離外」

 

「ボール持ってかれたぞ」

 

「え、あれありなの? そういう個性ってこと?」

 

「あんまり見たことない鳥もいたけどどこから来たんだ……」

 

 照れたようにそんな評価を受け取る彼は、やはり体格にふさわしくない気弱さを感じさせ。

 称賛の言葉にとんでもないと恐縮しながら戻っていった。

 

 

11.砂藤力道

 

「ヴォオオオオオオオーーー!!!」

 

 これまた大柄な少年だった。だった、のだ。

 そんな彼が角砂糖を口に放り込んだ瞬間、まるで風船に空気を送ったかのようにその体が膨れ上がった。

 おおよそ2.5倍程度まで膨張した彼は、手に対してあまりに小さくなったそれを乱雑に投擲する。

 あまりの風圧に、白い少女がまた壁を展開することになった。

 

「測定距離外」

 

「で、でけぇ! マウントレディみたいにじゃなくて筋肉がでけぇ!」

 

「膨れ上がった! 筋肉がやばい!」

 

「怖い! 筋肉の塊怖い!」

 

「筋肉以外なんかないのか!?」

 

 フゥー、フゥー、とまるで化け物のような野太い呼吸音で精神統一でもしたのか、縮んでいく肉体。

 筋肉筋肉連呼する同級生に抗議の声を上げながら彼は戻っていった。

 

 

12.障子目蔵

 

「…………っ!」

 

 今までの男子たちと違い決して大声を出すわけでもなく、彼は投擲した。

 六対の腕、否うち4本は触手だろうか。その一つの手のひらから腕が生え、さらにそこから腕が生え、それを繰り返し鞭のようにしならせたその長大な腕をもって。

 明らかに円を飛び出していたが、当然指摘はされず。

 

「7012.5m」

 

「腕から腕が伸びてまたそこから腕が伸びてる」

 

「すげぇ個性だな、腕以外も生やせたりするんじゃねぇか」

 

「【できるぞ】」

 

「うお、口か!? すげぇけど少し怖」

 

「【…………】」

 

 クールな雰囲気の彼はしかし、そんな遠慮のない言葉に傷ついたのか、腕と触手を少々しょんぼりと下す。

 慌てて謝るクラスメイトにやっぱりクールに気にしていないと返しながら彼は戻っていった。

 

 

13.耳郎響香

 

「耳押さえてたほうがいいよ」

 

 そんな助言をクラスメイトへとした少女は、聞き届けられたのを確認し投擲する。

 ズン、と耳をふさいでいても響く重低音。

 物理的な衝撃を発生させたであろうその音は、細身の少女のどこから発せられたのかはわからない。

 

「1248.3m」

 

「あんましのびないかー」

 

「え!? なに!?」

 

「なんか言ったか!?」

 

「何か喋ってる!? きこえなーい!!」

 

 展開されていた蒼い壁はあまり意味を成したとは言えないだろう。

 阿鼻叫喚のクラスメイトに頭を下げつつ、彼女は戻っていった。

 

14.心操人使

 

「【全力を出せ】」

 

 ハイテンションなクラスメイトの影、若者らしい活力を感じさせない気だるげな少年がぼそりとつぶやく。

 誰かに命令するような口調のそれは、しかし誰に聞き取られるでもなく。

 気だるげな表情のまま、しかしやる気がないわけでもなく全力での投擲を行った。

 

「189m」

 

「常識範囲内仲間!」

 

「仲間ー!」

 

「…………おう」

 

「暗い! もっと元気に!」

 

「お、おう」

 

「常識……? 常識が崩れているのでは?」

 

「「うるさい!」」

 

 ものすごい勢いで距離を詰めてきた赤とピンクに困惑した様子を見せる。

 人を寄せ付けないようで、実のところは無愛想というほどではない少年は二人に背を叩かれながら戻っていった。

 

 

15.常闇踏陰

 

「やるぞ」

【了解シタ、ワガ主ヨ】

 

 カラスなどの鳥類を思わせる頭を持った比較的小柄な少年。

 そんな彼の影、普通の影に比べて一層暗いそこから現れたのは漆黒の巨躯だった。

 威厳を感じさせる低い声。不定形な映像のような姿はしかし、見るものをそれだけで威圧するような凶悪な雰囲気をまとっている。

 影が少年へとまとわりつき、一つになった彼らは目にもとまらぬ速さで投擲を行った。

 蒼い壁は以下省略。

 

「測定不能」

 

「す、すごい! 意志を持った個性なんて初めて見たよ!」

 

「しかもかっけー! 声がかっけー! 登場の仕方がかっけー!」

 

「うちのクラス勇者と魔王が共存してるってこと?」

 

「まさか勇者って私です?」

 

【魔王ナドト、我ハ主ノ従順ナル僕ダ】

 

「「「か、かっこいい!」」」

 

 自分より自分の個性がクラスメイトに褒められる、少々複雑な気持ちなのだろう。

 それでもいやな気持ではないと影を従えた少年はクールに戻っていった。

 

 

16.轟焦凍

 

「飛べ」

 

 端正な顔立ちの少年で、オッドアイに右が白髪、左が赤髪になっているイケメンを体現したような少年。

 パキリと瞬間的に形作った氷の鳥。

 それだけで芸術作品ともいえるような美しい鳥は、それが氷だというのを忘れさせるほど滑らかな動作で先ほどの鳥のようにボールを掴むと空へと消えていった。

 

「測定距離外」

 

「個性の使い方までイケメンかよぉ!」

 

「最低限の力でサクッとやってる感じが気に食わないのに嫌味っぽくない! さすがイケメン!」

 

「イケメンてなんだ」

 

 ポカンとした表情で問う彼に、イケメンで天然とか無敵かよと、男性陣の一部から抗議の声が上がる。

 それでも彼にとってそれは理解の範囲外であり、首を傾げ再度問い直しながら戻っていった。

 

 

17.葉隠透

 

「ええーい!」

 

 特徴的な面子の多いA組において最も目を引く一人の少女。目を引くが、その姿を捉えられるものはいない。

 その一切が透明な姿。いわゆる透明人間である少女の注目の一投。

 投擲されたボール。一瞬で見えなくなったそれに、見慣れたはずのその光景に、今まで一切感情を見せなかった担任が初めて記録以外の言葉を口にした。

 

「葉隠、ボールは」

 

「投げました!」

 

「投げたんだな?」

 

「はい! ちゃんと投げました(・・・・・)!」

 

「……測定不能」

 

「測定不能!? 透明なうえ測定不能たたき出すってまじか!」

 

「でも先生の質問はあれ、なんでだろう」

 

「それだけ特殊な個性ってことかもね」

 

 どこかしてやったりな少女は、透明ゆえにその表情を悟られることなく戻っていった。

 何が起きたのか理解していたのは、その個性について理解のある相澤ただ一人だった。

 

 

18.爆轟勝己

 

「ふざけやがってぇ……死ねぇ!!!」

 

 お前本当にヒーロー志望なのかと問いただしたくなるありさまで膨大な熱量と共にボールを投擲する少年。

 もはや恒例となった蒼い壁の防御の元、クラスメイトへの配慮を度外視した全力の爆発。

 むしろギャラリーは離れればいいだけなのだが、数字が意味をなさない以上過程を楽しんでいる彼ら彼女らにその忠告は届かないだろう。

 緑谷を超える被害をあたりにまき散らしながら、それでも飛んでいくボールの相変わらずの頑丈さには目をみはるばかりである。

 

「測定距離外」

 

「くそがぁ!」

 

「測定距離外でくそってなんだ」

 

「プライド高そうだし1番になりたかったとか? 何をもって1番なのかもうわかんねぇけど」

 

「なんか言ったかクソモブどもがぁ!」

 

「お前本当にヒーロー目指してんの!?」

 

「かっちゃん、そんなふうに言うのはよくないよ」

 

「元凶らしいあなたがそれを言うのはアウトなのでは……」

 

 すさまじい形相で飛びかかろうとして、またも担任により捕縛される。

 この短時間で2度も担任に捕縛される。その姿にはさすがのクラスメイト達もひきつった表情を浮かべるほかなかった。

 

 

19.緑谷出久

 

「最初の記録でいいな、省略」

 

「あ、はい」

 

 

20.八百万百

 

「蒼軌さん、でよろしかったでしょうか。よろしくおねがいしますわ」

 

 初めて自ら周囲への防御を頼んできたやたら発育のいい少女。

 自分の役割に今更疑問を持ち出したらしい白い少女はしかし、次の瞬間彼女が創り出したそれに気合を入れて防壁を張り巡らせた。

 さすがのクラスメイト達もそのすさまじい物体を前に白い少女をぐいぐいと前に押し出し逃走する。

 そして。

 

「測定距離外だ、やめろ八百万」

 

「なぜですの? (わたくし)まだ何もしていませんわ!」

 

「そんなものこんな場所でぶっ放すつもりか。冗談じゃない。蒼軌も万能じゃないぞ」

 

「いえ、いけます先生。私は万能であるはずです」

 

「いらん意地をはるな」

 

 彼女が創り出したのは戦艦の主砲を思わせる超巨大な砲塔。

 明らかに彼女の体積を超過したその物質が当然のように彼女から飛び出してくる様はもはや狂気であった。

 納得いかない、という様子でぷりぷりと怒る彼女を愛らしいといえるものはこの場にいなかった。

 

 

 

 

 

 

 個性把握テスト。

 未だ始まったばかりであったはずのそれは、早くも二人の人間に人外魔境の異世界に足を踏み入れたのではないかと錯覚させるには十分で。

 教師と生徒であるはずの。

 全く違う目標と目的を持つはずの二人の心は、人知れず同じことを考えたのだった。

 

 

 

「「こいつら全員人間じゃない」」




ツッコミを入れてるのはほぼ上鳴と切島と芦戸と主人公

彼らの動かしやすさは異常ですね、これからも頼っていきます


小麦粉20000様、jaiq様、白よもぎ様、匿名鬼謀様

太陽のガリ茶様、雑魚な魚の極み様、たまごん様

クオーレっと様、見習い様、ししとー様

誤字報告等ありがとうございます、確認しきれない誤字の報告本当に助かっています
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。