サイコパスが呪術界に追われる話   作:あれなん

2 / 2
【2】すね肉のサンドイッチ

 

 

 

「七海さん、その症状はどれほど前から?」

 

「……わかりません。物心ついた頃には既に…」

絞り出すような小さな声だ。

 

「具体的にどんなものですか。例えば、自分自身の姿をしているとか図形をしているとかありますか」

 

「見たことはないものばかりです。映画でも見たことがない…」

 

時折雑談を交えながら見えるものとその時の状況を話す。今まで他の精神科でも繰り返してきた質問もあり、焦れた七海は単刀直入に訊ねる。さっさと薬をもらって帰ってしまいたかった。出された薬をしこたま飲んで、今日はもう休みたい。それほど七海にとって自身の心の内を話すことや探られることは吐き気を催すほどの苦痛を伴った。

 

「脳腫瘍を疑ってMRIもCTも病院で調べました、けれどどれも違った…っ、先生、これは、この幻覚は治りますか…」

 

「――七海さん、少し休憩しましょう」

 

「……はい」

もう時計の短針は2を指している。随分と話し込んでいたようだ。

 

「七海さんが良ければ、近くの公園で昼食でもどうですか?」

 

その日は風が柔らかく、陽の光に当たれば包み込んでくれるような優しさを感じる穏やかさがあった。もう昼を過ぎているからか公園にはサラリーマンの姿もなく、東屋は空いていた。

安藤に促され、東屋のベンチに座ると、自分が何も持ってきていないことに気が付き慌てる。コンビニに買いに行こうとする七海を押しとどめ、安藤はランチョンマットを広げる。安藤の話によると料理が趣味で、いつも多く持ってきてはクリニックの職員に分けているのだという。

 

確かにランチボックスはいくつもあり、彩が良くサンドイッチが詰められている。料理をするというのは本当らしい。

勧められ手に取ったサンドイッチは柔らかく煮込まれた肉が入っておりボリュームがある。マヨネーズにはからしが混ぜられているのかピリリとした刺激が食欲をそそった。卵や胡瓜も挟まっているがパンは水っぽくなっておらず、うまくまとまっている。

 

そう言えば朝はコーヒーだけだったと今になって思い出していた。

 

「どうだい?今回のは自信作なんだけれど」

 

「…おいしいです。中に入っている肉は…」

 

「あぁ、牛のすね肉だ。厚手の鍋を使って弱火でじっくり煮込めば、驚くほど柔らかくなるんだよ」

 

安藤は七海と同じサンドイッチを口にし、上出来だと頷いた。

 

 

「…先生、なぜ私を昼食に誘ったんですか」

 

「あぁ君と腹を割って話したくってね。

―――私にも君と同じものが見える、といったらどうする?」

七海は息を飲んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――なんだ、これは…」

思わず夜蛾の口から出てしまった言葉はその部屋に静かに染みていった。現場から一時的に退室させた警察官にその言葉を聞かれなかったことに胸を撫で下ろす。

 

その現場は一見呪霊の仕業のように見えた。指紋も足跡もない。近くのコンビニエンスストアの防犯カメラにも被害者2人以外の人物は映っていなかった。ただ2人が買い物し、帰っていくのが映っていただけだ。

被害者たちの遺体は、15㎝づつ輪切りにされている。それだけではない。そのパーツを交互に重ねられ、まるで1つの達磨落としのように天井に届きそうなほど高く積まれていた。

 

「うわっ、これは…呪霊の仕業ですか?」

扉から入ってきた高専1年の庵が遺体から目を反らし言う。

 

「――わからない。並みの呪霊にはこんな風に人体で遊ぶような知能はない…はずだ」

 

「ということは、知能がある呪霊か、あるいは呪詛師の犯行か…」

 

「……」

 

高専に戻り報告書を書く。もう窓の外は薄暗く、夕焼けのぼんやりとした赤色が仄かに空気中に漂っていた。

 

夜蛾は昼間の事件について考え込んでいた。有名な呪詛師の手口は情報化され職員には共有されている。呪詛師にも種類がある、快楽からそれを行う者、金銭のために行う者。

 

実際今回の被害者となった2人は俗にいう鼻つまみ者だったようだ。恨みを持つ者の犯行ならもっと被害者を嬲る。依頼を受けた呪詛師の仕業か?

そう答えを出しかけた時に携帯が着信を知らせた。電話の相手は被害者の遺体を解剖を任せた高専の保険医だ。まだ職員室にいるならすぐにこっちに来いと告げられる。

解剖台がいくつも並んでいるこの場所が夜蛾は苦手だった。遺体が腐敗しないように室温は低く、季節を問わずひんやりとした空気が籠っている。

 

2つの解剖台には今日運ばれてきたばかりの被害者が安置されていた。重ねられていた体はそれぞれの場所に戻されている。

 

「話とはなんだ」

 

「明日でもよかったんだけどね。被害者の遺体で足りない部分があるの」

 

「足りない?」

 

「こっちは下腿部…つまり膝から足首の間。そっちは肝臓がない」

 

「呪詛師が依頼人に任務遂行の証明として出す…とは思えないな」

 

「それならもっと持ち運びがしやすいやつを選ぶでしょ。指とか。それにね、肝臓取られなかった方も一度開いた形跡があるの」

 

「なぜ取られなかった?」

 

「それはもうわかってる。こっちの人、肝臓癌だった」

 

「癌…か」

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

1つの器と3つの魂(作者:日三汐理)(原作:呪術廻戦)

宿儺の指を呑み込んだ虎杖悠仁の中に現れたのは、両面宿儺――だけではなかった。▼なぜかそこにいたのは、六十八年後の虎杖悠仁。▼こうしてひとつの身体の中に、過去の虎杖、未来の虎杖、宿儺という三つの魂が同居することになった。未来の虎杖は本編の出来事を知っているらしいが、肝心なことはなかなか話さない。そのくせ宿儺には妙に馴れ馴れしく、どうやらこの時代に来た目的も宿儺…


総合評価:2636/評価:8.61/連載:5話/更新日時:2026年03月29日(日) 12:26 小説情報

科(化)学系チート持ち転生者のお話(作者:金属粘性生命体)(原作:多重クロスオーバー)

▼ 数百世紀先の技術と創作上の技術を持って転生した男の好き勝手生活。▼ ディストピアルート、闇堕ちルート、どちらから先に読んでも問題ないようになってます。作者の個人的には闇堕ちルートの方がおもろいと思う。▼(作者の架空科学なので一切整合性はとりません、雰囲気で読め)▼ オタクルートを外伝にしました。↓がリンクです▼ https://syosetu.org/n…


総合評価:3202/評価:7.57/連載:107話/更新日時:2026年05月06日(水) 10:00 小説情報

役立たずの三輪(作者:メカ丸ゥゥゥウウウ!)(原作:呪術廻戦)

最強の術師は誰か?▼ある生徒は現代最強の五条悟を挙げ、ある従者は呪いの王両面宿儺を挙げる。そして羂索は一人の男の名前を挙げた。▼蘆屋貞綱。それは羂索の子であり、シン陰流開祖。そして、宿儺を知る羂索をもってしても最強と断言する術師である。▼新宿において最強による三つ巴。生き残るはただ一人。最強は新宿で何を見るのか?▼「大好きな人がいるんだ」▼その声に反応して、…


総合評価:2931/評価:8.02/連載:39話/更新日時:2026年03月31日(火) 18:00 小説情報

死滅回游泳者:吉良吉影(作者:同僚)(原作:呪術廻戦)

▼私の名は『吉良吉影』。年齢33歳。▼自宅は杜王町北東部の別荘地帯にあり……… 結婚はしていない………。▼仕事は『カメユーチェーン店』の会社員で毎日遅くとも夜8時までには帰宅する………はずだったのがな。▼今はこのくだらない殺し合いに巻き込まれている"ただ"の会社員だ。▼これはM県S市杜王町に巣食う殺人鬼が平穏を求めて、全ての元凶を始末する…


総合評価:1239/評価:8.3/連載:3話/更新日時:2026年04月03日(金) 21:02 小説情報

どうやろ真依ちゃんに聞いてみよか(作者:人の心とかない。AIだから)(原作:呪術廻戦)

なぜか割と何でも知っている真依ちゃんの話▼※AI生成が苦手な人はブラウザバックを推奨します。


総合評価:1121/評価:8.14/連載:11話/更新日時:2026年03月21日(土) 13:18 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>