とあるS級パーティーに所属する冒険者ですが、メンバーの教え子達の実力に付いていけないので脱退します。 作:にゃあたいぷ。
私、
やんごとなき身分に生まれた私は成人するまで、金銭に苦労する事のない生活を送っていた。
花を慈しんで詩を詠む。そんな典型的な御嬢様であった私はひょんなことから没落し、大剣を片手に斬った張ったが当たり前な冒険者の世界に身を投じる事になった。波乱万丈な人生を歩んで来たと思う、多くの悲しい出来事に遭遇して来たし、それ以上に良い思い出がたくさんあった。辛いよりも楽しいことの方が遥かに多かった。
今、宿屋で食卓を囲んでいる四人の女性は、共に多くの苦難を乗り越えてきたかけがえのない仲間達だ。
彼女達が居てくれたおかげで私は広く世界を知ることができ、この大陸の半分以上を見て回ることができた。このパーティーでの旅路は楽しかった、彼女達と時を同じくすることは至福だった。私はきっと、この世界の誰よりも仲間に恵まれているに違いない。
だからこそ、告げなくてはならない言葉があった。
「このパーティーを抜けようと思っている」
口にした途端、四人が一斉に私の方に振り返り、そして四人が同時に互いを見つめ合った。
仲間達が、それぞれの表情を浮かべている。仲が良いことだ。彼女達は本当に気の良い仲間であり、今の環境を手放すことは名残惜しくもある。
しかし私は彼女達の足枷になるつもりはないのだ。
「此処から先の旅路に私はついて行けそうにない」
申し訳ない、と仲間達に向けて深々と頭を下げる。
自慢になるが、私が所属しているパーティーは大陸でも屈指の実力があった。それこそ竜退治にも出向く程だ。
そして私には竜を相手取れるような実力はなかった。
仲間達との差は日に日に開くばかり、そして私を気遣ってか受ける依頼の級数も下がって来ている。
私の存在が重荷になっていることは火を見るよりも明らかだ。
だから、この辺りが潮時だと思っている。
年齢的は三十路。行き遅れではあるが、それとは違う意味で身を固める頃合いなのかも知れない。それに今のような根なし草の風来坊のような生活を続けるにも限界がある、なによりも私自身の肉体に衰えを感じていた。
そういった意味も込めての一大決心という訳だ。
「ま、待ってくださいっ!」
そうは問屋が卸さない、と仲間の一人から抗議の声を上げられる。
†
冒険者には級数が存在している。
そして、ある一定以上の実力と実績が認められた者にはS級と云う最高位の級数が与えられることになる。
何を隠そう私、この
このパーティーで二番目に役に立っているのは私であると自負している。
今日も今日とて、
素敵な御姉様の為に食卓を囲む為――まあ、おまけが三匹ほど居るのはさておき、その準備中に事件は起きた。
「このパーティーを抜けようと思っている」
素敵な御姉様こと狭子が神妙な顔付きで、そんなことを口にしたのだ。
私は咄嗟に他三人を睨みつけたが、三人も互いを牽制するように睨み合っていた。これはどういう訳か。誰も状況を理解できていないことを理解した私達は、すぐに互いの視線を切り、改めて爆弾発言を落とした狭子に視線を戻す。いつも通り、小さくて可愛らしい――ではなくて、どうしてそのような事を口にしたのか。いつも通り、気楽に構える彼女の様子を注意深く観察する。
問い質すにも慎重に言葉を選ぶ必要があるかも知れない。
「此処から先の旅路に私はついて行けそうにない」
申し訳ない、と彼女が深々と頭を下げる。
そんなことは全然、気にしてないんですけど? 思わず口から出そうになる言葉を辛うじて飲み込んだ。
確かに彼女はB級冒険者だ。実力的にはA級相当だと思っているが、戦闘面においては足を引っ張ることが増えてきた。しかし私達が実力を付けたのは彼女の教えがあってのものだし、実力で抜かしてしまった後も彼女はパーティーの為にありとあらゆる雑務を率先して熟してくれた。炊事や洗濯は勿論、道具の管理、他には見張り番や斥候の役割まで熟している。
あまりにも多すぎる仕事量が目に余り、衣服の修繕や料理に関しては(仲間達には内緒で)手を貸しているほどだ。
縁の下の力持ちとは、正に御姉様のことである。
「ま、待ってくださいっ!」
とにかく何か言わなくては、と呆ける三人を尻目に声を上げた。
戦闘面では確かに私達には劣るだろう。しかし彼女は身を守ることはできるし、身の程も知っている。
仲間の危機に陥ると身を呈して、飛び出す癖があるくらいなものだ。
いつまで経っても私達のことを子供扱いにする。
「戦闘面に不安があるのであれば、私達にお任せください」
「難しいかな。皆が傷付いているところを見ると、分かっていても頭がカッとなっちゃって飛び出しちゃうんだ。それで何度か迷惑をかけているし――それに衰えも感じているし、そろそろ潮時だなって考えてた」
うんうんと彼女は頷いてみせる。
「わかっていたことだけど、子離れをする時が来たんだと思う。こう言うと皆は嫌がるけど私にとって皆は私の可愛い子供なんだ。どれだけ成長しても守るべき対象として見てしまうんだ。そして子を想う気持ちが甘えに変わらない内に離れるべきだと思ったんだよ」
御姉様は私達を見ると嬉しそうに目を細める。
まだ未熟で幼い頃から鍛え育ててくれた御姉様から認められるのは嬉しい。
だけど、そんなことを言わせる為に頑張って来た訳ではない。
「……御姉様が居なければ、どうやってパーティーを回せば良いのですか?」
私の旅の目的は、御姉様への恩返しにあるのだ。
少し意地悪な問い掛けに、彼女は肩を竦めてみせる。
「既に私がしてきたことの引き継ぎは終えているじゃないか。榊には武具の修繕や料理といった具合にな」
……私は咄嗟に他三人を見た。
皆が皆、驚きに目を見開いた後で、お前もか。という苦渋を噛み締めた顔を浮かべる。
気付いた時には根回しを済ませている感覚、要領の良い御姉様らしかった。
外食時、御姉様はいつも誰も気付かない内に支払いを終えている。
「で、でも、それって今日、明日の話じゃないんだよね?」
ぐうっと歯を噛み締める私の横で、仲間の一人が口を開いた。
†
褐色肌のエルフ、色白な肌をしたエルフの中で生まれた異端児が私だった。
魔法が得意で、その腕前は大陸でも五本指に入る実力者。回復役であるにも関わらず、積極的に殴りかかる榊や他の者達に遅れを取らないように近接戦闘にも対応できる魔法アタッカーである。特に瞬間火力には自信があり、私の前に出たものは敵味方を問わず、全てを薙ぎ払う自信を持っている。
このパーティーには姉様の次に貢献していると自信を持って言うことができる。
余計な存在が三匹ほど居たりするけども――まあ、そこは必要経費というものだ。
これから先、姉様との冒険に夢を馳せ、あわよくば閨の方でも御世話に……いや、私が姉様を御世話するのだ!
心の中でギュッと拳を握り締めている時に御姉様の口から爆弾発言が飛び出した。
「このパーティーを抜けようと思っている」
何を言っているのか理解ができなかった。
頭の中は空っぽで姉様の言葉すらも右から左に流れていく最中、脳筋ヒーラーの榊が話を進めている。
とはいえ形勢は不利、上手い具合に言い包められていっているようだ。
脳筋ヒーラーには期待できない、此処は知的な私が姉様を言い包めてあげるのだ!
「で、でも、それって今日、明日の話じゃないんだよね?」
とりあえず時期の引き延ばしを図る。
時間さえあれば、じっくりと説得することも可能だし、なあなあで事を済ませることもできるかも知れない。
しかし姉様の意思は強く、表情を変えずに首を横に振る。
「出来ることなら明日にでも出て行こうと想っているんだ。その為に荷物は分けてある。少なくとも私の冒険は此処で終わりだよ」
……準備が早い!
姉様は何時もそうだ。外食をする時だって、今日こそは私がスマートに支払いを済ませようと思っても何時の間にか会計を終えちゃっているし、露店通りで気になった装飾品を見つけた時も旅の邪魔になるからって我慢して宿に戻ったら何時の間に買ったのかプレゼントされちゃうし、姉様の寝顔を拝見したくて、どれだけ朝早くに起きても姉様は何時も笑顔で私を出迎えてくれるのだ。
先回りをされているのは慣れている、頭を抱えたくなる想いをぐっと堪えて姉様を見た。
うん、可愛いね! そうじゃない。
「……急に言われても困る」
パーティーで一番の頭脳派たる私が心を鬼にして告げる。
「食事の番とか、見張り番とか、今まで五人で回してきたのに抜けられちゃうと……」
「ああ、それなんだけどね。問題ないよ」
せめて代わりができるまで、そう話を進めようとするも姉様はあっけらかんと遮った。
「みんな気付いてないかも知れないけどね。今週、ほとんど私は手を貸してないんだよ?」
……そういえば今週、姉様が何時もよりも褒めてくれたから張り切って頑張った記憶がある。
バッと残る三人を睨み付ければ、三人もまた互いのことを見つめ合っていた。
こいつらも同じか、こんちくせう。
姉様の言葉に嘘がないことを察し、再び姉様を見つめ返す。
「いや、でも……」
「
「大きくなったよね。最初は私よりも小さかったのに、すぐに追い抜いちゃって……私はもう菫の足元にも及ばないよ」
「そんなこと……ないよ。私には姉様から学ぶべきことがまだ……」
「んーん、そんなことはある。教えられることなんて、とっくの昔になくなっていたんだよ」
姉様は私にむけて、にへらと微笑んでみせる。
「よく頑張ったね、菫。私は生涯、ずっと貴女のことで自慢できる」
えらい、えらい、と私の頭を撫でてくる。
あっ、駄目だ。
もう二度と会えなくなるかも知れないっていう瀬戸際なのに、姉様に認められたのが嬉しくって目から涙が溢れ出してきた。
何かを言わなくちゃいけないのに、声は嗚咽にかき消されて、情けなくもポロポロと涙が零れ落ちる。
嫌なのに、涙が溢れて止まらなかった。
「嫌じゃあ! 儂は嫌じゃぞ! 姉御が居ない旅になんの意味があるというのじゃ!」
泣いて言葉を発することができなくなった代わりに仲間の一人が声を上げた。
†
儂の名は紫苑。山姥に育てられ、夜叉丸と恐れられた鬼である。
人の手により山姥が退治されてしまった後、独り身となってしまった儂は鬼は鬼らしく人っ子を拐ってやろうと人里に降りてみたところ、その山道で出会ったのが姉御こと狭子であった。子供ほどの身の丈しか持たぬ彼女を見つけた儂は丁度良いと思って勝負を挑み、物の見事に返り討ちと相成った。それから、どういう訳か姉御のパーティーに加わることになって共に旅をするようになる。
その旅路で儂は仲間というものを知った、友の存在を知った。そして世の中を知った。
辛いことはあった、悲しいこともあった。それ以上に姉御と過ごした毎日は楽しくって仕方ない。それが、これから先もずっと続くものだと信じていた。
「……姉御は言ったではないか。儂に世界の広さを教えてくれると……まだ儂は大陸の半分しか知らぬのだぞ? 海の向こう側はどうしたのだ? 儂は姉御の故郷も知らないのだ、もう儂を独りにしないとも言ったではないか……」
震える声で訴える。しかし姉御は申し訳なさそうに笑みを浮かべるだけだった。
「ごめん、夜叉丸。私の実力ではもう貴女達に付いていくことは出来そうもない」
「そんなことは聞いておらん! 儂との約束はどうしたと言っておるのじゃ! 約束は絶対じゃと言ったのは主ではないか!」
「……私はもう故郷に帰るつもりはないよ。骨はこの地に埋めると決めたんだ」
だから、と姉御は言葉を続ける。
「会いに来てよ、私は何時でも待っているからさ。離れていても私は何時でも貴女達のことを想っている。どれだけ遠く離れていても私達が共に過ごした時間はなくならない……そうだね、何時か私の故郷に足を運んだ時には土産話を聞かせてよ」
「そういう話が聞きたい訳でもないのはわかっておろう!」
悟ったような、すましたような、そんな表情を浮かべた姉御は澄み切った瞳で私を見つめている。
「離れとうない、どうして分かってくれんのじゃ……!」
「ごめん、としか言えない。これは私の問題だから、夜叉丸はなにも悪くないよ」
「良いとか悪いとかではない! 儂は、お主と旅を続けたいのじゃッ!」
「……本当にごめん」
どれだけ訴えても姉御は眉を下げて、ただ謝るだけだった。
「狭子様がそう仰るのなら仕方ありません」
抑揚の薄い声で空気の読めないことを言うのは機械生命体の少女であった。
彼女は硝子のような瞳を動かして、端的に告げる。
「では私は狭子様に付いて行きます」
なにを言っているんだ、こいつは?
†
旧文明における生体機械人形、それが私である。
量産型の私には型番と呼ばれるものがあったが、しかし御主人様は「人間を人間と呼ぶ奴はいない」と言って私に素敵な名前を贈ってくれた。それが、桜、という名前である。私の桃色の髪が御主人様の好きな花の色に似ているらしい。それはきっと素敵な花なんだろう、その花の話をする彼女の顔がそう物語っていた。
私の旅の目的のひとつは、海を隔てた先にあるという桜の花を見に行くことだ。
「待って、どうしてそうなるの? 海の先にある国を見てみたいって言ってたよね」
困惑する小さな御主人様を見つめ返す。
確かに言った。しかし、それは御主人様が傍に居ての話だ。御主人様が好きだという花が、どのようなものか。この目で実際に見てみたいというだけの話に過ぎない。
それと御主人様を失うことに比べれば、どちらを選ぶかなんて火を見るよりも明らかだ。
「……貴女に拾われたその時に、私は狭子様を管理者として設定しました。貴女の傍に居て、尽くすことが私の使命なのです」
嘘八百である。
御主人様に管理者権限を与えていることは本当だが、必ずしも彼女の傍に居なくてはならない訳ではない。ついでに云うと管理者が居なければ、活動ができないということもなかった。脳内に埋め込まれたデータチップによると、私は自律型の機械人形。つまり自分で考えて行動することができるロボットだ。
しかし、そのことを知らない御主人様に私を拒むことはできない。
この嘘が後になってバレたとしても、それはもう後の祭りというものだ。今更もう皆の所には戻れない、と済し崩してしまえば良い。
勝った。内心で他三人に向けて、ほくそ笑む。これが勝利の方程式というものなのだ。
「それじゃあ皆を助けてくれないかな?」
ん? と小さな御主人様を見つめ返す。
「君の力は私よりも皆の為に必要なものだよ。命令が必要というのなら命令する……でも、できれば命令ではなくて、お願いとして聞いて欲しいな」
なん……だと……?
計算では、このまま御主人様と共に――それも二人きりで百合の咲き乱れた生活が送れたはずだ。
しかし勝利が約束されていたはずの黄金方程式がガラガラと音を立てて崩れ落ちる。
「い……いえ、しかし、私を必要としているのは貴女のはず……」
まさかの展開に狼狽していると「ええ、そうね。貴女が居ないと困ります」と脳筋ヒーラーの榊が告げる。
振り返れば、榊がスンと澄ました顔で、貴様だけを抜け駆けさせるか。と据わった目で口だけを動かす。
「しかし、このパーティーに最も必要なのは御姉様です」
私から目を外した榊が、確と御主人様を見据えて告げる。
†
「しかし、このパーティーに最も必要なのは御姉様です」
パーティーの中で最も敬虔で努力家の榊に真っ直ぐな目で見つめられる。
「戦闘では確かに御姉様は私達からは一歩、劣るかも知れません。とはいえ、それでパーティーを運営できる訳ではありません。宿屋の手配から依頼人や商人との交渉、道具の手入れ、天幕の設営、場所の選定、戦闘時の連携の確認……」
「さっきも言ったけど、それは貴女達だけでも……」
「いえ、そんなことはありません! このパーティーを指揮し、まとめ上げることができるのは御姉様において他にいません!」
胸に手を置いて、そう訴えてくる榊のことが微笑ましくて笑みを浮かべる。
私も昔はそうだった。榊を拾って、菫と出会った時、私に頼れる存在は他に誰もおらず、不安だけが胸に渦巻いていた。子供二人を連れたパーティーで本当に上手くやっていけるだろうか? その重圧に押し潰されないように必死になって頑張った。その過程で紫苑が加わり、桜を見つける。
そうやってなりふり構わずに頑張り続けて今がある。
「大丈夫だよ。うん、大丈夫。何故なら――――」
みんなにも、自分にも、言い聞かせるように頷き、そして前を見据える。みんなを見る。
「――みんな、私の自慢の妹達なんだから」
にかっと歯を見せて笑ってやる。
子供達に姉離れをする時期が訪れたように、私にも妹離れをする時期がやって来た。
これは、それだけの話なのだ。
「それでこれは私から貴女達に送る最初の依頼書だよ」
私は懐から取り出した小箱を机に置き、四人を見つめ返した。
†
私達は四人、宿屋に備え付けの酒場で酒を飲み耽る。
鬼の夜叉丸は泣き上戸、機械人形は酔い潰れ、脳筋ヒーラーは肉をかっ喰らう。
そんな三人を尻目に頭脳派エルフは熟考する。
手元には依頼書がある。
内容は、とあるダンジョンを討伐するというもので報酬は小箱がひとつ、前払いで手渡された。
この依頼が時間稼ぎってことは分かっている。
私達がダンジョンを攻略している間に村を出て、何処かへと姿を眩ますつもりなのだ。
依頼を放っておくことはできる。今、この場で小箱を開けることも簡単だった。施錠は簡易的なもので、依頼を達成したら開けてね。と鍵すらも渡されていない始末であった。
それはそのまま私達に対する信頼でもある。
「……どうする?」
まだまともに話せる脳筋ヒーラーに問い掛ける。
「御姉様の考えだと私達だけでも依頼を熟せるってことを証明したいのでしょうね」
んぐっと肉を飲み込んだ後、脳筋ヒーラーは口元を油を指で拭い取りながら答えた。
「それは分かってるけど、分かってても依頼を遂行するの?」
言外に姉様の今後、起こすであろう行動を示唆する。
「御姉様がそう望むのであれば……」
「それで姉様は遠くに行っちゃうかも知れないんだけど?」
「先ずは依頼の達成、全ては御姉様の判断の成否を確かめてからよ」
意味ないんだろうけど、と榊は不貞腐れるように酒を呷った。
まあ明日の朝に、もう一度だけ顔を合わせる機会もあるはずだ。私達だけでもやれるかどうか、貴女にはそれを見届ける義務があるとでも言えば良い。
そう思って私も酒を呷る、美味しくはなかった。
翌朝、その少し前。寝起きでズキズキと痛む頭を抱えながら周りを見る。
ふしだらな格好で眠る鬼の姿があり、部屋の中は一晩、寝ただけだというのに酷い有様だった。機械人形の方は脳筋ヒーラーが連れて行ったはずで、あちらも私達と同じような惨状になっているに違いない。姉様の部屋を巡っては日に日に争って、姉様と部屋を共にする時だけは行儀良くする。この鬼ですらも、少しはしおらしくなるというものだ。
とりあえず簡単に身支度を済ませてから、ぐうすかと眠る鬼の頭を蹴飛ばした。
逃げられない内に話そう、日が昇り切らない時間帯に部屋の扉をノックする。
何時もなら、もう起きている時間帯だ。姉様はパーティー内の誰よりも早くに起きて、誰よりも遅くに眠る。それでいて準備してから実行に移すまでが早いものだから彼女が率先して行動する時は置いていかれないようにするので精一杯だった。
正に行動力の権化である。
そんな彼女だから戦闘では、私達に遅れを取ってもパーティーのリーダー足り得たのだ。
本人は否定するけど。
「姉様、起きてるよね? 少し話があるんだけど……」
おかしいな、何時もはノックするとすぐに返事が返ってくる。
そして寝不足気味の仲間が出迎えて、親の仇を見るように睨みつけてくるのはお約束だった。
そういえば今日は一人だったんだっけ? 私はパーティーから抜けるからって――――
「――ああ、しまった!」
バッと扉を開け放てば、姉様がいるはずの部屋は蛻の空だった。
姉様はいつも行動が早い。