第一層の南東のエリア……虫系のモンスターが中心のこのエリアは上級者向けとなっている。
何故、上級者向けなのか。
別にモンスターが強いわけではない。ボス級のモンスターが居ない訳では無いのだが、出会う確率は低い。だが、それ以外のモンスターの遭遇率が異様に高いのだ。
もし、ソロで向かえば一瞬の内にモンスターの大群に囲まれるだろう。それでもチャレンジ精神から南東のエリアにソロで挑むプレイヤーも多い。
今日も一人、ソロで南東のエリアに挑むプレイヤーがいるのだが……
「あぁもうッ! どんだけ居るのよッ!」
南東エリアの奥……深い森の中で、トッププレイヤーの一人である魔法職の少女『フレデリカ』は窮地に立たされていた。
彼女の周辺を囲むのは100体以上はいるであろうモンスターの大群。しかも倒した所でまた別のモンスター達が彼女を襲ってくる。
普段の彼女ならこうなる前に撤退するのだが、これには訳があった。
(ほんと最悪ッ! まさかトレインを押し付けられるなんてッ!)
トレイン……逃げるプレイヤーを次から次へとモンスターが追いかける現象。本来ならそのような事が起こった場合、他の者達に告知するのがマナーだが、中には黙ってそれを他人に押し付け、
フレデリカに押し付けてしまったプレイヤーはそんなつもりは無いだろう。しかし、それを彼女が知る術はない。
「久しぶりのソロだからって、気分転換に来るんじゃなかった……ッ」
自身の行動に後悔するが、今さら後の祭り。
【多重炎弾】でモンスターを駆逐するが、あまりの数に接近を許してしまう。
「しま───」
気づいた所で時既に遅し。カマキリ型モンスターの一撃がフレデリカの小さな体を殴り飛ばす。
地面を転がる彼女の体。そこに我先にと押し寄せる蜂型や蜘蛛型、カマキリ型、蟻型などの多種多様なモンスターたち。その光景は年頃の女性の恐怖心を煽るのには十分だった。
「あぁもうッ! 次にあったら絶対に復讐してやるんだからぁッ!!!」
涙目になりながら自分にモンスターを押し付けたプレイヤーを恨むフレデリカ。来るであろう痛みに固く目を閉じる。
───が、彼女が痛みを感じることは無く、代わりに無数の銃声が彼女の耳に入った。
「───はえ?」
恐る恐る目を開けてみると眼前まで迫っていたモンスター達が光のエフェクトとなって消滅する姿が写ったではないか。
「えッ!? これ、どうなってるのッ!?」
驚くフレデリカを他所に遠方から放たれ続ける無数の弾丸。音が徐々に大きくなっている事から音源が近づいて来るのが分かる。
フレデリカは気になり、音のなる方向を見てみると……
「───……え? なにあれ?」
彼女が見たのは、無数の弾丸を放ち続ける虎を模した武器を手に此方に向かって走ってくる虎のキグルミ。こんな危機的状況には似合わない光景に思わず目を疑うフレデリカ。
彼女が呆けている間にもモンスター達は音に驚いたのか、一目散に逃げていく。代わりにフレデリカの元に近づく虎のキグルミ。
フレデリカは何時襲われても良いように臨戦態勢を整えるが、虎のキグルミは彼女に対して行ったのは気遣いだった。
「大丈夫だったかニャア? HPポーションいるかニャア?」
「え?」
「見たところ、モンスターの大群に襲われていたようだがニャア、トレインでもされた「ちょ、ちょっと待ってッ!」ニャ? どうかしたニャ?」
「えっと、もしかして……プレイヤー?」
「そうだニャア。名をタッツンって言うニャ。そういう君は?」
「フ、フレデリカ───って待ってッ!? まさか、『破壊のキグルミ』のタッツンッ!?」
「破壊のキグルミ? それってトラの事ニャ?」
「銃を使ってあらゆるものを破壊していくキグルミ着たプレイヤーなんて他にいるわけ無いでしょ……」
そう言って、フレデリカは目の前のキグルミを着たプレイヤー……タッツンにある掲示板を見せる。それは彼について取り上げられた物だった。
「『銃で破壊していく謎のキグルミ』『銃使うモンスター』『目の前のものすべてを壊す破壊のキグルミ現る』……なんニャ、これ?」
「全部君の事だよ」
「トラの知らぬところでこんな事が……」
「というか、なんで噂の虎さんがこんな所にいるのかな?」
「トラは食材の採取ニャ」
聞けば、ここは果実系の食材アイテムが多く、お菓子作りに最適なんだとか。
それでいつものように採取を行うため、スキルで周囲を索敵してみれば、モンスター達が一ヶ所に集まっていくのを確認。気になってマップを見たらモンスター達の進行方向にプレイヤーが一人いるのを見つける。ピンチだと思ったタッツンは慌てて助けに来たという事らしい。
「いやぁ。それにしても助けたのがトッププレイヤーのフレデリカとは。不思議な事もあるニャねぇ。あ、これどうぞニャ」
「(それはこっちのセリフなんだけど……)これは?」
タッツンから受け取ったのはワインレッドの液体が入った瓶。蓋を開けて匂いを嗅いでみると柑橘系の爽やかな香りがフレデリカの嗅覚を擽った。
「トラ特製のポーションジュースニャ。HPとMPの回復と一定時間INTが上昇するニャ」
「特製って、あなたが作ったの?」
「そうニャア。【調合】と【料理】を最大限上げることで手に入る【必殺調理師】で作れるようになったニャ。店でも出してるし、味は保証するニャ」
「店?」
「虎の料亭ニャア。見たことないニャ?」
「ああ。あの謎の店ね」
「謎の店とは失礼ニャッ! ちゃんと料亭って書いてるニャッ!」
「だって、普通ゲーム内で料理屋する人いる?」
「それはトラの自由ニャッ! バカにするならそのポーション返すニャッ!」
「いーやッ! 貰った物は返さない主義なんだよね~」
モンスターが近くにいるかもしれないという状況で、女の子と虎のおいかけっこが五分ほど続き、どういう流れか、フレデリカとタッツンは互いにフレンド登録するのだった。
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【NWO】『謎のキグルミ3』
1:名無しの大盾使い
タッツンが女の子と歩いてた
2:名無しの弓使い
kwsk
3:名無しの剣使い
kwsk
4:名無しの槍使い
kwsk
5:名無しの大盾使い
街歩いてたらタッツンが金髪の女の子と歩いているのを見た。装備からして魔法使いだと思う。
6:名無しの剣使い
金髪の魔法使い……まさか、フレデリカか?
7:名無しの大盾使い
詳しくは分からん。
8:名無しの弓使い
女の子と一緒に歩くキグルミ。これ、通報した方が良くね?
9:名無しの剣使い
>8
意義なし。
10:名無しの大盾使い
>8
リアルなら間違いなく通報案件www
11:名無しの槍使い
なんか、南東の森で出会って、流れで一緒に街に戻ったんだとよ
12:名無しの剣使い
なんで知ってんの?
13:名無しの槍使い
今、聞いた。虎の料理旨し
14:料理人
毎度、ありがとニャア
15:名無しの弓使い
本人見てたwww
16:名無しの大盾使い
ある日 森の中 虎さんに出会った
17:名無しの剣使い
そこは熊にしておけwww
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「───という事があってな」
「ふーん。良かったね、可愛い女の人と仲良くなれて」
「別にそんなんじゃないって。ただのフレンドだよ」
「どうだか」
「なあ。どうやったら機嫌を治してくれるんだ?」
「……ハグ。ギュッてして」
「……はいはい」
可愛い妹、理沙の要望で彼女の後ろからギュッと……所謂『あすなろ抱き』というものを行い、理沙は大変御満足したようだ。
「そうだ。龍兄、ちょっとお願いがあるんだけど」
「なんだ?」
「実は近い内に楓がNWO始めるの。私はまだ出来ないからサポートしてくれない?」
「了解。楓ちゃんも俺のもう一人の妹みたいなもんだ。ちゃんと補佐してあげるよ」
「言っとくけど、
「分かってるって。理沙は相変わらず寂しがり屋だな」
「龍兄がそうしたんですぅ」
二人は仲良く談笑する。
そんな中、部屋の外から母親の声が聞こえた。
『二人とも、仲が良いのはいいけど、早くお風呂から出てきなさい。後がつっかえているんだから』
「「はーい」」