ゲームの中でコスプレしても問題ないよね?   作:メンツコアラ

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道化少女は◯◯◯

 メイプルがゲームを始めた日の翌日。タッツンは一人、西の森を必死な形相で全力疾走していた。

 

(ちぃッ! まさか、こんな事になるなんて──)

 

 突如感じる首への悪寒。咄嗟に地形を利用し、枝を掴んで首に迫っていた刃を回避する。刃はそのまま木を捉え、ブッシュ・ド・ノエルを切り分けるがの如く両断する。

 

(あっぶねぇッ!? もうちょっとで首チョンパされてたッ!)

 

 最悪の結果を想像し、強制ログアウトされる一歩手前まで心拍が上昇。現実(リアル)では冷や汗をダラダラと流している。そんなタッツンの心情を微塵も知らず、刃を振るった本人は気軽に。そして、僅かに怒気を含んだ声で語りかけてきた。

 

「流石は破壊のキグルミ(デスプレイヤー)。ここまでジョーカーから逃げるなんて、新参者にしてはやるねぇ」

 

「まさか『死神(デスサイス)』から褒められるとはニャ」

 

 そう言って、タッツンは道化師を思わせる黒と黄色を中心とした装いと血色の刃を持つ大鎌を装備した少女を見据える。

 彼女はPN『ジョーカー』。NWOのトッププレイヤーの一人にして、『死神(デスサイス)』の二つ名を持つ少女。その鎌に狙われた者は数多く、生き残ったのはペインやドレッド、ドラグなどのトッププレイヤーでも上位に位置する一部の者たちだけ。

 何故、タッツンがそんな彼女に狙われているのか。それは彼の持つアイテムに原因があった。

 

「さあッ! さっさと『ロイヤルフォレストハニー』を寄越すのらッ!」

 

「断るッ! トラがゲットしたんニャからトラの物ニャッ!」

 

「うるさいッ! ジョーカーの獲物を横取りして手にいれたくせにッ!」

 

 『ロイヤルフォレストクインハニー』。フォレストクインビーを討伐した際に極僅かな確率で手に入る激レア食材アイテム。料理に使ってもよし。そのまま食べてもよし。甘さや舌触り、風味等、蜂蜜に必要な要素がパーフェクトなその味わいは一度食べたものを虜にしてしまうのではとネットで話題になるほどに。

 今日、タッツンは西の森で偶然見つけたフォレストクインビーを遠距離から討伐。その際に偶然ドロップしたロイヤルフォレストクインハニーにウハウハ状態。早速持って帰ってパンケーキにでも、と考えた所で待ったの声。それが彼女、ジョーカーだったのだ。聞けば、何日もフォレストクインビーを狩っていて、今日もいざと獲物を見つけたが遠距離から横取りされ、しかもお目当てのアイテムまで取られたらしい。故にロイヤルフォレストクインハニーを譲渡、もしくは共有して欲しいとタッツンに頼んできたのだ。

 しかし、ジョーカーの話は本当だったのだが、タッツンがそれを確認する術はない。

 彼女の話を信じず、嫌だと断るタッツン。それでも目の前の激レアアイテムを諦めきれないジョーカーは何度も頼み込む。そのしつこさにタッツンも知り合いを重ねてしまい、ついつい言ってしまったのだ。

 

『やらないって言ってるニャ。小学生ニャ? まあ、その身長ならそうだろうニャ』

 

『───は?』

 

 知らずしてジョーカーの地雷を踏み抜くタッツン。結果、今の状態に至るわけだ。

 

「乙女が気にしていることを堂々と言いやがってぇ…ッ!」

 

「うぉッ!? あっぶねぇッ!?」

 

 彼女の振るう鎌を【虎皇】で受け止める。【虎皇】のスキルのこともあって、防御には成功しているが、盾ではないので衝撃ダメージが僅かに通る。さらに、

 

「(さっきよりもダメージ量が多い。しかもステータスが少し下がっている…)てめぇ、何をしたニャ?」

 

「およ? ようやく気づいた? まあ、今さら遅いけどッ!」

 

 またもサイスの連続攻撃。何とか刃がかする程度に抑えるが、徐々にジョーカーの与ダメージ量と攻撃速度が上がっていく…いや。()()()()()V()I()T()()A()G()I()()()()()()()()

 

(やっぱり、ダメージを与える度に相手のステータス低下かッ! このままじゃあ捕まるのも時間の問題。なら──)

 

「そこ──ッ!」

 

 回避したばかりのタッツンの足を払い、そのまま押し倒したジョーカーはタッツンの首に刃を添える。

 

「さあ。さっさと寄越すのら」

 

「ちッ! 顔に似合わず、随分と手洗い真似をしてくれるニャ。正直、こんな出会いじゃなかったら仲良くニャれただろうに…」

 

「…それはこっちの台詞のら。今度、お前の店にも惜しいってやる」

 

「それは感謝。それじゃあ、最後に一つだけいいかニャ?」

 

「おやおや? 遺言ってやつかな?」

 

「そんな奴ニャ。トラの装備にはちょっとしたスキルがあって、あるモンスターの能力が使えるニャア。そいつは炎の虎で、確認したら()()()なんて物もあったニャ」

 

「ふーん。自爆技ねぇ………え?」

 

 青ざめるジョーカー。だが、もう遅い。タッツンはスイッチを押すように右手の親指を動かした。

 

 

 

 

 

「ふんふんふ~ん♪」

 

 東の山の麓にあるダンジョン『毒竜の迷宮』からU装備を手に入れたメイプルが出てくる。初めてのダンジョン攻略にカッコいい装備入手。ご満悦状態の彼女はスキップしながら町に戻ろうと足を運ぶのだが、突然遠方から爆発音が聞こえてきた。

 

「あれ? あっちって西の森があったよね? 何かあったのかな?」

 

 そう言いながらキノコ雲が上がる西の方向を眺めるメイプルだった。

 

 

 

 

 

●●●●●●●●●

 

 

 

 

 翌日、龍騎は自転車を押しながら理沙と共に通学路を歩いていた。

 

「はぁ……」

 

「龍兄、ため息ひどいよ。いい加減に元気出しなよ」

 

「そうは言うがな、myシスターよ。昨日はさんざんな目にあった挙げ句、自爆で落としたアイテムがまさかのロイヤルフォレストクインハニーだぞ? せっかく入手した激レアアイテムを落として、落ち込まない訳がない」

 

「仕方ないなぁ。なら私が無事にNWOを始めた暁にはそのジョーカーさんをコテンパンにやっつけるのを手伝ってしんぜよう」

 

「是非頼むわぁ」

 

 少しして、二人は分岐点を訪れる。

 

「じゃあ、私はこっちだから」

 

「おう。楓ちゃんによろしくな」

 

「了解ッ! …あ、龍兄ッ! 今日も会うだろうけど、あの人を後ろに乗せないでねッ! そこは私の特等席なんだからッ!」

 

 じゃあ、行ってきます、と手を振って楓が待っているであろうバス停に向かう理沙。龍騎も理沙が見えなくなるまで手を振り返す。彼女を見送り、さあ高校へと自転車に跨がるのだが、ふと違和感を感じる…いや。違和感とは言えないだろう。何せ、その感覚は龍騎にとって慣れたものだったのだから。

 

「乗せるなって言われると余計に乗りたくなるよねぇ」

 

「マコ、急に乗るなって言ってるだろ? 転んだらどうする?」

 

「気づかないタツキチが悪いのらぁ」

 

 そう言って、ふふんと鼻を鳴らすのは龍騎と同じ高校の制服を纏う小柄の少女。

 彼女の名前は『御来屋(みくりや) 真湖子(まここ)』。見た目だけなら小学生と間違えてしまいそうだが、実際は龍騎の同級生にしてクラスメイト。そして、もう一人の幼馴染みである。ちなみに彼女に対して身体の事は禁句である。

 

「さあ、きびきび漕ぐのら」

 

「今日は機嫌悪そうだな。何があった? また(あね)さんにBLを押し付けられたのか?」

 

「昨日、ゲームしてたら欲しかったアイテムを目の前で横取りされたのら。どうしても諦め切れなくて頼み続けたら、ソイツが私のかららの事でバカにしてきて」

 

「………ん?」

 

「ムカついたからキルしようとしたら自爆したんらよッ! お蔭でデスペナとアイテム消失ッ! 本当に嫌になっちゃう──て、どうしたのら?」

 

「マコさんや。ちなみに聞くが、何のゲームかな?」

 

「NWOらよ。最近w「昨日のお前かぁぁぁぁッ!!?」うひゃあッ?! き、急にどうしたのr──て、まさかぁぁぁぁッ!!?」

 

 ここで二人は気づいてしまった。昨日、エンカウントしたプレイヤーが互いであったのだ。

 

「バカキチッ! よくも昨日はやってくれたなッ! お蔭で手持ちのポーションが全部パァらッ!」

 

「それはこっちの台詞だッ! お前とせいでロイヤルハニー落としたんだぞッ! どう責任取ってくれるッ!」

 

「知るかッ! 大体、バカキチがマコをバカにしたのが悪いのらッ! 自業自得らッ!」

 

「うるせぇッ! さっさと降りろッ!」

 

「はあッ!? ここは詫びとして校舎まで乗せるべきのらッ!」

 

「それこそ知るかッ!」

 

 このあと、口喧嘩を続けた二人は仲良く遅刻し、理由を話すと教師に大きな雷を落とされるのだった。

 

 

 




御来屋 真湖子【ジョーカー】
龍騎と理沙のもう一人の幼馴染みにして、龍騎と同い年の少女。最近の悩みは姉がBLの沼に引き寄せようとすることと成長期が来ないこと。ニックネームは『マコ』。理沙とよく火花を散らしているが、その理由は当人たちしか知らない。




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