とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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接敵。


二章 67話『奪われる』

 

 

 

 サラトガ達が目的地まで進みつつ、定期的に冷葉へ無線を送る。

 折り返されることはなく、ただただ跡を残すためだった。

 

 南西諸島海域の近海付近に入った途端、サラトガたちは違和感を覚えた。

 海は奇妙なほど静かであり、海鳥の鳴く声も、魚の跳ねる音も……

 ましてや深海棲艦すら見当たらない。

 

 天気は快晴で雲一つなく、ずっと向こうまで見渡せるほど澄んでいた。

 たまに吹く、海風が心地良さを感じさせる。

 

 南西諸島防衛線を越え、バシー海峡を目指す。

 

 海鳥はどこへ、魚はどこへ行ったのか。

 先日まで異常海域として挙がっていた地域がこんなにも平和なのに違和感を拭えなかった。

 ここまでくると、生物の姿が見えないのはなにか巨大な災害が起こる予兆の気さえしてくる。

 

 艦隊の空気は、ピリピリと緊張感を孕んでいく。

 深海棲艦の姿が見えないのは、自分や響ちゃんが遭遇した巨大な生物のせいではないかと思い始めたサラトガだったがその考えは外れた。

 

 

??『そこの艦隊、止まりなさいッ!』

 

 

 拡声機でも使われたのか、突如として海上に響く声に対してサラトガたちは肩をびくっとさせる。

 声の出所を探すが、電探には反応しなかった。

 

 それだけでも、戦意を沸かすには十分だ。

 今までずっと何も反応がなかったのに急に反応が現れるのは不可解だからだ。

 まるで水中から上がってきたみたいな……。

 

 全員、構える。龍驤やサラトガに関しては発艦準備を済ませてある。

 だがしかし、どこにも敵艦と思われるポイントは見当たらない。

 そんなとき、時雨の脳裏にはある存在がシルエットで表示される。

 

 

時雨「! まさか、清霜なのか?」

 

 聞いたことのある声は、過去の記憶とリンクし、思い出される。

 

清霜『あはっ! やっぱり時雨ちゃんは分かっちゃうよねぇ! 流石、時雨ちゃん!!

   私だよ。あなたと同じようなカミサマ(存在)の力を借りた、ねぇ!!』

 

 時雨のつぶやきが聞こえたかのように反応する清霜。だが、姿はどこにも見当たらない。

 

清霜『無駄だよ。だって、頭の中に直接語りかけているもの。電探には引っ掛からないし、あぁサラトガ(副産物)もいるなんて今日は運がいいっ!!』

 

時雨「それで何の用? 僕たちは見ての通り任務中なんだけど……見かけたから嬉しくて話しかけただけならもういいよね? ――でもそんなのじゃないよね?」

 

 

 ぎりっ、と前を睨みつける。

 当然、前には陽の光が反射して輝く海と水平線しかない。

 

 口ぶりが変なのは既に見抜いていた。

 きっと次の瞬間には姿を見せてくる可能性が高い。

 

 ここは敵の陣地だ。

 そこかしこに罠が張ってあるかも知れない。

 

清霜『そうだよ。私は、いや私達は――君の居場所を奪うんだから』

 

 声が途切れると共に、電探にはサラトガ達の前方、約五キロの所に多数の反応を表示しだした。映し出される数に時雨や叢雲の顔は真っ青になりつつある。

 

 二人は表示されたモノだけでは、ぱっと見た感じは全く把握できていない。

 だが龍驤やサラトガは何とか大まかな数を把握できていた。

 

 それでも驚きに耐えられず、悲鳴を上げてしまったが。

 

 偵察機から送られてきた情報は海面を覆いつくすほどの深海棲艦。

 その中にはル級やタ級、ヌ級はいた。中には赤いオーラを纏った個体や黄色いオーラを纏った個体がいた。

 

 それらの個体が徐々に速度を上げてこちらへ向かってきている。

 激突するのは時間の問題だった。

 

 悲鳴を聞いた時雨や叢雲、榛名、神通はなにを見たのか聞いてくる。

 サラトガはとりあえず『皆さん、撤退をしましょう! 速度を上げて応援を――』と慌ててしまっていた。

 

 龍驤はサラトガに落ち着け、と言いつつ把握出来ていない時雨達に大まかな数を伝える。

 五キロ先にざっとだが八十はいるぞ、と。それを聞いた瞬間、肝が冷える思いをする。

 

叢雲「無理よ、私達じゃ……その数は倒し切れないッ」

榛名「それじゃあ、数を減らしつつ撤退しないと……」

 

龍驤「その前にうちらが――数を減らしたるしかないわな。行くで、サラトガ!!」

時雨「そうだ、冷葉補佐に無線を――え!!」

叢雲「な、何よ! 急に大きな声を出して――まさか!?」

 

時雨「そのまさか、さ。呑気に会話に応じなければ良かった……」

叢雲「今更後悔しても遅いわ! 龍驤さん! もう発艦して――」

 

龍驤「やっとる! サラトガ、数が多いだけや! 旗艦やろ!! 狼狽えんじゃない! 

   うちらが仕事放棄したら、何人死ぬか分かるか!?」 

 

サラ「そ、そうですよね。龍驤さん、ありがとうございます――サラの子たち行って!!」

 

 

 バシー海峡からオリョール海域付近で遭遇した清霜(テキ)の艦隊と遭遇したが、向こうの数の暴力に吞まれかねないと判断したサラトガ達は撤退戦を強いられた。

 

 

 

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 はッ……はぁ……はぁっ、と息が切れ、痛いし、苦しいと叢雲は感じた。

 最初はまだ戦えていた。

 

 だが、途中でしくじった、と。

 サラトガや龍驤の攻撃が敵の雑兵へ着弾させ炎の海へ変えていけていた。

 

 海上に轟く爆炎が立ち昇るとそれが合図となり、始まった。

 

 

 元々弾薬や燃料、艦載機に限りがあるのは分かっていた。

 セーブしつつ戦うのはとても厳しかった。数が数なのだから、倒しても、沈めてもその枠を埋めるように水中(シタ)から増えてくる。

 

 

 迎い来る敵の水上艦を撃沈しないまでも、負傷させるために攻撃をしていったが前文で述べた通り、敵は枠を埋めるように何度でも増えてくる。

 

 弾薬も燃料も、艦載機だって限りがある中、いつまでも闘ってる暇はない。

 しかしそれがいけなかった。

 敵の艦載機の攻撃により、神通や榛名が中破してしまった。

 

 誰かしらが被弾するとはこのとき、誰もが思っていた。

 でも、こんなに早く――まだ無線は使えない。それに泊地近海へはまだ百四十キロある。

 

 幸いなことは大破ではないことだ。速度は下がるかもしれないが、まだ戦える。

 絶望的な状態ではない。

 

 

 だが、心なしか敵水上艦の勢いが増してきているような気がする。

 このままでは押し切られてしまう事を考えた、サラトガは今残していた艦載機を全て発艦させ、一時的だが敵に壊滅的なダメージを与えようとした。

 

 そうすれば、迫りくる敵水上艦は負傷した仲間で躓くことになる、と思ったからだ。

 僅かでも足止めしつつ、魚雷や砲撃でさらに追い打ちを出来ればいい。

 

 提案はイチかバチかの賭けとなるが、採用された。

 龍驤も全ての艦載機を以て、追い打ちをと、乗った。

 

 時雨や叢雲、神通は魚雷数発を残して、他を撃ち。

 榛名は弾着観測射撃を行い、撃ち放った。

 

 決死の賭けは結果的には成功し、自分達の目の前はかつてないほどの爆炎が轟き、黒煙と水柱が立ちあがった。

 

 喜びに浸っていたかったが、今は少しでも距離を稼ぎつつ無線の使える範囲へ行かないとまずかったのでサラトガ達は泊地へ向かって前進していった。

 

 

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 爆炎と黒煙が仲間から上がるのをただ見ていることしか出来ない清霜はくつくつと笑いながら深葬姫に話しかける。

 

 

清霜「……たは~っ! これは、参ったね。ねぇ、深葬姫? 急に立ち止まるからなんだと思って見ていたらあんな賭けに出るなんて驚いたよ。ほんとうに」

 

深葬姫『そうだな。だが、失ったのは二十体ぐらいだ。

    というかエサを撒くんじゃないのか? 清霜』

 

清霜「失ったのは二十体って結構だよ? 残りは三百体。そのうち思い入れのある子は十体かな……まぁ育て上げた深海棲艦とは言え、使い捨ての道具だから。え? あぁエサを撒く予定だったけど、思ったよりも時間がかかりそうだからね。こうして私が指揮を執るのさ」

 

深葬姫『……貴様ではない者だったら、殺していたぞ。その発言』

 

清霜「それはごめんね。でもつまるところ、深海棲艦は戦って死ぬだけじゃないの? 他の鬼でも姫でも扱いは変わらないよ。きっと」

 

深葬姫『否定はしない。さて、こんなことを話している間に奴らとの距離は開けているぞ。追わないと厄介になる。そこに燃えてるイ級らはそのまま放置させ、無事な奴らは控えさせろ』

 

清霜「分かったよ。無事な者たちは、そのまま後ろに控えてる部隊と合流して指示を煽って!でも、勝手に泊地やネズミに向かうのはダメ! いいね!」

 

 負傷していない深海棲艦たちはそのまま水中へ戻っていく。指示通りに動いているはずだ。

 逆に負傷してしまっている深海棲艦らはそのまま放置される。

 

 燃えている身体を無理矢理、沈めようとするのだが上手くいきそうにない。

 今は時間が惜しいので後で回収させるとして、置き去りにする。

 

清霜「深葬姫。力を貸して。全力を出す時が来た。人間、艦娘、深海棲艦を凌ぐ力の前では無力だと魂に刻んであげないと……ねェッ!!!!」

 

深葬姫『いいのか? 貴様に我が力を貸し与え続けると、元には戻れなくなるぞ。世界にとって異質とも言える不死性(それ)も取り消すことは不可能になるが』

 

清霜「良いんだ。戦意もへし折って、希望も守りたかったものを目の前で踏みにじってあげるから。私の怒りは、私の怒りは――あぁ!!」

 

 深葬姫の力を借りて、かつての駆逐神棲姫と同じかそれ以上の憎悪を剥き出しにしながら清霜は黒く、生物を模した艤装を纏う。

 

 そして時雨の元へ、爆速で向かうのだ。

 凶刃ならぬ、凶撃は十数後には時雨の元へ到達する。

 

 

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 南西諸島防衛線を越え、泊地近海はもう目の前であった。

 深海棲艦らは追って来ないので、もう逃げれた気がした。

 

サラ「皆さん――!! 油断せず、気をつけてそのまま――」

 

 言葉が続かない。

 瞬間、サラトガが居た所には黒々とした煙と風が周囲へ舞う。

 

清霜「アレ? 時雨ちゃんを狙っタつもりなのニ……マぁいいか! どうせ、持って帰るンだから!!」

 

 何が起こったのか理解できないと後ろから楽しそうな声が聞こえてくる。

 未だ呆気に取られているとそこには生死の状況が分からない、焼け焦げたサラトガが前のめりに倒れていた。

 

時雨「サラッ!! ッ! おまえは――」

 

清霜「アハハハッ!! 時雨ちゃん! コの姿で会うのは初めてだよね! ネ! でも時雨ちゃんもこれからソレになるんだヨ?」

 

 キャハハと笑う。

 龍驤がサラトガの元に駆け寄って生死を確認する。

 

龍驤「良かった! まだ息をしとる! でもこれ以上は沈む云々で後遺症も残るかもしれない! すぐに撤退――」

 

清霜「させるわけないよネ? ネェ!!」

 

 龍驤の頭を殴ろうとした清霜に、ブチ切れた時雨が掴みかかる。

 

時雨「おい、おまえ。僕の仲間になんてことしたんだ?」

 

 いつもの声よりも、低い声で。

 表情相まって、危険だと判断した清霜は距離を取る。

 

時雨「龍驤さん! 今のうちに、僕が殿を務めるから行って! 神通さん、榛名さんも最大限に警戒して! 叢雲、そしてきみは――」

 

清霜「長い、ねぇ。私の後ろを見てよ。見えない? もうお終いなんだよ。きみたちが招いた結果を特等席で観させてあげる!」

 

 そこにはさっきよりも倍の深海棲艦が向かって来るのがみえる。

 例え時雨が殿を務めようとも、容易く突破されてしまうだろう。

 

 犠牲を少なくするにはこれが最善だと時雨は思っていたが、叢雲もここに残るように決めたようだった。

 

叢雲「敵が油断してる隙に早く! 行け!!」

 

 いつも出さない声を出してまで味方を進ませる。

 龍驤たちは振り返ることなく、泊地へ急行する。

 

 それを見かねた時雨は。

 

時雨「な、叢雲まで残らなくていい! 僕、一人だけで」

 

叢雲「馬鹿を言わないの! 元々ここで死ぬ気は更々ないわ。それにこの事態を聞きつけたうちの提督が飛んで駆けつけてくるわ。それまでに――」

 

 時雨と叢雲は話す。

 確かにこの事態を知ったら、芙二はすぐに飛んできそうだからだ。

 

 そうだね、と頷き、時雨は東第三鎮守府の時に暴走させてしまったあの力を使う事を決心する。きっと、今回は大丈夫な気がする。いや無理矢理にでも従わせる。

 覚悟し、自分に憑依させた駆逐神棲姫の残滓を解禁させる。

 

時雨「おまえに対抗するのは、これしか――ぐうぁ、がぁああ」

 

 憑依した神が残した残滓(ドク)は時雨の身体を再度、蝕み、侵す。

 前回はそれと怨念のダブルコンボだったが、今回はそれのみだ。

 

 痛みと共に髪の色は白が混じり、黒と白の二色となる。

 黒い瞳からルビー色のような瞳へ変わり、瞳孔は猫のように細く。

 

 肌の色は白くなり時雨の深海化は終わった。

 艤装は若干、生物を模しているがどこか神々しさを感じさせた。

 

 今の深海化は暴走の可能性は著しく低い。

 だが、直接降ろしている清霜を負かすことが出来るのかは分からない。

 

時雨の姿を見て、清霜の中から深葬姫は自分の記憶の中にある姿と合致した。

 

深葬姫『この力――あぁ奴はそこな娘に力を分けたわけか。だが、今や我らの方が上!』

清霜「へぇ。時雨ちゃんはあの薬で出たモノってそれなんだ。やっぱり――」

 

時雨「だるいな」

 

 時雨は魚雷を持ち、そのまま清霜を殴った。

 不意を突かれた清霜は海上を跳ね、味方へ激突した。

 

 あっけらかんとしてる叢雲に時雨は振り返らずに言う。

 

時雨「時間は掛けられない。叢雲、短期決戦だ。弾薬がなくなったら、僕の事は良いから」

 

 分かったわ、と言って自分達を越えていこうとするイ級たちへ砲撃していく。

 

 

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清霜「もう終わり? 良い啖呵の切り方だけと、力がついてこなかったね」

 

 弾が、魚雷が尽きた時雨は一心不乱に殴りかかり、良しとした清霜もそれに乗って殴り合った。途中、叢雲の弾が尽き離れようとしたが、増え続けるイ級たちに阻まれ離れる事が出来なくなっていた。

 

時雨「……ぅ」

 

 小さく呻き、血みどろになり倒れる。

 逃げれなかった叢雲は時雨の元へ掛けより、抱き上げるも息は細く、今にも途切れそうだった。

 

叢雲「時雨! 時雨! あんたら、良くも!!」

 

清霜「一騎打ちを申し入れたのは時雨ちゃんだよ? 私はそれを受けた、だけ。あぁそうだ。決めた。時雨ちゃんは広告材料として見逃してあげる」

 

 

清霜「ただ、君はダメだ。研究員の人も新しい研究材料(モルモット)欲しがってたからこれでとりあえずは許してもらおうっと!」

 

 閃いたかのように手を叩くと急に叢雲を殺さんばかりの勢いで殴る。

 

叢雲「ぎゃっ……!」

 

 咄嗟のことで短い悲鳴を上げるしかなかった叢雲だが、胸部に当たってしまい苦しそうな顔をして蹲る。

 

 それにもう一撃、加えると前のめりに崩れ落ちる。

 随伴のワ級を呼ぶと、意識のない叢雲を呑み込ませ、自分達の研究所へ持って行かせた。

 

時雨「……む、ら……く……」

清霜「ちょっと期待はずれだった。でも時雨ちゃんにも役割を与えるから安心してね」

 

時雨「ぁ……」

清霜「そぉい! 泊地の場所は分かるから、潮の流れを読んで投げる!」

 

 ぼろきれのようになった時雨を乱雑に高く投げる。

 思いきり、海面に叩きつけられるが艤装を纏っているため沈むことはない。

 この状態だと地面に叩きつけられているのとほぼ同じなため当たった場所は痛む。

 が、既に満身創痍なため反応することもままならない。

 

清霜「さて、さて!」

 

 とびきりの笑顔を時雨に向ける、清霜。

 深葬姫には清霜が何をするか、分かってしまった。

 

清霜「砲撃できる者は全員――的へ! ってぇ――!」

 

 無数の砲弾の雨が時雨に向かう。

 そして上へ、高く打ち上げられた。

 

 

 ======

 

 

 榛名は危篤状態のサラトガに肩を貸して、なんとか航行し泊地近海へこれた。

 龍驤が緊急の無線を冷葉へ送ると即座に繋がった。

 

 

冷葉「やっと繋がった!! お前ら、何があった!!」

 

龍驤「うちや、補佐ァ……今感情的になりそうだから、事実だけを言うわ」

 

龍驤「無数の深海棲艦と共に清霜が現れて、サラトガがやられた。それでキレた時雨が叢雲と共に殿を務めて……うちら、そろそろ燃料が……」

 

冷葉「!? 分かった! すぐに向かう、近くに休めそうなところがあったらそこで休んでいてくれ。芙二にも連絡つけるから!」

 

龍驤「りょう、かいや……それとな」

 

 それとな、なんだと冷葉。

 息遣いだけが聞こえてくる、かなり消耗してるようだ。

 

 冷葉はとなりにいる大淀に緊急事態ということを伝える。

 大淀は非番の艦娘へ至急集まるように連絡をする。

 

 

 『う、うあぁあああああああ』という悲鳴が聞こえてくる。

 びしゃびしゃと水が落ちる音や他の面々の悲鳴も聞こえてくる。

 

 

 何を見たのか、聞く前に誰かがいった。

 時雨がぼろきれになって降ってきた、と。

 向こうから聞こえる音声にノイズが入り始める。

 

榛名「あ、叢雲ちゃんが……」

冷葉「! 叢雲がどうかしたのか!!」

 

榛名「いないんです。時雨ちゃんもぼろきれ(こんな)状態だからきっと――」

 

 やめろ、それだけは聞きたくないと冷葉。

 だがしかし、そこへ大淀が口を挟む。

 

大淀「沈んでしまった、ということですか?」

時雨「……ぃ……ゃ……ぅ」

 

 小さな声が、今にも消えそうな声が冷葉の、大淀どころかその場にいる全員に聞こえる。

 

龍驤「時雨! 生きて、たんやなぁ!!」

神通「でも時雨さんも、危険な状態には変わりありません!」

 

 時雨が生きていたことを喜ぶ声と早急にドッグへ入れるべきという声が聞こえてくる。

 彼女達の燃料はもう、ほとんどないに等しい。長引いたら、確実に沈む。

 

 誰か一人向かわせなければ――と冷葉は考えた時、時雨の声は微かに希望を与えた。

 

時雨「む……く、もは……げほっげほっ……モル……ット、まだ、ぃき、る、はず」

 

 むらくもは モルモット まだ生きるはず? 生きてるはず、か。

 芙二がいればまだ助かるかもしれないっ!!

 

冷葉「どうせ、あいつだからすぐに――」

 

 言い終える前、それは訪れる。

 じじじっ――、ぴー、がちゃがちゃ、という音が聞こえだし、

 最後にはぶつっと音を立てて、無線は再度切断された。

 

 静寂が執務室を包む。窓から入る風が異様に冷たく感じる。

 絶望的な状況だが、我々には神に等しい人物がいるではないか、と。

 

 

 全て彼に丸投げはダメだがそれでも少しは親友として、相棒として。

 冷葉は己を鼓舞する。

 

 もうここまで来ると、やる事はただ一つ。

 全員で叢雲を奪い返す、ことのみ。

 

 

 

―続く

 




 叢雲、モルモット候補へ上がる(不名誉)
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