とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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二章 70話『作戦会議』

 同日 十八時 三十三分 寮内にて

 

 

時雨「……ねぇ、夕立。ぼくは間違っていたの?」

 

 泣きそうな、悔しそうな顔をしながらルームメイトの夕立に問う。

 しかし夕立は下を向いたまま、黙ったままであった。

 

 実際にこんな事が起こるなんて信じられないからだ。

 夕立自身は任務に就いていたから時雨達が遭遇したあの場面にはなかったからなんて声を掛ければいいか分からないでいた。

 

 

夕立(時雨は…………時雨は、悪くないよ。悪いのは――)

 

 そう言いたいが、言えないでいる自分に何とも言えない気持ちになっていた。

 

 二人の間に沈黙が漂い始めて、十分。

 時刻は十八時 四十三、四分となろうとした時、突然扉がノックされ驚く二人。

 

『時雨? いるか? いるなら返事してくれ。居なかったら、一応の確認のために扉を蹴破って侵入うするが構わないよな』

 

 なんて、事をいいながら芙二が訊ねてきたのだ。

 

時雨「あ、ぁの……提っ」

 

 このままでは大変なことになると思った時雨は声を出していることを伝えようとする時、『ぬっ』という効果音が出てきそうな登場の仕方をした芙二と目が合った。

 

時雨「え」

 

夕立「扉をノックした意味はっ!?」

 

 

芙二「え、そらァあれよ。マナーだろ?」

夕立「いやそんなことするのは当然っぽい!! でもだからって今の登場は仕方は正直ありえない…………」

 

 音もなく、影もなく扉の中央からぬるりと現れた芙二に対して時雨は固まっていたが、夕立は突っ込みを入れた。芙二が『マナー』なんて言葉を使って濁した際、夕立はつい語尾を忘れて引いた。

 

時雨「はっ……そうじゃない。提督、提督。ぼくに何の用?」

 

芙二「あぁそうだった。夕立のノリがいいからついやってしまった。時雨に叢雲が拉致られた時の状況を聞こうと思ったんだった」

 

 ノリが良かった夕立の頭を撫でながら、時雨に知りたいことを聞いた。

 夕立は『ノリがいいってなにっぽい!?』などと言っていたが、二~三分経つ頃には大人しくなっていた。しかし時雨は芙二に話そうとしなかった。

 

芙二「……おまえが悪いわけじゃない。だから、自分を責めるなよ。時雨」

 

時雨「だって、ぼくがあの時の力を使えていれば――」

 

 叢雲を、仲間を奪われるなんてことはなかった、とそう言いたかったが、言い切れなかった。

 

芙二「……とりあえず、だ。仲間が轟沈しないだけ良かったと思う事にしよう。な? 時雨」

時雨「…………」

 

芙二「夕立、少し席を外してくれないか? 食堂に夕飯が出来てるんだ。時雨も後で行かせるから。な?」

 

 静かに、ただ穏やかに夕立の顔を見ずに話しかける。

 芙二の雰囲気を見て夕立は『これから時雨は怒られるんだろうな』なんて思いながら了承して、部屋を後にした。

 

 

 パタン、と音を立てる扉を背に芙二は時雨に改めて問う。

 

芙二「敵は清霜だけがいたのか? それ以外は? 何かおかしな点はなかったか?」

 

時雨「ぼくたちの目の前には深海化した清霜がいた。それ以外は多数の深海棲艦、あの薬の効果が表れておかしくなっていた清霜と…………一つだけおかしなことがあったよ、提督。清霜が深葬姫って呼びながら宙へ話しかけていたんだ」

 

芙二「深海化してる清霜か。実は本営で夕雲に会ったんだ。大本営ン所の夕雲かと思ったらこれが違ったんだよね」

 

時雨「まさか?!」

 

芙二「そう。そのまさかさ。夕雲は深海化してるしで、まぁ大変だった」

 

時雨「でも提督がいるって事は、戦闘不能にしたんだよね?」

 

芙二「そうそう。適当な理由をつけて、大本営ンところの艦娘に預けてきた。深海化はもうしないと思うよ」

 

時雨「…………あぁそう。そっちは他に何かいた?」

 

 いねぇな、と言ったまま時雨に薬のことを聞いた。

 

芙二「で、だ。清霜がどんな感じに変化していたかは……」

 

時雨「ぼくよりもずっと強くなっていた。でも、ぼくに駆逐神棲姫が憑依していた時の力のようなものを感じたよ」

 

芙二「なるほどねぇ…………じゃあうん。やっぱりアレだわ。清霜は薬だけの力じゃないよ。ソレ」

 

 だよねぇ、と時雨。続けてこう言った。

 

時雨「一応分かったんだけど、ぼくには残滓しかない状態だったからね。引くに引けないし」

 

 後ろには龍驤たちもいたし、叢雲だって戦ってくれてたんだ。

 東第三鎮守府での失態をしないためにも、奮戦したんだけどなぁ…………。

 

芙二「そんな時雨君に朗報。駆逐神棲姫(カミサマ)の力を返すよ。帰り際に託されたからね」

 

 なんて、半分くらい嘘を交えてかつて時雨が扱えていた力に、もう一つ芙二の力を加えて返す。

 

時雨「! ……これが、ぼくが引き出せる本来の力なんだね」

 

芙二「そうだ。で、もう一つあるんだが、これは頼みだ。受けるかどうかは任せる」

 

 改まったようにいうと、時雨は『一騎討ちだね?』と聞いてくる。

 

 そうだ、と芙二。

 加えて『深葬姫とやらは、俺が何とかしておく。あとは、まぁどうにでもなった清霜とサシでどうぞ』と言ってドアノブに手を掛けて部屋を後にした。

 

 

 ========

 

 

芙二「それではこれより、会議を始める。内容はさきほど放送で伝えたとおりだ」

 

 泊地内にある会議室内には提督である芙二。補佐もとい代理である冷葉。憲兵である八崎、紫月の四名で話し合いが始まった。

 

 泊地に居る者は芙二が放送で伝えた通りに動いている。

 艦娘は今は戦いに向けて休ませている。

 

冷葉「芙二、今日海へ出た艦娘は警備でいいんだっけか」

 

芙二「いや一人だけ変更する。それは時雨だ。ちょいと、あいつだけ行動パターンが異なる」

 

冷葉「ボロボロだから、泊地に居るって事か? それだったらいいかもしれない――……」

 

 いや、と冷葉の言葉を遮って話し出す。

 

芙二「第二部隊の方へ入れる。紫月殿、オリョール海域にあるんだよな? やる事、やる事真っ黒な場所が」

 

紫月「え、あ、うん。一応聞くけど船で行くのかい? でも奴らも警戒していると思うから危険なんじゃないかな」

 

芙二「その辺は大丈夫。船だと遅すぎるから――(オレ)が直接、取り返しに行く」

 

 静かな口調が一転、荒々しい口調に変わった。

 表情も険しく、怒りが隠せていないようだった。抑えられていない怒気は会議室にいる彼らに影響を与える。

 

 服越しでもビリビリと肌に伝わる。

 それほど芙二が大事に思っていて、大切に思っている事が分かった。

 

芙二「それでいて紫月殿、一つお願いがあるのだがいいだろうか」

 

紫月「なにかな、芙二殿? あまり法に触れるようなことは断らせてもらうよ」

 

芙二「いやそんな事じゃない。これから見たものは他言無用でお願いしたい」

 

 だから、人殺し(触れること)とかは――と言いかけたが芙二から一旦目線を逸らす。

 

芙二「人殺しはしない。深海棲艦はぶっ殺すけど。殺すと折角掴んだ尻尾を見失う事になる」

 

 そういうのを聞いていると一応分かってるんだなぁ、と思う紫月であった。

 

冷葉「俺は、ここで艦娘たちに指揮を執ればいいんだな? だから二部体制なんだろ?」

 

芙二「そうだ。俺と紫月殿と八崎さんの三人でオリョール海域の真っ黒な場所へカチコミしてくるから。あ、それとついでに異常海域の原因も探ってくる」

 

 なんとかするって言っちまったしな、と笑う。

 オリョールの先にいるであろう、同郷のモンの仕業だと思っているけどね、と内心は考えていた。

 

芙二(これが終わったらシェリルさんたちの調査も進めれるだろうし。とりあえず制海権を取って、付近の深海棲艦を救わねば……ならないな)

 

八崎「芙二殿、お客さんですよ」

 

 ずっと黙って聞いていた彼女が口を開いてそういった。

 冷葉も紫月も何を言っているのか分からなかった。今の今まで誰もノックしてきていないのだから。

 

芙二「そう。入ってきてもいいぞ、アビス、夕張」

 

 扉へは一切視線を向けず、そういった。

 言葉が終わると同時に、音を立てて扉が開く。そこには夕張と彼女の肩に乗る妖精さんがいた。

 

夕張「こんばんは、提督。ちょっといいかしら? って、今は会議をしてるわよね……遮ってしまってごめんなさい」

 

芙二「構わない。それほどの用なのだろう? 会議はほとんど終わりに向かっているから、話してくれ」

 

 肩に乗っていたアビスは芙二の元へ飛んでいく。

 夕張はすぅっとひと息を吸うと真剣な顔をして話し出した。

 

夕張「私も第一部の組みへ入れてほしいの! 道中の深海棲艦もそうだし、提督たちのサポートに回りたいの」

 

芙二「ダメだ。夕張、それは出来ない。艦娘は二部からと決まったからな。一部兼先行組は(オレ)憲兵(ふたり)で足りる。今回は電撃作戦でもある。時間をかけてられないんだ。夕張は明石と共に泊地へ残ってくれ」

 

 そう伝えると、夕張は納得いかない顔で食い下がろうとする。

 しかし芙二は気にしないと言った雰囲気で続きを話し出す。

 

芙二「勿論、夕張たちがいた方がいいのは分かるが(オレ)が気にかけてる余裕がない。夕張は明石と工廠の妖精さんと一緒に仕事をこなしてくれ。それは君たち、強いては夕張にしかできない事だ」

 

 席を立ち、夕張の元へ歩きながら言った。

 そして夕張の肩を叩いて『夕張、君にしか出来ないことだ』と強調して言う。

 

夕張「それでも…………一緒に戦いたいの」

 

 ちゃんと理由を伝えてもまだ食い下がる。

 どうしてここまで食い下がるのか分からない。

 

芙二「どうして、そこまで食い下がる?」

夕張「それは…………」

 

 分からないという表情を覗かせた芙二の問いに対して言い淀んでいると、紫月が割って入る。

 

紫月「芙二殿、いいのではないでしょうか。夕張さんがいても。どうして、拒むようにするのですか?」

 

 冷葉が紫月に対してなにか言おうとしたとき、芙二が手で制す。

 そして苦しい表情を見せながら、一言。

 

芙二「これから制御(リミッター)を外すからだ」

 

 アビスを除く一同は『リミッター?』と首を傾げる。

 

アビス「外すと、芙二は一時的とはいえ、怪物となります。それも醜い怪物へと。いつものように理性が仕事をしない。だから――」

 

 淡々と話す、妖精さんの言葉に対して紫月が聞き返した。

 

紫月「だから、なんだい? 小さな賢者さん」

アビス「殺してしまう、いやこの場合は誤って殺してしまったら、でしょうか」

 

 そう、と頷く。そして『殺すだけ、ではない』と続ける。

 

アビス「消滅させてしまうでしょう。その場合は芙二でも蘇生は出来ない」

 

紫月「へぇ! それはとっても――」

 

 『面白そうか。憲兵よ』という。

 明るい表情をしていた、紫月はとても驚いた表情をした。

 

芙二「貴様。変に茶々を入れるではない。貴様が言っていた、(オレ)と似たような力……看破したが、ふむ。明石に似た力だな。明石は艦娘用、そこな憲兵は――いや今はよそう」

 

 紫月の方を見ると、どうしてそこまで知っているんだ。

 口にはしていないが表情が物語っている。

 

芙二「この作戦が終わったら、少し遊ぼうか。ねぇ…………紫月殿?」

 

 子供を愉しい遊戯へ誘う悪魔のような笑みを浮かべ、話す。

 が、紫月は二つ返事でいいよ、という。

 

芙二「オーケー、オーケー。んじゃぁ、とっとと行動しちまうか。冷葉、放送頼んだ」

 

冷葉「おう、任された。みんなに伝えればいいんだな」

 

 いや違う、といいそのまま『作戦が終わり次第、空襲警報を解除してくれ』と加える。

 

芙二「まぁ艦娘への連絡も必要だがね。口上も任せる。吾にはどうしようもないからな。終わったら終わったらでまた休みになりそうな予感がするんだけどね」

 

冷葉「その辺は終わった後に話しをしようや。ささ、行けよ。初期艦さま(ムラクモ)が待ってるぞ」

 

 ニヤっと笑い送り出そうとする。

 

芙二「おう、ちょいと殲滅してくるわ。ということだ、夕張。申し訳ないが入れる事はできない。紫月殿、八崎さん。一時間に母港へ集まってください。予定を早めます」

 

 八崎と紫月は立ち上がり、敬礼し返事をする。

 準備のために退室し、残るのはアビス、芙二、冷葉、夕張の四名となった。

 

芙二「夜戦運用も兼ねた実験と称する。オリョール海域には連合艦隊で行け。夜戦だと空母は夜襲が出来る艦載機がないよ行動できない。だから水上打撃部隊で全力出撃をしろ」

 

冷葉「絶対に入れないといけないメンバーは? 時雨だけか?」

 

芙二「時雨は必須だ。他のメンバーは冷葉と大淀さんたちと考えればいい。ただ、夜で終わらなかった場合を考えて、だ。支援艦隊も許可する。場合によっては近海警備に就いている艦娘を呼んでも構わない」

 

冷葉「分かった。では、ご武運をっ!」

 

 席を立ち、一礼して夕張と共に退室する。

 

 残ったのはアビス、芙二だけとなった。

 

芙二「あ、アビス。これ魂晶ね」

 

 自身が海上で消費したものとは別の、取り立てホヤホヤ新鮮な魂晶を懐から渡す。

 

アビス「全員、消滅させたのではないんですか」

芙二「俺ってば変に器用だからね。まぁその辺は大丈夫なのさ。魂をお姫さんのところへ送ってやって」

 

 ニシシと笑って手を振ると、少し安心したような表情をしたアビスがそこにはいた。

 やがて、消えるようにいなくなる。芙二は深海神域へ行ったのだと分かっていたので、戸締りをする。

 

 電気を消し、退室するとき、

 

『待っていろよ叢雲……』とそう呟くのだった。

 

 




 叢雲奪還作戦、遂行せよ。失敗は許されない。
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