情けなどない
約束の時間になり母港には芙二と八崎、紫月の先行組と冷葉、一部の艦娘は見送りに来てくれたようだ。
深夜の時間帯に入り、空気も冷え冷えしてくる。
母港には優しい風が舞い込んでくる。出発前だが、幸先がいいように感じた。
冷葉「芙二、こっちは任せてくれよな」
芙二「あぁ任された。冷葉、みんなに気張れと伝えておいてくれよな? マジのところで気を抜くと確実に死ぬからな」
冷葉「みんな分かっているさ。八崎さんも紫月殿も気を付けて。奴らは何をしてくるか、分からないから」
八崎「えぇ。私、これでも不器用なんです。だからついうっかり……」
紫月「まぁその辺は僕がどうにかするよ。八崎殿、お互いでサポートしていこう」
各々の会話が終わり、出発する時になる。
芙二は紫月にさっき言ったことを、再度伝える。
芙二「……ところで、紫月殿。今さっき言った他言無用の件、今からでも大丈夫?」
そう言われた、紫月は『構わないけども……何をするの?』と芙二に問う。
【
芙二「ふぅぅ……うん、近接戦闘をやりつつ魂を奪うには最適解な気がする」
などと言いながら、長く伸びた指で顎をさする。
『『えぇぇえぇえぇ!!??』』と芙二以外の者が全員驚く。中には、近づいてきて服や芙二を触りまくる者も現れ始める。特に目を引いたのは尻尾のようだ。
ゆらゆらと揺れる尻尾は藍色に薄く光るという幻想的な光景を見せる。
芙二「そこまで驚く事か?
執拗に尻尾に触れてくるので注意をするが触っている者たちはくすぐったいだけかと思ったらしく、止めなかった。
それを見ていてイラついた芙二は自身の尻尾を一つ消費し、スキルを発動する。
【
触っていない者は芙二の尻尾がひとつ消えたことにすぐ気づくがその他の者は気がつかない。
芙二「八崎さん、紫月殿。時間が惜しい、行こう」
傍から見ていた二人に促す。
近づいてきたのを見計らって二人の腕を掴み、行こうとするとき、言い放つ。
芙二「
不穏な事を言うと同時に冷葉たちの周囲に霧が発生しだす。
突然のことに驚いて芙二に尋ねようとするも、もうそこには居ないようだった。
冷葉「まさか……灸を据えるってそういう」
と言った時、ズシンと重力がかかるのが分かった。
ビキビキと音を立てて、地面に沈む。
尻尾に触れていなかった面々は軽めの異常が発生するが、触れていた面々は違う様だった。
重力がかかると同時に、地面が泥沼化しており、ズブズブと沈んでいくのが見えた。
『キャー』とか『わ、何が起こってるの!?』と悲鳴が聞こえてくるので、
引っ張り上げようとするも、触ることが出来ずにいたのだった。
冷葉(……みんなには強めに言っておこう。それでもダメだったら自己責任ということにしてもらおう)
地面に沈んでいくものを見つつ、そう思ったのだった。
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南西諸島海域 バシー海峡 付近にて。
芙二「……よっと。さて、ここまで来て思ったが深海棲艦が居すぎやしねーか?」
二人を連れた芙二が海上に降り立ってそういいながら、周囲を見渡す。
八崎「暗くて何も見えないのですが……夜の海ってこんなにも怖いんですね。黒くて、なんでも呑み込みそうです」
紫月「僕は夜目が利くけど……芙二殿は一体どこまで見えているのですか? というか、どうして――」
言葉を言い終わる前に、芙二が遮って言う。
芙二「沈まないのか、か。それは簡単、肉体に干渉して不沈を付与しているからね。効果が切れるのは四時間後くらいかな。とっとと、奪い返すぞ」
紫月「さらっととんでもないことを言ったね……芙二殿は人間じゃないんだ。! 西から何かが来る!」
僕と同じだなんて思っていると、海上を動くなにかがこちらへ向かって来るのを聞き取った。
芙二「来たか、何体いるか分からないが二人とも少しここから離れる。決して動かないでくれ」
八崎「え、二人はなにを見たのですか……?! やだ、この人たちもしかして――――」
ドォン ドォン と轟音が聞こえ始める。
砲撃されたのだ。紫月が言っていたなにが来るというのは深海棲艦のようだ。
だが、芙二の後ろ姿を見ていると、またひとつ尻尾が消えた。藍色の薄い光は海上で非常に目立つ。
八崎「あれ、また消えた」
紫月「消えたね、二つ消えて――――」
バリッ! バリッ! バリバリッ!
一瞬、時間が止まったかのように感じた直後、何かが砕けるような音が轟音よりも鮮明に聞こえた。
急に頭上から光が海を照らす。
何事かと思って、見上げるとそこには――――燦々と輝き放つ何かがいた。
白いローブを被った女の子に見えた。
天使のような羽をもつそれは芙二ではない、のがすぐに分かる。
だが、二人の目には表情こそは見えないがそれでもそれはとても恐ろしく、しかしとても穏やかな雰囲気が伝わってくる――何かが居た。
紫月「な、あれはなんっ……なんだ?!」
八崎「わ、分かりませんが……はっ! もしかしたら――」
ピンときた八崎だったが、次の瞬間、
これまで以上の轟音が聞こえ、声が掻き消された。
そして目の前から爆炎が迫ってくるのを見た八崎は咄嗟に身を屈める。
でも八崎や紫月が爆炎に包まれることはなかった。火傷することなかった、二人はハッとして上を見るとそこには何かはいなくなっていた。
芙二「ふぅ、戦闘終了。二人とも、お待たせ」
バシャ、バシャ音を立てて歩く芙二が現れた。
きょとんとしている二人に話しかけ、付近の深海棲艦は殲滅したから早く行こうと促す。
紫月「あ、うん。そうだね」
そう返事をする、紫月は八崎へアイコンタクトを送る。
八崎(そういう事ですか……あとで芙二殿に伝えましょう)
アイコンタクトの意図を理解した八崎は芙二と紫月についてくのだった。
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オリョール海域 海上
清霜「来たよ、深葬姫。本命がさ。本当に秘密兵器っぽいけど……」
深葬姫『そうだな。! ……あぁやはりそうか。そうだったのか』
清霜「どうしたの? 何か納得したような感じだけど……」
深葬姫『例の秘密兵器がどうして、やつらと同じ気配がするのか分かった。あれは――』
清霜「あれは?」
続きを話そうとするとき、深葬姫のいう『あれ』が姿を現した。
清霜自身の背後にいた深葬姫は指を差す。そこには燕尾服を着た何かが居た。
もっともそれは芙二なのだが。
清霜「あれはなに……? あんなのが海軍の秘密兵器ってこと!?」
深葬姫『あれは――海軍の秘密兵器なんぞではない!!
神の使者。深葬姫は真面目な顔でそう言った。
清霜は呆気を取られたが、すぐに笑いだす。
清霜「きゅ、急にどうしたのさ! クッククク……アッハッハッハ!! ほんと、笑わせてこないっで」
深葬姫『深海神棲姫の使者よ。この我を連れ戻しに来たのか? それにその歪な姿はなんだ、すぐに失せよ』
腹を抱えて嗤う清霜と真面目な顔で問う深葬姫。
芙二は溜息を吐き、無視をしてしゃがむ。
そして海中に手を入れると、ふっ!と微弱な
芙二がかつて扱った神の雷は生き物のように動き、その電気で潜んでいた有象から命を奪う。
清霜「っ!? な、なに……今の。ビリって電気が走ったみたいに……え!?」
笑っていた清霜だがわずかに感電したのか、止めて周囲を見渡す。
燕尾服を着ている使者とやらが水中から白い蔓のようなものを引き出し『干渉して救魂っと』と言った。
勢いよく、白い蔓を引き抜いたのかその端々には白く丸いものが鈴生りになっていた。
それを自分の元へ引き寄せると、スッと何処かへやった。
清霜「あ、あれはなに、なんなの?」
深葬姫『清霜! あいつと戦うな! アレは――ぎぇ!!』
動揺していると、深葬姫が声を荒げて忠告するがもう遅い。
芙二は無音のまま、接近し深葬姫を鷲掴みにする。
清霜「深葬姫!? な、いつのまにっ!! この――」
芙二「貴様はここで死ぬ定めではない。故に、だ。このバカはここで退場してもらうがな」
清霜の零距離砲撃を当たる瞬間、コンマ数秒足らずで交わしざまに腹部を殴る。
その瞬間に干渉して深葬姫を無理矢理剥がす。
清霜「ぁッ!? な、に……がっ!」
内臓を焼かれる痛みを感じた清霜はその場に崩れ去る。
げほ、げほと噎せる。まだ痛みに呻いていると、清霜の中から在る存在がいないことに気がつく。
清霜「深葬、姫!? 深葬姫はっ……ぐぅっ……いた、いなぁぁ!!」
どこにもいない。どこにもいな―ーいた。
芙二に向かって殺意を向け、掴みかかるように飛びつく。
芙二「
言いながら除けられ、無様に地べたへ這う。目は諦めておらず、憎しみが向けられていた。
芙二「ならば、ここで貴様の心を殺す。時雨には悪いが、まぁ仲良く殴り合ってくれ」
そう言うと、深葬姫を消した。清霜の目にはそう見えた。
正確には魂晶へ封印しただけだが。
清霜「………………」
芙二「一応、結界の中に入れておこう」
清霜を隔離し、研究施設へ飛ばした八崎と合流するべく向かった。
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少し前 芙二と八崎、紫月は。
芙二「この先にちょいと用があるんだけど、二人は先に行っておいてほしい」
八崎「え、見えないし場所が分からないのですが? どうしろと?」
紫月「僕は場所が分かるけど、海は暗いし方角を見失ったらお終いだよ」
芙二「大丈夫。紫月殿の頭を少し除いたのと以前、ドローンが飛んできた場所とで大体の場所は割り出したから。で、研究施設がある島の中でも潜伏しやすい所に飛ばすから――一応、暗視しやすいように弄ったからもうしばらくしたら昼間と変わらないように見えると思うよ」
八崎「!? なんか今とんでもないことを…………」
紫月「そうだね。それじゃもう送るのかい?」
芙二「その予定だ。落ち着いたら、待機している
二人を連れて、研究施設がある島へ移動する。
去り際に『侵入して荒らすも良し、吾が来るまで待機しても良しだ。任せる』と言い海へ消えた。
紫月「とりあえず、待機班の所へ無線を飛ばすので休憩と行きましょう、かね」
そういい、賛成と頷き休憩をするのだった。
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海上 結界内にて。
清霜「…………」
あぁ何もかも失った。
例の人間がここにいるということは夕雲姉さんは再起不能にさせられているのは確か。
深葬姫も失って、力を奪われた。
ははっ……あんなの無理に決まっているじゃない。
清霜「時雨には悪いが、ね。…………それじゃあアレが東第一泊地の提督、か」
そうだ。
あの口ぶりだと時雨がリベンジしに来るのではないか?
ならば好都合。
この憎しみ諸共、ぶつけて晒上げてやる。
どうせ、あと半日も生きられない。
なんだってやってやる。
結界の中で、絶望していた清霜は自棄になったとき、苦痛に顔を歪める。
清霜「う゛!? う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああ!!」
止むことのない痛みは清霜を蝕む。
そして悲鳴を断末魔のような悲鳴を上げたとき、清霜の意識は途切れた。
深葬姫、退場