とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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 救えない、救われない


二章 73話『失敗作たちは願う』

 

 生体実験室の扉の前まで来た芙二は扉越しだが中に何がいるのかを把握するために視る。

 

芙二「こりゃあ……十、いや二十か? 反応の小さなモノから始まって大きなモノまで……中は全部、深海棲艦か。魂まで救えるか、試す価値はあるな」

 

 昼間は喰らったり、壊してしまったが普段ならそのような事はしない。

 お姫さんからの約束を違えないように、芙二なりにしっかりとやってはいるのだ。

 

 喰らうのは、怨念を凝縮した結晶。魂晶まで喰らうのは滅多としない。

 だから、こそ自身が気絶させた榎本から聞いた話は到底信じられるものではない。

 

 だが、時雨、清霜、サラトガという被検体が存在している以上、いつまでも理解が出来ないと避けていては意味がなかった。

 この先には想像を絶する深海棲艦や艦娘の成れの果てがいるかもしれないが逃げることなど出来ない。

 

 故に、芙二は進み、殺す(救う)という手段に出るしかないのだった。

 

 ドーーン! ガシャン! ガラガラ

 

 扉を無理矢理破壊して、部屋の奥まで吹き飛ばした際そんな音が鳴った。

 それを聞きつけて中にいる成れの果てとも思える存在が 寄ってきても構わないと思っていた。

 

芙二(……さて、成れの果てが出てくるか、或いは……とんでもない化け物が出現するか)

 

 だが心のどこかで緊張はしていた。

 ここではないかもしれないが、もしかしたらあの南西諸島海域に住まう怪物(カイン・アッドレア)を作り上げた所かも、と。

 

 しかしそんな場所だからこそ、予想を遥かに超える個体が出現しても驚かないつもりだった。

 そんな考えも覆されることになる。

 これから来るモノを見たら芙二は――爆発してしまうだろう。

 

 ヒタヒタ ペタペタ ズルズル

 

芙二「おでましか……なっ!? なんだ、こりゃあ……」

 

 集まって来るものを見た瞬間、頭に血が上る。

 ずっと、【魂を喰らいし、怒れる鬼獣(ブラック・ビースト)】の状態だったがそれに狂獄龍忌呪が混ざる。それほどまでに怒り狂いそうになっていた。

 

 生物の本能に作用する厄災が波動となり部屋全体を蝕む。

 それでも止めることなく、寄って来る。

 

芙二「ッ!! ……俺にそんな、目をするな。そして向けるな」

 

 一体の深海棲艦の目が合う。それは懇願している、訴えているかのように見えた。

 何に対して、懇願または訴えているのかというとそれは――――死だ。

 

 敵であるはずの深海棲艦たちは口がない者、なにかのキメラとなっているもの、遺伝子を弄られたのか、ぐちゃぐちゃになっているもの、と見ているだけで悲痛さが、惨めさが、怒りや憎しみが伝わってくる。

 だが、どれも一貫して共通することがある。

 それは――殺してくれ、と目で訴えている。態度で白旗を上げている。

 

 芙二は無意識に、殺そうと動く。全員に個体が耐えられない威力の電気を与える。

 一瞬にして、表面は炭になった。

 目も髪も、肉体も全てが黒く炭となったが、そこから変化が訪れる。

 

芙二「なんだこりゃあ! まさかだが不死身なのか? 魂を抉り取ってみるか、痛みはあるがしかし(オレ)が確実に殺してやるから」

 

 そういって、再生が完了した個体の胸から心臓もろとも魂を抉り取る。

 

『ぁッ!!』

 

 痛みに反応を示す。芙二は辛そうな顔をするがそれが無駄だと知る。魂も心臓も取られたら生物として成立しないはずなのに肉体は穴を埋めるかのように再生して魂も蘇生される。

 

 それを見て、芙二は驚く。手元には魂晶があるが、目の前にも同じ魂晶がある。

 

芙二「無限に怨念結晶と魂晶を回収できそうだけどそれじゃダメよな……一番早いのは……」

 

 分かりきっている。これは分かりきっていたことだ。本来ならば、それが通常だ。

 耳元で囁くな。分かりきっている。

 だが、それでもこの能力はそれすら覆すことが出来ていた、はずだ。

 

芙二「魂ごと消滅させる、それしか救う方法はない」

 

 今回は被害者なのに。彼女らは悪いことなどしていないのに――……いや、弔おう。

 

芙二「分かった、分かった。貴様らを痛みなく、救って(殺して)やる」

 

 そういうと、部屋中の深海棲艦を全てここに集める。

 なかには原形を留めていないモノもおり、痛々しい感じではあった。

 

芙二「干渉個体から怨念を抽出し、結晶化させるっと……うん、とりあえずは大丈夫のようだが」

 

 怨念を取り出して結晶化させる。

 身体から漏れ出ていたモノが、蝕んでいたモノがなくなったからか深海棲艦たちの表情は穏やかなものへとなっていった。

 

芙二「……救ってやれなくて、ごめんな。今のような状態でなかったらどうにかなったのかもしれないけど」

 

 少しだけ、完全消滅させる前に記憶を覗き視る。

 ありふれた記憶。深海棲艦として、語られない記憶。戦った、見た記憶。

 

 ここに連れられて、拷問されてきた記憶。感情が溢れそうになる。

 あぁいかん、いかん。殺してはならない。自分の仕事を思い出せ。

 

 そうこうしているうちに準備が整う。

 なにも言わずに弔う。一体一体、苦痛なく消滅させる。

 技名なんて、大層なものはない。

 

 魂を喰らうわけではない。普通にあの世とかいう場所へ逝かせてやる。

 たどり着けるかは分からないが、それでも報われてほしいものだ。

 

芙二「さて、最期はお前だけだ」

 

 そういって、最後に残った個体を逝かせる。

 ベースはヲ級だろうが芙二が記憶しているヲ級とは全く異なった。

 海月のような兜は異形の形となり、服もボロボロ、手足も欠損していた。

 

 普通ならありえない事だろう。そんな表情は多分見れる機会はない。

 穏やかな表情のまま、深海棲艦の肉体は足元から光となっていく。

 

 

芙二「……」

 

 泣きそうになる。なんとも言えないが、惨め過ぎた。

 彼女らだってまっとうに死ぬことが出来ただろうに。

 

 何が真っ当なのだろうか。戦って死ぬこと? 寂れて死ぬこと? 

 

 答えは見当たらない。そのまま見送ろうとして来た時、深海棲艦の口が数回だけ動いた。

 

芙二「なにを?」

 

 そうだ。何を言っているのだろか? 

 光の粒となって消えていくなかで声を聞くことは出来そうもないがその穏やかな表情と口の動かし方で言葉を予想することは出来る。

 

 『ア・リ・ガ・ト・ウ』

 

 そう言っているように感じた。

 終わらない苦しみからの解放は感謝されることだったのかもしれない。

 

 芙二はチート能力を以たとしても、救えない命があることを知った。

 だが、穏やかな終わりを届けれたのでそれはそれで良しとするのだった。

 

 

 生体実験室は血の匂いと腐敗臭で満ちていた。

 消えていった彼女らやここで死んでいった艦娘や深海棲艦の魂を天へ導くためには必要な気がした。

 

 実験室の奥にエレベーターがあった。

 壁には上下を行き来するボタンがついていた。

 

 地下は三階まであるらしく、所々の部屋も行くべきかと判断した。

 下には深海棲艦の反応が僅かだが反応がある。

 それが深海化している艦娘かさっきのような深海棲艦か分からないがやるべきことは果たすべきだと思い行動した。

 

 

 ========

 

 

 研究所内 地下三階 ???にて

 

 薄暗い部屋の中で白衣を着た職員は機嫌の悪そうな顔をしていた。

 

職員「あぁ全く嫌な展開だ。長年掛けて成功した個体は皆消息を絶つし、失敗作は失敗作でなんの役にも立たない。清霜の反応も消失している。挙句、時雨やサラトガの誘拐は失敗に終わり大本営の狗がこちらに来ている」

 

 計画は失敗に終わったと悟るが、それでも白衣を着た職員には余裕があるようだった。

 

職員「なぁ、叢雲君。君はどう思う? 君がこのまま深海化するか、それとも死ぬか。私はこれにて、失礼するが君は役目を全うしてくれ」

 

叢雲「………………」

 

 壁へ磔にされている叢雲は意識がないのかぐったりとしていた。

 そんな状態でもお構いなしに、懐から注射器を取り出す。

 

職員「このまま実験結果を見れないのが、残念だが……まぁどうにでもなるな。ハハハハ!」

 

 そういって、叢雲の右腕に注射器の針を刺そうとした時、白衣の職員の背後が吹き飛ぶ。

 

 凄まじい衝撃と音が響く。しかし白衣の職員は落ち着いた様子で対応した。

 

職員「随分、早かったですね。大本営の狗というよりかは、秘密兵器の方がいいでしょうか? ねぇ芙二少佐?」

 

芙二「………………うちの仲間(モン)に変なことしてんじゃねーぞ。木村ァァッ!!」

 

 怒りを露わにして、吠える。

 白衣の職員こと、木村は『良く吼えるな』と思っていながらポッケの中からボタンを操作し研究所(こちら)が出せる最高戦力が居る檻を破壊した。

 

 血に飢えているため、すぐに鉢合わせるだろう。

 そんな戦闘に巻き込まれるのは御免だ、と思って行動しようとする。

 

芙二「逃げれると思うのか? 木村ァ!!!!」

 

 絶叫に近い声が響く。

 それと同時に壁が一部崩壊する。

 

 木村は逃げるのは間に合わなかった、と後悔するが遅い。

 背中を無数の針で貫いたかのような錯覚に襲われる。背の方へ首を向かせるも何も変化はなかった。

 刺さったようなこともない。それほどまでに鋭い、殺意が木村を襲ったのだ。

 

木村「や、やれ!! S-0077! あの人間を喰い殺せ!」

 

 崩れた壁から、唸り声を上げる赤いオーラを纏うリ級のような個体がズシズシ、音を出して向かって来る。木村の指示は聞こえていないようだ。

 

『■■■■■――――!!!!!!!』

 

 声にならない声を発して、威嚇をする。

 木村はそれだけでビビッてしまう。

 しかし芙二はビビらずに相手の力を目測しようとしていた。

 

木村「ひっ! 私、ではないっ!!」

 

 最高戦力というのも扱えていないようで、木村に襲い掛かる。

 それを芙二が護る。

 

 リ級のような何かは気に食わないらしく芙二に標的を定める。

 逃げようとする木村を、簡易結界内に閉じ込める。

 

 閉じ込められた木村は状況が理解できていないようで、ぶつけては転んでいる。

 それを無視して、目の前に排除す(救う)べき個体に目を向けるのだった。

 

芙二「あのリ級が最高戦力? いや唯一の成功個体的な感じで話していたし……ちょい期待しますか」

 

 リ級と芙二の睨み合いからの戦闘はもうすぐ――――……。

 

 

 




 木村ァァアア!!

 次は深海化した二人の闘い(予定)
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