とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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二章 74話『清霜という艦娘』

 オリョール海域 海上にて

 

 

清霜「………………」

 

 結界内に閉じ込められた。自分の落ち込む顔は海面が鏡のようになって反射する。

 清霜は深く、深く絶望していた。

 

 芙二に深葬姫(チカラ)を奪われた。

 今の清霜に数時間前の強さはない。

 

 あの特異な存在(深葬姫)から借りた力も今や、(カス)しか残されていないように感じる。

 あの男への憎しみが、増していく。

 

 深海のような昏い思想が、抑える事の出来ない破壊衝動が清霜のうちを占めていく。

 以前は、自身の肉体を痛めつけながら改造した人間たちに意識が向いていたがそれが書き換えられていく。

 

 

清霜「…………ッ! なに、急に頭が痛く……!?」

 

 膝をついていたのだが、急な頭痛に顔を歪ませる。

 

 ほんの一分前、彼女のうちは深海のような意思が占めていた。

 しかしそれらはやがて確固たる意志へと形を変えていく。

 

清霜「!? また、頭が痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い……!!」

 

 耐えられない頭痛に襲われる。

 頭を抱えても治らず止まない所か、幻聴までも聞こえるようになった。

 

 『あの男を殺さないと』

 『敵討ちだなんて、どうでもいい』

 

 『私を、深葬姫(カノジョ)を侮辱したその罪、償わせないと』

 『人間どもに、邪魔をする者を昏い底へ葬ってあげる!』

 

清霜「そうだ、葬らないと。深い、深い、海の底へ……! あの男も! 研究所にいる人間も! 私の邪魔をする、艦娘も深海棲艦も! 例え姉であっても――私が、葬らないと」

 

 幻聴に洗脳された清霜は自らの意志を空へ叫ぶ。

 自分に害となるモノはたとえ姉であっても躊躇することなく――葬ると。

 

 途端、清霜の周囲に流れる空気に変化が現れる。

 どす黒い、瘴気が周囲へ流れ始める。

 深葬姫が残した置き土産は深海化した清霜をワンステージ上げる事に成功したのだった。

 

 色のない気体のような瘴気は結界内を充満すると、自分を取り囲んでいた結界を溶かし始める。

 しばらくしていると音はないものの、海風の匂いが鼻を抜ける。

 

清霜「出れた。やる事はただ一つ。あの提督を殺す事だけど――その前に時雨ちゃんを殺してしまおう。あの様子だと殺しきれてないと思うから」

 

 そういうと、一人消えるように波間へ姿を消した。

 

 

 ======

 

 東第一泊地 執務室にて

 

 

 時刻は午前二時すぎ。

 普通ならばもう就寝している時刻だが今回は異例だ。

 

 今回の作戦は、過去にも例がひとつもない。月も出ない闇が落ちた夜の海での戦闘。

 

 空母は一切使えない。

 夜間に繰り出せる艦載機は持ち合わせていない。それを扱える艦娘もいない。

 

 人員は誰を出すかを捻出していたとき、ふと芙二の言葉が頭をよぎる。

 そうだ、とりあえずは時雨を呼ぼう、と。

 

 で、今に至る。

 時雨が入って来るや否やまじめな顔で話し始める。

 

冷葉「……時雨。おまえがあの清霜を討て」

 

 いつものような絡みやすさがある方ではなく、作戦のためなら味方も殺すのは躊躇わない。

 そんな覚悟が見え隠れしていた。

 

 呼び出された時雨は予想通りの展開だと、頷く。

 しかし普段温厚な冷葉がこんな表情をするとは思えなくて、

 『やはり彼も軍人なのだと』そう思っていた。

 

冷葉「で、相談なのだが……」

時雨「メンバーが決められないって? そんなことを僕に相談されても困るけど、そうだなぁ」

 

冷葉「芙二からは連合艦隊を組めと。空母は使えないから水上連合にしろ、と。それでも決着が付きそうになかったら状況と場合によりけりだが……」

 

時雨「だが? なんて言われたのさ。提督が蘇生してくれるから自爆特攻でもしろって?」

 

冷葉「それはない! あいつはそんな命を粗末にする指示は出さない。泊地近海の警備に出ているメンバーも招集して全力出撃の支援艦隊を出すことを許可するって」

 

時雨「わぁ。そんなことしたら、近海の警備がザルにならないかい?」

冷葉「その辺はなんとか対策するのだろう。芙二のことだ、俺らが思い浮かばないことでも実行してるんじゃないかな」

 

時雨「そうだね。提督だもの、もう手は打ってあるよね。それで? メンバーの候補くらいはあるんじゃないの?」

 

冷葉「一応は……しかし芙二に経験があるか分からないが俺は連合艦隊を指示したことがないんだ。どういったもので、艦隊によってそれぞれ違った用途があるくらいしか」

 

時雨「なるほどね。まぁぼくもぼくで元野良の艦娘だからね。これと言って知識なんてほとんどないのだけど……」

 

 困りそうなとき、扉が開く。

 両方、肩を震わせ扉の先を見ているとそこには大淀と数名の妖精さんが現れた。

 

大淀「はぁ……連合艦隊の編成は経験のない者同士で組むべきではないですよ。補佐も時雨さんも、そういうときこそ私に声をかけてくださいね?」

 

 と、少し呆れた顔つきで大淀が近づいてくる。肩に乗っていた妖精さんも大淀と同じ表情をしていた。

 

大淀「妖精さん方、わざわざ遅くにありがとうございます。今は一刻を争うので早めに駆けつけれて良かったです」

 

 『いいんだぜ、大淀サン!』『あたいたちも、同じ気持ちだから大丈夫!』

 『みんなを起こしてこようか? いいよね?』

 『明石を応援してきます! いくぞ、おめーら!』

 『ばっか、おめえ……みんなは起きてるに決まってんだろ!? 気張れよォ、おめーら!』

 

 などと、様々な声を上げていた。大淀の言葉を聞いたのか、一人の妖精さんが一礼すると他のぎゃーぎゃー言ってる妖精さんたちを引っ張ってどこかへ行った。

 

 それを見届けた大淀はすぐに切り替えて、連合艦隊のメンバーを決めた。

 

大淀「まずは旗艦は誰にしますか?」

時雨「旗艦……陸奥さん辺りはどう?」

 

冷葉「いいな、初めてかもしれないけどまぁ出来るだろう。随伴は? ……というか今更メンバーを見たのだが、昨日出撃したメンバー抜くと組めなそうだから普通に組むけど大丈夫だよな?」

 

時雨「いいんじゃない、それでも。別に提督は怒らないと思うよ。一番、完遂しなくちゃいけないことに意識が向いてるからさ」

 

冷葉「そうだよな。大淀さんからも何かない?」

大淀「そうですね……空母の方々を編成出来ないのは少し辛いですね。いえ、長引くことを考慮して空母の方々も編成してみましょう」

 

冷葉「いいのか? すぐに終わったら……」

 

大淀「逆にすぐ終わると思っているんですか? 夜間だけではきっと終わりません。敵旗艦を討ってもしばらくはこの戦いは終わらないでしょう」

 

時雨「冷葉補佐、ぼくは清霜だけに専念するからぼくを除いてもう一隻配備して」

 

冷葉「分かった。それじゃあ……随伴に秋雲辺りを。今回は夜戦運用も兼ねた実験のひとつらしい。だから経験が少ない艦娘も積極的に取り入れていくつもりだ」

 

大淀「分かりました。ではそのようにしていきましょう」

 

 冷葉と大淀、時雨の三人は連合艦隊のメンバーを選抜するのに一時間もかからなかった。

 

 

 

 ======

 

 

 冷葉は内線を掛けて、艦娘達に指示を送る。

 今回は連合艦隊で出撃するのだが、戦闘は夜戦から始まる特異なものだとも補完して正確に伝える。

 

 夜戦で終わらなければ、朝から始まり昼戦までを想定して空母も起用したと話す。

 今日出撃した面々は哨戒と言ったが、変更だと話して次はメンバーを発表する。

 

 本格的な発表を前にして先に伝えなければならない事を伝える。

 『決して油断してはいけないこと』

 『敵を髄まで屠ること』

 『生きて、戻ること。勝てそうになかったら、逃げろ』

 

 大事なことを話したような気もするが至極当然のことだ。

 誰か一人でも掛けたら芙二が黙っていない。

 

 芙二がガチ切れしたところを想像してぶるっと肩を震わせるも気を取り直して発言する。

 

『連合艦隊のメンバーを発表する――第一艦隊 旗艦 陸奥! 

 随伴は川内、サラトガ、赤城、青葉、榛名。

 以上、六名はすぐさま工廠へ行き艤装を持って午前三時 四十五分に母港前に集合せよ』

 

 第一艦隊のメンバーを発表し終わると、間髪入れずに第二艦隊のメンバーを発表する。

 

『第二艦隊のメンバーも同じ時間に集中せよ。では発表に入る。第二艦隊 旗艦 神通! 

 随伴は響、朝潮、敷波、如月、秋雲。

 それに今回は異例に時雨を加入させた計七名はすぐさま工廠へ行き艤装を持って前述した時間に集合せよ。今回は無線を持たなくともよい、芙二曰く艤装に内蔵してあるそうだ。

 では、これにて放送は終了する。近海警備については大淀から連絡が入る』

 

 最後に『各自、本気で取り組め。何度も言うがこれは――叢雲奪還作戦である!』といい締めた。

 

 マイクの電源をオフにして、溜息を吐く。

 なれないことはするもんじゃない、と冷葉は疲れた顔をする。

 

冷葉(あ~ぁ……俺も芙二ほどのカリスマ性っつうかそのへんがあればな。まぁ今はないものねだりしてる場合じゃないだろう。ちゃんとしろ、俺。俺の戦場はここだぞ)

 

 バチンと音がなるほど強く頬を叩き自分に喝を入れる。

 大淀と時雨が啞然としている。そんな彼女らに声を掛ける。

 

冷葉「さて、我々も戦いの地へ赴こう。時雨は工廠へ行ってくれ。大淀さん、各妖精さんと共に連携を取っていつでも通信を行える準備をしておいて」

 

 

時雨「あ、うん。冷葉補佐も無理しないでね」

大淀「分かりました。では冷葉補佐、またここで集まりましょう」

 

 

 そういって時雨と大淀は執務室を後にする。

 ジンジンと痛む頬に手を当て、独り事をぼやく。

 

冷葉「時雨達も芙二も戦ってんだ。俺は俺でやることをやってしまおう」

 

 芙二に任された仕事に手を付けるのだった。

 これより、作戦の第二部が開始される。

 

 目標は深海化した清霜を含む深海棲艦を撃滅すること。

 夜戦から始まるという極めて稀な戦闘となる。

 

冷葉「………………時雨は大丈夫なのか? それにみんなも――――」

 

 時雨は、かつての友にけじめをつける事が出来るのだろうか。

 それに練度の低い艦娘を混ぜたこの編成にいつも以上の緊張を感じていたのだった。

 

 

 

 

 




 第二部作戦、開始
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