とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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 清霜ちゃんの進化


二章 75話『駆逐■■鬼』

   午前四時 十七分  南西諸島近海にて

 

『沈めちゃえ、沈めちゃえ。みーんな、仲良ク海ノ底ヘ。沈めば、ナカマ。そうでなければ、水底ニ沈メルまで……』

 

 謎の声は自身の後ろから聞こえてくる。

 

清霜「そうだ。私は時雨ちゃんだけじゃなくてみんな沈めるんだ。ふふふ、アハハハハハ!!」

 

 月も出ない黒々とした海上に鬼の嗤う声が響く。

 深葬姫(しんそうき)、もとい駆逐神棲鬼(くちくしんせいき)の力を吸収した清霜は深海化した時の力にプラスして肉体に変化を与えた。

 

 痛みと共に自身の腰の辺りからは『ブチ、ブチ』という音から始まり『ずりゅり、ずりゅり』と何かが出てくる音へ変わっていく。痛みが消えると腰の辺りからは巨大な腕が生えていた。

 

 腕の長さは二メートルほどであり、拳も一メートルはありそうな程であった。

 左手は機械で出来ているのか、継ぎ接ぎの腕が全体的にごつごつしており重々しい光を放つ。

 一方、右手は薄灰色でまるで石像のような無機質さを感じさせる腕が生えていた。

 

 生物には異質ともいえる発現だが、それだけに留まらない。

 

清霜「ッ!! ぐぁああぁぁあ!!」

 

 ようやく腰の痛みが治まったかと思えば次は右目の上が痛み始める。

 頭が割れるのではないか、なんて思いながら痛む箇所を抑えているとそこに違和感を覚える。

 

 小さなコブのような物が伸びてきている。コブは成長をし続けていき、恐怖を感じた清霜は抑えるのを止めると右目の上に角が生えていた。

 

清霜「ッ……ハァ。痛みが………………治まった」

 

 脂汗を流し、息をゆっくり吐く。

 痛みは完全に治まり、清霜の身体はもはや深海棲艦とも艦娘とも言えないまったく別の姿へ変貌していた。自身の中口径を取り出して、何処か適当に撃つ。

 

 問題ないようだ。魚雷は無駄に撃てないから今はいいや、と考える。

 次はどうしようかと考えているとき、何者かの気配に気がつき後ろを向くとそこにはおよそ三十体の深海棲艦が清霜の元へと集まっていた。

 

 艦種はそれぞれだが、やはりもっとも多いのは駆逐級である。次に軽巡級。

 逆にいうともっとも少ないのが重巡ネ級改である。三隻しかいない。

 

清霜「……これだけいれば泊地に危機を与える事が出来るのか? いや今あの化け物は研究所に行っている今がチャンスなのか。陣は本で読んだとおりにやって行こう」

 

 指示を待っている深海棲艦らの前に出て、こう言った。

 

『おまえたち、これから行うのは泊地侵攻戦だ。艦娘を捕捉しだい、攻撃をし続けろ。攻撃の手を止めることは私が許さない。さぁ、行け! 前進しろ!!』

 

 

 こうして清霜の率いる深海艦隊は泊地に向かって前進する。

 偽神の力の所為なのか、侵攻するにつれて深海棲艦の数は増えていく。

 

 気がついたら総勢八十体の大艦隊へとなっていた。

 一度来たことのある泊地近海へ近づいたことが分かったので、空母達に指示を出して艦載機を発艦させる。

 

 指示を受けた空母達は艦載機を発艦させ、目的地へ向かわせるのだった。

 

 時雨達との戦闘はもう始まっていた。

 

 

 =======

 

陸奥「くぅっ! 最初は偵察機だけかと思ったけどあまりにも多いっ!!」

 

青葉「偵察機は落とせましたけど、直後に水中から奇襲をかけられるとは思ってもみなかったですよっ!」

 

 空は白み始めている。夜というよりかは夜明けの戦闘。

 しかも泊地近海にもっとも近い場所での戦闘。

 

 皆の緊張感は一層高まっていく。敵の偵察機を撃ち落としたらすぐに始まった。

 

 前方、後方、左右へと電探に映る影、影、影。

 囲まれこそはしていないものの、数は自分達の倍以上あった。

 

 敵の多さに圧倒されている陸奥であったが、第二艦隊旗艦である神通の言葉を聞いて我を取り戻す。

 

神通「皆さん、落ち着いて着実に落としていきましょう」

朝潮「はい! 分かりました! !! 前方より、イ級二隻と会敵します!」

 

 第二艦隊から朝潮が抜けて、イ級を落としに向かう。その際、近くにいた響も抜けサポートしにいく。

 直後、砲撃音と水飛沫が飛ぶ。

 

 神通が陸奥に話しかけようとするも、次々に深海棲艦が現れてそれどころではない。

 手を伸ばしかけるも、その時にふと思った。

 

神通「陸奥さ……! そういえば冷葉補佐が言っていました。艤装の中に内蔵してある無線を使えば――」

 

 そういって探し出そうとするとき、目にはル級がこちらを捉えていることに気がつく。

 

神通「!!!! 

  (まずい、避けないと)」

 

 抜けた朝潮と響以外の仲間に声を掛けようとするとき、自身の横を黒い影が通り抜けた。

 黒い影の正体は時雨である。時雨は芙二から返された駆逐神棲姫の力を自身の肉体に馴染ませながら艤装を取り出して、主砲へ切り替える。

 

 

時雨「神通!! 悪いけど、ぼくは先に行かせてもらう! あの先に清霜が居るんだッ!!」

 

 周りにも聞こえるんじゃないかってくらい大きな声で叫びながら伝える。そして向かって来る時雨に気がついた深海棲艦の主砲は時雨を捉える。

 

 『あっ』『逃げろ!!』

 

 そんな声が聞こえ始めたとき、深海棲艦の集中砲火が時雨に浴びされた。

 視界が遮られ、仲間の声が聞こえないほどの水柱と砲撃音。

 水飛沫で発生した霧が晴れる前に別の所で爆発音が聞こえた。

 

 『■■■■■■■■!!!』

 

時雨「ウルッサいなぁ!! ボクに大人しく倒されればいいんだヨぉ!!」

 

 爆発音が聞こえたかと思ったら、声にならない叫び声と怒号が海上に響く。

 それを聞いて神通を含む第二艦隊と陸奥含む第一艦隊のメンバーは驚く。

 

 目線の先に居たのは、黒い髪に白い髪が交り、額の左側だけに二本の角が生えた時雨だった。

 それを見て事情を知るサラトガ以外は戦闘の最中だというのに攻撃の手を止めてしまう。

 

如月「あ、あのときの――!!」

川内「うっそ、また()()なったの!? 今なったら手がつけられないよ!!」

 

敷波「あれが話に聞いていた、時雨の別の姿ってわけね」

 

赤城「あの姿が深海化して帰ってきた艦娘の姿なの……? 時雨ちゃんには悪いけどとても異質。どっちでもあって、どっちでもないなんて――提督みたいですね」

 

 すぐに我に返った神通。このままではまた集中砲火を浴びてしまう、と考えて動こうとした。

 しかし異質な時雨の登場により衝撃を受けたのは艦娘達だけではなかったようだ。

 

神通「? 深海棲艦たちの表情が曇っている? それほどまでに時雨さんの登場が影響しているのでしょうか?」

 

 

 会敵している間に深海棲艦の表情を見る機会なんてそうそうないのだが、それでも分かる。 

 イ級は人型ではないが、とても怯えているように見えた。そのほかにリ級やル級、へ級やネ級は青い顔をして震えている。戦意を失ったように艤装を解除して口を動かしているように見える。

 

神通「……何が起こっているんですか? 一体、時雨さんはなにを――」

 

時雨「ボクはなにもやっていないよ。ただ少し前ボクに憑依していたカミサマの力を、ね。まだ馴染んではいないのだけど試しにね。で、あいつらの抵抗をゼロにしただけ」

 

神通「それは一体――」

 

時雨「さぁ、ボクにも分からないけど。今この場に、下に潜伏してるやつも含めて戦意は折ったから無駄なロスがなくなってよかった、よかった」

 

 ぴたりと静止した深海棲艦の身に何が起こっているか、分からなかった神通だが少し前にいる時雨を見て確信した。

 

『提督に続く、化け物だ』

 

 化け物が味方にいるうちはありがたいが、いつ暴走してもおかしくない。

 それにこの先に同じような化け物が存在していることはあまり考えたくなかった。

 

時雨「ここのやつらはもうボクには逆らえない。それだけが事実さ。神通、時間が惜しいんだ。ボクは先に行くよ」

 

 微笑みながらそう言うと、時雨は清霜がいるであろう所へ急行する。

 時雨が先へ行ったとき、深海棲艦らは見向きもせずに水中の中に消えていく。

 

 その光景が信じられなくて立ち尽くす神通に他の仲間が集まる。

 

『神通! 大丈夫!? なにかされていない?』

『ねぇ、時雨は? それにあの深海棲艦たちは一体どこへいったの?』

 

 次々に質問される神通だが、彼女自身一連のことを理解できていなかった。だから一言。

 

神通「時雨さんは先に行きました。あの深海棲艦たちと共にです。私達も急ぎましょう。陸奥さん、時雨さんの後を追いましょう」

 

 そういい、陸奥に判断を任せる。

 任された陸奥は皆を纏めると時雨の後を追うのだった。

 

 

 

 ======

 

 

時雨「見つけた。そこにいたんだね、清霜」

 

 空と水平線の境から太陽が出てきかけている。

 そんな夜明けの海上をしばらく進んだ先に()()()()()をした清霜はいた。

 艦娘の格好をしていようとも彼女はもうあちら側なのだ。それに彼女の周囲には深海棲艦が一体もいない。

 恐らく水中で待機しているのだろう。合図と共に出てきて自分を確実に殺す為か。

 

 そんな時雨をよそに分かっていたように話始める清霜。

 

清霜「その姿……やっぱり深海化していたんだね。それにその雰囲気も。深葬姫が言っていたことが少しだけ理解が出来たわ。で、お仲間さんは? もしかして偵察部隊が殺してしまった? それで報復に――」

 

時雨「清霜。そんなくだらないこと言ってないで――さっ!!」

 

 清霜の言葉を遮って時雨は空砲を撃つ。早く始めようと誘う。しかし清霜は退屈そうな顔でしたまま時雨に問う。

 

清霜「良いけどさぁ、あの数をどうやって倒したかだけ聞いてもいい? それに少し姿が変わってカミサマのような雰囲気を醸した所でなにも変わらないと思うけど?」

 

時雨「いーや、ボクが勝つさ。清霜、キミとは質が違うからね。でだ、倒したかどうかを聞かれれば答えはノーだ。ボクは倒しちゃ、いない。それがその証拠だ」

 

 そういって指を鳴らすと海面に波が立ち始める。

 ボコボコと小さな波はやがて清霜と時雨の周囲を覆うように次々と湧き出る。

 

清霜「そういうこと。あいつら、使えないな。やっぱりいらないわ」

 

 ザパァという音と共に時雨の味方になった深海棲艦たちが姿を現す。

 研究所から持ってきたはずの深海棲艦のうち半数が時雨の味方になっている現状を見て気に入らないという態度を見せる。

 

時雨「そのまま降参はしてくれないだろう? だからこの深海棲艦たちで――」

 

 グシャ! メキャ! 

 

清霜「……時雨ちゃんさぁ。分かってる? 始めから、時雨ちゃんの負けなんだよ?」

 

 何かが潰れるような音と共に時雨に向かってそういった。

 音の方を振り返るとそこには仲間だったモノがあった。

 

 頭を潰されたリ級だったものやル級、ネ級だったものがゆっくりと沈んでいく所だった。

 それを見て時雨は瞠目するしかなかった。すぐに向き直し清霜の方を向き直し、激しい怒りを向ける。

 

時雨「なんで、仲間を――そんな簡単に殺せるんだッ……あいつらはお前の仲間だったんじゃないか!! なぁ、答えろよ! 清霜!!」

 

清霜「はぁ。なんでそんなに怒ってるのか分からないよ。あいつらは()()でしょう。侵攻するための道具。私が自由に使える駒。それ以外の何物でもない」

 

時雨「道……具だって?」

 

清霜「そうでしょう。無尽蔵に湧く深海棲艦は特に。私達は無尽蔵に湧くことはありません。それは人間も然りです。だが、深海棲艦は命令に従順でかつ替えが利く。力だって申し分ない。それほど戦闘に向いている道具は他にありますか? ないでしょう。それに――戦地で友情がどうのとか仲間意識がどうのとか、要りますか? 時雨ちゃん、そんなだからこれから失うんですよ」

 

時雨「あ、うん。そうだね。別にボクは深海棲艦(あれら)に対して仲間意識はないよ。だってカミサマの力で率いていただけだろうし。でもだからといってキミの言動は許さないケドね」

 

清霜「そう。なら――この子たちは時雨ちゃんのお仲間さんの相手を頼もうかな」

 

 そう言った途端、海面が波たつ。ゆらゆらと動くが時雨は動じない。水中に見え隠れしている影は足元を通過していく。

 しかし時雨は追わない。理由は陸奥さん達を信じているから。自分がいなくたってあそこは機能する。

 むしろ、自分がいない方がいいとさえ思っていた。

 

時雨「良いのかい? キミのいう道具を使わないで。それで負けても言い訳にしないでくれよ。それと二つ教えて。キミを倒したら、キミが指示を出したあれらはどうなる?」

 

清霜「うーん、止まるよ。生体兵器に改造した五百体は第一泊地の提督の手で葬られちゃったから。今操っているのはクスリによって無理矢理動かしている死体だからね。私の意志で動く人形! だから道具なの! 素晴らしい事だと思わない? 私が止めろと命令しない限り壊れるまで永遠に動き続けるノ」

 

時雨「冒涜だよ、それは。深海棲艦がどうやって生まれるのかとかは知らないけど、キミがやっていることは冒涜以外の何物でもない」

 

清霜「なら、その善い心で解放させるの? まるで人間みたいなことをするんだね」

 

時雨「動くガラクタは鉄屑に変えるだけだよ。それか提督に渡す。あの人ならどうにかしてくれるでしょ」

 

清霜「へぇ。かなり信用してるんだね。手籠めにでもされたのかな? 調教でもされた?」

 

時雨「まさか。提督はボクを救ってくれた恩人さ。それだけで十分だろう」

 

 言い終えると、時雨の目つきは鋭くなる。

 このまま話そうが何をしようが行動して殺す気でいた。

 

清霜「え、もう会話を終わらせていいの? 遺言くらいは聞いてあげるけど、いやすぐに再会するから不要かっ」

 

時雨「キミが死んで、無様に蘇生された後でね!!」

 

 そう言いながら、距離を詰める。清霜の顔面に魚雷をぶつけ爆発させるためだ。

 それで終わればいいのだが、そんなのは屁でもないくらいに硬いのだろう。どんな改造を受けたらそんな装甲を得るのだろうか。気になるが今はそれどころじゃない。

 

 至近距離での炸裂。炎と爆風が生じ、時雨は退避する。

 

時雨「……」

 

 普通なら首が、上半身が飛ぶであろう。その状態は即死だ。艦娘でも治らない範囲の致命傷。

 だが、清霜は死なない。そんな予感がする。いや確信に変わった。

 

清霜「アハハ! いやだなぁ、時雨ちゃん。あんなタイミングで特攻かましてくるなんて――ねじ伏せたくなるじゃんかさ」

 

 煙の中から、声が聞こえる。その口ぶりからして全く効いてないように聞こえた。そして煙が晴れると目の前には――艦娘の姿ではなく、未知の姿をしている清霜がいた。

 

 腰の辺りからは左右に腕が生えているのだが左手は機械で出来ているのか、継ぎ接ぎの腕が全体的にごつごつしており重々しい光を放つ。一方、右手は薄灰色でまるで石像のような無機質さを感じさせる腕が生えていた。

 

 そして額からは角が生え、牙のマスクをつけていた。

 

 

時雨「ッ! これが――」

 

 自分の時とは全く違う変化を辿っていた。深海化した艦娘のそれではない。深海棲艦でもなく、全くの知らない生物がそこにはいた。

 

 驚愕の表情で固まっている時雨に清霜は吼える。

 

『コれが私の本当の力だよ。キミの脳裏に脅威ってのを、刻み込んであげる!! だから、すぐに壊レないでよね!!』 

 

 深海棲艦の鬼クラスの力を引き継いだ清霜は自らを【駆逐水葬鬼(くちくすいそうき)】として異質な巨腕を時雨へ伸ばすのだった。

 




 時雨vs駆逐水葬鬼
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