とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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二章 76話『時雨に起きた変化』

  海上にて

 

 駆逐水葬鬼(清霜)と時雨は撃ちあっては接近戦を繰り返していた。駆逐神棲姫の力をその身に馴染ませての攻撃はただの艦娘とは思えないほどの威力が出ているのにも関わらず、清霜の装甲には傷すら入らなかった。

 

清霜「なんだっけ? 深葬姫の上司……の力を使ってもこの装甲を突破することは出来ないんだね。あの化け物に簡単に負けるくらいだもの。借り物は所詮借り物。今の私には届かないってのは分かった?」

 

時雨「煩いな。まだ始まったばかりだろう」

 

 標準を合わせて、撃ち放つ。飛んでくる砲弾を躱すと、水柱がいくつも上がり視界を遮った。四方へ疑り深く警戒していると左側に影が出来る。

 

清霜「そこだね!」

 

 機械のような大きな手が影を握りつぶすように動くもそこには時雨はいなかった。

 自身の背後から刺すような殺気に襲われる。

 

清霜「! てことは後ろか!」

 

時雨「正解。……これならどうだ!!」

 

 清霜が振り向こうとした瞬間、時雨は持っていた魚雷を投げる。投げられたそれは清霜に当たり爆発を起こす。普通ならそれで終わる。しかし終わらないことはさっきので分かったのでもう一発、魚雷を放つ。

 

 清霜の居た所はこれまでにない爆発が起きた。目を閉じなければならないほどの光が放たれた瞬間、メラメラと炎が上がり、黒い煙が上がった。水面は波が立ち

 

 爆発が起こることを理解していた自身もダメージを負わないように後方へずれる。

 しかし炎はすぐに薙がれるように消える。

 

 清霜の両腕は黒く焦げている。それくらいで死ぬやつとは到底思っていないので声をかける。

 

時雨「おい、生きてるんだろう? そのご自慢の腕でボクを捉えてみせろヨナァ!」

 

清霜「ッツツ………………これは効いたなぁ」

 

時雨「効いた? 冗談いうのはやめてくれよ。もともと黒いだろう? その腕はさ。それとも待機させている部下を出さなくていいのかい?」

 

清霜「随分と余裕だね。その調子だと燃料も弾薬も尽きてしまうんじゃない?」

 

時雨「心配してる場合? 尽きた方が好都合なんじゃないの?」

清霜「私よりも待機させている道具と遊びたいっぽいね。それじゃあ私は少しだけ休憩させてもらおうかな」

 

 臨戦態勢にしていた焦げた腕を降ろすと清霜は水中にいる部下(どうぐ)に命令を出す。

 命令を受けた深海棲艦らは一斉に海面へ出る。

 

 時雨のすぐ足元には無数の黒い点が現れるので、咄嗟に影が見えない範囲まで移動させる。

 ごぼごぼ、ぶくぶくと海面が沸騰したかのような状態になったかと思うと目の前は次々と現れ始める。

 

 それらを見て時雨は悪態をつく。

 

時雨「……数が多いなぁ。いったい、どこからこんな量を――あぁ半分以上死体なんだっけか? だったら戻してあげるだけか」

 

清霜「この量なら私は十分な休憩を取れそうかな。いいの? 時雨ちゃん。私が次の指令を出したら処刑(あそび)は始まっちゃうよ?」

 

時雨「何度も言わせないでくれるかい。清霜? ボクを誰だと思ってるんだい」

清霜「そう。それが遺言なら後で届けなきゃダメよね?」

 

 待機させている深海棲艦らに『やれ』と指示を出す。指示された深海棲艦らはギギギと油の刺されていない機械のような音を出しながら動きだす。目には赤い光が差し、起動したかのような状態になり時雨を殺すべく進み始めた。

 

時雨「くる。だけどやっぱり死体みたいな動きだな。ヌ級に関しては艦載機すら出せていない。

  (主砲や魚雷を使わずに素手で殺せるか試してやる!!)」

 

 距離を取っていたが、接近戦で動けるかどうかを試すために敢えて近づく。

 最初に接敵したのは艦載機を出していないヌ級だった。

 

 海上を滑るように移動しながら左手の拳を握りしめて、ヌ級の頭部を殴る。

 直撃し、その見た目からは想像できない音がなりヌ級は光を失い沈み始める。

 

時雨「やれる? ――――アハ!! ハハハハ!!」

 

 素手で殺せることを確信した。なんだかおかしくて笑ってしまう。そして他ならどうだろうか、と意欲が湧いてくる。次から次へと向かって来る深海棲艦を視界に入れながら次を思考するのだった。

 

 ======

 

 一方、陸奥達は。

 

 時雨が連れて行った個体らとは別に、清霜が行かせた個体と戦いが起きていた。

 目に光はなく、砲撃してくるだけの生きる屍のような深海棲艦に恐怖を感じ始めていた。空母に関しては最初だけ艦載機を飛ばしてきたが無くなったのか、その身一つで自爆特攻をしてくる始末だ。

 

 最初に遭遇したよりも多く、陸奥達は進行を食い止めるので精一杯のようだった。

 

陸奥「――数が多い!! 一体何体いるの!? 燃料も弾薬も限りが――あっ」

 

青葉「陸奥さん! きゃっ! ――なにするんですか!」

  

 倒しても倒しても際限なく出現する深海棲艦らにとうとう攻撃を許してしまった。

 陸奥を庇った青葉が被弾する。が、砲撃や雷撃といった攻撃ではなく子供の喧嘩のような攻撃――すなわち叩くようなものなので大したダメージではないがそれでも少しは痛い。

 

 怒った青葉は艤装で殴る。握っていた中口径主砲で深海棲艦の頭部を殴るとベコンと凹み、不発弾のように爆発を起こすことなく沈んでいく。

 

青葉「え……頭が凹ん――じゃなくて、陸奥さん! 大丈夫ですか!?」

陸奥「……えぇ。大丈夫よ、ありがとう。青葉ちゃん」

 

青葉「赤城さん! サラトガさん! 艦載機の残数は――」

赤城「あと十数機しかないわ! このままだと戦えない! 押し切られちゃう!」

 

サラ「私もそろそろ艦載機が切れちゃいます! きゃぁっ! 砲撃!? ど、どこから!?」

 

『――皆さん、聞こえま……か? 第二艦隊、響、如月、秋雲が小破しましたがまだ戦……ます』

 

 ノイズのせいでやや聞き取れないが、第二艦隊旗艦の神通から通信が飛んでくる。

 第二艦隊は負傷人が出ているもののまだ戦えるとの事だ。

 

 陸奥は神通の無線に答えようとする時、神通は続けた。

 

『! こちらの深……艦はほとんど、終……たようで……そちらへ向か……ですが状況を……』

 

『こちら川内! こちらの状況は赤城、サラトガの艦載機がそろそろなくなるっ! 青葉が小破未満の負傷! それ以外は大丈夫だけど、燃料も弾薬もなくなりそう! 至急、応援求む!!』

 

 かなり大きな声で返答する。それでも砲撃や水柱の音で掻き消されているのだ。伝わるか、心配だったが杞憂に終わる。

 

『了解……ただちに――』

 

 ブツ、と音が鳴り通信は終了する。陸奥は川内に礼をいい、川内は応援が来るから踏ん張ろうと言った。しかし生きる屍のような深海棲艦は手がもげても頭を半分失おうと動く様はもはやトラウマだ。

 

『■■■■――!!!!!』『▲▲▲▲▲▲▲▲▲』『▲▲▲▲!』

 

 口元をもごもごと動かし何か叫ぶように言っているのだからさらに恐怖をそそらせる。

 セーブして動いているがそれでもきついものがあった。肉体一つで特攻してくる個体もいればしっかりと砲撃、雷撃を行う個体もいる。

 

 だが、空母がいないのは幸いだった。陸奥の弾着観測射撃で敵が誘爆を起こしてくれるので数体同時に消える。

 

赤城「陸奥さん! 艦載機――ラストです」

サラ「私も、です」

 

陸奥「了解! なら、二人は戻りつつ無線で冷葉補佐に一つ指示を出して!」

赤城「なんてすれば――『あ、神通! こっち、こっち!』――」

 

『支援艦隊を要求するって!』

 

赤城「了解です。サラトガさん、我々は離脱しましょう。――サラトガさん?」

 

 陸奥から指示を受けた赤城は離脱すべくサラトガの手を引くがびくともしないので、サラトガの方を見る。そこにはぶつぶつと独り事を言っているサラトガがいた。

 

サラ(私のあの力を――深海化のすれば戦況をひっくり返せるけど……その後は、どうするの? 提督も時雨さんもいない、今この現状で――)

 

赤城「サラトガさん!!」

サラ「ッ! は、はい!」

 

赤城「離脱しますよ! 行きましょう!!」

サラ「あ、はい。ご、ごめんなさい」

 

 赤城に手を引かれながらサラトガは離脱するとき、さっきまでの考えは一旦置いておくことにした。

 

 

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 再び、時雨と清霜は。

 

時雨「アハハ!! これ、これだよ。この感触……ネェ、清霜!!」

 

清霜「本当に時雨ちゃん?

  (あれだけの数を全部素手で殺してる……残りのやつも連れてくるべきだったかな)」

 

 命令を下した深海棲艦はことごとくが沈んでいく。呑気に休憩などしていられないと悟った清霜は狂喜しながら動き回る時雨を見て引いていた。

 

時雨「……っと! 今のが最後かな? ふぅ。あーあ、もう終わりかぁ。清霜? 他のはないの?」

 

清霜「ほんとうに時雨ちゃんかい? その行いはさっきまでの言動とは一致しないのだけど。狂気そのものだよ。それ」

 

時雨「? ボクは至って普通だけど? それよりも次はないのかい?」

 

清霜「あるけど、すべて出し切ったら後のことにも響くからねえ。時雨ちゃんにはここで退場してもらおうかな」

 

時雨「またキミとやるのかぁ……あ、そうだ。ここでボクもひとつ、チカラを披露しよう。ま、ボクのは後遺症みたいなものだけどさ」

 

 後遺症? それに力だって? 駆逐神棲姫の力じゃないのか、と思う清霜。

 

時雨「まぁ見ててよ」

 

 笑いながら頭部の一部を潰したへ級を鷲掴みにしている。艦娘とは思えない力でへ級の艤装を無理矢理剥がす。無理矢理剥がされたへ級の死体は筋肉が動いていないので腕や腰、足の一部も剥ぎ取られ無残なものへとなる。

 

時雨「これが――ボクの力さ。生きていたらビリっと感じたかもね」

清霜「ビリっと?」

 

 時雨の言葉の意味が理解できなかった。ビリっととはいったい……? 

 もしかして、と思う清霜。

 

時雨「その顔はボクがなにをしようとしているのか分かったね。まぁ全然強力なのじゃないから。でも分かるだろう? ボクの狙いが――」

 

清霜「それは――」

 

 びりり、とノイズのような小さな音が聞こえる。死んでいる肉体が僅かに動く。蘇生のそれとは違う、痙攣のような動き。

 五秒ほど掴んでいたのを、唐突に上へ投げると爆発を起こした。爆発四散したへ級の死体は海へ落ち沈んだ。

 

 

清霜「……ッ……」

 

時雨「これがボクの力さ。提督から受けたカミナリ()がこうしてボクのものとなったんだけど。やりすぎるとボクも爆発(あぁ)なっちゃうと思うしなにより感電しちゃうよね」

 

清霜「正気? それで特攻するの?」

時雨「そうだね。話してると時間がもったいないから――終わらせるね」

 

「来るなッ! いやボクの両腕がキミを捉えれば――」

 

 時雨の特攻が始まる。指先に貯めた静電気程度しかないモノは自身を握りつぶさんとする清霜の左腕に触れ、僅かな電力を流す。すると、海水に濡れていた腕を通して清霜は感電する。

 

清霜「ガッ……ァグッ」

 

時雨「で、さっき剥ぎ取っておいた艤装、実はちょいと擦ると火花が出るんだけど。……今ボクの身体たまってるんだよね」

 

清霜「っ!!

  (身体が上手く、動かせない……くっそが……!!)」

 

 時雨は即席爆弾を作り上げ、感電して身体を上手く動かせなかったが意地で動かす。

 左手は使えなくても右腕に意識を集中させ、動かす。それを時雨へ向ける。

 

時雨「でもそれだけだと成功するか分からない――だから魚雷(これ)もセットで送るね」

 

清霜「……っ!? 

   (回避が――防御も出来ない!! でも時雨ちゃん、キミも同じ――!?)」

 

時雨「ボクはキミを救う。提督にお願いして、ね」

 

 真面目な顔してそう言った。最後は微笑んでいたが。

 それを見て清霜の心に巣くう何かは消え始めた。

 

『――――――アぁ、そうだ』

 

 道ずれにしようと伸びていた右腕は時雨を反対の方向へと突き飛ばす。

 

時雨「! 清霜――キミ、は――」

 

 突き飛ばされた時雨が咄嗟に清霜を見た。

 その表情はあのときに、初めて話したときの――表情だった。

 

時雨「もとに――」

 

 すぐに着地して話しかけようとした直後、時雨の視界は白く染まり意識は途切れたのだった。




 陸奥たちの戦いも終わり、時雨と清霜の戦闘も決着。
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