とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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 ちゃんと話になっているか、心配になります。


二章 77話『奪還、そして』

 一方、芙二たちは。

 

 

 

木村「くそ、なんてことだ! あの個体でも全く歯が立たないとは!! 少佐、貴様ぁ……貴様ァァァァ――――!」

 

 芙二は木村の手足を縛りあげて放置していた。ここで猿ぐつわでも噛ませておけば、と後悔するがそのまま木村の周囲を小さな結界で覆い隔離する。

 顔を真っ赤にして何やら叫んでいるが、無視をした。

 これで耳障りな声を聞かなくてよくなり叢雲の容態を診ることが出来た。

 

芙二「? 叢雲も深海化のような兆候が見られる……とはどういうことだ? 叢雲への投薬は阻止したから天死薬なるものの効果は発揮されないはずだが。だとすると東第三鎮守府での戦闘で何かキッカケがあったとか、か」

 

 とりあえず叢雲を寝かせ、懐から手品のようにタオルケットを取り出してかけておく。

 叢雲と隔離してある木村の周囲を散策しつつ考察する。

 

 和名で天死薬なるでたらめな薬物をここでは生産していたらしい。原料は生きた深海棲艦や艦娘、人間、動物の体液などと数種類の薬物、薬品らしい。それらを投薬されると肉体や精神に深刻なダメージを与えるとのこと。

 

 成功すると肉体と精神に反転のような作用が起こり、艦娘は深海化し、更なる力を得る。厄介なことにただの闇堕ちではなく魔改造されるため一体でも世に放たれればそれだけで脅威になるらしい。

 

 ただし失敗すると死ぬ生物もいれば、逆に変な形で生き残る生物もいるらしく芙二が生体実験室で出会った深海棲艦が最たる例とも言えるだろう。

 

 天死薬なる劇物を投与された、清霜と夕雲。性格が反転し深海化が進行していた。夕雲は大したことないが清霜は艦娘達にとっても脅威になるであろう存在だった。

 

芙二(清霜の持つ不死性みたいなものを取り除いておかなかったら結構やばかったよな。海上での深海棲艦の反応は全て消え去ったから大丈夫であろう)

 

 【深海神姫の寵愛】を通して確認する。清霜の肉体は消滅した、はずだ。後で帰り際に魂を探してみよう。色々と話を聞かないといけないので殺しはしないが。

 

 リ級の登場で大きく崩れた瓦礫を見つけえたので歩き回りつつ、物陰に隠れるように階層を移動する。

 

芙二「……ここで行われたのは間違いなさそうだ」

 

 地下二階のとある部屋で、あるレポートを見つけた。

 レポートの題名には『カミへと至った少女について』とあった。

 

芙二「カミ、かみ……神か。恐らくこれがこの先に待ち受けているであろう存在(モノ)の話だよなぁ」

 

 手に取って分かるがかなり厚みがある。

 何頁あるのだうか、気になり用紙の一番最後を見るとそこには二百五十頁と記されていた。

 

 量の多さに圧倒される。一枚一枚、めくるのが嫌になりそうだ。

 

芙二「……何年間、いや何十年間か」

 

 とりあえずそのレポートを懐にしまい、自身の部屋へと送る。どうせまた艦娘達は療養という名目で何日か休暇のようなものを与えられるだろう。

 

 自分達にはそんなものないが。冷葉にはしばらくは艦娘達と共に休暇を取ってほしい、とさえ思った。

 まぁあいつの性格上、休まないと思うけど。無理矢理休ませよう、と考えながら頷く。

 

芙二(おや、こちらに十名向かって来る。感じ慣れた気配がひとつ……八崎さんのか。それだとするとむこうの憲兵やら艦娘やらが到着したっぽいな)

 

 エレベーターがゆっくりと降下する音が聞こえてくる。やがて目的の階についたのかエレベーターは止まり、あの部屋にゾロゾロ向かい始めたのが分かった。

 

芙二「あぁ、解除しとかないと。(オレ)のも木村のも」

 

 さっきまで【魂を喰らいし、怒れる鬼獣(ブラック・ビースト)】を発動したままであったが木村やリ級には人間に見えるように細工していた。だからこそ、二重の意味で解除をし普段の姿へ戻る。

 

 これで木村に張ってあった結界もなくなったはずだ。

 あの聞きたくもない声が聞こえてくるような気がする。

 

芙二(あ、あの瓦礫に誰か近づいてくる。そうか、木村のやつめ……まぁリ級は瞬殺したが無傷だと怪しまれるよな。一応重傷者のようにふ振舞おうか)

 

 今いる位置から、大きな瓦礫の影に移動する。少し早いタイミングのようでまだ足音が遠い。

 これなら、ちょいと自分の身体を()()()()()()()重傷者の演技は通じるだろう。

 

芙二(軍服もいい感じにボロボロにしつつ、血を滲ませてっと。これで良し。あ、削りすぎた。血が光の方へ漏れて――あぁもう! 走って来る、走って来る! まぁいいか。叢雲も大丈夫だし。みんなもやりきっただろうし)

 

 ゆっくりと横になる。

 血が滲む。真っ白な軍服に染みを作る。汚れた軍服に赤茶色の染みが出来る。

 

芙二(とりあえず――起きたら本営直属の病院かな)

 

 今回は少し疲れた、と思いながら眠りについた。

 誰かが必死に身体を揺らしている気がしたが、もはやどうでもよくなっていた。

 

 

 ======

 

 

 

 時刻は午前五時 四十二分 執務室にて芙二からの通信を待っている所だった。

 一部と二部の作戦が始まり、ボロボロになって帰投した赤城たちを見てすぐに支援艦隊を出撃させた。

 

 妖精さんたちにバケツを持ってきてもらい、ドックへ行かずとも事なきを得た。

 そして二人から状況を詳しく聞くことが出来た。

 冷葉は”こうしては居られない”ともう一組の支援艦隊を出そうとするがサラトガから待ったがかかる。

 

 芙二が内蔵した無線機とは別の無線機を取り出し、使い始める。

 自身の名前をいい、しばらく頷いていたが無線機を話して冷葉に渡す。

 

サラ「神通さんからです。はい、このまま冷葉補佐にお伝えしたいことがあると言ってました」

 

冷葉「冷葉だ。あぁそうか、支援艦隊もあり敵艦隊を全滅させることに成功したか。なにっ!? 

 時雨がボロボロで降ってきた!? 後のことは憲兵達(むこう)に任せ、すぐに帰投せよ」

 

 隣に居た大淀が時雨がボロボロで降ってきたという言葉に反応して勢いよく立って冷葉を見つめる。

 冷葉は気にもしないで、続きの指示を出していた。

 

冷葉「援護しに来てくれた彼女達の力も借りなさい。負傷した仲間と共に安全に帰投せよ。あぁ変わってくれるかな。礼を言いたいんだ。なに、時間は取らせないよ」

 

 神通から援護しに来たという大本営所属の艦隊の旗艦に変わる。

 

長門『艦隊旗艦の長門だ。提督から援護の指令を受けていたが、我々が到着した時にはもうほとんど終わっていた。我々がもう少し早く到着すれば被害を最小限に出来たのかもしれなかった』

 

冷葉「こちら、東第一泊地の冷葉、階級は補佐だ。戦闘には間に合わなかったかもしれないがそれでも非常に有り難い。ところで神通から聞いたのだが力を貸してくれるらしいな。礼を言わせてくれ。ありがとう」

 

長門『! いや礼には及ばないさ。聞いた話だが大事な仲間を拉致されたのだろう? 激昂しないでよく持ちこたえてくれた。あとは私達に任せてほしい。ところで芙二少佐はいるのか? 彼には重要な情報を教えてくれた礼をしたいのだが――』

 

冷葉「あーえっと……芙二は別件でここには居なくてね。伝言なら聞いておくけど、どうする?」

 

長門『そうだな。では『また本営へ来てくれ』とだけ、お願いしたい。芙二少佐によろしく頼む』

 

冷葉「了解した。あ、そうだ。この後はどうなってる? 閣下か秘書艦の指示待ちなら汗を流して、食事でもどうだ。それに燃料と弾薬の補給もさせるように手配しよう」

 

長門『ちょ、ちょっと待ってくれ。別に我々は大したことをしていない。入渠もそうだが、補給に食事は不要だ』

 

冷葉「いや気にするなよ。今は時間が惜しい。これから何かあるかもしれないだろう? まぁ食事っても握り飯しかないけどまぁいいよな! てことだ、待ってるからな」

 

長門『あ、ちょっ――』

 

 冷葉と長門の通信は終了した。

 向こうが連合艦隊で来ていたら多分食料が無くなっていたかもしれないな、と思いながら大淀とそばにした赤城たちに声を掛ける。

 

冷葉「――という事だ。赤城たちはそのまま工廠に行ったついでに入渠してきてくれ。妖精さん、いるかい?」

 

 『お呼びですか、冷葉』『作戦は、作戦はどうなった!?』

 『話聞いてたけど冷葉も休めよー』『そうだぜ、補佐も休まないと死ぞ』

 

冷葉「ありがとう。赤城たちが工廠へ着く前に先に明石と夕張に伝えてほしい」

 

 何人かの妖精さんは『ガッテン』と声を揃えながら去った。

 残りの妖精さんのうち一人が、他の妖精さんに向かって

 

 『てめぇら、バケツと甘味を準備しろ! 

  てーとくがもしものためにって言ってくれてた備蓄を解放するぞ!!』

 

 そういって、他の妖精さんを引っ張って何処かへ行ってしまった。

 

冷葉「芙二……妖精さんに、もしものためって言って教えてたのか。あ、そうじゃない。大淀さんは明石と夕張の方へ応援に行ってほしい」

 

大淀「了解です。冷葉補佐? 提督からの作戦成功の言葉を待つつもりですか?」

冷葉「そうするつもりだ。陸奥や神通、長門達がくるまで後一時間はあるからな」

 

大淀「そうですか。では、私は一旦失礼しますね」

 

 一礼すると赤城やサラトガと共に執務室から出て行く。

 第二部の作戦が成功したはずだと自身に言い聞かせる。

 時雨がボロボロだから聞きだせないが、きっとあの清霜は死んだはずだ。

 

冷葉「で、だ。芙二はどうなったんだろうかね? 長門の言った通りだともうあそこは憲兵達で溢れていると思うし。奪い返して今は話を聞かれているのだろうな」

 

 待っていても仕方がない。

 とりあえず、俺は米を炊きに行くか――と言いながら椅子から立った時だった。

 

 ジリリリリリ ジリリリリリ

 

 執務室に備え付けられていた電話が鳴った。冷葉は芙二からだな、と思って受話器を取って

 『こちら、東第一泊地の冷葉。要件をどうぞ』と相手に言った。

 

冷葉「な!? それは本当なのか!?」

 

 受話器から伝わる言葉に思わず大声を上げて返してしまう。

 その後、謝って状況を詳しく聞く。

 

冷葉「そうですか、芙二からの伝言は分かりました。こちらでやっておきます。それで芙二はどれぐらい入院しているのですか?」

 

 受話器の向こうからは『今は分からないが怪我の程度を見てからだがこの状態を見る限りだと半年は動けなさそうだ』と言われた。

 

冷葉「…………」

 

 しばらく無言になる。

 あの人外な芙二でも半年動けなくなるほどの戦いがあったのだろうか。

 

 心配になるが今だけはここを離れるわけにはいかない。それに芙二のことだ。

 半年かかるとか言われても一週間で退院してくるに決まっている。

 

冷葉「あ、すみません。衝撃的で言葉を失ってました。芙二の意識が戻ったらまた連絡ください」

 

 相手との通話は終了した。作戦は成功したが、芙二と叢雲は帰ってこなかった。

 この事実をどう伝えようかと迷ったが、そのまま伝える事にした。

 

冷葉「んー、とりあえずは放送室へ向かうかなー」

 

 考えていても仕方ない。

 今は自分のやるべきことをやろうと思い、執務室を後にした。

 

 

 

 





 南西諸島海域編を含めた二章もそろそろ終盤に近づいて来ました。
 
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