とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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 迷い込んだ、時雨のはなし。または遠くの縁に導かれた先は。


二章 78話『時雨、深海神域にて会う』

 同日 正午過ぎ 

 

 東第一泊地 にて

 

 作戦は成功に終わったが、一方で時雨、芙二、叢雲は帰ってこなかった。

 冷葉が言うには奪い返す事には成功した。しかし叢雲は検査のために明日までは大本営付属の病院にいると言った。

 

 芙二も芙二で負傷しているらしく数日は退院することが出来ないと、嘘を話した。

 

 実際のところ本当に数日で返ってくるような、そんな気がしていたからだ。

 しかし問題は時雨にあった。

 

 彼女は入渠を済ませても一向に目を覚まさなかった。考えられる理由はただ一つ。

 

 朝潮や川内に聞いたことだが、時雨が敵対していた時の姿に戻っていたことらしい。

 ぱっと見はそのように感じたらしいが中身は時雨が扱えていたとの事だった。

 

 そしてその力を用いて清霜を倒したが相討ちだったのかもしれない、とそう思えてきた。

 

 芙二が居たら、目を覚ましているかもしれないが今は入院中だ。

 戻ってきて時雨が目を覚まさなかったらお願いしよう、と思った。

 

 陸奥や神通たちを送り届けてくれた長門は状況をいち早く察することが出来ていたので、時雨の過去については触れなかった。同様に、ついてきている仲間にも目線を送って了解を得させようとしていた。

 

 そんなとき、明石が冷葉に向かって口を開く。

 

明石「とりあえずはここで安静にしておきましょう。冷葉補佐も仮眠を取られてはどうですか? このなかで一番、顔色が悪いです。仮眠を取られている間は大淀と私達で応対するので」

 

冷葉「…………悪い。そうさせてもらう。夕立、時雨は絶対に目を覚ます。だから傍に居てやってくれないか」

 

 夕立の返事はない。冷葉は返事を待たずに医務室を後にした。

 代理を承った大淀はまずは長門達に話しをした。

 

大淀「泊地がこんな状況ですみません。助けていただいたのに、ほとんどなにもできてなくて……」

長門「いいや、補給も食事もさせてもらっただけありがたい。こちらからも礼を言おう。ありがとう」

 

大淀「あ、いえいえ。これからどうされますか? まだここに滞在しても構いません。ただ私はこれから事の始末に追われるためあまり会話は出来ませんが――」

 

長門「そのことだが……ここに来る前、大鳳から指令を受けてな。『ここの艦娘の安全が確保でき次第戻って来なさい』と言われてしまっている。送迎車を手配したから直に来るだろう。再度礼を言わせてくれ。色々とありがとう」

 

大淀「そうでしたか……なら、玄関まで送っていきますね。明石さん、この場を任せました。私は長門さん達を玄関まで送って来ます」

 

 そういって、長門と共に大淀は医務室を後にした。

 夕立は目を覚まさない時雨の手をぎゅっと握っている。

 

 明石がなにか言おうとしたとき、一言伝えて自室に行くものや外へ散歩しに行くものと自由な行動を取っていった。

 

 まぁこれでいいですかね、と明石。大淀にこの場を任せられたが、とりあえずは良しとする。

 部屋には明石と夕立しか残らなかった。

 

 依然として夕立は時雨の手をぎゅっと握ったまま消え入りそうな声を出した。その声色は暗く、悲しさが滲み出ていた。

 

夕立「…………時雨が目を覚まさないっぽい」

 

明石「ですね。脈も呼吸も安定しているのに、どうしてでしょうかね。こういうときに提督が居たら分かるんですけど…………」

 

夕立「補佐は、目を覚ますと言ったけどこのままだったら――いやっぽい」

明石「大丈夫ですよ。このままなんて、ありません。今は起きるのを待っていましょうよ」

 

 すすり泣く夕立の頭を優しく撫でながら、声を掛ける。夕立はゆっくりと頷いたのだった。

 

 

 ======

 

 

 深海神域にて

 

 

時雨「あれ、ここはどこだろうか?」

 

 気がついたら、自分は一面白い彼岸花の咲くところへ座っていた。

 見渡す限りは際限なく白い彼岸花の花畑が広がっていた。

 

 

 確か清霜と激闘を繰り広げていて――あ、そうだ。

 

時雨「覚えているのは……そうだ。清霜にトドメを差して、爆発に巻き込まれて――もしかして死んだのかな? だとしたらここがあの世っていうところ?」

 

 顎に手をついて考えていると、ふいに音が鳴る。

 

 ガサガサ ガサガサ ガサガサ

 

 誰かがこの花畑をかき分けて近づいてくる。しかし音が聞こえるだけ周りを見ても誰もいない。

 これが幽霊なのか、と感心していると自身の目の前にうっすらけもの道が作られていた。

 

 気がついたら花畑をかき分ける音は聞こえなくなっていた。

 ここで立ち止まっていても仕方ない。そう思った時雨は、うっすらと続いているけもの道を進む。

 

 どれぐらい歩いただろうか。けもの道を行ってもずっと花畑は終わらない。

 それどころか、天気が変わらない。昼間のようにずっと明るい。時間間隔を失いそうだ。

 

時雨「…………でも疲れない。やっぱりぼくは死んでしまったのかな」

 

 死んだから疲れない。肉体がないのだ。疲労を感じることがないのに納得する。

 

時雨「あれ、あそこに誰かいる。ここがどこか聞いてみよう」

 

 白い彼岸花畑の中に一人、この花畑に相応しくない黒いドレスを着た人物と赤いドレスを着た人物は白いテーブルにあるカップを手に何やら楽しそうに話していた。

 談笑しているのだろうか、と思っていたが聞きたいことがあったので時雨は近づいた。

 

深海神棲姫「そうだな。しかしその場合だと――」

 

時雨「あ、あの…………」

 

??「おい、話しかけられているぞ」

 

深海神棲姫「ん、あぁすまないな。なにかな、お嬢さ…………?!」

 

??「あぁ? どうしたってん……なんでお前がここにいるんだ? ()()

 

 

時雨「どうして、ぼくの名前を――? それにここはどこだい?」

??「あぁこの格好じゃ分からないか」

 

 そういって赤いドレスを着た人物は換装し身体の至るところへ独特の艤装を纏わせる。

 見ていた時雨の表情が変わっていく。

 

??「これで――思い出しただろう? 私だ。駆逐神棲姫だ。そしてとなりにいるのは――」

 

 深海神棲姫、と言いかけた所で時雨は腰を抜かす。

 

時雨「つまりここは敵の拠点……どうしよう。ここじゃ艤装が出せない」

 

 青くなってしどろもどろになっていた。駆逐神棲姫は艤装から換装し元の姿に戻る。

 それを見て、時雨は訳の分からないといった顔をしていた。

 

時雨「ぼくをどうするっていうのさ!」

 

駆逐神棲姫「話を聞け。私もこいつもどうするつもりもない。というか、どうしてここにいるんだ? 死んでもここには辿り着かないはずだが?」

 

時雨「そんなの分からないよ。ただぼくは戦って気がついたらここにいたんだから」

 

駆逐神棲姫「そうか。それじゃあ――大方のところは縁だろうな。まぁ椅子に座れよ。な? 別に取って食おうってわけじゃないんだから。いいよな神棲姫?」

 

時雨「神棲姫? このヒトも――深海棲艦!?」

 

??「ハァ…………今はその名で呼ぶなと言っただろう。今はエルナと呼べと。なぁ、ミア?」

 

 黒いドレスを着た女の人は駆逐神棲姫のことをそう呼んだ。

 ミア?それが彼女の名前なのだろうか。深海棲艦に堕ちる前の、生前の名前なのかと想像する。

 

 しかしミアと呼ばれた駆逐神棲姫はばつの悪そうな顔をして神棲姫と呼ばれた黒いドレスの女の名を呼ぶ。

 

ミア「ちっ! なんで昔の名前を思い出させるんだよ。あぁ……仕方ねぇなエルナ=サンよぉ」

 

エルナ「そうだ、ミア。それでいい。こうして再開することが出来たんだから――っと失礼。時雨だったかな。芙二から聞いているよ」

 

時雨「芙二? ……それって提督のこと!?」

 

エルナ「そうだな。芙二は私と約束を交わした男だ。しかしまぁ……貴様たちの居る世界へ送ったはずだったのだが別の世界へ届けられるとは、な」

 

時雨「それって――人間じゃないのと関係するの?」

 

エルナ「大いにある。が、しかし芙二も転生時に別の世界に惹かれようとはな。それもその世界にとって災厄みたいなものを受け入れるとはなぁ……もともとそういう願望があったのか、或いは既に邪悪な存在と波長が重なるものを持ち合わせていたのか」

 

時雨「……ねぇ、エルナさん。教えてよ、提督について」

 

エルナ「あぁ、あぁ。さん付けじゃなくて良い。それとこれは他言無用だぞ。本人である芙二には話しても良いが、やつが自分から話し出すまでは誰にも漏らしてはならぬぞ」

 

 深海神棲姫ことエルナからは自分の上司である芙二に匹敵するほどの殺意が放たれるも、退かず頷いた。それを見てかエルナは嬉しそうに頷いてお茶を準備しだすのだった。

 

 

 =======

 

時雨「……提督って元々人間だったんだ。しかもあの世界とは無縁の人間、かぁ」

 

 泊地の提督であり、人間も艦娘も深海棲艦も凌駕する男が元人間だったというのだから驚きだ。

 でもそんな超常現象(ちから)を見せられ続けてきたので流石に信じられなかった。

 

 転生者というのにも、どこか嘘があるようで眉間に皺を寄せてエルナとミアを見つめる。

 

ミア「それも分かる。あんな化け物をエルナが作り出した挙句、異世界で魔改造されて帰ってくるってどんな悪夢だよってハナシだしよ」

 

エルナ「もともとは深海棲艦(どうほう)の魂を救うだけの能力だぞ。それを概念で捉え解いて、自分の扱いやすいように変えてしまうなんて誰が見抜けると思うのだ?」

 

時雨「そもそも、特異能力を他人に付与できるところから理解できないよ」

 

エルナ「私もミアも一応は神の分類に入るからな。自分よりも位が低いものには付与できるのだが……私だけだな、ここまで万能なのは。ミアはどうだ? かつての力は使えるのか?」

 

ミア「無理だな。完全に堕ちてから、どこかへ失くしちまった。今できるのは憑依して戦うことくらいだ。それが関の山ってところ」

 

エルナ「そうか……芙二にでも頼めばもとに戻してくれるんじゃないのか?」

 

ミア「どうだろうね。私はあいつ苦手なんだけど……まっ今は別に困らないからいいけどな」

 

エルナ「ふむ。さて、時雨。もうしばらくはここにいないか? ここはあの世でもないし貴様のいた世界でもない。ここにいる限り、貴様の崩壊は止められる。芙二と共に深海棲艦(どうほう)と戦っているのだろう?」

 

時雨「うん。そうだね。ここに来る前だって――」

 

 エルナにここに来る前の日常を話そうとしたとき、ミアは椅子を引いて席を立った。

 

ミア「……私は一旦席を外す。後は二人で仲良く談笑しあってくれ」

 

 そういって白い彼岸花の花畑の中へ消えていく。赤いドレスを着ているので目立つと思ったがそうでもなく溶け込むように何処かへ行った。

 

時雨「行っちゃった。それじゃあエルナ。ぼくと提督の出会いから話すね」

 

 再び、時雨はエルナの方を向いて喋り出した。

 満足そうに話を聞いていたエルナは何処からか取り出した茶菓子をひとつ取って口の中に入れたのだった。

 

 

 

 

 




 深海神棲姫 昔の名前は エルナ

 駆逐神棲姫 昔の名前は ミア

 時雨はまだ目を覚まさない。
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