とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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 久々の投稿。


二章 80話『そのころ、叢雲はというと』

 本営 カウンセリングルームにて。

 

 叢雲が誘拐されたあの日から十日が経過し、傷は癒えはじめてきたときのこと。

 

 あの日、ここへ送られてくる直前の記憶はあれど、他はなかった。

 しかし叢雲にとっては翌日からが忙しかった。

 

 それは精密検査やらなにやらをされて、あの日以上にへとへとになったのだ。

 ようやくひと段落して、芙二のことや泊地の仲間のことを気に掛け始めた頃、本営の明石が叢雲が療養している部屋へ訪れたのがキッカケだ。

 

「些細なことで良いので教えてはくれませんか?」と言われて、お世話になったのだから少しだけ話そうと思った。それからは明石について行っていた、というわけだ。

 

明石「叢雲さんは誘拐されたとき、何か薬を打たれたの?」

叢雲「打たれる直前で提督が駆けつけてくれたからよかったけど……」

 

明石「けど、どうしたのですか?」

叢雲「私以外にも深海棲艦や人がいて……とてもむごい姿に変わっていくのだけは耐え難かったわ」

 

明石「なるほど。ほかの艦娘はいましたか?」

叢雲「いや、いない……とも言い切れないわね。私が連れていかれるまでは、のことしか分からないわ」

 

 

 カウンセリングという名目ではあるが……実際はあの日、叢雲の身に起きたことを本営の人間が知りたいだけであり、明石はそのために訪れただけだったのだ。

 

 二時間ほどのカウンセリングは終わり、明石は叢雲に聞く。

 

明石「以上で質問は終わりになります。叢雲さんはこれからどうしますか?」

叢雲「そうね……」

 

 椅子から立ち上がると体を伸ばしながら考えているようだった。

 

叢雲「私はもう少し、ここを散策するわ。本営の明石さん、ありがとね」

 

 そういいながらカウンセリングルームを後にした。

 残った明石は叢雲が答えた内容をレポートにまとめようと思い、部屋をあとにした。

 

 ======

 

 ここで働いている人間たちの話す声や機械を扱う音、自分の知らない艦娘が行き来する環境に溶け込まれそうになっていた。

 

 邪魔にならない位置に立って、周囲を観察する。

 

 

叢雲「……泊地よりも広いんじゃないかしら? いやそれもそうね。人も艦娘も妖精の数もけた違いに多いわ。流石は本営というだけあって――」

 

 途中で言葉が切れる。叢雲の視線の先には姉の吹雪と白雪、本営の磯波。

 そして――本営の叢雲(じぶん)が仲良く話しながら歩いていた。

 

叢雲「ッ!」

 

 四人は仲良く話しながら歩いてどこかへ行った。だが、しかし叢雲は彼女らに見つからないようにとっさに隠れるような動きをした。

 

叢雲「? なんで、私、いま隠れるような素振りを――」

 

 身体は壁の陰に潜むように収まっていた。叢雲は自分でとった行動に理解できず、頭が追い付いていない。どうして、そんな行動をしたのか分からなかった。

 

叢雲(どうして?)

 

 頭の中には「どうして?」という単語でいっぱいになっていく。四人は自身に気が付かず楽しそうに話していたではないか。それなのに――……それなのに……どうして気持ち悪いと思ってしまうのだろう。

 ドッペルゲンガーにでも遭遇したかのように、声も見た目も同じ存在がいることに違和感を持つ。

 そこにいるのが自分ではないのか、と口にしかけた。

 

 嫉妬でも羨望でもない、この思いはなんだろうか、と思った。

 ずっとそこにいるわけにもいかないので、裏道へ逃げるように移動して再度散策をし始める。

 

叢雲「……にぎやかではないけども……それなりに人の行き来があるわね。これだけ広いとどこかしこに人がいるのかしら……」

 

 そう呟きながら、歩くこと数分。

 

叢雲「あれはーー」 

 

 視線の先には夕雲がいた。泊地には夕雲は配属されていない。

 だとしたら、あちらの夕雲だろう、と叢雲は考える。

 

 声を掛けようとしたが、少し躊躇った。理由はところどころ髪が白いからだ。叢雲が記憶している限りだと、夕雲の髪は緑色だったはずだ。

 

 しかしこちらへ向かって歩いてくる夕雲の髪の色は薄い緑色に白い色が混じっていた。

 

 建造された時からそんな感じだと言われたら、それ以上何も言わないが叢雲にはそうなったのは何か理由があるように感じた。

 

叢雲「あ、あのーー」

 

 すれ違いざまに声を掛けようとした時だった。

 

叢雲(え、何その顔……)

 

 さりげなく聞くつもりだった言葉も後に続かない。それは向けられた表情は何か恐ろしいものを見るような、とても怯えたものだった。

 

 そんな目線を受ける謂れはない。が、しかし驚いている自身に対し、直ぐに表情を戻すとぺこり、と会釈をした夕雲は小走りでどこかへ行ってしまった。

 ぼう然と立っていた叢雲だが、あとで大鳳かあちらの明石あたりに聞いてみようと思い散策を続けるのだった。

 




 なんで夕雲は叢雲を恐ろしいと思ったのか。

 答え合わせは、またどこかで。
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