シェリルと葉月は島民に案内されるがまま、この島に祀られている現人神とされている人物に接触する寸前、空気が変わるのを感じた。
シェリル「ッ! 葉月さん! これは――」
葉月「分かってるけどあれは、俺たちが想定していたよりもマズい!!」
シェリルが島民を庇い、葉月が構えた瞬間――……穏やかな空気を一変させるほどの怒気に満ちた生物がこちらを睨みつけていた。
シェリル「……あれが、カイン・アッドレア? その姿はまるで半人半龍……でも龍神ではない?」
『■■■■■■■!!!!』
葉月「シェリルさん! とりあえず距離をとって――――!?」
半人半龍のそれ――――カイン・アッドレアは葉月を憎き怨敵としたようで、言葉にならない咆哮をあげる。
響き渡っているときも終わった後もビリビリ、と空気を揺らす。あまりの声量に耳を塞いだのがいけなかったようだ。
『■■■■!!!!』
葉月に向かって高速で距離を詰めてきた。シェリルに指示を出している場合ではない。
なんとかして対処しないと、これは確実に死ぬ。そう確信した葉月だが、闘牛士のように受けながす。
受け流されたカイン・アッドレアは巨大な岩に激突した。激突する際、砕ける音が鳴り土煙が舞い視界を遮った。
葉月は島民を庇ったままのシェリルに再度指示をする。
このままでは全滅もあり得ると直感で理解したからだ。
葉月「シェリルさん! 波止場に急いで戻って! このままだと――――」
言葉が途中で途切れる。いまだ土煙立ち込める中にひときわ増す殺意を感じ取ったからだ。
ブワッ……暴風に扇がれたように土煙は晴れる。そこにいた存在はジッと葉月やシェリルを見つめていた。
葉月「君が、カイン・アッドレア……なのか?」
自分を見つめているそれに話しかける。
フードが脱げて額のあたりから鬼のような角が生えている。見た目はボブカットの黒い髪に褐色の肌で縦長の瞳孔に青い目をしていた。
シェリル「あれが二百年前に行方不明になった娘……なの? その姿はやっぱり……」
カイン「二百年前? 娘よ、いったい何を言っているのだ? 我は二十数年と理解しているが……」
シェリルの言葉を聞いてカイン・アッドレアはシェリルのほうを向いてきょとんとした表情で言った。
岩に激突した衝撃でなのか、カイン・アッドレアに自我が戻っていた。しかし怒りは鎮火していないようでピリピリとした緊張感があたりを包んでいた。
シェリル(ッ! 世界軸がもたらす時間差を理解していないの……ね。酷だけど知らせるべきかしら……)
カイン「なぁ娘よ、二十数年しか経っていないだろう? ……まさか娘の言う通り二百年も経ってしまっているというのか?」
葉月「…………」
シェリル「それは……」
カイン「無言は肯定と取るぞ。まさかそのようなことが――なら我の家族は、父や母、兄や姉、妹や弟は……どうなったというのだ!! なぁ、答えよ、娘ッ!!!!」
無言を貫く、葉月に、シェリルに対し口調が荒くなる。きょとんとしていた表情より一変、鎮火していない怒りが燃え上がるのが見えたような気がした。葉月は膨れ上がっていく殺意を前にしてどう対応するかを考えていた。
しかしシェリルはその表情のなかに事実を信じられない、拒絶したいといったような感じが見えたような気がした。自分だけ置いて行かれた、果てのない怒りが湧いて上がっていくのが見えた。
カイン「ううううううッ!!」
どうやって吐き出せばいいかわからない、抑えきれない思いに呻る。
カイン「うううううう……うああああ!!!」
血の涙を流して呻る。ギリギリと歯ぎしりをする。
カイン・アッドレアの周囲の空気が黒く澱んでいく。
それは目で見て確認できるくらいの変化を見せる。
植物の生い茂る大地が腐るように、水分がなくなり枯渇するようにひび割れていく。
葉月「なっ……」
シェリル「あれは――?!」
二人が驚くのも無理はない。カイン・アッドレアの身体が光り始めていく。
あまりのまぶしさに目を瞑った。すぐに光は消えるのが分かったので、ゆっくり目を開くとそこには――。
『■■■■■■■■■!!!!』
頭は丸く、山羊のような角が二本生えており、白く輝く龍鱗に身を包ませ、白い天使のような翼が生えている龍がいた。
シェリルはグランフリードと似たような気配のカイン・アッドレアを見て言葉を失う。
葉月は漫画やゲーム、空想に出現する存在がこの世界にもいるということを知って愕然としている。
『■■■■、我は貴様らを許さぬ。赦さぬぞ!!!!』
頭の中にカイン・アッドレアの言葉が響く。カイン・アッドレアはそういうと咆える。
咆え終わると同時に、龍神化したカイン・アッドレアは空へ舞う。
葉月「シ、シェリルさん! 早く、避難をさせて!」
シェリル「わかりました。葉月さんはどうするん――」
葉月「俺は何とかして抑える!! 一時的な時間稼ぎしかできないと思うから――最悪は俺を置いて島民ごと避難しろ!!」
口調が荒くなるが、シェリルと放心状態の島民を連れてほかの島民を非難させるべく動く。
空へ舞う、翼を広げて飛ぶ龍の姿はまさに圧巻であった。
燦々と陽の光が白金の
葉月「ここまで、なってるなんて――予想外なんだが?」
太陽を背に、葉月を見下ろすその姿に影が入っていても関係なしにするほど、その圧倒的な存在感の前に、葉月は息を呑む。
『我は天獄龍 カイン・アッドレア。我を侮辱し、弄んだその罪。種の命をもって償わせてやろう!!』
と、我を忘れて怒りに身を任せ、咆えるカイン・アッドレア。
彼女は現人神でなく、これよりは
半人半龍だった彼女は、このときをもって
葉月「天獄龍……? 陛下とは違う……まるで御伽噺の天災のような」
そう呟くと、腰に据えた刀を抜く。龍國で作られたものではなく、葉月家に代々伝わる業物の一つ。
葉月「……折られることはないと思うけど……とりあえず翼を切り落とすか」
握り、刃先を飛行しているカイン・アッドレアに向けて言う。
『……【
そう、カイン・アッドレアはつぶやく。
そして葉月めがけて巨体が急降下するのだった。
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一方、シェリルは。
お昼もお昼でごはんどきだが、天災は時間を選ばない。
こんな辺鄙な島へ調査に来たという二人のうち、片割れと放心状態の案内人が帰ってきて村のなかは騒がしかった。
『なんだ、さっきの声は――!!』『いったい何が起きたというのだ!』
『あのあんちゃんはどうしたんだい?』『現人神さまなら、なんとかしてくれる』
シェリルたちを見るなり、人々は口々に言った。
放心状態の案内人こと、村人は『もう終わりだ……あんなにお怒りになったのは見たこともない』と蚊の鳴くような声を出していた。
シェリル「みなさん、とりあえず――避難してください! このままだと――」
ドォン! ズガガガッ ドォン!
言い終わる前に、火山が噴火したほどの爆発音と煙が上がる。向こうで戦っている二人の衝撃なのか、地面がぐらぐらと揺れる。
シェリル「皆さん、落ち着いて――島の東側に避難先があるのですよね!? ならそこに行きましょう」
なんとか、言い終わって動ける者と動けない者とが互いに助け合って避難先へ向かう。
洞窟をくり抜いた、塹壕のような避難先に島民とシェリルは逃げる。
全員が中に入ったのを確認して、シェリルは一人だけ外へ行く。
島民は中で収まるまで待機していてと、指示を出して。
シェリル「ひどい……なにもかもが焼けて……葉月さんは大丈夫なのかしら……」
戦闘の中心へ向かうごとに、いまどんな状況のなのか分かる。木々は焼け倒れ、地面は凹んでいる。
ところどころ、穴が開いてたまに落ちそうになる。それだけ戦闘は激しいというものが分かる。
ところどころ焼けている森を抜けて、少し広い場所へ出ると葉月と龍化していないカイン・アッドレアがいた。
シェリル「――いた! 葉月さ――え? は、づきさん?」
自分の知る男の背が見える。その向かい側には自身の手についた汚れを落としているカイン・アッドレアがいる。葉月を無視し、シェリルを見て口を開く。
カイン「少し遅かったな。この人間は
シェリル「はづき……さんはどうなったの?」
カイン「さぁな。命は奪いはしてないが、奇跡だな。奇跡的に人の形を保っている。早く治療しないとせっかくの命がもったいないぞ」
葉月「……うる、さいな。この、くらい、なんと……ないんだが?」
そういっても満身創痍の葉月は片膝をつきながら荒い呼吸をする。苦しそうな表情をしたまま、近寄ってきたシェリルに身体を預ける。
カイン「……我の気が変わらぬうちに行け。島民へはこう伝えろ。”ここはいずれ、戦地へと化する。命惜しくば、逃げろ”とな。世話になった礼だ。最後の温情を与える。では、いけ」
ここはすぐに戻って島民や芙二へ伝えようと行動する。
葉月(芙二くんでもあれは厳しいかもしれないな――……格が違う。たとえ龍人でも勝てない、かな)
と、思いながら誰もいなくなっている村へ歩く。
村の広場にある、長椅子へ葉月を下ろすとシェリルは避難先へ戻って伝えるといい行った。
ぼろぼろの服の懐から、芙二特性の回復薬を取り出すと一気飲みする。先ほどまで激痛が走り、動くのも辛かったのがウソのように治る。
葉月「はぁーあ。これは、芙二くんに丸投げかなぁ…」
と、明後日の方向を見ながらぼやいた。
新キャラクター:
もともと人間だったが、この世界に拉致されてきて身寄りのない子供とともに施設へ送られるも、最後は製薬施設に売られモルモットとして二十年間、生き続けた。
肉体は度重なる拷問や実験に対応するために、
どうして龍の姿となったのかは不明だが、神となる際、彼女の親が信仰していた宗教の神の形をイメージした際、新たな神として生まれ落ちたのではないか、と言われている。
天の災厄。世界を滅ぼしうる存在の一角へ進化した。
天獄龍の放つ、神々しさに憑りつかれると、反抗することはできなくなる。