とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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 一方、シェリルや冷葉たちは。


二章 87話『五月十日 南西諸島海域深部にて』

 地上で聞こえていた金属がぶつかる音や衝撃で木々の倒れる音がしょっちゅう聞こえた。

 しかし地上から聞こえなくなったかと思えば、自分達の頭上でさっきまで耳にしていた音が聞こえたのだ。

 

 見上げると、空で戦っていた。その二人の影が消えては、現れを繰り返していた。

 時折、金属が擦れるような音も聞こえる。それだけではなく、無数の輝く剣が出たり、雷が落ちるのではなく、横に貫くように動いたり、と人智の及ばない戦いをしていたのは明白だった。

 

 ただそれをシェリルと葉月は救援を待つあいだ、見ている事しか出来なかった。自分達が参加してもどうもならないことを分かっていたからだ。今は芙二に任せて、自分達の仕事に専念するだけだ。

 

 他の島民もそうだ。魅了されなかった島民も自分達で起きている、理解できない現象を見ているしか出来ない。

 

『神さまが二人……? いるの?』

『この島の神はどちらなのだ……』

 

 シェリルと葉月の後ろで少女と老人の声が同時に聞こえてきた。

 この現象に曝されて、理解が追い付いていないのだろう。他の島民は皆顔を合わせて、島で暮らす家族を狂わせた存在ではなく今戦っている黒い存在に祈りを捧げているようだった。

 

『どうか、自分達をお守りください』そう願っているようにシェリルには映った。

 

シェリル(この島の人は知らなかった、だけ。カイン・アッドレアが悪いわけじゃないけど……凌也くん、彼女のことは任せたわ)

 

 重なり合っては消える影に自らの願いを託し、シェリルは葉月に話しかける。

 

シェリル「やけに空が明るいけど、日本(ニホン)だと夜でも明るいのが基本なの?」

 

葉月「いいや、日本でも夜は来るよ。でもこんなに明るいのはきっと龍神化したカイン・アッドレアの力の一つだと思うよ」

 

シェリル「私も詳しくはわからないのですが龍神へ至ったら、天候を自在に操作できるようになるってこと?」

 

葉月「そうだね。これは俺の予想だけど、天候を操作するんじゃなくて、カイン・アッドレアが明るすぎるのだと思うよ。明るさと余りあるオーラが雲を裂いてるんじゃないかな」

 

シェリル「だとしたら、彼女を倒せばこの異常気象は晴れると?」

 

葉月「予想だけどね。彼女を倒して晴れなかったら、また別を探せばいいだけだよ。まぁそっちは芙二くんの仕事だろうけどね」

 

 あぁこの人、いま丸投げ発言したな、とシェリルは葉月を見ていた。

 しかし葉月は気づかずに続ける。

 

葉月「俺達は俺達でカインアッドレアをあの世界に届けるだけでしょ? まぁすぐには帰れないから、しばらくはこの世界を観光してもいいと思うけどね」

 

 そうですね、とシェリルが返そうとしたとき。自分達の頭上から生物とは思えない、怨嗟の咆哮(こえ)を聞いた。

 

『ギゥゥァァアァァ――――!!!!』

 

 空を見上げると、龍化したカイン・アッドレアが居たが、先ほどとは違い身体からは黒いオーラが溢れていた。その声は空気を震わせながら、地上へ突風を吹きつける。

 

 島のいたる所に生えている木々を揺らし、脆い建物は倒壊する。怨嗟の咆哮(こえ)を聞いた島民はすっかり怯え切っていた。

 

シェリル「いよいよ、この島も危険かしら……?」

 

葉月「俺達が怒らせた時点でこの島に未来はないよ。最もなことを言うとカイン・アッドレアがこの島の神を喰い殺した時点かも知れないけどね」

 

 その言葉を聞いてシェリルは溜息を吐いて、結界を張り直す。先ほど見た白爆発がもう一度来ない事を祈るばかりだ。

 

シェリル(どうしてここの人は制御できないかも知れないのに、無理矢理行使するのでしょうか? 疑問は解決されませんね)

 

 

 ======

 

 少し戻って……冷葉たちは。

 

 五月十日 夜 二十時七分 南西諸島海域 深部に位置する孤島付近

 

 芙二が冷葉に頼んでいた救援隊は水雷戦隊の編成で来ていた。艦娘が引っ張る小船と冷葉が乗っている装甲船に何人か行かせてやればいいと思ったから人数を少なくしていた。

 

 

夕立「補佐――! なんでか分からないけど、あの島の付近すっごく明るいっぽい!!」

 

 そんななか、夕立があまりの現象に物珍しさに目を輝かせて隊列から抜けて行ってしまったので一時速度を落として、声を掛ける。

 

 

敷波「ゆ、夕立! ダメだよ! しっかり隊列を組んでいかないと!」

 

名取「そ、そうですよ! 深海棲艦だってどこかに潜んでいるかもしれないのにぃ!!」

冷葉「夕立! それは分かったから、一度戻って皆と警戒しながら島へ近づいてくれ!」

 

 だが、夕立はどんどん芙二がいるであろう、孤島へ向かって前進していく。あぁもう止まってくれ、という思いが冷葉の中に溢れていく。

 

 話を戻して、冷葉は水雷戦隊を組んでここへきている。話の終わりのついてくるなら口外はするな、という約束を守るという名目上それでもついてきた艦娘は何人かいたが。

 

 サラトガや時雨、叢雲はだいたい察しがつく。芙二といつもいるから、心配なんだろう。退院してから、すぐにこの激戦を自ら名乗って行っている。

 

 補佐であり親友である冷葉も呆れてものも言えなかった。

 

叢雲「司令官……大丈夫かしら?」

時雨「提督なら、大丈夫だと思うけど叢雲、その目はもしかして……」

 

叢雲「目? 目がどうかしたの?」

時雨「……いやぼくの見間違いだったようだ。さて、はしゃぐ夕立を連れ戻してぼくたちは向かおう」

 

 そうね、と言って二人は夕立を連れ戻しに向かう。名取や敷波も加勢して、向かっていく。

 心配そうな顔をする隣で、初めての現象に戸惑う曙が居た。

 

曙「なんで、空が昼間みたくなってんのよ!? もしかして新手の深海棲艦の攻撃!?」

 

 ワナワナとさせ、落ち着かない様子だ。サラトガが話しかける前に、響が声を掛ける。

 

響「それは違うよ、曙。君は知らないだろうけど、この世界には深海棲艦よりも恐ろしい存在がいるんだ」

曙「そ、それじゃあこの現象はそれが原因だっていうの?!」

 

響「そうだよ。私はこの現象を起こした存在を知っている。それは私達の想像を遥か行く存在だ」

曙「深海棲艦の様に倒せる、の?」

 

響「私達や深海棲艦であっても叶わない。それは人間でも、だ。まったく自分達でそう仕向けておいて、虫が良すぎるとは思わないのかな」

 

 途方もない方を向いて、少しだけダルそうに溜息を吐く。

 曙は曙で自分達や人間の持つ兵器でも勝てない、という言葉がとても恐ろしくて震えながら下を向いた。

 

曙「そ、それじゃあこのまま死ぬしかないの……?」

 

響「だろうね。私達はこのままだったら穏やかな死を待つしかない――けど」

 

 続けて話そうとするとき、曙が被せるように言った。

 

曙「なら、私はこの命を化け物を殺すために使うわ。特攻をして――――あいたっ!?」

 

 とんでもないことを言い出す曙の頭にチョップを入れる。

 チョップが入った曙は頭を(さす)りながら響を見た。

 

響「はぁ。続きを話すよ。けど、それに対抗できる存在もまたいるのさ。それはうちの司令官さ。司令官なら、アイツに対抗できる」

 

 なっ、えっと驚きすぎて言葉にならないようだ。響はまだ続ける。

 

響「あと、自分の命を粗末にするようなことしたら司令官に大目玉くらうと思うよ」

 

 そう言うと、まだ驚きの余韻に浸っている曙を置いて冷葉の乗る装甲船の方へ寄って行く。

 

曙「それじゃあクs……提督は人間じゃないの?」

 

サラ「……」

 

 曙のか細い声はサラトガの耳には聞こえたが、言えずにいた。自分がそうですよ、なんて肯定しなくてももう少しで分かるからだ。

 

サラ「曙さん、行きましょう? 夕立ちゃんが戻ってきたらしいですよ?」

 

曙「え? あ、あぁそうね。ったく、夕立! ここは危険な海域なんだから少しは緊張感を持ちなさいよ!」

 

 そう言って皆の元へ行った。

 少ししてサラトガも行こうとした時だ。

 

『ギゥゥァァアァァ――――!!!!』

 

 島の方からそんな鳴き声が聞こえた。その声は遠くまで響き渡っていく。さっきまでの雰囲気は掻き消え、皆の警戒心はかなり高くなっていった。

 

夕立「あれは……何っぽい?」

 

 

 そんなとき、夕立が漏らした声で艦隊は、冷葉は知ることになる。

 あそこにいるのは、紛れもない人智を超越した生物であることを。

 

 空にはアニメやマンガに出てくるドラゴンがおり、それを囲うかのように大きな光の輪が出現していた。

 

 こんな状況の中、救援に行くのは非常に気が引けるが、向かう事にした。

 

『なんか危険な予感がするけど、行くぞ。俺達は速攻で離脱しなくちゃ、行けないがな』

  

 船内から無線を使って個人個人に告げる。艦娘達からは”了承”という旨の信号が届いた。ありがとう、と内心思い妖精さんに指示を出して、あの島へ向かった。

 

 

 冷葉の行いは愚かかもしれない。

 だが親友が今戦っている。

 それに助かる命があると知っておきながら引くことは出来ない性分だった。

 

 

 

 




 天獄龍 カイン・アッドレアに異変が……
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