次の次で多分、二章終わりです。
背筋が凍るようなセンスのない厨二病をどうぞ。
島へ到着し、岸へ船を泊めた冷葉は降りて名取たちと合流する。
冷葉「早めに行こう。今を考えると、迅速な対応をすることが求められる。何を見ても、何を聞いても被災者の救出へ向かって欲しい」
名取「りょ、了解です! それじゃあ皆さん、いき、ま……え?」
冷葉の命令を聞いて、たじたじしながら頷き皆に指示を出しそうとしたが、頭上の少し上に見えた光景に言葉をなくす。
曙「な、何よ……あれっ」
敷波「あんなのが落ちたら、みんな死んじゃうんじゃ……」
曙と敷波は名取同様、頭上にゆっくりと迫りくるものを見て絶句していた。
響「アイツなら、それくらいやってのけるだろうね。司令官、大丈夫かな。まぁ司令官でダメだったらひと月後にはみんな等しく終わりを迎えるんだけどね」
サラ「ねえ、どうして響はそこまで達観しているのですか? 曙や敷波と同じような反応をしてもいいのではないですか?」
響「言ってなかったっけ? 私は元深海棲艦のイ級だよ? 殺されかけて自我が芽生えたあとは覚えてないけど、気がついたら司令官の部屋に居たんだ。……アイツは今も夢に出てくるんだ。だから、ここにいる理由としては克服するだけなんだけどさ」
サラ「そう、だったのですね……響も元深海棲艦、じゃあ所謂……」
ドロップ艦だね、とサラトガが言うよりも先に答えた。
響「正式に泊地の艦娘になってなかったらきっと死んでいただろうね。アイツは多分司令官と同じだと思うんだ」
サラ「それはりゅうじん……」
と言いかけたところを遮る。
サラトガを見て『すまない、そうじゃないんだ』と言いながら繋げた。
響「司令官は
サラ「それは……?」
響「タマシイだよ。アイツは生物の魂を食べるんだ。それが主食か分からないけど、でもアイツは元仲間を襲って深海棲艦の肉体から臓物とは違う別の何かを引きずり出して喰らったんだ」
サラ「……そんな、提督だけでも信じられないのに……」
響「自我が芽生えた時は理解出来なかったけど、司令官の正体を知って少しずつ夢で見た
サラ「……」
響「合ってるか、どうかはさて、としてだ。もう一度言うが私はこの目で見て克服しなければいけないと思ってるよ。サラトガ、君はどうしてついてきたのだい? 興味本位? 被災者の救助? 司令官を助けるため?」
その問いについて、答えられなかった。
黙ってしまったサラトガを見て響は『すまない、意地悪をするつもりはなかったんだ』と言ってまだ絶句している曙と敷波に声を掛けに言った。
サラ「私は……」
自分の気持ち、というのは実のところない。
強いて言えば、最近入院するレベルのことをやったのに性懲りもなく現在戦っていることを叱りに来た、というのが理由かもしれない。
だが、島に到着する前と後では致命的なレベルの差に気づく。
死を実感している。轟沈するかも、ではない。このままだと確実に死ぬ。
轟沈して深海棲艦に転生するなんて生温いことは起きないだろうと直感で分かる。
しかし今は叱る気さえも、失せてしまった。
唯一対抗できる芙二に神頼みをするように、祈るしかなかった。
でも仕事は仕事だと切り替える。
すぐに向かおうと名取の方へ行って落ち着かせようと動いたのだった。
夕立「ねぇ時雨、叢雲。ゆっくりと迫って来てるモノから背を向けて最速で逃げてもいいっぽい?」
問いかけられた時雨は、夕立の方を向く。そこには今にも泣きそうな表情をして、スカートの裾を握って立っていた。その表情を見て駆け寄って優しく抱きしめる。少しでも恐怖心を和らげるために。
『大丈夫。きっと提督がなんとかしてくれるから』
そういって、落ち着かせようとしていた。その中で叢雲は遅れながらも夕立の問いに答えた。
叢雲「ここまで来て間近で逃げるのはダメよ。逃げるのならそもそもついてこなければいい、だけの事よ」
夕立「っ……それは分かってる、けど。あんなのを見たら、叢雲は逃げ出したいと思わないの!? 提督さんもきっと――――」
叢雲「逃げたって? それはないんじゃないかしら。あの人、結構イカレてるところあるでしょ? 今も迫りつつある脅威に対して何かしているはずよ」
夕立が何か言う前に、次に続けて話した。
叢雲「私はあの人を、信じるわ。
(でもまぁあれを止められなかったら、まぁその時はそのときよね)」
そう思いつつも、自分の司令官を信じる、と言い切った。夕立は目を擦って涙を拭うと、はっきりした顔で『夕立も叢雲と同じように、信じるっぽい!』と恐怖心から立ち直ったようだ。
叢雲「それじゃ、名取さんの方へ行くわよ。中へ突っ切ると司令官と合流しちゃうかもだから――――」
時雨「まぁそうだね。外側からぐるっと回るようにしよう。名取さんに進言しようよ」
と、夕立の傍から離れて名取たちの方へ行った。
叢雲と夕立はそれについて行くようにしたのだった。
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芙二「……ん、ここはどこだ。あー……狂獄龍を顕現させようとしたところまではばっちり覚えているとも。で、ここはなんだ? カイン・アッドレアと同じような記憶を基にした空間か? それとも間に合わなくて全員ホトケサマになったか?」
と、見たこともない空間のなかでぼやいていた。照明がどこにあるのか分からないが、この空間は決して暗くなかった。それに自分の足元からは影が三本生えていた。ほんと、どこにあるのだろうか。
しっかし目が覚めたら知らない天井でした、なんて現実であるんだな、と実感していた。
それに今回は記憶を基にしているわけではないようだ。実体があり、手には篭手が装着されており、胴鎧を叩くといい音がなる。幽体離脱のようなものでは、ないのかもしれない。
芙二(今回は魂だけか? それか、今回限りで特殊な状態ってことか? なんにせよ、どこかにいる狂獄龍を探さないといけないってわけか)
など、と思ったとき、蛍のような優しい明かりが自分の元へ来た。
ふわふわ、と宙を舞うように飛ぶ。一つだけの光は、二つ、三つと増えていく。
芙二(道を示してくれるのか? あちらから招待してくれるなんて幸先がいいな)
宙を舞い示し続ける蛍のような明かりについていく。
芙二が歩くさきを明かりが照らす。
しばらく歩くと壁にあたった。篭手で殴りつけるも壊れない。
さて、どうしたものか、と思っていると道を示してくれていた光は壁へ吸収されていく。
芙二「おいおい、まさか……」
と、言いながら壁に触れるとするりと中へ入れた。
殴りつけても壊れなかったのに、どういう原理なんだと思っていると光は先を示す。まだ目的地へ着かないようだ。止まっていても仕方ないと思っていた。
だから、このまま導かれるままに、歩いて行く。
その先は暗い空間だった。さっきまで示してくれた光はいつの間にかいなくなっていた。
ぽつん、と暗いだけの空間に取り残されたようだ。
が、しかしここには何か生き物がいるように感じた。
芙二「もしかして、狂獄龍 ジーゴ・カラミティか?」
そうだと、言ってほしいと思っていた。
さっきまで示してくれていた光が居なくなった理由に納得がいくからだ。
『そうだ……で、我を呼び起こしたのは、貴様か』
暗闇から、ジーゴ・カラミティの声が聞こえた。だが、どこにいるかは分からない。
能力を使っても探れない。
どこにいるのか、分からないと思っていたとき、また声が聞こえた。
『……この闇は我が力。が、しかし見えないのは不憫であろう。どれ、ちと晴らしてやろう』
言葉の終わりと共に、カツンと地面を突く音が聞こえたと同時に暗闇が晴れた。
芙二「見える。だが、この空間はっ!!」
暗闇から解放され、今いる場所が分かった。
が、しかしこの空間は芙二にとって地獄そのものだった。
『騒ぐな、我が
あまりの光景に嫌悪感で顔を歪め、呼吸が浅くなる。
視たくない、見たくない――――と目線を落とすとそこにも、ソレがあった。
いや地獄の付属品でしかない、ソレは芙二の精神を苦しませる。
芙二「あ゛あ゛あ゛あ゛……う゛あ゛ぁっ!」
『おや……もう発狂寸前か。ふむ、以前ならば余裕で流した、だろうに。いやはや二百年は長すぎたか』
奇声を発して、頭を抱える芙二を見て、呆れるように話しかけた。
『……はぁ。今の貴様は、まったくもって面白くない。ここに呼んだのは、間違いないだったか』
芙二「そう、だ。吾は、貴様の力を……」
ハッとして、頭を上げて声の方を見る。そこには人型の何かがいた。それぐらいしか分からないほど、シルエットをほとんど隠すように黒いモヤが巻き付いていた。
黒い人型からはさっきまで聞いていたジーゴ・カラミティの声が聞こえた。
『知っておるわ。ふむ、貴様の奥底に眠る願いを手放すのは実に惜しい。自分に合う依代を破壊されるのは、困る。だから今回は我の力を少しくれてやろう。次は自分の力でなんとかしろ』
芙二「力って、どうすればいいんだ?」
『いつも使っているだろう? 狂獄龍忌呪を、な。もうくれてやったから引き出して使え。次、こうして遭うときは貴様が龍神化する前か、あの世界の
いつの間にか、入れられたスキルを確認する。
そこには【
芙二「……嫌な感じたから質問だ。これらの代償はなにを要求されるのだ?」
『禍神に願うのだ。代償は生物の命で事足りる。その先のモノの代償は貴様自身だ。使おうものなら、貴様の奥底に眠る渇望を起こすことに繋がろう』
芙二「それは、この空間で見たものか?」
『そこまでは教えてやる義理はない。それにお節介な姫に渡された都合のいい力で自分を覗いてみてはどうだ? そうすれば、少しは……な』
芙二「分かった。今は時間がないから、また後で来るわ」
『な!? さっきの話を聞いていたか!? 我は貴様と話すのは――――もうよい、さっさとここから出て行け』
芙二を空間外へ追いやる。急な突風を受け、飛ばされこの空間には少女ことジーゴ・カラミティのみとなった。
もう一度、眠りにつく前ふと依代がやったことを考えてみた。
ジーゴ(あいつ、あの狂獄龍忌呪を自分の使いやすいように弄るとはやるな。昔の我だったら弄ることなど造作もないが……今は叶わぬか。まぁ機を待てばよい。その為の依代だ)
ジーゴ・カラミティがゆっくり瞼を閉じると空間は窄み、誰も侵入出来なくなった。
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そして現在、南西諸島海域は――――
芙二「お、戻ってきた」
あの空間から戻ってきて最初、目にしたのはカイン・アッドレアが放った渾身の【
立ち上がらないことには、何も始まらんかと思い、鎧を着たまま立ち上がる。
しかし急に倒れたせいか身体の所々が痛む。
痛む箇所は徐々に治っていくから放置しておく。
貰ったスキルをゆっくりと迫りくる、島の終わりを破壊するために選択する。
代償云々は、以前回収した魂晶を全て消費するとして。そこで致命的なことに気づく。
芙二「これ、どうやって放てばいいんだ?」
自分を砲台とするように、玉同士で相殺させる? あるいは武器で撃ち返す?
もう時間はない。イチかバチかでやってみるか。
芙二「いやぶった切るか……」
ニヤリと笑い、スキルを使う。
まず【
そこに捧げればいいのか?と思った芙二は溜めていた千以上の魂晶と怨念結晶を代償に捧げる。
するとナイフは妖しい輝きを放ち始める。
篭手をつけたまま掴み、曰く都合のいい能力で先ほど使った黒い鎌とナイフを混ぜる。
芙二「出来た。刃がめちゃくちゃ紫色に光ってるけど、まぁぶった切れるだろ」
柄を持って、迫りくるモノを打ち砕こうとする。切れるだろうと、思った位置へ移動して鎌を振り上げて、もう一つのスキルを使う。
『【星の
そう叫んだ途端、胸の裡が熱く、熱く燃えるよう、と思った。
しかしそんなことは後だ。今を逃せば、次はない。鎌から繰り出される斬撃は光り輝く巨大な球体に吸い込まれていく――――が、壊れない。
芙二「なに!? これでも足りないかッ!!」
繰り出した後に、鎌から嫌な音が鳴る。急いでみると、ひびが入っている。
どうしようと思っているうちに、光り輝く巨大な球体は山の山頂をゆっくりと消滅させていく。
森は消滅し、岩は砕かれる。
迷っている時間はない。
そんなときだ。
みんなには悪いと思っているが、少しだけどうでもよくなってしまった。
徐々に島を消滅させていくものを見て、萎えてきた。
自分でも勝てない存在に当たるとは思ってたけど、こんなに早くかよ―と内心不貞腐れた。
だけどもぶった切ると決めた手前……引くわけにはいかない。
そこで即興で考えた
芙二「うわ、もう目と鼻の先だ」
地上とぶつかるまであと百メートルくらい。ぶつかるまで十分ほどだろう。
それなら、とひびの入った鎌を強く握って覚悟を決める。
外せば、みんな仲良くあの世行きだ。
だけど、俺はまだ先を見たい。
艦娘たちの終わりを、世界の終わりを。
遅めの覚悟を決して即興技を叫ぶ。
芙二「グリム・ディザスターァァァァ――!!」
振るわれた鎌から放たれた、斬撃は過去最高の威力を出しながら、光り輝く球体に吸い込まれていった。どうだ、行けたか?と疲れた顔をしながら見る。
握っていた鎌はパリパリと音を立てて砕けると同時に、球体にも大きなひびが入る。
そして――――バァンと音を立てて爆ぜ、空中で超白爆発を引き起こした。
音と共に目の前が明るくなり、しばらくは見れなかった。
次第に収まると、空は徐々に暗くなっていく。その中でひと際輝き墜落する巨体が目に入った。
芙二「カイン・アッドレアが墜ちていく……マズイ、今まで忘れてたけど元々保護対象だ!」
巨体はみるみるうちに、縮んでいくのが目にみえた。
同時に身体の光も失われていっていた。
既に動くのも嫌なボロボロの身体に鞭を打つ。
身体の節々が痛むが、気にしている場合ではない。
落ちていくカイン・アッドレアの元へ急ぐのだった。
新キャラクター:ジーゴ・カラミティ
概要 芙二の出身世界の御伽噺に出てくる悪役。
分かっていることは十五の災厄を呼び起こす存在。
新スキル(派生):【
新スキル:【
概要 禍神に祈るには代償が必要である。
小さなナイフに代償を払えば、代償の価値に準じて望みを叶える。
新スキル:【星の
概要 ジーゴ・カラミティが芙二の裡にある器に合わせて即席で作ったスキル。
ジーゴ・カラミティ曰く、芙二の奥底に眠る渇望を起こすキッカケになるらしい。
効果は派生前のスキル【
即席の必殺技:グリム・ディザスター
禍神の力を鎌に宿し、揮われた斬撃は終末すらも切り裂く。
しかし禍神の力に耐えうる器を持っていないと宿した武器は砕け散る。