五月十一日
南西諸島海域での死闘の末、敗れ墜落していく、カイン・アッドレアを芙二は拾ってシェリルの方へ行った。既にそこには冷葉や名取たちがおり、再会を喜んだ。しかし、島民の顔は優れなかった。
そりゃ、家族同然の人間が急に殺し合いをすればそうなりもするだろう。
そこで芙二は冷葉たちに残った僅かな島民と海岸へ行ってもらい、壊された家屋を修復しようと作業に入った。
結論からいうと、まず前提としてカイン・アッドレアと戦闘を繰り広げた島は破壊されずに済んだ。
しかしそれでも地形が変わったり、住めるところじゃなくなったので修復は困難だった。
島民には申し訳ないのだが、別の島で過ごすことになりそうだと伝えたら何故か感謝された。
曰く、『我々をお救いになったのですから、なにも恨むことはしませぬ』とのことだ。
芙二(そこは恨んでもらっても構わないのだがね)
なんて思っていたが、決して顔には出さずにいた。
記憶処理なのだが、まだしていない。この島の死闘のことは決して口外してはいけない、と念を押そうかと思った。
しかし遠い日のことを考えてみたら伝説のように語り継がれて行ったら面白そうだ、と邪な考えが生まれた。だから、そのままにしといた。ただ、最低限はやっておくことにした。
変な話、伝説に尾ひれがつきすぎて別の
おかしな宗教が作られても嫌だし。
犠牲者を弔おうと考えていた、島民が居たので案内してもらって向かった。
大体の人間は殺し合いの末だが、現場は凄惨さを極めていた。
ついて来た艦娘も何名かは気分悪そうに、村の外へ出て行った。冷葉はそんな艦娘を気遣ってか、退場していった。
死体の数を確認したいから、という理由で家々を、広場を、畑を、と隅々まで見て回った。
それで分かったのは死体の数は百八十五体ということ。
この島の民は被害者だと、芙二は考えていた。
だからこそ再び息を吹かせて、あげたいと。
芙二(俺は、ハッピーエンドが好きなんだよね)
そこで勝手な話だがもれなく男女、子供含めた百八十五体の死体を蘇らせることにした。
芙二「一度、シェリルさんと葉月さん以外は皆、村の外へ行ってくれませんか」
島民A「ど、どうしてですか」
芙二「直に海軍が来るから、先に保護されてください」
島民B「え、軍艦が来るんですか!?」
冷葉「芙二、おまえそこまで考えて……」
芙二「あと十五分も経たないうちに、来るでしょう。だから早くお願いします」
と、嘘も交えて退けさせた。
海軍が来るなんてのは、嘘っぱちだ。しかしこれほどの規模の爆発だ。
海軍でなくても誰かしらが、来るだろうと踏んでいた。
間違っていても、その時に訂正すればいいだけのことだ。
シェリル「芙二くん、ほんとうに海軍が来るの? だとしたら、困るんじゃ……」
芙二「別に困りませんよ。なにも悪いことはしてないですし。ただ、爆発の説明は俺がするんでカイン・アッドレアと共に何処かにいてください」
シェリル「そう。あの爆発でもカイン・アッドレアは生きてるの?」
芙二「生きてますよ。あの爆発でも死なないのは、彼女の運がいいからか爆発が直撃しなかったから、か。どちらにせよ、まだ話を聞かないといけません」
シェリル「そうよね。ところで、私達はなにをすれば?」
芙二「シェリルさんは結界を貼ってください。あ、弱めのでいいです。その上から俺が認識阻害をかけるんで。これで外からはなにをしているのか分からない、はずです」
葉月「俺はカイン・アッドレアを看ていればいいのかい?」
芙二「そうですね。一応回復薬は飲ませたので、傷関係は大丈夫だと思います。でも意識が戻ってこないのを考えると精神の方に問題がありそうですけどね」
そうだね、と葉月は返す。
ほんの少し前はボロボロだった芙二の身体も今はすっかり全快していた。
芙二「さてと……時間が惜しいのでやりますか」
シェリルに結界を張らせ、芙二は今いるところから周辺の魂をかき集める。
集めた魂からここらの死体に属する魂をひよこの雌雄選別のように手早く分けていく。
芙二「よし、終わった。残りは魂晶にして……と」
魂晶を懐にしまい、百八十五体の死体の胸に一つずつ埋め込んでいく。
かなり効率が悪いかもしれないが、いちいち集めるのが面倒だったので仕方ない。
芙二「埋め込んだな。仕上げだ」
そう言って、ボタン一つのスイッチを懐から取り出してポチっと押した。
やることは終わったので、認識阻害も結界も解除する。
芙二(……さて、あとは適当なシナリオを描いて発表しますか。これから来るであろう方たちに)
結界を解除すると、島民や冷葉たちが走って来る。
僅かな島民は散り散りになり、家族や友人の元へ駆けつけていく。
冷葉は俺の存在を改めて、人間ではないと確信したようだった。艦娘たちも同様の反応を見せる。
そして一応冷葉にはやったことを話した。
流石に死んだ人間に何もないのは不味いので、昨日、今日で起きた出来事は全て消去したと。
その二日でなんかいいことあったら、申し訳ない。
いやね?死ぬ前を思い出されて、発狂したら堪ったもんじゃないでしょ?
芙二(まぁとりあえず後は――――)
そんなときだ。
バタ、バタと足音が聞こえた。
足音の方を向くと軍服を着たおっさんがいた。おっさん以外は憲兵だけだった。
おっさんが『この状況を説明してほしい』と言ったので芙二は頭の中で作り上げたシナリオを話した。
シナリオを現実的、具体的にするために、まとめたが長くなったので要約するとこうだ。
・先日、捕まった研究施設の職員がこの島に研究成果の一つを隠していると密告が入った。
・しかし私は昨日まで入院していたので、動けなかったが退院してからすぐに動いた。
その際に、この島で隠蔽作業をしていた職員と運悪く鉢合わせた。
・その後は、捕まえるために動いたのだが、その職員が秘密を知られたが故に島ごとの自爆を図ったが失敗に終わった。
・避難させるために冷葉や艦娘を呼んで、避難させていた。
芙二(と、まぁ話したが……憲兵たちの表情がなぁ……)
自分を見る目がなぁ……と溜息を吐く。
おっさんは唸っているし、何とかならないかなぁと考えていたとき。
ある島民が口を開く。
島民C「そこの芙二さんが言ってることは本当です。確かにこの島には研究所がありました」
という言葉で、海兵のおっさんと憲兵の視線が釘付けになる。
それに臆することなく、淡々と話し始める。
島民C「十年以上前になるのですが……」
それを聞いて、芙二の話に信憑性がついたようで納得してくれたようだ。
おっさんは話してくれた島民にお礼をいうと、『今度調査をするが、構わないか?』と聞いていた。
聞かれた島民は頷いていた。おっさんが『この有様では住めないだろう。少し待っていてくれ』といい憲兵を連れて村を出て行った。
島民たちの泣く声が、村に響く。
欠損することなく生き返って今生の別れじゃなくなったから、かと芙二は思った。
芙二(後のことは海軍のおっさんたちに任せて帰ろうかな)
と思ったので芙二は海軍のおっさんに会いに行くと名前を名乗り、先に帰る旨と今後についてを話すために連絡先を貰ってまた村へ戻った。
芙二「冷葉。撤退だ。先に帰っててくれ」
冷葉「芙二はどうするんだ? 船がなくてもいける……んだよな」
まぁな、と笑って言う。
シェリルさんたちを送ってから戻るとも。
芙二「明日は休みにして。一日ね。あとのことは後で話すわ」
冷葉「了解。俺から、あとで一つあるから執務室へ来てくれ」
分かった、というと一度冷葉と芙二は別れた。
芙二はシェリルの方へ行き、葉月の家まで転移した。
急に現れた芙二たちにメイが驚いて、茶器を落としかけていたが割らなくて良かった。
ボロボロで薄汚れてしまっているシェリルと葉月を風呂場まで行かせるメイ。
手の空いた芙二はかつて自分の使っていた部屋にカイン・アッドレアをベッドに寝かせた。
キッチンで軽めの夜食を作っていたメイに『後で来る』と言い残して帰った。
芙二(まだやる事はたくさんあるわ)
と、思いながら東第一泊地の自室まで転移したのだった。
ベッドメイクの終わっているだろうベッドには行かなかった。
雑に服を脱ぎ、軽くシャワーを浴びてから執務室へ向かおうと部屋を出た。
しかし芙二の帰宅があまりにも早かったのか、まだ冷葉達は帰っていなかった。
時間も遅いし、間宮たちを起こすわけにもいかなく、食堂で少しだけ食材を拝借し自室で料理を作っていたときだ。
コンコン、と二回ノックする音が聞こえたので出るとそこには帰投したであろう冷葉が居た。
疲れた表情をしていた。今回のことは堪えたのだろう、と思った。
芙二「おかえり。飯食う?」
冷葉「いや、帰ってからきてくれと言ったけど訂正させてくれ。今日は寝る。明日の昼に来てくれ」
そういうと足早に自室へ行ってしまった。
扉を閉じながら『まぁそうなるわな』と思い料理に戻ったのだった。
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五月十一日 十三時 十二分 執務室にて
芙二は艦娘やら、冷葉たちから大目玉をくらって一週間の謹慎処分を出されていた。
そら、入院レベルのをやっておいて日が経たないうちにまた、と。言い訳をする気はなかった。
本当のこと過ぎてぐうの音も出ない。
ただ謝り通していると、安心したのか冷葉が場所も弁えず涙ぐんで『心配するこちらの身になってくれ』と言われたら何も言えなくなり口を閉じるしかなかった。艦娘の中には一定数、冷葉と同じような者もいた。
それを見ていたが『次』はやらない、という約束は出来そうになかった。
状況を掴めていない艦娘は芙二が南西諸島海域へ単独で乗り込むと言った日に自己紹介をした艦娘だけではなく、実際に見て状況を把握していない者もいた。
その方向については、まぁ寮内で話されるだろうしいいとして。
芙二(昨日のおっさん……になにか聞かれるだろうしなぁ。まぁ連絡先を交換してるし、なんとかなるだろ)
説教されながら、呑気な事を考えていた。
そんな態度がサラトガの感情を爆発させるキッカケになった。
サラ「提督はっ!! もっと人の気持ちを考えてください!! 提督は確かに、私達よりも強いのかもしれないです。最近、叢雲さんの奪還作戦で、入院するような事態になったのをお忘れですか!? 今回は何とか、なったのかもしれません。だけどっ」
芙二「……すまない」
サラ「だけど、『次』が保証されていないのが――――戦争なのです。このまま私達の気持ちを考えないまま行動するというのならば、私は強硬策にでます」
芙二「……」
サラ「黙ったまま、ということは……それが答え、でいいですか」
怒ったまま泣いているサラトガを見てまだ黙っていた。
今回は特殊過ぎた。そうだ、当面は――――みんなに預けて、いやダメだ。
自分の約束は曲げることは出来ない。だが、今は素直に謝ろう。
芙二「サラ、そこまで心配をかけさせたようですまない。冷葉も他の者も、すまない。……以降はあまり出ないようにする」
頭を下げる。周りの空気が、変わった。
冷葉「いやそこまでは、いいよ。お前がいないと、どうにもならない場面があるかもだし。とりあえず頭を上げろって」
芙二「ありがとう、冷……」
顔を上げたとき、バコッ……冷葉の拳が芙二の頬に入る。
冷葉「……次はこれだけじゃないぞ。ヒトを泣かせやがって。とりあえず、執務を行うことは許さない。一週間は反省してろ。外出の時は誰か一人、付かせるからな」
芙二「……分かった」
冷葉の言葉が終わると同時に、芙二は川内や那珂に連れられて自室へ連行された。
川内「提督、女の子を泣かせちゃダメだよ」
那珂「那珂ちゃんは言及はしないけど……」
二人はそういいながら芙二を部屋の中へ送った。
部屋の中に入った芙二は今回の反省と新たに得たものを確認しようとしたのだった。
三章は、フラグ回収ばっかです()