結局芙二に監視の目はつかないことになった。冷葉と大淀はよくよく考えたら、この人を止めるのは無理だと悟ったからだ。何をしても規格外な力で無効化されてしまいそうだ、と考えていたら意気消沈していった。
意気消沈しているところにアビスが通りかかり、萎れている冷葉に声を掛けた。
声を掛けられた冷葉は驚いていたが、芙二の相棒(妖精)であるアビスに事の顛末を話すと分かりました、姫様に伝えておきます、と言い残して消えていった。
萎れていた冷葉は姫様……?と呟いていたが大淀には聞こえていないようだった。
大淀「はぁせめて、提督を尻に敷くような女性が現れれば……」
と溜息を吐きながら残っていた書類の山に取り掛かろうとしていた。
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同日 十九時 二十二分 寮内にて。
約束通り、芙二は叢雲の元を訪れる。しかしそこには叢雲はおらず、磯波がいた。
磯波に叢雲の行方を尋ねるが、知らないと言われてしまった。
ありがとう、と言って芙二は寮を後にする。
どこに行ったのかな、なんて思いながら探す。
叢雲がまだ渡したお守りを持っているのなら、すぐに場所が特定出来るからだ。持っていなかったら、まぁその時はひっそりと誰か拉致って行けばいいかなんて思っていた。
寮の入口で次は何処を探そうかと思っていた。
そのとき、後ろから声がかかる。
榛名「提督? どちらへ行くのですか?」
声のする方を向くとそこには榛名と皐月がいた。なんとも珍しい組み合わせのような気がする。
芙二が挨拶するよりも先に皐月が挨拶をし、続けてこう言った。
皐月「あ、司令官! こんばんは! 間宮さんたちのご飯食べた? 司令官と同じくらい美味しかったんだ!」
芙二「二人ともこんばんは。夕飯はまだなんだ。皐月がそこまで言うのなら楽しみにしようかな」
そう返すと、皐月は元気よく返事をする。
榛名は夕飯がまだ、と聞いて少し心配そうな顔をして言った。
榛名「提督少しいいですか? 今朝も倒れたと聞きました。あまり根を詰めるのは、ダメですよ? 謹慎処分を下されている今だから休憩するんです」
芙二「そうだよな。ありがとう、榛名。今日のやることはほとんど終わってるんだ。今日は早めに休む予定だ。心配かけたな」
と、ちゃんと目を見て言った。榛名はそうしてください、というと一礼し皐月と共に寮へ入っていった。
芙二はさて寮から離れ、砂浜へ向かう。
そこに叢雲の反応があったからだ。
芙二「よかった。まだ持っていてくれたんだな。【ラック+10】のお守り」
確かそんなんだった気がする。違ったら違ったら、だ。
雲の合間から三日月の光が差し、夜の砂浜を優しく照らしている。砂浜に座りながら、静かな波の音を聞きながら心地いいと叢雲は感じていた。
今の叢雲の状態は艦娘のそれ、ではなくやや深海棲艦に近づいていた。深海化はこうして、徐々に叢雲の肉体を、精神を蝕んでいく。
叢雲「……」
現在は髪色には変化はないが、元の橙色の瞳と深海化した青色の瞳によるオッドアイとなっていた。
既に頭部には角が二本生えており、それを手で触れながら時間は残されていない、かと思った。
叢雲「時雨のように。或いは……」
そう考えたとき、砂浜を歩く足音が聞こえる。
誰かなんて考えなかった。すぐに芙二だと分かる。
叢雲「こんばんは、司令官。夜の海は良いわよ、静かで昼間がうそのよう。それで用件は……そういえば、私と共に出かけるのだったわね」
芙二「こんばんは、叢雲。迎えに来たのは、そうだな。だが、お前さん見ないうちに深海化が随分すすんでるじゃない。少しだけ実験台になってくれないか?」
叢雲「あら、司令官。どこぞのゲス野郎と同じ事をいうなんて非情派にでも付け込まれたのかしら?」
芙二「そうじゃない。あの辺の人間はそのうち究極の二択を迫られるから放置するよ。っとそうじゃない。その深海化の症状をどうにかできそうだからやってみてもいいか?」
叢雲「成功率は? それと私への被害。どちらも話せないのなら、諦めてちょうだい」
芙二「当然だが、轟沈はしない。痛みは多分ない。成功率は八十パーセントかな。と言っても母数が少ないからなんとも」
叢雲「なるほどね。時間はどれぐらいかかるの?」
芙二「十分くらいかな」
即答した芙二を見てなるほど、と頷く叢雲。
轟沈しないで深海化の症状をどうにかできるのなら、乗りたい話である。
時雨や清霜のように、それと東第三の艦娘達のようになって対立はしたくない。
芙二が居るのだからほとんど百パーセントのようなものである。
がしかし方法を知らないので、少しだけ恐ろしくもある。だから、叢雲は――……
叢雲「今は断っておくわ。後々暇になったらお願いするわ。それじゃ、行きましょ?」
芙二「分かった。完全に深海化しても一度はその方法を試したいから理性だけは失わないでくれ。今の俺は加減が出来ない。普通に殺してしまう」
叢雲「そう。轟沈してから、再びドロップ艦として生き直すのだから私は気にしないけど……」
と言って立ち上がる。芙二が手を、というので差し出された手を重ねると二人は光の粒となって消えていった。
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芙二と叢雲は葉月の屋敷へ来ていた。叢雲は驚いてた表情のまま固まっていた。それを見ていて、そういえば連れてきたことなかったな、と思っていた。
芙二「ま、チャイム押そうかな」
まだ驚いている叢雲を置いて、屋敷のチャイムを押した。扉の向こうから『芙二様と叢雲様ですね。すぐに開けるので、それまでお待ちください』とメイの声が聞こえてきた。
芙二は良し、と頷き叢雲の元へ行くと『葉月さんって何者……?』と呟いて固まっていた。
芙二「ここは葉月さんのおじいさんの家らしい。葉月さんのこと自体、俺もよく詳しくは知らないんだけどね。いつもシェリルさんとメイさんと一緒にいるから何してるかなんて分かんないね」
と、説明すると『司令官でも分からない事があるのね……』と納得したような困惑したような顔をしていた。そういわれたので、叢雲に『俺でも分からないことは山ほどある。世界はそれほどまでに、広くて深いのさ』と言った。
そして少しの間、叢雲と会話をしていると扉が開きメイが出てきた。
メイ「こんばんは、芙二様、叢雲様。リビングで皆さまがお待ちです。案内しますので、ついてきてください」
芙二「こんばんは、メイさん。急に連絡して申し訳ない。カイン・アッドレアは目覚めている、という事でいいんだよな?」
叢雲「えっとお久しぶり、なのかしら? メイさんも向こうの住人なのに影響とかはないの?」
メイ「はい、お久しぶりです、叢雲様。私にもシェリル様にも影響は少なからずあります。ですが、芙二様と葉月様のおかげで難なく過ごせております。お気遣いいただきありがとうございます」
そう言いながら、二人を屋敷の中へ入れていく。
いくつもの照明がつき、明るい廊下を歩いてリビングへ向かう。
道中、叢雲とメイが歩きながら話していたが、芙二は入る前のメイの言葉を思い出していた。
芙二(目覚めているならば、質問を解消できそうな気がしてきたな)
そうして、芙二たちはリビングへ着いた。
メイが扉を三回ノックし、『芙二様と叢雲様をお連れしました』と言いながら扉を開けていく。
中には、シェリルと葉月、そしてカイン・アッドレアが席についていた。
メイは中に二人を連れて歩き、席につくように促す。
促された芙二と叢雲は席につく。
メイが『では、私は一度失礼します』と言ってリビングから退室していった。
芙二は振り返らず、メイの声だけ聞いて葉月とシェリル、カイン・アッドレアを見ていた。叢雲はカイン・アッドレアのことをまじまじと見ていた。
気持ちは分からなくはない。この少女が、自分の司令官と死闘を繰り広げていたのだから。自分達と変わらないくらいの少女が、世界の破滅を願って牙を剥いたのだから。
葉月「芙二君が急に連絡をくれた時は驚いたけど、本人も話し会いたがっていたからね。俺からはないから、あそこで激戦を繰り広げた当人たちで話し合っていてくれ。俺は少しの間、退室するよ」
そう言うと席を立って、リビングを出ていった。シェリルは、私はここに残って話を聞くと言っていたので芙二は気にせずにカイン・アッドレアへ質問を投げかける。
芙二「こんばんは、カイン・アッドレア。目覚めてそうそう、質問をしてもいいかな」
カイン「なんだ。フジよ。我のことはカインと呼べ。一々、フルネームで呼ばれていたら気になって仕方がない」
芙二「それはありがたい。では、カイン。単刀直入に聞こう。君と共にこの世界へきた【アイリ】という少女の生死は分かるか?」
カイン「ッッ!! 貴様ァッ!! アイリを……我が友を知っているのか!?」
芙二「いや知らない。俺はカイン、お前さんの記憶を覗いてようやく知ったからな」
カイン「……ッ!! そう、か。知らない、か。アイリは我の数少ない友だ。貴様が我の記憶をどこまで見たかは知らぬが……アイリはまだ生きていると思うぞ」
芙二「ふむ。まだ生きている、か。少なくともカイン、お前さんはアイリという少女を知っているんだな?」
カイン「あぁそうだ。我は、いや私は……この世界に連れてこられてッ!?」
芙二の問いに対して知っていると、肯定した瞬間。言葉が途切れて急にカイン・アッドレアの様子がおかしくなる。顔を顰めて苦しそうな表情をしだした。
カイン「ハァッ……ハァッ……ハァッ……我は、いや私は……」
呼吸が荒くなり、震えが止まらなくなっていた。そして一人称が混在するようになってきた。
芙二は席を立ちすぐにカインの元へ行く。目の焦点が合わなくなり、額からはやや粘り気のある汗が垂れていた。
カイン「ぐぅッ……ゴハッ!! ゴホゴホ……我は、アイリと共に、故郷へ、帰る、のだ」
一層、苦しそうな表情をしたのち、血を吐きながら噎せていた。身体が痛むのか、目を閉じ苦しそうな表情のまま未だ行方が知れない友と故郷に帰る、と口にしていた。
吐き出された血がテーブルの上に飛び散る。シェリルと叢雲は咄嗟のことに驚いて固まっていた。
カイン「………………」
急に静かになったカイン・アッドレアを見て驚いた芙二が肩を揺らし、声を掛けるが反応をかえさなかった。
芙二「カイン? カイン!!」
シェリル「カインちゃん!? メイさん! 葉月さん! ちょっときて!!」
芙二とシェリルの叫び声が部屋中に響いた。
叫び声を聞いた二人が駆けつけ、そこに芙二が加わり意識のないカイン・アッドレアの治療に入る。
リビングから移動し、ベッドに寝かせたカイン・アッドレアはまだ眠りについたままだった。
傷は完治した。だがカイン・アッドレアは一向に目を覚まさない。
芙二「……タイミングが早かったか……」
叢雲「いや司令官のせいじゃないと思うけど……」
葉月「芙二君、カイン・アッドレアが目覚めても容態が改善されるまで来ないでくれるかな」
芙二「分かりました。葉月さん、メイさん、シェリルさん。カイン・アッドレア……いやカインのことを任せました。今日はここで失礼します。叢雲、行こう」
出口までメイとシェリルが送りに来てくれた。
芙二「容態が悪化したら、すぐに連絡をください。飛んで向かうので」
そういうと、芙二は叢雲を連れて泊地へ戻ったのであった。
フラバって結構しつこいんですよね。