それとやっぱりじぶんには才能ないなーと思って少しだけ沈んでいました。
R4 11/10 誤字を修正しました。
■もう一人の同郷人
アイリ・ブルグレスは自分の家に居た。九年前に初老を迎えたばかりの男性から今の住居を与えられ、ずっとそこで生活をしている。何かに困ったら電話しなさい、と連絡先を貰い度々連絡をしては金や物資を貰っていた。
既に成人していたアイリ・ブルグレスはその男性にどうして、身寄りのない自分にここまでするのかと聞いた。そうしたら『贖罪だ』と一言だけ呟いた。
アイリ・ブルグレスは聞き返した。何の贖罪だと。初老の男性は『関係のない子供を巻き込んで、更には人生を奪ってしまった』と悲哀の様相をしていた。
その様子から、このお爺さんは子供を殺した、と解釈した。それ以上は聞かなかった。
あの質問をした時から、五年がたった。自分に住居と物資、金品をくれたお爺さんは真剣な表情をしながらアイリ・ブルグレスに問う。
『君はこの世界をどう思うか?』と。切り出された最初は理解が出来なかった。
どう思うかなんて知らない。
いつもの日常を壊されて、友達と離れ離れにされて不快だった。でもそれ以上に悲しかった。苦しかった。悔しかった。死にたかった。
でも、ここで死んだら離れ離れになった友達と再会出来ない。もしも帰郷が叶うのであれば、その時は家族と会いたい。家族と抱き合って、心を満たしたい。
お爺さんはアイリ・ブルグレスを無視するように続けた。
『お嬢ちゃん、よく聞きなさい。私の寿命はあと一年ばかしだ。終わりが近づくにつれて忘れるし、喋れないだろうから今伝えたいことがある』
アイリ・ブルグレスは驚いた顔をする。お爺さんは目を見て、淡々と話し始めた。
『大体二十年前、私はいや私たちは訳あってこことは別の世界にいた。その世界は未知の世界で、空想で語られている生物や現象があった。そこで奴隷商と仲良くなった』
目を伏せて話すお爺さんの口から【奴隷商】という単語が出てきて、瞬間、アイリ・ブルグレスは顔を引きつらせる。しかしお爺さんは気にしないで続けた。
『自分達とはまったくの道を進んだ。ここが珍しいと奴隷商は言った。共に行ったメンバーが情報交換と物資交換を提案した。奴隷商は大いに喜んだ。そのときは一か月に一度、向かうという義務があったから欠かさず行った』
アイリ・ブルグレスは静かに黙って聞いていた。
お爺さんは淡々と感情を込めずに続きを放した。
『ある時だ。奴隷商は新しい奴隷を仕入れるから、同行しないかと誘ってきた。私は反対だったが、周りは乗り気で賛成気味だった。今思えば、この世界には奴隷商なんていない。本人たちには悪いと思っていても、好奇心を抑えることは出来なかった』
ここまで聞いて、アイリ・ブルグレスは両手で耳を覆った。お爺さんの口からとんでもないことが語られているような気がした。作り話にしては、よくできていたからだ。
その先の話を聞いたら、きっと自分は正常ではいられなくなる。
そんな思いが心から溢れ始める。
『結局、私たちは奴隷商と共に……すまない。土地と町の名前を忘れてしまった。続けよう。奴隷商は力の強い男を雇っては異種族や人間を狩った。主に幼い子供や物珍しい種族を狩っていった。泣き叫ぶ子供を黙らせるために暴力も振るった』
耳を塞いでいるのにどうしてか、言葉が聞こえる。まるで頭の中で響くように染みついていった。
お爺さんの言葉はその日、仲間の蛮行を止められなかった自分への懺悔に聞こえた。
淡々と話していたがいつのまにか嗚咽が混じり始めていた。そしてしばらくの沈黙が続く。
流石に終わったかと思って両手を放し、顔を上げるとお爺さんがこちらを見ていた。
目を真っ赤にさせ、下唇を噛んでいた。強く噛み過ぎたのか、血が滲んでいた。
『……あの光景は忘れられないものだ。きっと私は憎まれ、恨まれるのだろう』
しみじみという言葉にお爺さんの感情が凝縮されているように感じた。
とんでもない過ちを犯してしまったという自分に腹が立っていると見えた。
そして根は真面目で優しい人、とも思えたが次の言葉で全てが崩れた。
『お嬢ちゃん……いやアイリ・ブルグレス。カイン・アッドレアという幼子とジスレベリタという名称を知っているかい』
お爺さんはアイリ・ブルグレスの目を見て、問う。
自分の名前は紹介していないのに、と思ったが誰かから知らされたのかという疑問が半分くらい残った。しかしカイン・アッドレアとジスレベリタという名は心当たりがあった。
自分のかつて住んでいた場所でと幼い頃からの友達だからだ。
お爺さんが話を続ける前に、後ろへ飛びのいた。どうしてその名を知っているか分からなかったが、それでも危ない気がした。
このひとは、もしかして――と
急に背中に冷たいものが当たった感触を感じ、確認するがそんなものはない。なのに、さぶいぼが立ちっぱなしだ。目の奥や胸の奥から滲むものがとうとう出てきてしまった。
『どうして、その名を……ま、まさかッ!!』
目の前の
時間と共に薄れ、忘れていた記憶が感情となり止め処なく溢れ、胸の裡を満たしていく。しかし涙はすぐに枯れた。自分でも驚くほどの速さで、枯れていった。
次は自分を騙していた、という事実が憎悪を生み出した。『贖罪』の意味が分かってしまった。
とてつもなく、憎い。どうして目の前に仇がいるのに、動けないのだと自分を罵った。
この感情が、アイリ・ブルグレスを変えた。
幸い、心が砕けることなかった。
だが最初の問いの答えが変わった。
『君はこの世界をどう思うか』という答えに対し憎悪の炎を口から吐く。
アイリ「この世界が憎いわ。私たちの人生を奪った報いを払わせないと気が済まない」
自分でも出したことのない声に少しだけ驚いた。
いや、そうだ。私はこの世界を呪って壊すんだ。
自分の身がどうなってもいい。絶対に許さないんだと誓ったことを思い出した。
『そうか。私の寿命が尽きた後でも物資と金品の手配が出来るようにしよう……それが私の贖罪だ』
お爺さんは決して、許しを請う事はなかった。それが奴隷商に売られた子供たちと異種族にできる贖罪と思っているからだろう。
アイリ・ブルグレスはそこを利用することにした。
この世界の人間を利用して、この世界を壊してやろうと。
使えるものは全て使って命尽きるまで、やり続けてやろうと。
自分達の未来を奪っておいて、お爺さんたちの遺伝子が蠢くなんて気持ちが悪い。
同士討ちを誘ってもいい。
この世界が壊れて、文明が滅ぶのなら大歓迎だ。
何も言わないお爺さんにアイリ・ブルグレスは一つ命令口調で言った。
『この世界の知識をすべて寄越せ』と。
お爺さんは目を丸くして、全てですか?と聞き返した。
アイリ・ブルグレスは『そうだ。先に言っておくわ。私はこの世界を滅ぼすことにしたの。だからあなたを骨の髄まで利用するわ。文句はないわよね?』と強い口調でいった。
お爺さんは『それで気の済むのなら』としか言わなかった。
どうせ、一年後に死ぬ命だからどうでもいいと思っているのだろうと思うことにした。
アイリ・ブルグレスはお爺さんを見て、今までで一番の笑顔をして感謝したのだった。
『これで世界をめちゃくちゃにできる準備は整えられそうね』
故人:お爺さん
ジスレベリタの奴隷商と仲良くなり、実際の狩りを見てしまい止められなかったことを悔やんでいた。アイリとカインたちの時にちょうどいた。
本人を目の前にして、罪の意識と自身の懺悔がとうとう抑えきれなくなって告白してしまった。