とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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冷葉と艦娘の話がまとまらなかった。


三章 6話『紫月と芙二は工廠で』

 

 五月 十四日 十時 十七分 泊地内 本棟 廊下にて。

 

 

 謹慎中の芙二は暇を持て余していた。

 執務には取り組ませてもらえないし、艦娘達だって暇ではない。

 

 非番の艦娘にちょっかいをかけて貴重な休みを奪うのは申し訳なかったからやっていない。

 

 そこでスキル【魔竜騎装】で使用した武器や防具をメンテナンスしようと考えた。

 問題は場所だ。現在、自室は妖精さんが掃除をしてくれている。自分だけでやると言ったのだが妖精さん曰く提督を休ませるためと聞かなかったので渋々了承した。

 

 終わったら、各妖精を伝って伝えて来てくれるらしい。

 後でチョコと羊羹以外の甘味を作って贈ろうと考えた。

 

芙二「とりあえず工廠へ行ってどこか場所を借りよう」

 

 そう決めたら足は勝手に工廠へと向かって進んでいった。

 

 

 

 同日 十時 三十分 工廠にて。

 

 芙二は工廠でせっせと動いている妖精さん達に挨拶をする。謹慎処分を知らない者は建造か開発かと聞きに行くが、知っている者がそれを止める。

 

 わちゃわちゃとしてきた中で一人の妖精さんが芙二に尋ねる。

 

『提督殿。明石さんか夕張さんに用があるのですか? 用があるのなら、呼んできます。だから提督殿はそこで最近の近況報告をしてあげてください』

 

 と、工廠の奥にある小さなスペースを指差して丁寧に申し出てきた。

 

 芙二は『そうだね。明石を連れて来てほしい』と自分を尋ねてきた妖精さんに伝えるとビシっと敬礼し、奥へ消えていった。

 

 小さなスペースの方へ歩きながらついて来た妖精さんたちからの質問を丁寧に答えていく。

 嘘偽りなく、事実を語る。その中で、一人が挙手したので指名する。

 

 その妖精さんの表情はどこかこわばっているように思えたので、新人の妖精さんかなと推察した。しかしそんなことはなかった。彼女……としよう。彼女はカチカチと歯を鳴らしながらたどたどしく芙二に聞いた。

 

 

『あの、提督殿。あ、あの、ば、化け……物と戦った、んですか……?』

 

 化け物。そうか、この妖精さんは多分夕張と共にいた妖精さんだ。

 

 質問してきた妖精さんの顔が青白い。それを見て怖かっただろうと思った。

 

 深海棲艦すら凌ぐ化け物と遭遇してパートナーとも言える艦娘を一度失ったのだ。

 こうして今再会できるのが奇跡、と思っているのだろう。だからこそ、芙二は妖精さんに向けてちゃんと説明をした。

 

 

芙二「あの化け物こと、カイン・アッドレアは強敵だったよ。チート風吹かせてた自分でも勝てるかギリギリだったからね」

 

 ハハハ、と苦笑いしながら目を伏せ、頬を掻く。芙二の様子を見て妖精さんはそんなに強敵だったのかと、自分達で騒ぎ始めた。その中で、一人がでもこうして生きていることがなによりの事実だと言った。

 

 そうか、そうだったと妖精さん達は騒ぐのを止めて芙二を注目した。

 

芙二「……よ『あ、芙二提督殿! 奇遇ですね!』……紫月憲兵じゃあないですか」

 

 妖精さん達に自分の力もとい呪いの元凶にも会ったと話そうとした時、紫月憲兵が後ろから声を掛ける。芙二は妖精さん達から視線を変えてジト目で紫月を見つめた。

 

 

紫月「こんにちは、芙二殿。こちらへは何か用があったのですか?」

 

芙二「どうも、紫月殿。明石さんに用があったんですよ。紫月殿こそ、執務をサボってるんですか?」

 

紫月「いやいや! キチンと仕事してますよ。今日は見回りだけなので。それに何かあったらすぐに飛び込めるようにしてますので」

 

芙二「なるほど。そういえば、紫月殿は人間でしたっけ」

 

紫月「え?! 何を言ってるんですか。頭の病院を紹介しましょうか? それかご自分で治してくださいよ」

 

芙二「一応上司なんですけどね、私。紫月殿からは精気が全く感じられないので……つい人間ではないかと思ってしまいました。申し訳ない」

 

 妖精さん達はサラッと毒舌を吐く紫月とにこやかに言っているがその背後には瘴気が漂い始めた芙二の間に居たくないと適当な理由をつけて退散していった。

 

芙二「あら、妖精さん達が行ってしまいました。紫月殿も行った方がいいのでは?」

 

紫月「いやいや。実は芙二殿に聞きたいことがありまして。芙二殿が彼の存在を倒したときに摩訶不思議な格好をしていたと聞いたのですが、それが事実か知りたくて」

 

芙二「事実だ。メンテナンスの前だけど見せたげる。【魔竜騎装】」

 

 そういうと足元から黒い煙が発生し芙二ごと覆う。

 黒い煙が晴れるまで、十秒とかからなかった。

 

 そこには所々ひびが入った漆黒の騎士鎧を纏う芙二がいた。外からは表情が見えないほど隙間がない。

 なのに、見えているように動くから不思議だと紫月は思った。

 

芙二「不思議そう表情()してますよ。どちらかの指で目潰しをしようとしてみてください」

 

 

 言われた紫月は右手でチョキをつくり目があると思われる場所へ向けてゆっくりと刺そうとした。

 が、しかし入らない。そこには本当に隙間など無くどこから見えているのかが分からなかった。

 

 

芙二「まぁ能力の応用とでも思っていてください。それとこれもメンテナンスしようと思っているんですよ」

 

 なにもない空間から刃の長さが一メートルはある鎌を取り出す。死神の鎌のようだと紫月は思った。

 

芙二「その鎌でグリム・ディザスター(必殺技)とか叫んだりしてカイン・アッドレアを倒したんですよ。今思えば恥ずかしいし、これには無理をさせてしまった」

 

 鎧の中から曇った声が聞こえてくる。紫月は刃こぼれしてボロボロになった鎌を見て一言『勿体ない、自分なら元に戻せるのに』と言った。

 

芙二「元に戻せる? もしかして――――」

 

 と、続けようとしたときだ。紫月は観念したように話し始めた。

 

 

紫月「僕は憲兵になる前、鍛冶屋でお手伝いをしていてね。だから武器や防具を作れるのは勿論直すのも容易い事なんだよね。誘拐された艦娘を助ける前、芙二殿に看破されたけど、僕のは芙二殿みたいなチートでもなんでもないんだ」

 

 

芙二「いやそれでも十分だと思うぞ。この武具を作る際使用した素材はこの世のものではないからな。能力が適用されるかはいざ知らず、素晴らしいものだよ思うが」

 

 もやもやしていた悩みが取れてすっきりしたような態度を取る。そして判明した能力を褒めた。

 

 しかしここで疑問が生じる。紫月が例え鍛冶屋で働いていたから、という理由だけで武器や防具を作成可能になるとは思えなかった。他に要因があるとしたら、自分と同じように転生をしているか才能があるか、人間ではないか。

 

 そこで質問をしてみた。

 

芙二「もう一度同じ質問をします。紫月殿は人間ですか? やはりどこか人間ではないような気がしますが。自分も人間ではないので、海軍にも居るんだなぁ程度ですけど」

 

 

紫月「僕はここの人間ではないですね。幻想郷という土地で生まれまして妖怪みたいな、付喪神のような存在です。ですが、当時の巫女は僕を人間として育ててくれました」

 

 

芙二「幻想郷!? それって博麗神社とか迷いの竹林とか天狗がいる妖怪の山とかある所ですか?」

 

 

紫月「えぇ!? 芙二殿、あの楽園を知っているんですか?! もしかして芙二殿もそっちの出……」

 

 

芙二「いや違います。幻想郷は少しだけ知っているだけですので。なるほど。幻想郷からは追い出されたのですか?」

 

 

紫月「あー、そんな感じです。当時、ある妖怪が大規模な異変を起こしてね。それは僕の育ての親である巫女を護る為のものでもあり、また幻想郷を破壊するためのものだったよ」

 

 

 巫女を護るためであり、幻想郷を破壊するため?なんだか矛盾していると芙二は聞きながら思った。

 しかし幻想郷を破壊することなど、そこを創った賢者が止めようと思うのだがどうしたのだろう?

 

紫月「事の発端はその妖怪はさ、人間を食らう事で存在できる妖怪なんだよね。それなのに、人間のよりにもよってその巫女に恋をしてしまったらしい。その影響か人間を食らう事が出来なくなってしまった」

 

 

芙二「ほかの食事ではダメなのか? 牛や豚、鳥でもいい。魚でも穀物でも――――『ダメだったみたいだ』」

 

 

 

紫月「人間を食らうことが出来なくなったその人食い妖怪は日に日に弱っていき、とうとうその巫女にも会いに行けなくなった。だけど、本能は生を繋ぐために、自己を保つために人間を殺して喰らった」

 

 やはりそうなるよなぁ、と黙ったまま聞いていた。

 

紫月「人間が変わり果てた姿で発見された、というのは平和を乱すには持ってこいであった。他の妖怪も便乗したらしいんだ。それを止める、殺すのは巫女の役目であった。だからこそ、人食い妖怪は出会ってしまった」

 

 

 うーん、最悪だなと思った。その妖怪は自分が存在するために殺したのに、周りが変に便乗するせいで嫌な形で出会ってしまったというところか。

 

 

紫月「結局戦う事になり、巫女には負けはしたものの、気持ちを伝える事が出来たらしい。その巫女は素っ頓狂な顔をしたのちに大笑いして妖怪の案をのんだ」

 

 

芙二「奇跡だな。そこだけを見ると友達としてか恋人として終わる幸せな話になりそうだが、そうはいかなかったんだな?」

 

 

紫月「そうみたいだね。まぁこれも聞いた話だけど途中までは良かったらしい。当時を知る妖怪は語ってくれたよ。でも、やっぱり本能は抑えられなくて、という話だよ」

 

 

芙二「その辺も受け入れるような人物じゃないとだめなのかな……で、大規模な異変を起こしたのか。巫女を護るためというのは、自分の本能と戦ったのか? それで幻想郷を破壊するためは……」

 

 

 紫月は頷き、続きを話し始める。

 

 

紫月「その通り。その人食い妖怪は自分の本能を抑えようとした。だけど、抑えられた本能は幻想郷そのものへ牙を向けたらしい。人も妖怪も、ありとあらゆる万物を食らうモノへと形を変えた」

 

芙二「……」

 

紫月「最終的にどうなったかは分からないけどね。僕は巫女に幻想郷(あそこ)から追い出されたから。でもあれは凄かった。その頃は産まれてまだ二十年とかそこらだけど、未だに鮮明に思い出せるよ」

 

 よし、紫月殿は人間じゃないってことは分かった。それと自分よりもトシがいっていることも。

 サラっと生まれて二十年とか言ってたから絶対に千歳とか超えてそうなやつだ。

 

芙二「どんな感じだったの?」

 

紫月「その妖怪は当時の幻想郷の中でも大妖怪と言われる存在だったらしい。その妖怪の近くへ行ったんだけど磁場が発生していたよ。破壊活動をするときも音を置き去りにして強力な一撃を結界へ向けてひびをいれていたから」

 

 

 うわぁ、完全な破壊の権化だと思った。そして続けて一つの世界を破壊するほどの力なんて想像しただけでもとても……と身震いをした。

 

 

 でも幻想郷は残酷だった気がする。だからその妖怪は命を落としてしまっただろう、と考えた。

 

紫月「その衝撃は凄まじいものでね。僕は妖怪の山まで吹き飛ばされてしまった。そこから先は気がづいたらボロボロの巫女が居て僕に『このままだとあなたまで死んでしまう。だから、ごめんなさい』と言われた」

 

 

芙二「結界の外へ出されてから、拾われて鍛冶屋で手伝いをしていたんだな?」

 

 

紫月「そうだね。結界の外は違う山だった。そこへ置き去りにされ、鍛冶屋の老人に拾われたんだけど。当時の見た目は幼い子供だったし、僕の近くには成人した男女が首を吊っていたからそこの子供じゃないかって勝手に間違われたりしたけど」

 

 

芙二「その鍛冶屋の老人はもう……死んでいるか。店自体はどうなったんだ?」

 

 

紫月「もう閉じたそうだ。僕が憲兵になって三年目でふとそちらへ行けたから、行ってみたらそこは空き家でね。近所の人に聞いてみたら、二年前に老衰で亡くなったと」

 

 

芙二「今度お墓行ってもいいぞ。盆休みか彼岸にでも。とにかくその人のお墓に行ってくれ。報告出来るほどネタは多いだろう?」

 

 

紫月「そうだね。ここのところ五年くらい行けてないので行かせてもらいます」

 

 

 芙二はにっと笑い是非そうしてくれ、と言うとちょうど明石が来た。

 

 明石は紫月もいる事に驚いていたが紫月が離席しようとすると芙二が『残ってくれ。紫月殿にも関係のある話だから』と言い止めた。

 

 自分にも関係のある話?と頭に疑問符を出していたが、内容を聞いたらすぐに自分が残るように言われたことに合点がいく。

 

 

明石「なるほど。提督はどこらへんに作ろうとしてるんですか?」

 

 

芙二「工廠の中か、隣らへんで作ろうかと思ってる。いや隣に小さな小屋かなにかを建てるか設置するか……」

 

明石「名目は【艦娘用艤装倉庫】みたいな感じですかね? 実際は提督や紫月さんがアーティファクト類いを作成する所、と。それって私が使っても大丈夫なんです?」

 

 

芙二「構わないよ。名札でも作っといて、小屋の入口に設置しておくかな。そこに掛けて貰えばなかに入る時に分かりやすいだろうし」

 

 

明石「冷葉補佐には許可取ってるんですか?」

 

 

芙二「一応取ったよ。呆れてたけど、本人もあんなイレギュラー(ばけもの)見たから許可が出してくれた。あ、でも泊地の経費では落ちないから自腹でやれって」

 

 

明石「なるほど。いくらくらいのを考えてます?」

 

芙二「んー、特には。とりあえずプレハブ小屋くらいなのを作ってもらえれば中身はカスタマイズすることできるし。壊れるのが嫌だったら、不壊でも付与しとくから」

 

 

 明石と芙二で話が進んでいく。

 その辺は詳しい二人にやってもらうのがいいだろう、と思った紫月だが芙二が付与と言ったところでひとつ思い出し笑いをした。

 

芙二「なにか面白い点でもあったか?」

 

 

紫月「いや何も。ただ芙二殿はありとあらゆる物に付与できるみたいだから付与術師(エンチャンター)みたいなだって。艦娘の皆から聞く限りだとデバフみたいなのもしているらしいし」

 

 

芙二「確かに。干渉とか付与とか言っているけど……なるほど。俺はじゃあ提督兼付与術師(エンチャンター)とでも名乗ろうかな!」

 

 

紫月「いいね! それじゃあ僕は鍛冶屋で手伝いをしていたから鍛冶みたいなのが出来るから鍛冶師(ブラックスミス)という事で。憲兵兼鍛冶師(ブラックスミス)……流石に名乗るのは泊地内だけでいいですよね?」

 

 

 芙二の雰囲気に乗せられて決めた紫月だが、恥ずかしくなったのか頬を赤らめて苦笑いしながら言う。

 明石は二人のテンションについていけないようだった。

 

 どういえばいいか分からないようで芙二の顔を見る。

 明石と目が合った芙二は『ん~』と唸りながら考える。

 

芙二「そうだね。外では機会があったら使おう。俺達は一応軍人だし。あまり使うことはないと思うけど」

 

 明石は頷いて、それを聞いた紫月はホッとしていた。

 

 芙二はとりあえず明石と妖精さんに任せる、と丸投げした。

 

明石「提督、完成したらしっかり払ってくださいね」

 

 芙二に言って早速手の空いている妖精さんを集め始めた。

 

 今日は開発も建造もしていないようで、思いのほか大勢集まって話し合っていくのだった。

 

 

 残された芙二と紫月は他にもゲームや漫画のことで盛り上がって行くのだった。




 幻想郷:名前だけ登場。紫月が元々生まれた土地。

 紫月:見た目は二十代後半だけど、年齢は芙二よりもずっと上。


 芙二:付与術師(エンチャンター)。もしも、ジスレベリタに帰って冒険者となるのだったら間違いなくそう名乗りそう。
 執筆者だったらそう名乗りつつ、脳筋で片付けます。


 紫月:鍛冶師(ブラックスミス)。基本は憲兵だが、非番や時間が出来た際はこれから完成する小さな工房に入り浸ってその能力を発揮する(予定)

 作られた武器や防具は本編や番外編とかで出す予定。
 なお、執筆者にはセンスがない。

 
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