後半にちょろっとだけ前々回の話の続きを入れました
同日 十一時 二十分 北方海域 モーレイ海にて。
足柄たちは北方海域へ入るべく水上を進んでいる。最近体験した状況がうそのようだと思っていた。
雲一つなく、陽の光が照らす。波は穏やかで、空はカモメなどの海鳥が鳴きながら飛んでいた。
空を埋め尽くす
それでも注意しながら航行する。
ここは戦場であるからだ。一秒先の未来なんて保証される環境ではない。
みな分かっていた。これから向かう場所には姫の情報が入っている。水上型と陸上型、異なる型の姫級がいると他の鎮守府や泊地からの情報で知った。
いつもは芙二を頼りにしていたから『もしも』が来てもどうにかできると思っていた。
でも今回は居ない。
特に、あの場面を目撃した龍驤は今回は戦力的に大幅な低下を感じていた。
龍驤(姫級がこんな初っ端からいるとは考えられんが……ちゅーか、そこまで来てたら結構な艦隊ちゃう?)
続けて、自分達の司令官が規格外なだけだとしめた。
龍驤の想像する提督は自ら率先して深海棲艦を殺しに行く規格外ではない。
むしろ秘書艦と共に執務し、作戦の時は色々な情報を仕入れて、状況を考えて、予想を踏まえて的確な判断をするようなタイプだと思っていた。
現に冷葉は定期的に無線で自分達と連絡している。
現場にいる自分達は連携を取って敵を撃退する。それもまた報告するだろう。
確かに奥の手のような存在が手助けしてくれるのはありがたいが。自分達はそれに依存するようになってしまいそうで自分達、いや自分の存在意義がなくなりそうな感じを覚えていた。
『! 十三時の方向に敵発見!! eliteクラスのリ級を筆頭に複数の駆逐艦で構成された艦隊が近づいています!』
赤城の声でふと我に返った龍驤は慌てて牽制するための艦載機を繰り出す。
ブロロロロと音を出しながら、三つの艦載機が十三時の方向へ飛んでいく。
『赤城さん、龍驤さん敵がまだ速力を上げてこちらと会敵する前に! お願いします!』
無線から足柄の指示が飛んできた。赤城の声が聞こえて、龍驤は気合を入れ直す。
『龍驤さん! 私たちで敵の数を減らしていきましょう!』
『そうやな。艦載機、発艦!!』
赤城の言葉に頷いて、龍驤は式神型の艦載機を次々と発艦させていく。赤城も弓引き、矢は徐々に形を変えて艦載機となって敵艦隊の方へ行った。
味方の艦載機を見て他の面々の顔が引き締まる。
まともな戦闘が初めてな名取と曙は別々の反応を見せる。
名取「うわわ……も、もうすぐ戦闘が始まるんですねっ」
曙「名取さん、落ち着いて行きましょ。と言っても私も初めてだからその緊張は分からなくないけど」
足柄「二人とも! これは実戦よ。ちゃんと狙って行きましょ!! 大丈夫よ、頭を吹き飛ばせば確実に沈むわ」
皐月「そりゃあ沈むけどさぁ。頭が潰されたら僕だって普通に沈むからあまり例えになっていないような……」
足柄「そうかもしれないけど、それが一番いい例えなのよ」
四人で話しているうちに、少し離れたところで大きな水飛沫が上がる。驚いて上がった方向を見ると同時に龍驤から無線が入った。
『盛り上がってるとこ悪いけどeliteクラスのリ級の艦隊は全滅したで。一回目で何体か沈んだんよ。沈むときにロ級の身体からオイルが漏れて、二回目で引火して残りもろとも消し飛んだわ』
『なるほど。他に敵影は見えそう?』
『いえ、見せないですね。一応艦載機を飛ばしてみて、見回してみます』
『了解。私たちも電探を使って警戒しながら進むわ』
赤城と龍驤からの無線が終了し、他三人に指示を送る。
三人は頷いて、少し前にいた赤城たちと合流し、先に進む。
赤城「足柄さん! 西の方向から艦載機が来ます! 数は二十!! たい『赤城と龍驤は艦戦を飛ばして、残りは対空射撃を!』……冷葉補佐、ありがとうございます!」
赤城「艦戦を送った後、すぐに攻めましょう! 龍驤さん!」
龍驤「はいな! みんな、仕事や!」
二人はそれぞれ艦載機を発艦させてていく。赤城が言った通りに西から敵艦載機が飛んできた。
それを足柄たちが撃ち落とそうと、目標に合わせて射撃する。
対空砲の射撃音と敵艦載機が落とす爆弾がぶつかり合い、黒煙を出して爆発していく。
敵艦載機の数は増える。そんななか名取が撃ち漏らした。
複数の艦載機から爆弾が落とされた。艦隊の誰かが直撃を避けるべく、必死に落としていくがそれでも処理しきれなくて海に落ち爆発する。
名取「わわっ」
足柄「ッチィ!! 敵はどこに――――」
落ちてきた物は爆弾だけではなく、大小さまざまな水飛沫がいくつも上がり、海面は大きく揺れる。
手を突きそうになるも、耐え次を考える。足柄は冷葉に指示を煽ろうとするも、繋がっていないようで向こうは応答しない。
だから、なるべく焦らず赤城と龍驤に指示を出そうとした。
足柄「いたわ!! 西、四百に敵艦隊発見! 赤城さんと龍驤さんはそっちに!」
了解だ、という返事を待たずに他の三人に指示を出す。
『確実に、一隻ずつ沈めろ』と失敗はしてもいいが、逃げる事は許されないと。
続けて『弱音や泣き言は、一切禁ずる。腕が捥がれようと、砲が壊れようと敵を滅せよ!』と覇気を飛ばす。当てられた三人の瞳には意欲が宿った。
皐月「ふっふ~ん! 改二になった僕の力見せてあげる!!」
名取「じ、実戦は怖いけど……私もあの人の艦娘なんだから、キチンとやります!」
曙「敵だろうがなんだろうが、アタシがなんとかするわ!」
三者三様、意気込むのを見て足柄も負けていられないと気合いを入れた。
足柄「いいわあ、そういうの。私もあの子たちのように……いえあの子たち以上に行かないと♪」
足柄たちはヌ級の艦隊と会敵した。
敵の半数は既に沈んでいたが、気合いが入りやる気の上がった足柄たちが弾幕を撃ち込み、次々に削って行く。
黒煙、水飛沫、深海棲艦のオイルの様な青い血。誰かが砲撃を、艦載機が爆撃を行う毎にそれらが生じる。燃える深海棲艦、満身創痍なのにも関わらず、報いるために砲撃をするロ級。
戦闘により滾っていた足柄に直撃するも、進撃は止められず。敵を撃滅せんと瞳に宿りし意志が、最後の一撃でロ級を屠った。
足柄「次! 次の敵は――――北、三百の方向かぁ!!」
沈み逝くロ級に見向きもしないで、叫ぶ。
このとき戦場で血滾り、肉躍る戦闘に飢えていた足柄の望みは満たされていた。
そして普段の能力から飛躍的に向上し、空母の偵察機を介さなくても敵の位置が分かるようになっていた。夜戦ではあのバカ二人に敵わないが、昼戦で見せるモノは夜戦時のバカに匹敵する。
『足柄!? ど、どうしたんだ!?』
『ほ、ほんとや! 北、二百七十の方向から艦載機が来とる!!』
『みんな、言わなくても分かってるわね?』
無線から聞こえる足柄の声は低いが、どこか楽しそうな雰囲気であった。
執務室から応対している冷葉には足柄の急な変貌ぶりに慄き言葉を失っていた。
足柄以外の艦娘には分かっているようで、次々に言葉が飛び交う。
『とりあえず、赤城さんと龍驤さんはヲ級とロ級二隻とワ級を任せてもいいかしら?』
足柄の言葉でハッとした冷葉は耳を傾ける。
しかし足柄の次の言葉でまた言葉を失いそうになるが。
『落とせなくても負傷させることが出来ればいいわ。残りは最悪肉弾戦に持ち込むから』
『でもそれだと……足柄さんが……』
『私だけだと危ないから、三人にサポートを任せてもいいかしら?』
『いいけど砲弾が直撃しない?』
『その辺はなんとかするわ。一応提督から貰った装備の力も試したいし』
『艦載機はもう発艦させるわ! っと! て』
バラララッ! ドォン!
『弾幕を張って! 龍驤さん被せて悪いわね!! 対空砲火が終わったら、次は敵艦隊へ砲撃を!』
会敵し、砲撃戦が始まってしまった。
射撃音や艦載機の飛び交う音。
爆破音、水飛沫の上がる音、叫び声が混じって戦闘の音として冷葉の耳に、脳に、刻み込まれた。
時々聞こえてくる焼ける音は冷葉にとって不安を掻き立てる。
戦場にいる足柄たちにとってはどうなのかは分からないが。
爆発すれば燃えし、煙が上がる。
水飛沫も上がって視界を遮られるだろう。冷葉は艦娘ではない。
芙二のように人外でもなく、そして戦闘狂でもない。
執務室で無線から彼女達に指示を出すだけの冷葉はただ無事を願うしかなかった。
『――補佐! こちらの戦闘が終了したわ。被害は私以外全員小破未満。私は滾りすぎて小破してしまったわ。旗艦として、反省すべきことかしら? いやそうよね。そこは反省すべきことだと思うわ』
『了解した。付近を警戒し、泊地まで戻ってきてくれ。ドロップ艦は居たか?』
『いやいなかったわ』
『そうか。では、そのまま帰投してくれ』
『了解です!』
足柄との通信を終えた冷葉は時計を見て、戦闘終了の報告があった時間をメモする。
【五月 十五日 十四時 三十九分 モーレイ海での戦闘終了】
あとで足柄の報告を聞き、戦闘報告書を仕上げようと思ったのだった。
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一方、芙二は工廠にて。
一日で完成された小屋の中を弄りまわして見た目の規模からは考えられないほどの工房を完成させた。
芙二は空いた時間で遊び半分のつもりで装備を作ったりメンテナンスしたりするので作業場と鍜治場と分けた。あとで紫月に説明しようと思い、先日の戦闘でボロボロにしてしまった自身の鎧を修復する。
芙二「俺も紫月さんのようなスキルがあればなぁ……いや待てよ? 仮にも
自身が着用する黒い鎧を一度仕舞い、刃がボロボロになった鎌を取り出す。
紫月なら完璧以上の修復できるかもしれないが、芙二には出来ない。見てくれは直せるかもしれないが、何回か使ったら確実に折れてしまう。
芙二「確か、この辺に死んだ神様が託した残滓が結晶化した物があったような」
ゴソゴソと上着のポッケを漁る。コツンと固い感触がしたので、それを引っ張り出すと禍々しく光を放つ結晶があった。それを【
どうしてだ?と首を傾げていると原因が分かった。
そうだ、鎌と混ぜたのだ。既に光を失った鎌の刃に結晶を当てると勢いよく吸い込んだ。
芙二「うわっ!」
鎌は急に輝きだし、あまりの眩しさの目を隠すほどだった。
しばらくすると輝きは収まり、ただの鎌に戻った。
芙二がおそるおそる刃に触れると、また紫色の光を放ち始めた。刃に触れただけなのに、意識が持って行かれる気がした。すぐに手を放し鎌に起きた変化を確認した。
芙二(おいおいおいおい! これは付与したって事でいいのか!? 死んだ神様の残滓を鎌に吸収させただけだぞ!? それだけなのに――――)
そう思うのも無理はない。理不尽な存在により、神は殺された。その死んだ神の残滓が結晶化したものは一つで数千、数万の怨念に匹敵するくらいだった。世に放てばそこら一帯は住めないどころか近づくこともできないくらいの呪いに侵触される。
だから芙二の能力とも相性がいい。呪いを殺さず、力に変えることが出来る。
鎌に宿ったものは神の呪いに等しい。致命傷を負い、自らを修復するためにすべてを食らい尽くそうとするカインが殺した神が元々持つ、別の
芙二(鎌で斬りつけるだけで、いや触れるだけで命を奪うことが出来る鎌……か。我ながらとんでもない物を作ってしまったな。まさに! 呪われた者が扱うには持って来いの武器だな)
致命傷を与えなくても、少しだけ触れればその生物の命を奪う。
本来は神自身の治癒に充てられるが、形なき者のためそのまま蓄積されるだろう。
芙二は鎌の柄を持ち、名称を付けた。安直な名前だが、今はそれが一番合っているような気がした。
芙二「この鎌の名前は【ソウルイーター】ということで。さて、建造しにいきますか~」
鎌を虚空に投げ入れると、工房を出て建造しに行くのだった。
付与:武器
種類:大鎌
備考:神の側面と呪いを吸収した大鎌は触れた
芙二以外の使用は極めて困難な代物となっている。使いどころは限られている。
殺せない生物には、一時的にその生物のすべてを奪いとる。
奪われた生物はなにもできず、地を這うのみだ。