とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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 艦娘だって、溺れるんじゃないかって。
 実際に轟沈は水底へ墜ちるわけだし。

 なんて考えながら書きました。


三章 10話『キス島付近で遭難した者共を救助せよ 2』

 

 同日 五時 四十七分 北方海域にて。

 

 

 芙二が運転する装甲船を艦娘が護衛する形でキス島へ向かっていた。

 負傷者がいることが事前に分かっている。だから船の速力を最速に設定して波間を裂くようにして進む。

 

『提督~! 雲が出てきてる! こりゃ一雨来そうだよ!』

 

『おう、ありがとよ。雨が降ってくる前に依頼人共々乗せて泊地へ戻ろう』

 

 無線から川内の声が聞こえる。船内で舵を取っているから外の状況の変化には乏しい。

 だからこそ、川内のような外にいる人物の情報はありがたかった。

 

『司令官、いまさっき川内さんから入ってきたけど情報を更新してくれ。雷も鳴ってきている。一度、雨宿りをするのが得策ではないだろうか』

 

『ありがとう、響。悪いけど、今回は悪天候になっても連れて帰る。それにこの船は沈まない……まぁ褒められたことではないから、後で報告書に書いといてくれ』

 

 ブツ、と通信を切断する。響と川内から入った情報を踏まえて、考える。

 このままの作戦を行い嵐にでも遭遇したら、自分は良くても依頼主たちが要らぬ不安と恐怖に襲われてしまうのではないかと。

 

「……流石にこの気候だったら深海棲艦は出てこないか?」

 

 川内や響だけの情報でも十分危険な状態だということは分かる。しかしもっと情報が欲しいので、夕立や叢雲にも聞いて見ることにした。

 

『叢雲! 今、海上の様子はどうなっている?』

 

『そうね。風が出てきたわ。心なしかどんどん強くなってきているような……。それと寒くなってきているわ』

 

『なるほど。それはここの海域のせいか?』

 

『いやそうじゃないと思うけど……黒い雲が集まって時々光るわ』

 

 うーん、これは一雨来るな?

 嵐のような状態で船を出したくない……仕方ない、依頼人には簡単な応急手当をしよう。

 

 本格的に治すのは救護班(あちら)に任せてと。

 あとはもう少し情報を聞こう。絶対にやばい奴らだって直感が言ってる。

 

 

『! 提督さん! 前方に深海棲艦が居るっぽい!! どうする? 戦う?』

 

『あー……そうだな。帰る時に邪魔になるかもしれないから、相手の足を狙ってくれ。俺はこのままキス島まで進んじゃうわ!』

 

『了解っぽい!! 夕立、一時離脱してあいつらを再起不能にしてくるっぽい』

 

『えっ!? 提督! わ、私も夕立ちゃんについて行ってもいい? いいよね?!』

 

『そんなに戦意を向上させられても困るが……はぁ、仕方ない。行け、だが深追いはするな。足を奪うだけだ』

 

『やったぁ!! 提督ありがとう!!』

 

 耳が痛くなりそうな程の声量で感謝を述べると通信を切り、夕立と共に深海棲艦の元へと急行した。

 あとで合流する時のことを伝え忘れた、と芙二は思いながら叢雲と響に指示をする。

 

『ただし叢雲と響は俺についてきてくれ。依頼人と少し相談する。それまで待機だ。負傷している人を船まで運ぶときに手伝ってほしい』

 

『了解したわ。司令官、足を奪った深海棲艦の命は司令官が奪うの?』

 

『その予定だ。今日の夜、狩りを行う。あまり時間は使わない予定だ。多分瞬殺だろうから』

 

『瞬殺……戦えないのなら私はパスね。連れて行く艦娘は他の子にしてちょうだい』

 

『司令官、今日は私がついて行ってもいいだろうか?』

 

『構わないが、明日は暇か? いや明日は出撃と遠征はなしで哨戒だけにしよう。なーんか、嫌な予感がするからな』

 

『ありがとう。夜出る時に私に声を掛けてほしい』

 

『了解だ……島が見えてきた。適当な所に停泊させるから周りに何かないか、確認してくれ』

 

 

 芙二たちはキス島に到着することが出来た。雨が降り出す前に、去りたいと思うのだが流石にさせてはくれないようだ。停泊場所を探している途中に、ポツリと空から雫が落ちたのを皮切りに降り始めた。

 

 

芙二「あー、やっぱりもたないか。横殴りになってきているようだし……どっかで雨宿りするかなぁ。つか、夕立たち大丈夫か? 波が荒れてそうだが」

 

 天気は荒れているのに、芙二は船外へ出る。

 雨は横殴り、風は暴風みたいに吹きつけてくる。

 

 海へ目を向けると白波が立ち、海底の砂を巻き上げたのか泥水の色をしていた。

 うねりにうねって生身の人間はおろか艦娘でも命の危険がありそうだと思った。

 

叢雲「司令官! すごい風と雨だけど大丈夫そうかしら?」

 

芙二「叢雲と響こそ、大丈夫か? 濡れるのにあまり抵抗のない艦娘と言えどこの状況は嫌だろう?」

 

響「そうだね。濡れているし、ここの環境もあって身体が冷えてきたようだ。船内へ雨宿りさせてほしいのだが……構わないかい?」

 

芙二「構わない。この船には常に妖精さんがいる。タオルとか温かい飲み物がほしかったらいうといい」

 

 二人を船の中に避難させる。びちょびちょになってしまった制服を拝借する。

 そのあいだ、二人には男物で悪いがTシャツとチノパンを貸す。

 

 二人には大きさが合わないのか、ぶかぶかに見えたが芙二は気にせず能力を用いて脱水、乾燥させる。

 

 ほら、と返すが二人はまだ来ていたいようだったので着ている服が海軍の制服に視えるように認識改変を付与する。泊地に帰るまでは、この付与で誤魔化せるだろうと思い夕立と川内を探しに行くといい、外へ出た。

 

芙二「何かあったら無線を介して伝えるから、一応どっちかは電源をつけておいてくれ」

 

 外へ出るとさっきよりも天気が悪化していた。

 本格的に嵐となり、雨や風が叩きつけるので視界は最悪。濃霧のようになっているから余計に視界は利かない。それに雷もなっているせいで周りの音もよく聞こえない。

 

 

 こんな状態の中で二人を放っておくのは危険と判断し、二人の気配を探す。

 

芙二「いた。まだ海上に居るのか……ッ!」

 

 川内と夕立は荒れ狂う海上に取り残されていた。深海棲艦はとっくに沈んでいるようだ。

 足だけを壊せばいいと言ったのに、深追いしたのだろうか。

 

 いいや、この際そんなことはどうでもいい。

 二人を船内へ連れて移動しないと、という時だ。

 

芙二「ッ!? 夕立の気配が一瞬、途絶えただとッ!?」

 

 海上にあった二つの気配のうち、夕立の気配だけが一瞬途絶えた。

 

 こんな天候だ。波も高くなっているに違いない。

 

芙二「波に呑まれて溺れる前に行かなくてはッ!!!!!」

 

 そう、叫ぶと二人の気配のする方へ飛ぶ。

 艦娘だって溺れる時はあるだろうし、水上を滑るように動けても可能性はゼロではない。

 

 

 嵐の中空気抵抗とかすべてを無効化して、ただただ早く、速く向かう。

 

芙二「夕立ッ!! 川内ッ!! 無事かッ!!!!」

 

 息を切らして、心配そうに叫びながら二人の目の前に現われた。

 

 夕立は座り込んで、川内は夕立の手を握っている様だった。

 

夕立「て、てーとく、さん……」

 

川内「さっき夕立ちゃんが波に呑まれそうになって……――提督! 後ろ! 危なッ――――!!」

 

 夕立は肩を小刻みに震わせていた。川内は状況を詳しく教えてくれた。

 やはりそうか、と納得した。急な高波に呑まれそうになったら怖いだろう。

 

芙二「大丈夫だ」

 

 先ほどよりも大きな波が芙二たちに覆いかぶさろうとした時だ。

 

 パキン パキパキパキパキ と音を立てて波が凍り付いた。

 

 波だけじゃない。自分達の周囲の水は全て凍っていた。不思議な事に雨すらも凍り付いて空中で止まっている。空からは雨ではなく雹のような、雪のような物が降ってきていた。

 

芙二「さ、川内、夕立。怖かったろう、恐ろしかったろう。さきに船内にいる叢雲と響のように暖かくしているといい。服は二人や妖精さんから貸してもらって」

 

 そういうと川内と夕立を船内へ転移させた。

 急に現れた三人に叢雲と響、妖精さんたちは驚くも芙二が事情を説明すると了承してくれた。

 

芙二「それじゃ、俺はさっき見つけた依頼人さんの所行ってくる」

 

 と、また船外へ出ようとする時、響から『外は嵐だから行かない方がいいのでは?』と言われるも『もう嵐は止んだよ。世にも珍しい天気になっているから部屋の窓からのぞいてみればいいよ』と言いながら川内と夕立を探した時にたまたま見つけた気配の元へ向かう。

 

 

 

 

 キス島の内部へ進むと小さな廃村があった。

 そこをさらに奥に進むと廃墟に灯りがついていた。

 

 きっとそこにいるのだろう、と芙二は確信して気配を絶って近づくとこんな会話が聞こえてきた。

 

 

『チィ……まだ海軍の連中はこないな。急に冷えてきたから誰もいない廃墟を使ってんだが幸いな事に薪があってよかった』

 

 ほっとしたような表情をしながらバンダナをつけ、無精ひげを生やした男は薪をくべていた。

 その横で同じくバンダナを付けたどこかの海賊ような服を着た細身の男が青い顔をしながら口を開く。

 

『物資の大半がダメになっちまいましたけど……俺ら死にませんよね?』

 

『そんなことは知らないな。組長の期限次第だ。若も帰ってきたと思ったら、あんなキレーなお嬢さんを連れてきていたし』

 

『ほんとそれですよね。あ~あ、自分にもそんなお嬢さんが居たらなぁ……』

 

『たられば、を妄想するならこんな仕事から足を洗っちまいな。この仕事に長く居るとろくな死にかたしないぞ』

 

 二人とも頭にバンダナを巻いていた。細身の男は青いバンダナを。自分よりも身長の高い筋肉質な男は赤いバンダナを。

 話しの内容からして組長とか若とか言っているからきっとヤのつくところの人間だろう。

 

 そら、海軍はおろか警察も……いや警察内にもヤのつく人と深い関係を持っているから頼ろうとしたのだろうか。

 

 おっといけない、いけない。

 今はどうでもいいことを考えてないで、迎えに来たことを伝えないと。

 

 コンコン

 

『誰だッ!?』

 

芙二「こんにちは、東第一泊地の芙二です。お迎えに上がりました」

 

??「なんだ、提督殿か。ん? ということは今の会話は……」

 

芙二「すみません、聞いてしまいました。まさかヤのつくとこの人と関わりを持つとは……」

 

??「三樹(みき)さん、この若造どうしますか。今なら鱶の餌に……」

 

三樹「(かしわ)、止めとけ。東第一泊地の提督殿はものすごく強い。向き合っているだけなのに、肌がビリビリきやがる……ッ!」

 

 なるほど。赤いバンダナの男は三樹、青いバンダナの男は柏というのか。

 それに赤いバンダナの男は強者を見抜く力があるのか。それは素晴らしいことだ。

 

芙二「良かった。私も余計な血は流したくないもので。それで負傷者はどこですか? 軽く応急手当をしてから……『提督殿、実は……』ん? どうかしましたか」

 

柏「三樹さん、ここは俺が『柏、これは俺の責任だ』……分かりました」

 

三樹「提督殿、負傷者は全員息を引き取ったよ。あ、別に提督殿が悪いわけじゃないんだが……」

 

芙二「なるほど。死体も共に乗せましょう。流石に別の部屋に連れて行きますけどね」

 

 そっか、ギリギリ間に合わなかったか。

 仕方ない。死体だけは家族の元へ送ってやろう。

 

 え?蘇生しないのかって?いやいや毎回蘇生してたら、アレでしょ?

 だから残念って。

 

 あぁうん、自分勝手だけどそうしよう。

 いやぁ我ながらアレだ。命と自己保身を天秤に掛けるなんて屑だな。

 

三樹「提督殿? どうかしましたか」

 

芙二「早めに帰らなくては、と思いまして。死体の所へ案内してください。応援を呼びます」

 

 三樹は柏に場所を教えてやれといい、頷いて芙二にこっちです、と案内した。

 

 

 

 

 

 案内されたのは蔵だ。しかし中は空っぽでなにもない。

 ただそこに三つの死体が川の字の状態になっていた。

 

 

 サーモグラフィというわけではないが、死体の温度を確認する。

 

芙二(死後はまだ一時間も経ってないな。これならなんだかんだで生き返ったーとかできそうだ。流石に病院で意識は取り戻させてやるか)

 

 柏にありがとう、と言いながら無線で船内にいる叢雲達を呼ぶ。

 

 

 呼んだ後、叢雲と共に三樹と柏、それにと死体を船内に運ぶ。

 装甲船は叢雲たちに貸した服同様、認識改変を付与しているから三樹らにはこの船自体が見た目と中身の一致しない船になっているだろう。

 

 

 嵐はなくなったが、空はまだ曇っていたのでなるべく急いでキス島を出発したのだった。

 

 

 

 

 




 次の話は後始末ですね(多分)


 新キャラクター:三樹(みき)

 概要:ヤのつくところの人。身長は芙二よりも高い、あとからだがごつい。モブ属性。
 赤いバンダナを頭に巻いている。

 新キャラクター:(かしわ)

 概要:三樹と同じくヤのつくところの人。下っ端も下っ端。ひょろい。モブ属性。
 青いバンダナを頭に巻いている。

 芙二が川内と夕立の周囲を凍り付かせたわけ:どっかの話で書いた【スキル:狂獄】の応用。元々狂獄というものは芙二の周囲Xキロメートルに普段相容れない状態を生み出すスキル。
 芙二自体が進化していくと内容もより苛烈になる。

 絶対零度の環境と火山でマグマが流れる環境みたいな感じ。

 今回は雨を氷に変えただけ。今のレベルだったら時間経過で元に戻る。

  
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