よーやく、ここまで……三章も前半の中盤に入りました。
いやー、間の悪いこと悪いこと。
五月 十七日 朝六時 食堂にて
翌日の朝、さりげなく長門と響と共に食堂内へ入る。早い時間だったのでほとんど誰もいない。
しかし間宮と伊良湖には即バレる。そら仕方ないなと思った芙二は長門に挨拶させる。
長門「長門型戦艦一番艦の長門だ。昨日、着任した。これからもよろしく頼む!」
と元気に挨拶をした。間宮も伊良子も手を止めて厨房から出てきて挨拶をした。
芙二はこの足で冷葉の元へ行こうと決め、響に解散の旨を伝えると了承して手を振って帰って行った。
芙二「長門、冷葉のところへ挨拶に行こう。この時間だったらきっと起きてるはずだから」
長門「うむ、了解した」
間宮と伊良湖にまた来るといい、食堂を出た。
冷葉の私室へ向かいながらここの説明をしたのだが、長門は芙二のことが気になってしょうがないようだった。芙二は頬を掻きながら『俺については後で好きなだけ聞け』と言って話題を元に戻した。
あらかた話し終わった後に長門がひと言。
長門「着任七日で化け物みたいな深海棲艦と戦闘して、二週間足らずで別の鎮守府で姫や鬼級となった艦娘と戦い、あげくには悪い奴らに目をつけられ誘拐までされる、か」
芙二は苦笑いをするが、長門は違った。立ち止まり芙二を見て言った。
長門「昨日のこともそうだが、提督。あなたは何かを引き付ける才でもあるんじゃないか?」
真顔で言われるもんだから、そうかもしれないと言うしかなかった。
芙二「そうだ、直近で一番面白い話を持っているよ」
長門「これまででもとても愉快……いや当人たちはそうじゃないかも知れんが」
芙二「まあそうかもね。俺がネジの外れた戦闘狂みたいなところあるから対応できるてるだけで、普通だったら死んでるか再起不能になってるよ」
長門は再度歩き出す。芙二のいう『直近で一番面白い話』とやらに釘付けのようだ。
芙二「世界を滅ぼそうと動くドラゴンと戦闘した話」
長門「ドラゴン……? それなんだ?」
と言われてしまい、きょとんとする。そうだ、長門はまだ生れたばかりだから知らないのか。
そうだなぁ、と頭の中で例えやすいイメージを探しているとそこにアビスが飛んできた。
アビス「芙二、戻っていましたか。冷葉が探して……おやその艦娘は……」
長門「む、珍しい色の妖精さんだな。私は長門。長門型戦艦一番艦だ。そういえば提督よ、陸奥はいるか?」
いるよ、と返事をかえす。アビスは『長門型……なるほど』と頷いて自己紹介をし返した。
アビス「私はアビス。一応妖精、ですね。以後、お見知りおきを。長門さん」
長門「あぁよろしく頼む。ところで、アビス
アビス「長門さん、アビスで構いません。殿なんてつけて呼ばれるとむずむずします。あ、そうでした。冷葉から伝言です。『朝早くで申し訳ないが執務室へ来てくれ』とのことです」
うむ、伝えてくれてありがとうと礼を言うとアビスもまた会釈してどこかへ行った。
長門に執務室へ目的地を変えるがいいかと聞くと構わないというのでありがたく進路を変更するのだった。そのあいだ、ドラゴンについて伝えながら自分が戦ったときの話を事細かく伝えた。
同日 六時 二十四分 執務室にて
執務室についた芙二は扉を三回ノックする。
室内から冷葉の声が聞こえてきたので、長門を連れて扉を開けて入るのだった。
『おー、芙二朝からすまんな……はぁッ!??!?』
もちろん、長門がドロップしたと伝えるのはこれが初めてである。
冷葉の驚きに満ちた声は執務室中いっぱいに響いたそうな。
芙二「っぁ~……朝からまた仕事を増やされるとは思わなんだ。つか、このまま行ったら冷葉が提督の方がいい気はするが……」
ひどい目にあった、と呟く。まぁ冷葉からしてみれば、勝手に海域へ行くだけじゃなくてドロップ艦を持ち帰ってきたのだ。思う事は増えていくのだろう。
長門「提督、なんというか……うむ。朝からお疲れ様、というところか」
労ってくれる長門にありがとう、と伝える。
食堂まで行く際、ここは寮があるというと興味深そうに反応する。
芙二「あ~陸奥と同じ部屋にしてくれって感じ? それだけどその辺は大淀さんと陸奥と相部屋となってるやつに聞かないと行けないからな……」
ま、その辺については大淀と話してみてくれやと言う。
長門は少しだけ不安そうな、寂しそうな表情をしながら頷いた。
大淀の前に陸奥を紹介しておくかと思った芙二だが……実際のところは陸奥に後のことを投げてしまおうと考えただけだった。
芙二「さっき来たな。さて、飯にしよう」
そう言いながら食堂へ入って行くのだった。
寮内 サラトガの部屋にて
朝 七時 三十三分。サラトガは目覚める。
ゆっくりと目を開き、窓へ手を伸ばしカーテンを開ける。
窓から差す陽の光が暖かくて心地いい、と感じそのまま浴びていた。
サラ「…………」
彼女の表情は曇っていた。カーテンを閉じ、背を伸ばす。
そして立ち鏡の前へ移動し、鏡に映る自分を見てゾッとしていた。
サラ「また……いえ、もうお別れが近い」
深海化が進行していた。髪も肌も白く、まるで自身が死人とでもいうほどだった。
鏡の中に完全に深海化し、姫級のような姿をした自分が笑いかけてくる。
『モウスグ……。アトは
不気味に嗤いかける。その瞳は青いが光がない。深海の様な昏さだった。
自分の提督は化け物だが、最近は特に力を酷使しているような気がした。
このままだと、どこかで死んでしまうのではという不安が増していた。
こんな時に自分が深海棲艦に成ってしまったら――と思うと申し訳なくて、迷惑はかけられないと彼女は自分の力で制御しようとしていた。努力はなんとか稔ってきていた。
サラ「ッ……ふぅ、ふぅぅぅッ……!」
制御しようとして体力、気力を使ってしまうのが大きかった。
それでも何とかして自分の理想とする日常へ馴染むために惜しまなかった。
髪の色や肌の色は元に戻りつつあった。
彼女は額から汗を流して、歯を食いしばって元に戻そうと必死だった。
サラ「ッハァ……ハァ……はぁ、ま、まだ私は堕ちません、よ!」
と鏡の向こうで舌打ちする自分へ告げる。
『フゥン? ソノ、気力ガイツマデ続クノカシラ……ネ?』
目を細めていうとスゥっと霧のように消えていく。
消えたのを見て、サラトガはその場に座り込む。
サラ「ッ! ッッ!!」
いつもの優し気な表情ではなく、苦痛に耐える表情をしていた。
彼女が深海化する原因になった薬の影響は肉体だけではなく精神も苦しめる。
こういう時に、芙二を頼れたらどんなに良かっただろうか。
神と対峙して間接的に世界を救う実力を持った芙二に。
彼女は無意識のうちに、芙二を頼ってはいけないと決めつけてしまっていた。
それに彼女自身は気づかない。どんどん、不安や苦痛が消滅することなく心に蓄積されていく。
サラ「今日が哨戒メンバー……じゃなく、てよかった」
安堵の表情をして呟く。
今日だったら彼女はきっと耐えれなかった。
耐えられなくて、艦隊の皆に痴態を晒していただろう。
一日あれば、心と体はなんとか回復する。今日一日は休んでいようと決めたのだった。
『……………………………………明日、明日ダナ?』
彼女の昏い意識の底でそう囁く、
影は知っていた。彼女の精神にひびが沢山入っていることを。
彼女は治ったと思っているが実はそうではないことを。
彼女を騙すために、力を
見事に騙された彼女は限界まで気力を使っていたことを影は知っていた。
哨戒だろうが、出撃だろうが、遠征だろうが知ったことではない。
影はすべてを逆さにしようとしていた。
一つ言っておくが彼女、サラトガは多重人格者ではない。
人間でも艦娘でも、よほどの聖人ではない限りは恨みや妬みといった負の感情が生じる。
人間だったら拗らせて、殺人や人の嫌がることを率先してやるだろう。
艦娘の場合はキッカケ一つで精神や在り方が
キッカケはなんでもいい。
清霜や時雨のように薬の場合もあれば、東第三の長門や瑞鶴のように憎悪の場合もある。
『…………明日カラ、コノ海ハ私ノ物ダ!!』
影はそう叫びながら眠りについた。
彼女は明日、反転することは決定事項なのだ。
彼女、サラトガは水底へ沈む。
深い水底には
同日 二十時 二分 食堂にて
食事を終え、冷葉は明日の出撃海域とそのメンバーを発表した。
その場に芙二は居らず、遅くまで電話で山方と話しているとの事だった。
冷葉「明日の出撃海域は【北方海域:アルフォンシーノ方面】だ。この海域では渦潮が発生していると聞く。だから軽巡や駆逐には電探を積んでもらいたい……敵に空母と戦艦のフラグシップ級がでるという報告もある。警戒しつつ制海権を取ってほしい」
と、海域の情報を話す。目を輝かせて聞く者や眠そうにしている者などがいたが、サラトガの表情はどっちとも違った。目は虚ろで、顔色が悪い。
しかし誰も気づくことなく、進行していく。
昨日来た長門ですら盛り上がっていた。自分が選ばれなくても、とても楽しそうだった。
サラ(……タイミングがとても悪い……ですね)
ここでメンバーが発表されたようだ。
青葉が旗艦で中には自分の知らない艦娘もいた。
軽空母で名を隼鷹。紫色の髪の軽空母。
龍驤と同じく式神型である意味で日本だけのものと言えるだろう。
だが、低速なのを本人は気にしているようだ。
明日共に戦う身として、挨拶をしておきたいと思ったサラトガは作り笑顔で挨拶をした。
『アタシは隼鷹ってんだ~! えっとアメリ艦の正規空母のサラトガさん? 明日はよろしくぅ!』
サラトガは呼び捨てで構わないと伝えると隼鷹も自分のことを呼び捨てで構わないと言った。
解散となったのでサラトガは『お先に失礼します』と頭を下げるとひとり早く寮内へ戻って行った。
時雨「……サラ、大丈夫かな」
夕立「時雨~? どうしたっぽい?」
時雨「あ、いいや。なんでもないんだ。夕立、お風呂へ行こう?」
夕立「そうするっぽい~!」
いつもは誰かと会話をしているサラトガだが、今日は逃げるように去って行ったことに違和感を感じる時雨は風呂上がりに彼女の部屋へ寄ろうと思い、夕立と共に向かったのだった。
次はアルフォンシーノ方面ですね。
多分アルフォンシーノ方面だけで三話ぶんくらい書くかもしれないです。