とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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芙二君とビスマルクの話です。長くなりそうなので分割しました。


三章 14話『芙二はビスマルクと共に北第八へ 1』

 

 同日 十三時 二十二分 寝台列車内にて

 

 芙二は今、大本営のある地から青森駅までの列車に乗っている。

 

 午前中は山方とちょっとした話し合いをしていた。それが昼前に終わって帰ろうとしたとき、男女が口論する音が聞こえてきた。

 

 こんな白昼堂々と痴情の縺れかいな、などと思って近づくとそこに居たのは先日のビスマルクだった。

 

『私はッ! あの男からレポートを奪わないといけないの!』

 

『だめだ。それは我々がやる事になった。君は前回みたく身体(あれ)を貸していればいい』

 

『いやよ!! それはお断りするわ!! 鎮守府(あそこ)へだってひとりで帰れるんだから』

 

北第八鎮守府(箱庭)でしか生きられない人間モドキ(カンムス)がいいご身分だな。もう一度……精神に刻み込んで……』

 

 男の肩を芙二が叩く。

 『あぁ? なんだ、貴様』とガンを飛ばすが臆せず別の場所へと誘導する。

 

 

『ゴがぁ!?』

 

『……さて、吐いてもらおうか。お前さん、非情派の人間だな?』

 

 物陰で男を腹を殴って気絶させる。意識のない人間に対して操るように無理矢理動かす。

 

『目的を言え』

 

『……がっ……あそこのおんなを……』

 

 と、指差した先はビスマルクだ。

 彼女をどうするつもりなのか、善からぬこととかその辺だったら殺そうと芙二は考えた。

 

『玩具にしてもいいと……』

 

『前回はなにをした?』

 

『集団で九時間ぶっ通しで――――』

 

『分かった。もういい。これを飲め』

 

 懐から小さな黒い薬のようなものを飲ませた。

 操られている男はそのまま呑み込む。

 

『それじゃ、そのまま自分の帰るべき場所で行け。繁殖行為をするときは同種の雌とやれ。じゃなければ意味がない』

 

 男はふらふらと歩いて何処かへ消えた。

 

 しかしビスマルクだけでは北第八鎮守府へ戻ることは叶わずじまいだった。だから結果的に芙二が北第八鎮守府まで同行することになった。

 

芙二「北第八鎮守府までよろしくな、ビスマルク」

 

ビスマルク「……えぇ。こちらこそ、よろしく頼むわ。……東第一泊地の提督」

 

芙二「芙二だ。呼び捨てで構わない。東第一の~なんて言いにくいだろ?」

 

ビスマルク「……分かったわ。鎮守府までの同行よろしく頼むわね、芙二」

 

 腕を組み、機嫌悪そうに目を逸らしていうビスマルクを見て芙二は『闇が深そうだな』と思いながら駅へ向かうタクシーを手配するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 列車のある一室はやけに広く、キングサイズのベッドがひとつ設置されていた。

 冷蔵庫の中には潤滑油とハートが描かれた瓶が五十本ほど隙間なくぎっちり入っていた。

 

 瓶の中身を空けて飲む。キリリ、と音が鳴った時はビスマルクが顔を向けてきた。

 がしかし、その顔は恐怖に染まっていて、凝視していた。

 

 次々に瓶の中身を飲み干す芙二を見て蒼褪めていった。

 

芙二「……ッ!

  (中身は……っと。んだ、こりゃ? 飲んだ後に肚が熱くなってきやがるな。もしかしてジョークグッズじゃあないのか?)」

 

 中身が無くなった空の瓶をゴト、ゴトと雑に置いていく。

 音が鳴るたびに、ビスマルクの表情が変わっていく。青から徐々に白くなる。

 

 

 半分近く飲んだ後にふぅ、と一息ついて廊下側の個椅子に腰かけて残りの瓶の中身に干渉して覗く。

 

 

 ひたすら瓶を凝視する芙二をビスマルクは見ていた。

 前回は抵抗する暇もなかったが、今回はいつ襲われても抵抗できるように、と気を張り詰めていた。

 

ビスマルク「…………」

 

芙二「ふぅーッ……ハァ……アァ、くっだらない」

 

 瓶の中身の成分の解析が終わり、呆れた声を出しながらまた封を切って飲み始めた。

 芙二の行動が理解出来なくて目を見開いて口をへの字にしていた。

 

ビスマルク「ちょ、ちょっと! 一度にそんな量飲んだら死ぬわよ!?」

 

芙二「む? ゴクン……あー大丈夫。俺はそんなことじゃ死なないよ。ビスマルクはこの瓶の中身を知っているようだけど……さっきの男となんかあった?」

 

 最後の瓶を飲み切り、空になった瓶をそこら辺に捨てると取り上げようとしてきたビスマルク聞く。

 ビスマルクの顔に怒りが滲むのは時間がかからなかった。

 

ビスマルク「それを聞いてどうするの……? 」

 

芙二「この瓶に口をつけるたびに、チラチラしてきたから気になっただけ」

 

ビスマルク「……ッ!! だから、あなたが、それを聞いて、どうするのって聞いてるじゃない――ッ!!」

 

 目に涙を浮かべ、叫ぶ。そして芙二の顔面に拳が炸裂し、廊下側の扉に叩きつけられる。ドタン、と大きな音が鳴った。

 

芙二「ってぇ~……ビスマルク、もう言わなくていい。今の言動で大体分かった」

 

ビスマルク「何が、分かった、のよ……あなたたちは私たちを道具のように扱って……っ!」

 

芙二「……分かり切ったことを聞くが目の前にあいつがいたら殺してやりたいか?」

 

ビスマルク「そんなのは当然じゃない!! 殺すなんて生温いわッ!! こうなったら深海棲艦になってでも――――『やめろ。それはダメだ』」

 

 芙二の問いにビスマルクはありのままの感情を吐き出す。しまいには深海棲艦となっても復讐を遂げる意思を口にする。それを芙二は止める。提督としてではなく、艦娘のような人外の身として。

 

 それを遂げた後がないから、止める。口で言って聞かないのは分かる。それほどに人間に対する恨みが深い。だから、芙二はこう言った。

 

 

芙二「俺が復讐の場を用意してやる。その時までに準備をしろ。根回しして、谷部提督とその屑を地獄へ招待しろ」

 

ビスマルク「そんな言葉、信じられないわ」

 

芙二「そりゃそうだろうな。でも、俺はそういうのを見逃すのは好きじゃない。だからいち提督として、人外の身(ニンゲン)として始末してくれるわ」

 

ビスマルク「……ん? 今なんて……」

 

芙二「提督として、人間として処刑してやると言ったのだ。凌遅刑でも暗殺でもしてやりたいのは山々だが、今はできないな。申し訳ない」

 

ビスマルク「……全然申し訳ないと思ってないでしょ」

 

芙二「いやいや。思っているとも」

 

 『だとしたら……』とビスマルクが言い淀む。何か言いにくい事でもあったのか、と思っているとすぐに二の句を繋げた。

 

ビスマルク「だとしたら、どうしてそんなにいい笑顔なのよ」

 

 そう、芙二の表情は申し訳なさそう、というよりか真逆だった。目を細め、口角を上げ少しだけ頬を赤くしていた。まるでそれらが楽しみだと、言わんばかりの表情だった。

 

芙二「おっと、失礼。見苦しいものを見せた。ま、場所は用意してあげるとも。ただ時間がかかるから、今のうちに刃を研いでいて欲しい。だけど実際は俺が仕切るわけじゃないから、似たような人間が現れたら力を貸してあげてほしい」

 

 

 と、頭を下げる。

 ビスマルクは納得していない様子だが『保留にしとくわ』といい芙二から離れてベッドに腰かけた。

 

 

芙二「寝るのか? だったら静かにしとくけど」

 

ビスマルク「いいえ、まだ寝ないわ。だって芙二のことを完全に信用していないもの。どこかで襲われたりしたら、抵抗できないわ」

 

芙二「俺にそんな気はないけどなぁ……嫁候補を裏切るわけになっちゃうし」

 

ビスマルク「嫁候補? 人間のお嫁さんを迎え入れるの?」

 

芙二「いんや、相手は一応艦娘予定。本人には伝えてないけど。振られたら、海にでも沈むかな」

 

ビスマルク「うっそ!? 人間が艦娘を娶るなんて、聞いたことがないわ。頭でも打った?」

 

芙二「失礼な。俺は人間(よそ)の女に興味がないだけだ。それに一目惚れだ。相手がどう思っているかは分からんから怖い部分でもある……まあなるようになるか」

 

ビスマルク「そこまで割り切ってるのなら、大丈夫よ。私はとっくに穢されちゃったからその辺の希望はないわ」

 

芙二「……少しだけ目を瞑って。夢と希望を持たせてあげる」

 

 にこりと笑う芙二を不思議そうに見ながら指示に従う。ついさっきまで警戒していたのに、今は全く警戒していない。ビスマルクの身体に触れる際、断ってから触れる

 

ビスマルク「んっ……」

 

芙二「俺からの贈り物。ビスマルク、お前さんはまだ()()だ。長い生で闇は視れど穢れなど知らぬ、純粋無垢な少女だ。夢、希望と恋を知り、愛を受ける身だ。お前さんが本当の意味で愛を知る時が来れば、これは解禁されるだろうね」

 

 と、言いながら魂の穢れを抜き取る。

 失われたものは元の形に戻し、希望と夢を与えた。

 

芙二「さて、これで終わりだ。眠くなったろう、ベッドで横になりなさいな」

 

 そういって、ビスマルクの身体をゆっくりと押す。

 押されたビスマルクはろくに反応できず、横になるとすぐに寝てしまうのだった。

 

芙二「さてと。俺はさっきから鳴りっぱなしの携帯を取ろうかねぇ」

 

 と言いながら、携帯を持って廊下へ出たのだった。




次までビスマルクと2人きりの旅ですね(といっても7時間ほどですけど)

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