いつもよりも二倍くらいありますけど、よろしくお願いします。
廊下へ出て、鳴りっぱなしの携帯を取るとディスプレイには冷葉と書いてあった。
今日の海域攻略の報告か?と思い、電話に出るとすぐに焦りと怒りの混じった声が耳を貫いた。
『やぁっと繋がった!!! 芙二、今お前何処にいる!? 落ち着いて聞いてくれ、緊急事態が発生したんだ!!』
芙二「え、あ? なにをそんなに――」
電話口から聞こえてくる冷葉の声は叫び声のようだった。芙二は緊急事態発生という単語で冷葉や艦隊にとって損害が出るほどのことがあった、くらいの認識しかしてなかった。次の言葉を聞くまでは。
『サラが、サラトガが轟沈したんだ!!』
芙二「は? おまえ、何言って」
『嘘じゃない。しかも深海化して自害したらしい。そのへんを今は青葉たちに事情聴取してるところだから、今すぐ戻って来れそうか?!』
芙二「いや無理だ。今分け合って、北第八鎮守府までビスマルクと行かなくてはならない」
『北第八鎮守府……そうか。じゃあ、帰宅時間は『早くて二十二時だな』……そこまでに艦娘を纏めておく』
芙二「そうしてくれるとありがたい。俺からも彼女の痕跡を辿ってみる。それと――ある所に前もって電話をかけておいてほしい」
『どこだよ。今、それどころじゃないんだが?』
芙二「最悪の想定をしている。俺の予想が当たるとこれまでの比じゃないくらいの深海棲艦と戦う羽目になる。俺らだけだと限りがあるから、応援を要請できるか聞いてほしい。それで場所は――――」
電話口の冷葉はとても忙しそうだ。
無理もない。これで冷葉が関わる深海化した身内の件は二度目だが、今回は精神にクる。
つい最近まで仲良く話していた、仲間が目の前で深海化したのちに迷惑をかけまいと自害したのだ。普段深海棲艦の首を取ることが仕事の彼女達でもかなりキそうだ。
『分かった。おまえはビスマルクを送り届けたらすぐに帰ってきてくれ』
芙二「了解した。冷葉、俺が帰ってきたらでもその前でもいい。一度休め、夜間は俺が受け持とう」
『……正直ありがたい。ではな』
ブツン、と通話を終了した。
芙二は普段滅多に吸わない煙管を取り出した。
廊下から適当な空き部屋に入り、一服しようと思った。
それほどに感情が限界まで昂り、暴れそうになっていた。
自分が一番気に掛けるべきだった。サラトガが深海化しているのは知っていたのに、という事実が自身を責める。
芙二「…………ッあ~~クソが。
(どうして、分かったあのとき、すぐにやらなかった、俺ェ!!!!)」
むすっとした表情のまま別の部屋の扉をノックする。
返事がないので、無言のまま扉を開けると生温かい風と思わず鼻を覆いたくなる濃く混った情交の臭いが廊下へ漏れ出た。
芙二「…………ここもか」
部屋の中は薄暗く、複数の男女が性交に忙しそうにしていた。扉が開いて部外者が入ってきたのにそれに気付かないほど互いの身体を貪り合うのに夢中らしい。
気付かれないように気配を消して、少しだけ八つ当たりをした。
男女が性交中に感じる感度を上げた。
一度でいいから、してみたかった。
少し前に流行った感度三千倍というのを。
芙二「…………快楽で脳みそがショートするまで何分かかるかな。試したことないけど、二次元ではないから一突きの快楽で脳みそが焼き切れそう。汚らわしい鳴き声など聞きたくもない」
出る時、芙二は入った部屋をまるっと空間干渉し防音処理を施して去った。
部屋内にいた男女の脳みそが焼き切れ、本能貪る獣となるのは時間がかからなかった。
芙二「一服はビスマルクと別れた後でもいいか」
廊下を歩きながら、そう一言呟くとビスマルクが眠る部屋へ向かったのだった。
部屋の中に入り、ビスマルクが寝ている所のベッドに目を向ける。彼女はちゃんと寝ているのが確認できた。すぅ、すぅ、と規則的な寝息を立てている。掛け布団がずれているので、直しながら彼女の顔を見つめる。
「俺の知っているビス子じゃないな。なにがあったらそこまで荒れるのだろうか?」
そこまで必死にあのレポートを取り返そうとするところに思うところがあったのでビス子に悪いと思うが、記憶を覗かせてもらった。
手を伝わり、頭の中に流れ込む記憶が徐々に鮮明になっていく。砂嵐のようなノイズが聞こえながらもモノクロ映像が流れ始める。
芙二「……ッ!? そ、それが……」
頭の中に流れてきた映像は芙二の心を酷く揺さぶった。胸の内にある正義のココロに、マグマのような熱が宿る。熱は一瞬にして、全身を巡り、感情を昂らせた。
芙二「それが、人間のやる事かッ!? あンの、クソゴミ野郎ッ!!」
勝手に記憶を覗いたが酷さに思わず、叫んでしまう。叫んだ際、芙二の周囲をゴウッと風が吹き荒れた。部屋内に立てつけてある家具を揺らし、椅子を倒す。
まだ芙二の怒りは治まらないがハッとしてビスマルクの方を見る。
すぅ、すぅと寝息を立てていた。芙二が部屋中に響くほどの声を出したのにも関わらず、目覚めないとは彼女もきっと相当疲れていたのだろう、と思わざるをえなかった。
芙二「……」
寝ているビスマルクの方へ歩いて、そっと手を当てようとしたときだ。表情が曇り、何かを呟き始めた。
ビスマルク「プリン、ツ…………レー、ベ。マッ…………クス。ごめ、んなさい」
芙二「大丈夫。俺が、何とかする。約束は守るし、なんなら――――――」
苦しそうに魘され始めたビスマルクの頭を撫でながら、呟くと自然と彼女の表情が安らいでいく。
芙二は終点に着くまで優しく頭を撫で続けた。
無事に駅へ到着した芙二とビスマルクは改札を抜けて、ロータリーに来ていた。
時間も時間なのでひとはほとんどおらず、辺りは街灯も少なく薄暗かった。
雲の隙間から月が覗いていた。東第一泊地のある地方と比べると空気が冷たく感じたので、ビス子の方を見ると腕を擦り合わせていた。
少し遠くにコンビニを見つけたのでビス子に自分の軍服を着させ『少しここで待ってて』と伝え駅前のコンビニへ温かい物を買いに行った。
ビスマルク「彼、タンクトップ一枚だったけど寒くないのかしら? 私たちは艦娘だから少しくらい寒くても平気なのに……」
といいつつも少し大きめにデザインされている芙二の軍服に包まるのだった。
『いらっしゃーせー』と気の入っていない挨拶が聞こえた。明るい店内に芙二は入るも怪訝な視線を向けられた。
それもそのはず外は長袖を着るレベルなのに上はタンクトップ、下は長ズボンという組み合わせの男が入ってきたからだ。
現在の時刻は二十一時を少しだけ過ぎた時間なのにも関わらず人も陳列されている商品も少ないように見えた。
芙二「弁当、おにぎり類は全滅……ね。菓子パンも、菓子もないとなると……飲み物はお茶類、酒類はないな」
駅前のコンビニはほとんど商品がない状況だった。唯一残っているのは半額と値札シールが張られた牛乳くらいだった。それを片手でひとつずつ掴む。
『ホットミルクにするかぁ~……』と呟きながら、レジへ向かう。
芙二「ふぃ~……こっちに来るのは初めてだけど、初めての買い物が半額の牛乳ねぇ」
牛乳が二本入ったコンビニ袋を手に持ってビスマルクの元へ行くと案の定と言っていいのか分からないが、自分よりもガタイのいい男三人に絡まれていた。遠目でもビスマルクが怯えているのが分かる。
芙二「すっげぇ、こんなテンプレ起こるんだ」
と呟きながら近づく。芙二が近づていくるのが分かるとビスマルクはガタイのいい男を退かしながら足早に駆け寄ってくる。
芙二「っと、ビスマルク大丈夫か?」
躓いて転びかけるのをキャッチする。
呼びかけるも反応はなく、その身体は小刻みに震えていた。
もっと抱き寄せるようビスマルクをより近づける。
ビスマルク「芙二……芙二ぃ~……」
芙二「大丈夫、大丈夫。っと、てめぇら!! コイツに何したァ!?
(おにーさん方! この子になんかした~?)」
不良A「まだ話しかけてすらねぇよ!! オメーこそ、正義のヒーローごっこか?! さみぃんだよ!! とっとと失せろ!」
芙二「っせーな! おい、コイツが何者か知ってンのか?」
不良A「コイツはただの小…『おい、黙ってろ』……チィッ」
不良B「コイツは艦娘だろ? なんて名前か知らねえがな。俺らはそこンとこの提督にこいつらを良いようにする許可を貰ってんだ。だから好き放題しようが関係ないだろ」
不良C「で、おめーこそ、誰だ? コイツに軍服を着せて歩いてるただの
タンクトップ一枚で袋を引っ提げてる芙二を見ながら言った。
この時点で芙二の怒りのボルテージが上がっていく。
そして件の龍神が言っていた芙二自身に眠る渇望の炉に
変化は芙二に一番近くの位置にいたビスマルクが気づけた。本人や他の不良は気づかない。
芙二「そうだなあ、俺はただのクズだがオメーらよりもマトモなクズだよ。コイツに手ェ出したら殺す。ぃや、やめだ。お前らの目の前に家族、友人知人を引っ張り出して殺してから殺す」
不良A「はん! はったりもいいところだな。それだったらやってみろよ?」
不良B「なんてッ……やらせるわけねぇだろうがッ!!」
一人は芙二を挑発し、もう一人は素手で殴りかかってきた。後の一人は電話で誰かに掛けているように見えた。
とりあえず芙二は殴りかかってきている奴の攻撃を受け止める。バシィッと乾いた音が響く。
ビスマルクは自分がこうなったせいで芙二が攻撃を受けたのだと自分を責めた。
殴りかかった方はニヤついて煽っていた方に声をかけていた。
電話を終えた奴もニヤけたまま叫んだ。
不良C「仲間を呼んだ! これでお前も艦娘も終わりだな。ガッハッハッハ!!」
芙二「そーかい。……ブレイン、ジャック。これで終わりだな。
(馬鹿が。数が多ければ勝てると思ったか? 貴様らが相手にしている存在がどういうものか知らしめてやるよ)」
どうでも良さそうにひと言いうと不良共には聞こえない音量で【ブレイン・ジャック】と呟いた。
芙二がカインとの戦闘で手に入れたスキルの一つ。内容は対象者の魂を伝い相手の思考を、身体の自由を奪うことが出来る。
相手を操られる、とは少しだけ違う。
ただ奪う、だけだ。相手の自由を奪う。思考の時間を奪う。
奪われた相手はそれを認知しない。芙二が決めた任意のタイミングで発動できる。
不良B「なにを言ってんのか、分からねーがてめぇはもう終わりなんだよなぁ!」
さっきまで話していた男が鉄パイプで芙二の頭部を殴りつける。
メコォという擬音が聞こえそうなほど強く叩きこまれた。
ビスマルク「芙二!!」
芙二「ってぇな。ビスマルク、離すからうまく手をついてくれ」
ビスマルク「え、ちょっと!」
トン、と抱き寄せていたビスマルクを押す。
その隙に芙二は身体にいい一撃を入れてくれた二人の胴にもそれ以上のモノを加える。
低く短い悲鳴が聞こえたのをビスマルクは手をついた瞬間、耳にした。
ビスマルク「芙二! 大丈夫!?」
芙二「あァ? あー、大丈夫。仲間を呼ばれる前にお前さんの所の鎮守府へ向かおうや」
ビスマルクと受け答えをする間も殴られた男どもは苦しそうに殴られた場所を擦っていた。
最初に煽った男はさっきの威勢はどこへやらみたいなもので震えながら、芙二を罵っていた。
不良A「お、おいお前! こんなことをしてもいいのか!!? み、民間人に――――」
芙二「民間人? お前らが突っかかってこなかったら二人ともダウンしてねーだろうがよい。頭を殴られたのもそうだな、俺じゃなかったらアレは死ぬし、これでトントンだろ?」
目を細めて、やや口角を上げて言い放つ。
暴行を何とも思っていないように男の目には映った。
その瞬間、不良らは恐怖に染まり始めた。
芙二が何かを言っていてもただこれから来る仲間に助けを乞うしかなかった。
芙二「ビスマルク。行こう、時間が惜しい」
ビスマルク「え、えぇ」
適当な暗所へ行こうとしたその時だ。
けたたましい音が聞こえ、ビスマルクが吃驚しているとすぐに二人をぐるっと囲んだ。
バイクのライトや車のライトが二人を照らす。
そんななか、誰かが発した声で恐怖に染まりつつあった不良の威勢が戻りつつあった。
不良D「オメーらが、うちのツレに手ぇ出したってやつらか?」
暴走族の隊長のような恰好をした男が芙二にガン飛ばした。
さっきの不良もどんどん威勢が戻ってきたのか、後ろから『そです!』とか『やっちゃってください!』とか言い出していた。
芙二「そうだが。で、俺とやるのかい? 見たとこ、お前さんなら話が通じると思うのだけど……」
不良E「なんの話をしてんのか、わからねぇな? この期に及んで命乞いか?」
不良D「おいおい、艦娘を侍らせておいて、それはねぇだろ?!!」
とバイクの方に居たやつがいうと周りはゲラゲラ笑い始めた。空気に気圧されてきたのか、ビスマルクが芙二の手を掴み始めた。その様子を見て、また誰かが『ひゅー! その反応、かっわいいねぇ!』と指笛を鳴らしながらニヤついた目で言い放った。
『…………ッ…………ふ、芙二…』
芙二は押し黙ったまま、先ほど【ブレイン・ジャック】した相手から別の相手へ若干であるが制御できないかを模索していた。
ビスマルクを守ったままその場の全員をねじ伏せて、心を砕くなど造作もない。
だが、それだと自身が
『さっきからだんまりだけどよォ? もしかして言い訳の言葉でも考えてる??』
『そこの艦娘! このまま痛い想いをするのは嫌でしょ? 大人しく身を差し出してくれるンならこの男も半殺しで済ますけど、どうする?』
芙二が何も言わないことを良い事に好き放題いいはじめる。ビスマルクは芙二の顔と不良たちを交互に見ていた。
芙二「お、これならいけるわ」
と、何かが解決したときのような明るい声を発した。
芙二以外、こいつ何言ってんだ?状態だがいち早く我を取り戻したのははやり最初の不良たちだった。
『気でも触れたか? おめーはよぉ?』
『そうやって、騙そうとしても無駄だぞ!!』
『兄貴たち、今です。トットトとトトと――――!?』
三人目の言動がおかしくなる。芙二を除く全員の視線が向かうも本人も驚いている様だった。
『き、急にどうした! はへ?! か、っかっかかかかっらだだだだだだの――』
二人目もおかしくなる。
身体がおかしいようだ、と芙二以外の全員が理解する。
芙二、ビスマルク、対峙していた暴走族の恰好をした男と煽った男の周囲にいた人間の挙動がおかしくなっていく。その様子をみて二人以外の全員が錯乱し、恐慌状態に陥る。
『お前ら、落ち着け! ってギャァァァアア!!!!!』
『な、お前やりやがったな!!?』
『味方が、俺らは味方ッ……がぁぁぁぁぁぁ!?!!?』
『待て、てめぇら!』
とこの場が混沌としてきた。
先ほどの三人も激昂し、互いに殴り合いを始めていた。
呂律が回っていないのか、言語ではない言語を叫びながら互いに傷つけあっていた。
ビスマルクは理解が出来なかったから、芙二に聞こうとしたときだ。
『あっががぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!』
ひと際大きな悲鳴と何かが引きちぎれる音が聞こえた。そっちの方に自然と意識が向く。
笑い声や泣き声、怒り声、奇声が入り混じり芙二に聞こえていないようだった。
芙二「無様に踊れ、矮小なゴミ人形共」
と漏らすも混沌としていく現場では誰の耳にも届かないようだった。
血の匂いが鼻を抜け始めたくらいに、芙二はビスマルクを連れて暗所へ向かう。
あそこはいずれ警察が来るだろうから、場所を変えるために移動した。
ビスマルク「ちょ、ちょっと! どこへ引っ張るの!?」
芙二「ビスマルク、鎮守府内のお前さんが寝泊まりする場所をイメージしてくれ」
ビスマルク「え、どういうこと? 説明してちょうだい!」
芙二「すまない。あのクソ共のせいで時間が潰れてしまった。今日は色々な事があったろう。送り届けるから、さっき言ったとおりにしてほしい」
謝罪しつつも静かな口調で指示をする。
芙二は説明をしないから分からなかったが、今日だけで色々な事があったので同意できた。
言われるままイメージした。寮内の自分の部屋。
かつては友がいたが、今はいない一人部屋。
ビスマルク「出来たわ。それでどうするのかしら?」
芙二「目を瞑れ。少しだけ触れる。あとこれ持っとけ」
と、スボンのポッケから赤い巾着袋を取り出す。
大人しくビスマルクは受け取る。
彼女がすぐ聞くよりも芙二が『ただのお守りだ』とだけ言った。
それを聞いてすぐに彼女の上着のポッケにしまう。
芙二の軍服を着ている今はそこに入れようと間違いそうになったことは秘密だ。
ビスマルク「目を、瞑ればいいわけね?」
芙二「あぁそうだ。瞑ったな? …………よし、触れるぞ」
というとビスマルクの頭部に触れ、イメージした場所へ転移する。
真っ暗な部屋にたどり着いたが暗いままだと不憫なので勝手に歩いて照明をつける。
ビスマルク「わっ!? き、急に明るく……え、ここ、私の部屋……」
芙二「ビスマルク。俺はこれで帰るが――――約束はしたのだからキチンと果たそう。たとえお前が深海化して堕ちようともゼロへ戻すからな。っと誰かが来たようだ。それでは! 武運長久をっ」
と足早に部屋を出る。『ちょ、どういうこと――――』と言いながら閉められかけていた扉を勢いよく開けると目の前には羽黒がいた。
羽黒は目を丸くして、ビスマルクに声をかける。
ビスマルクは羽黒に対して『そこにタンクトップを着た男は見なかった?!』と聞くもそんな人物は見ていないと言った。
それが信じられなくて、さっきまで返しそびれた軍服を思い出して『証拠はここに――ッ!?』と言いかけたときに真実に気がつく。
ビスマルク「ない!? え、どこ!?」
羽黒「…………ビスマルクさん、長旅ご苦労様です。幻覚を見るくらい、疲れてるんですから今日はもうお休みになられた方がいいですよ」
と諭される。ビスマルクは違う!と言おうとしたが証拠がない状態でなにを言っても無駄、というのは嫌ほど思い知らされた。だから『私の勘違いだったかもしれないわ』といい素直に謝罪した。
羽黒は『いいんですよ。頭をあげてください』といい、頭を上げさせた。
そしてビスマルクに向かって用件を話し始めたのだった。
二十二時 五分 芙二は泊地に着いた。
夜だが演習場が騒がしいのは誰かが悔しくて暴れているのか、はたまた訓練か。
しかし今の芙二にはどちらもどうでもよかった。
執務室にいる冷葉の元へ行く途中、芙二はサラトガの魂の気配を辿ろうとするもそれは叶わなかった。
彼女の魂も肉体もこの世に存在しないのか、それすら分からない。
現在深海化して、轟沈したとされるサラトガの居場所は芙二にも分からないのであった。
新スキル;【ブレイン・ジャック】
概要:触れた対象者の魂を伝い相手の思考を、身体の自由を奪うことが出来る。
この状態だと操れない。ただ相手の思考と、身体の自由を奪うだけ。
相手は急に実感するのではなくて、徐々に実感する。
効果は殆ど遅効性の毒と同じ。
新スキル:【マッド・マリオネット】
概要:芙二が干渉する能力と【ブレイン・ジャック】を用いて考えた即席スキル。
【ブレイン・ジャック】の力を干渉する力で短くか細い糸にして相手の魂魄を操る。
操られた相手は制御を失い、本人の望み通りの劇を作り上げるだけに心血を注ぐようになる。
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件の龍神:ジーゴ・カラミティ
◆◆の渇望:ジーゴ・カラミティの言うとおり、芙二の奥底に眠っていたはずの渇望は少しずつ本人の心を蝕み、意思を無視し、作り変えようと動き始めた。