とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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なんだかやる気が戻ってきました。


三章 16話『想定していた中でも最悪の出来事』

 時刻はもうすぐ零時を回ろうとしていた。

 芙二は冷葉と今日出撃した艦娘の話を聞きつつも、

 先ほど自分が行ったことの結果を話していた。

 

冷葉「お前でも見つけられなかったか」

 

芙二「そうだな。最悪を想定して動くよう、明日の朝は皆に伝えてくれ。夜間の間は俺が警戒をする。夜間組の選別は出来ているか?」

 

冷葉「出来ている。すでに配置につかせているから大丈夫だ。お前こそ、北第八鎮守府まで行って大丈夫か?」

 

芙二「あぁ大丈夫だ。ちょいと汚物を掃除する手間があったがそれ以外は、な」

 

冷葉「……何があったかは聞かないでおこう。青葉や他の奴らも下がらせても構わないか?」

 

芙二「大丈夫だ。青葉、間違っても自分を責めるなよ。お前が悪いわけじゃないからな」

 

 そういって、昼間から忙しく動いていた青葉たちや冷葉を解放した。明日から少しの間は哨戒任務だけにしてある。出撃してる間に、深海化したサラトガたちが出る可能性もあるからだ。

 

 そのままロストなんてことも最悪だが、最も恐れるべき事は任されているこの土地と守るべき人たちを失う事だ。芙二は自分も相当な事じゃないと泊地から外へ動くつもりはない。

 

 仮に動いたとしても、事が済めば神速で戦場へ向かう予定だ。

 

 

 誰もいなくなった執務室で、まとめられた書類に目を通そうと机に近づく。

 

芙二「……………………」

 

 書類を手に取り、書かれている事に目を通すなかふとこう思った。

 

芙二「……。

  (深海化したサラが被害を出すまいとした、最後の抵抗だったのかもな)」

 

 

 あの戦いで一時的に神になったが、やはりそれは本当の意味で神になってはいないのだと、自身が色を付けた魂一つ見つけられない能力不足を痛感した。

 

 

芙二「俺の中に眠る渇望か。それと龍神になるには、どうしたらいいのか……いや今はそんなことよりも各方面に根回しをしよう。こんな時間だけど、大鳳さん起きてるかな」

 

 

 前者は後に考えるとして、後者は今すぐに行いたいが時間も時間なので流石に躊躇う。

 しかしこれは大鳳にも話すべきだとした。

 

 彼女から始まったのだから、聞かせて損はないと判断した。

 これで始末書を書かされることなんてないだろうと、思いつつ電話を掛けた。

 

 プルルルル、プルルルルとコール音が静かな執務室に響く。

 

 数コールしても大鳳は出なかった。

 やはりもう就寝してしまったのだろうか、と思った時だった。

 

『芙二提督殿? こんな時間にどうしたのですか?』

 

 と不思議そうな大鳳の声が聞こえたのだ。

 

 出るとは思っていなかったので、三十秒ほど思考を停止させていた。

 

『芙二提督殿~? 芙二さん? 芙~二さ~ん? どうかしたのですか~?』

 

 大鳳の呼びかける声でハッとする。

 まずい、こんな非常識な時間に電話したのに待たせてしまった、と思った芙二は謝罪から入った。

 

『いえいえ。私は今ちょうどお風呂から上がったばかりなので……それで用件はなんですか? それともただの世間話をしに掛けたのですか?』

 

芙二「単刀直入に言わせてもらいます。昨日、サラトガが自刃の末に轟沈しました」

 

 電話向こうで息を詰まらせる音が聞こえた。

 芙二が言ったことは彼女にとって、それほどのことだったのだろう。

 

 さっきよりも長い沈黙が流れた。

 流石に芙二も大鳳が受け入れるまで待とうと思った。

 

 が、しかし彼女も歴戦の艦娘なのだろう。すぐに事実を受け入れ、詳細を芙二に聞いてきた。

 

 芙二は冷葉から聞いたことと、先ほど見た報告書の内容を話し終わると大鳳は唸りながら黙ってしまった。黙ってしまった大鳳に以前話した処理について話そうと思いながらも冷葉に任せたことはちゃんと実行されているのだろうか、と少しだけ心配になってしまった。

 

 

『芙二提督殿。サラトガさんのことは分かりました。多分その先を聞きたいのですよね? 許可は出しておきます。共に窮地を脱し、暮らした仲間が敵になったことは悔やんでしまうかもしれませんが――』

 

芙二「分かってます。大鳳さん。俺は彼女を終わらせます。本当に深海棲艦となっていたら、ですけど。深海棲艦として生まれ直した彼女の生を奪わせて頂きます。閣下にもそうお伝えください」

 

 

『はい。分かりました。彼女の弔いは、任せました。芙二提督殿』

 

芙二「了解です。もう一つ、お願いがあります。これも閣下にお伝えできれば、と」

 

『なんでしょうか?』

 

芙二「もしも深海化した彼女が中規模、大規模相当の存在になっていたら、です。友軍艦隊を送ってほしいです。自分達では彼女にたどり着く前に潰えてしまうかもしれない。だからよろしくお願いします」

 

 と、無意識のうちに電話口の大鳳に頭を下げてしまう。

 

『分かりました。明日の朝、提督に伝えておきます。では、芙二提督殿。…………そこまで追い詰めないでくださいね』

 

 そういって大鳳との通話を終了した。

 芙二は溜息を吐いて、ソファにドカッと座った。

 

芙二「……サラトガの魂が追跡できないのは消滅しちまったからか? それとも……もう一人の同郷人であるアイリ・ブルグレスが絡んでるか、どっちかだな」

 

 天井を見ながら呟くも、今は考えても仕方ないと思いさっき吸えなかった煙管を無機質な色の箱から取り出し、吸い口につけようとする。

 

芙二「ここじゃあまずいよな」

 

 刻み煙草を丸めながら入れようとするも、室内に臭いがつくと困ると思い煙管を箱に再度仕舞う。

 

 そして一時的に退室する際、さっき目を通した書類を棚の引き出しにしまって電気を消していくのだった。

 

 

 

芙二「かといって、どこで吸うかなぁ」

 

 と呟きながら歩いていると叢雲と時雨に出くわした。

 

 既に零時を回っているのにも関わらず二人は寮内に居るどころか執務室ある本棟にいた。

 叢雲と時雨は芙二に気がつくと近づいて来た。

 

 

時雨「こんばんわ、提督。こんな時間にどうしたんだい?」

 

叢雲「こんばんわ司令官。……サラのこと、冷葉補佐から聞いたでしょ?」

 

芙二「二人ともこんばんわ。あぁ聞いているとも。俺の力でも彼女の痕跡を辿れなかったことも話したさ」

 

叢雲「! 司令官でも分からないの? それじゃあただ轟沈しただけ、なのかしらね……」

 

時雨「いや叢雲。それはないと思う。サラは生きているよ、でも恐らくは深海棲艦になっている。僕や清霜のようなイレギュラーではなくて東第三のような個体に成っていると思う」

 

 と、自分の考えを話す。叢雲はそうかもしれないけど、と時雨の言い分を納得したようなそうでないような表情をしていた。

 

芙二「そうだな。時雨の予想が正しいとすれば、これは最悪な事態を招きかねない。肉体が消滅して魂が浮遊してないのは証拠になるかもしれんな? しかし魂というものが非物体だからこそ、他者に説明するのが困るが――仕方あるまい」

 

 と、区切る。続けて『これは俺の失態でもある』と眉間に皺を寄せて呟いた。

 

叢雲「明日からの予定は?」

 

芙二「その辺は冷葉に任せてあるし、指示もしてある。もしかして、人生初めてか? 中規模、大規模相当の戦闘を体験できるのは――――」

 

時雨「提督、顔。どうしてそんなににやけてるか分からないけど、その顔は危ないよ」

 

叢雲「……前に人間だった、と言っていたけどその頃もそういうことあったの?」

 

芙二「あったには、あったがリスクだらけでやる気はなかったなぁ。あっ」

 

 

 時雨に指摘されたので、あまりの嬉しさで歪んだ顔を真顔まで戻す。

 そうか。叢雲と誰かには自分が元人間ってことを話していたっけな、と思い出していた。

 

 前世の記憶が少しだけ紐解かれて、思い出せるようになった。

 そして叢雲と時雨に何を話そうと思ったとき、ふいにワンシーンが再生される。

 

 

 

 

『凌也! 決行は明日の正午だ。お前が溜めていた◆◆を今こそ解放する時だッ!』

 

『あぁ分かってるよ、◆◆さん。生半可な気持ちでこんなことをやっている訳じゃないんだ。世界に◆◆を、つまらない世界に◆◆をッ!!』

 

 茶髪に丸眼鏡をかけた男が黒髪の自分と似た男に話しかけていた。

 自分とよく似た男は、顔には青筋が浮かび心底憎そうな表情をしたまま、見ている方向を変えた。

 

 

『ウォォォオオオオオ!!』

 

『そうだ、そうだな!』

 

『我らはあなた方についていきますッ!!!!』

 

 

 大歓声が上がっていた。

 銃や剣、刀、斧と天井へ突き立てて己を奮い立たせる者共がいた。

 

 

『各員、これより◆◆◆◆作戦を開始する。俺と◆◆の指示がなくても決行しろ! 生温い世界で生きてきたバカどもに血の雨を降らせてやれッ!!』

 

 

 と鬼気迫る声量で伝えるとさきほどよりも大きな歓声が上がった。

 それらを見て芙二は俺の前世はテロリストかなんかだったのか?と思っていたとき、再生が停止した。

 

叢雲「~~? ~~ん! 司令官!!」

 

芙二「! あ、すまん。ぼーっとしてた」

 

叢雲「急に反応が無くなるから吃驚したじゃない。疲れてるっぽいし、もう休んだら?」

 

芙二「そうするよ。すまない、叢雲、時雨」

 

時雨「ううん、提督こそお疲れ様。今日はすぐに寝た方がいいと思うよ。叢雲、僕たちも行こう。提督、おやすみなさい」

 

芙二「あぁおやすみな」

 

 

 と、叢雲と時雨は寮へ戻って行った。

 

 芙二はさっきまで見ていた前世の記憶を思い出そうとするも、寝ていた時に見た夢のように思い出せなくなっていることに気がつく。

 

芙二「…………」

 

 今いる場所から中庭へ行くと、長椅子に腰をかけ、無言のまま煙管を取り出し吸う支度をしだした。

 

芙二「…………げほっ!? ごほっ……!」

 

 久々過ぎて煙管の吸い方も忘れ、勢いよく煙を吸ったため咽る。

 咄嗟に吸い口を外してもまだむせていた。

 

芙二「…………あ~。うん。そろそろ執務室に戻るかなぁ」

 

 と、ポッケから小さな灰皿を取り出すとそこに灰を入れ、煙管を箱にしまいながら執務室に戻るのであった。

 

 




 芙二君の前世の記憶を少しだけ、出してみました。
 最近、煙管を吸ってみたいと思う作者です。
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