芙二「もしもし? 神城提督殿、こんにちは。東第一泊地の芙二です。何か用ですか?」
『冷葉補佐からの支援艦隊の応援要請についての回答なのだが……うちはまだ休業中だ。その中で支援に行ける艦娘は――――』
芙二「神城提督殿、俺は、いや私は支援艦隊を出せと強制はしない。あれからどれくらい回復したかは分からないですが……ケアが必要な娘らを無理矢理、戦場へは送らせないでください。まだ、その覚悟は不要です」
『……了解した』
芙二「これからすぐに向かいます。執務室で待っていてください。それでは失礼します」
と神城提督との通話を終了する。
有言実行、すぐに神城提督の元へ向かおうとするが、思いとどまる。
芙二「そうだ。冷葉にひと言入れてからにしよう。まだ工廠にいるだろうか」
と言いながら出来上がった書類を封筒に入れ、持って空き部屋を抜ける。
扉は施錠せずに、足早に工廠へ向かう。
芙二「明石っ! 冷葉はいるか?!」
明石「わっ!? て、提督どうしたんですか、そんなに血相変えて」
芙二「これから東第三鎮守府へ向かう事になった。提出する書類は既に完成しているから渡すついでにひとこと言いに来た――がいないようだな」
明石「冷葉補佐と大淀は向こうに居ますよ。妖精さんと共に装備の開発してます。私は今ちょうど手が空いていないので、すみません提督、直接行ってもらえませんか?」
芙二「了解。邪魔したわ、明石サン!」
と、明石と少しやりとりをして、冷葉と大淀の居る方へ向かう。
工廠はいつにもまして作業する妖精さんで溢れていた。工具の音が、艦娘たちの何やら会話する声が聞こえてきてなんだか、活気があるような気がした。
しばらく歩いた先に装備を持つ大淀とそれを見ている冷葉がいたので声を掛ける。
芙二「ひやは~! 今、大丈夫か?」
冷葉「お、芙二か。どうした? 何かあったか?」
芙二「これから東第三鎮守府へ行ってくる。さっき神城提督殿からお呼ばれしたからネ! あ、これ提出できる書類。帰りは何時か分からんけど、あとでまた話があるから大淀さんも執務室……にいてほしい」
冷葉「お、おう。一応分かった。戻ってきたら、俺の携帯に一本入れてほしい」
大淀「提督、了解しました。時間にもよりますが、だいたい執務室にいますので直接来てください。居なかったら、寮か食堂だと思いますので」
と、双方の承諾を得たので芙二は工廠を後にし、東第三鎮守府へ向かうのだった。
ヒュゥゥゥーーーー…………芙二は現在、東第三鎮守府の真上に居る。
といっても人や艦娘が点に見えるほど、ではないが。
芙二「うーん、どうしようか」
今更、登場の仕方を考えていた。
普通に執務室へ向かうか、あるいは以前の大技のように突っ込むか。
芙二「や、普通に門前から呼び鈴ならして入ろう」
そう思うとすぐに、行動した。
同日 十四時 十二分
東第三鎮守府 門前にて
『あいつ、すんなり外出を許可してくれたわね。いち艦娘が鎮守府の外を歩いてもいいのかしら?』
『そういうなよ、瑞鶴。あいつが俺達に対する処置が
東第三鎮守府に所属している瑞鶴と木曽が門前で会話していた。
いつも見る、制服ではなく支給されたシンプルなデザインの服を着ていた。
楽しそうに談笑しながら、彼女らが鎮守府の外へ一歩踏み出したときである。
ズドン、と空から何かが目の前に降ってきた。
急な轟音と土煙で、二人は思わず顔を覆いながら、何が起きたのか分からない様子だった。
『ふぅ。なんか勢い余って、地面と衝突しちまったけど……地面は後で元に戻せばいいか』
土煙の中から何処かで聞いたような声が聞こえてきた。しかし晴れていくなかで、正体に気がついた二人は大きな声を出して、指を差した。
瑞鶴「あのときの、提督じゃない!」
木曽「おまえッ! な、何しに来た!!」
驚いた顔をする瑞鶴と腰のサーベルを抜いて、芙二に突きつける木曽。
しかし当の本人である芙二は、ゆっくりと立ち上がり自身が落ちて割れた道路を元に戻していた。
芙二「……よし、これで終わりだな。あン? 瑞鶴に木曽じゃないか。どうしたんだ? そんなに殺気立って」
瑞鶴「東第一泊地の提督のあんたがどうして、空から……ってそうじゃない!
木曽「瑞鶴! その線はあるかもしれないが……俺は今からこいつの足止めをするから、あいつに早く知らせろ!」
芙二「え、何が起きてんの?」
瑞鶴「分かったわ! ……木曽さん、すぐ戻るから!」
と、瑞鶴は鎮守府内にいる神城の元へひとり走って向かって行った。
残った芙二は頭の中にクエスチョンを浮かべ、何やら覚悟している木曽と周囲を見渡しながら会話を試みる。
芙二「な、なぁなにか勘違いしてないか? 俺は別に木曽たちを処罰しに来たわけじゃないしよー、その向けている矛を収めてくれよなあ?」
木曽「うるさい! どうせ、すぐに憲兵を配備しているのだろう? 俺が、お前に斬りかかった瞬間に確保して、その後は決定的な証拠の元にここを解体するのだろう」
芙二「あー、えっとだから俺は神城提督に呼ばれたからであって……」
木曽「なに!? あいつが今回の発端だと言うつもりか!? それじゃあ、中に向かった瑞鶴が危ない!」
瑞鶴の向かった建物の方を振り返ってそう言った。
芙二の言葉は彼女には届いてないように感じた。
キリがないと思った芙二は携帯を取り出して、神城提督に遅れる旨を伝えようとした時だ。
木曽「そうやって、仲間を呼ばせはしないぞ!」
芙二の携帯を貫かんばかりの勢いで突っ込んできた。
来ることはおおよそわかっていたので、難なく避けつつポケットに入れる。
芙二「…………【
(話し合いは平行線だから、ちょっとだけ痛い目を見てもらおうか)」
木曽に標準を合わせたまま黒い鎧姿を身に纏う。
両手には禍毒の盾を持ち、木曽に圧をかける。
木曽「!? 前よりも変化している?! こんなの、見掛け倒しだっ!!」
芙二「……カース・ファランクス」
木曽が砲撃を始める。爆発音と衝撃が芙二に伝わる。
陸での砲撃はご法度じゃないっけ、と鎧の中から思っていた。
とりあえず木曽が満足するまで攻撃の機会を譲ろうと思いながら観察していた。
芙二「……。
(木曽改二、練度九十七。前のときよりも艦娘としての力が強くなっているな。それと任意で深海化はできないようだ。それじゃあうちの時雨がおかしいだけか。叢雲はまだ変化の途中だけど自分でなんとかできそうだし、サラは――――いや考えるのは止めておこう。今は無駄だからな)」
しばらく観察しながら攻撃を受け続けていたが、徐々に弱まっていくのを感じていた。
さっきよりも砲撃による衝撃や刺突によるものが無くなってきたように感じる。
盾を地面に突き刺して、横から木曽の居る方を見るとそこにはバテている姿があった。
木曽「はぁっ…………はぁ、くっそ、まったく傷をつけられねえ……このままだと姉貴も、天龍達も殺されちまうッ!!」
サーベルを地面に突き刺し、唸るように叫ぶ。
その声を上げるだけで周りが集まって来るのが分からないのだろうか。
叫び終わったあとはサーベルを手に持つとすぐに投げつける。
それを難なく弾くが、芙二は次の木曽の攻撃が予測できなかった。
本人の発した声で気がついた芙二は、彼女の行動にブチ切れた。
木曽「なあ!! このまま魚雷を持ったままお前に突撃すれば――――」
『【狂獄】』
木曽が言い切る前に、芙二が言葉を発した。
途端、彼女の勢いが止まった。
それだけじゃない。芙二と木曽の戯れを見に来ていた艦娘も動きを止めていた。
芙二「……木曽。その手に持っている物を地面に置け」
木曽「っ……お、脅しかよ、自分が優位に立ちたいからっ」
芙二「これはお願いじゃない。命令だ。木曽、早くそれを地面に置け」
ドスを利かせた声で命令する。
芙二の言葉が発せられる毎に、空間が凍りつき、空気が張り詰めていく感覚に襲われた。
それに立てないくらいの重圧がその身に降りかかっているようにも思えた。
グググ……と膝を突かせられることに木曽は苛立ちを見せ、芙二を睨んでいた。
芙二「……その目はなんだ。そうか、頭部があるから――――」
そう、呟くのと同時に【狂獄】を解除する。そして禍毒の盾の柄を握り、雑に地面から持ち上げると、無意識のうちに振り上げていた。
木曽「っ!? 急に圧力がなくなった……?」
ついさっきまで謎の圧力に襲われていた木曽は立ち上がり、自身の手や足、身体を触り痛むところがないか見ていた。ないと分かり、安堵の息を漏らすもすぐに自身に影が差す。
上を見ると芙二が無言のまま盾を降ろし、死が迫ってきていた。
木曽自身も周囲の野次馬も茫然としていた。
それは避けきれないからだ。
あまりにも近すぎる。野次馬は彼女に迫りくる死を見ている事しか出来なかった。
木曽「――――ちくしょう」
悔しそうに呟き、目の前の光景から目が離せない。
しかし盾が振り下ろされることはなかった。
それは芙二自身が盾を消し去ったからだ。鎧姿のまま自身の両手を見つめていた。
芙二「俺は、今なにを…………」
神城「芙二提督殿。話しは執務室で聞きましょう。とりあえず中へ」
二人の奥に居た神城が芙二へ呼びかけ、鎧姿のまま執務室へ向かって行った。
ガシャ、ガシャと音を立てながら神城へついて行く
芙二は神城と共に執務室へ向かって行くとき、ずっと無言だったので【魔竜騎装】を解除していた。途中で姿が変わっても神城は動揺することはなくただただ執務室まで歩いた。
ようやくつくと、神城が扉へノックし扉を開けて内へと入室を促した。
中には執務をしている長門が居り、芙二を見るなり立ち上がり会釈をした。
芙二も会釈をし返して、ソファに座るように促されたので着席する。
その向かいに神城が座り、芙二の目を見て話し始めた。
神城「まず初めに、こちらの木曽と瑞鶴が申し訳ない。早とちりをしたようだが……」
芙二「いやこちらも申し訳ない事をした。登場の仕方が悪かった。あれじゃあ仕方ない、木曽を責めないでやって下さい。だが、敵を倒す為に自分を蔑ろにする判断はよくない。そこは叱ってください」
長門「あぁそうだな。木曽と瑞鶴のことは私に任せてもらおう。……芙二提督殿も今度からは普通に来てください」
芙二「ほんとうにそこはそう思います。悪気はなかったけど、そうだな、今度は普通に来ます」
芙二と神城、長門は普通に本題に入る前に互いに謝罪をしあう。
元はと言えば、それは芙二が起こした問題なのだから仕方ない。頭を下げ、反省している態度を見せていると、長門も神城も互いを見合って頷いていた。
神城「それじゃあ本題に入ろう。芙二提督殿、今回呼んだのは冷葉補佐からの要請についてだ。冷葉補佐から話は聞いている、サラトガの事はとても残念だと思う。そして答えだが、申し訳ないが、我が鎮守府からは一艦隊しか応援に向かわせることが出来ない」
芙二「それでもありがたい、なにせ規模が規模なので。だから、一艦隊でも応援が来てくれるのならば、敵に脅威を知らしめることが出来ます。内容については特にないです」
神城「! 休業中ですが、私たちの中で最高の戦力で向かいます。タイミングはまた後ほど……それでいいですか?」
芙二「構いません。それでよろしくお願いします」
神城の答えを聞いた表情を引き締めて芙二は利き手を差し出した。何も言わず、力強く芙二の手を握り返したのだった。
芙二が帰ったあと、ずっと黙っていた長門は自身の提督である神城に問うも、その表情はどこか寂し気で、また何かを躊躇っているようすだった。
長門「良かったのか? 提督よ、一艦隊だけ支援に出すと言って」
問いに対する答えは、すぐには帰ってこなかった。
神城はずっと俯き口を閉じていた。
何か思う事もあるのだろう、と長門は考え急かすようなことは一切しなかった。
十分ほどしたのちに、神城は長門の問いに対してゆっくりと答えた。
神城「…………良かったんだ。あれで、良かったんだと思うよ、長門」
長門「……提、督よ。その表情――――」
神城の言葉を聞き終えた長門はそのどこか弱々しい口調に疑問を感じ、本人の顔を見る。
芙二に
そんな表情をしている神城に対して、長門はなにも声を掛けられないでいた。
泣きそうな顔をしつつ再び閉口した神城とどこか居た堪れない気持ちになり無言になる長門。
東第三鎮守府の執務室はしばらくは静寂に包まれたのだった。
神城提督の心象みたいなのを書いてみたくなった今日この頃。