とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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間が空いてしまった


三章 20話『海月の傀儡』

 アイリ・ブルグレス(以下、アイリ)は以前、北方水姫と会合をした場所に来ていた。

 

 北方水姫がなんでも新たな仲間を迎えたというのだ。

 アイリは先日の【戦艦神棲姫】や【北方戦艦神水鬼】を思い出していた。

 

アイリ(あれくらいの戦力だったら使えるかもだけど……あ、そういえばあの艦娘(オモチャ)どうなったのかなあ。回収し忘れちゃったけど、壊れてないといいなぁ)

 

 少し前に自身の力で水上を滑る艦娘の()()()()()()()()()()がその日は疲れていたのもあってか、回収し忘れてしまったのだ。

 

 歩いていると目の前に扉があった。その先に北方水姫たちがいるのだと思うが、切り替えが上手くできなかった。その様子はオモチャを失くした子供のように残念そうに、はあと溜息をつきながら入室した。

 

 

『待ッテイタゾ、アイリ。? ドウシタ? キブンガ優レナイヨウダガ』

 

アイリ「あ、いや大丈夫。……少しだけ、そう、ほんとうに少しだけ嫌な事があっただけよ。それで? 本題は――――」

 

 北方水姫の問いに、頭を押さえ俯いて答える。自分の方は未だにショックだが、流石に割り切ろうと思い本題を聞くために前を向いたときだ。

 

 思わぬ嬉しさが込み上げてきたのは。思わず、涙が溢れる。

 しかし北方水姫は気づかずに話始めた。

 

『紹介シヨウ。昨晩、我ガ艦隊ニ入ッタ深海海月姫ダ。艦種ハ空母ダトイウ。ダカラ彼女ト北方棲姫の二人デ本土ニ空襲ヲ仕掛ケテモラウ――アイリ? ヤッパリ具合ガ悪イカ……? ヲ級、彼女ヲ別室ニ。アトデ他ノ者ニ詳細ヲ……』

 

アイリ「大丈夫。これは、そう。嬉し涙なの。思わぬ収穫があったから、嬉しくて自然に」

 

『? ソウカ。何モナイナラソレデイイ。人間トハ不思議ナ生キ物ダナ。悲シイコト以外デ涙ガ流レルノカ……ハッ! ソウダ、続キダナ』

 

 と、深海海月姫の詳細を話し始めた。

 アイリは適当に相槌を打ちながら、ちらっと深海海月姫の方を一瞥するとバツの悪そうに視線を外した。それを見て『人間の私がいることに文句でもあるのか?』と思った。

 

 

 一通り説明を終え、アイリが質問しようとするとき深海海月姫が先に動いた。

 

『…………北方水姫。私はコイツとサシで会話がしたい。後デ構わないから時間ヲクレル?』

 

『フム、ソウダナ。デハ私ハ北方棲姫と港湾棲姫ト打チ合ワセヲシテクル。邪魔ハシナイカラ、存分ニ話スト良イ。デハ、北方棲姫ニ港湾棲姫、部屋ヲ変エヨウ』

 

 そう言いながら部屋を抜けた。残った二人はとりあえず別々の場所に腰を下ろした。

 

 が、しかし無言の時間が流れ始める。

 

 アイリは自分を見てくる深海海月姫があの艦娘だと即座に見抜いていたし、成功を実感していた。その逆で深海海月姫は自分を見て急に泣き始めたアイリを不審がっていた。

 

『……。

(アノ人間、どこかデ……? ムム……思イ出セナイ。喉元マデ出カカッテ、イルノニナ。ダガ、あの目ハ見たことがある。世界を憎む眼ダ。……眼? 私ハ何処デ、ソレヲ見タノ?)』

 

 

 知らない記憶が深海海月姫をモヤモヤさせる。

 自分の中にある情報と合致するモノを持つアイリなら何か分かるかと思い話しかけた。

 

『アノ、アイリ、さんで良かったカ? 少し気ニナルことが』

 

 深海海月姫はアイリへ片言交じりで気になることについて知ろうとした。が、自分を見ているアイリの視線に恐怖を覚え、無意識のうちに距離を取った。

 

アイリ「あれ? どうかしたの?」

 

 と、深海海月姫が距離を取ったことに気が付いていないのかきょとんとしていた。

 

『…………ワタシと何処かで出会っタことある?』

 

アイリ「いいえ? 私は深海海月姫、あなたのことは知らないわ」

 

 続けて、アイリは『でも元となった存在については知ってるけどね』と言いたかったが言わず。

 深海海月姫は『そうか』と頷き、話題を侵攻作戦へ切り替えた。

 

 

 

 

 

 

アイリ「侵攻作戦? あぁ北方水姫とほっぽちゃん達が話していたアレね。海月姫、あなたとほっぽちゃんと先に本土へ空襲を行い、向こうが混乱しているうちに私達……いやこの場合は北方水姫、戦艦神棲姫や北方戦艦神水鬼の艦隊で侵攻するんだっけ」

 

『そうすると聞きました。ワタシは後で北方水姫と話し合いをしないといけない…………ところでほっぽちゃんとは誰のことを指している?』

 

 

 片言交じりが抑えられ、スラスラと流暢に話し出した。アイリは驚いて『あれ、随分流暢に話すけど、さっきのは演技?』と聞いた。

 

 深海海月姫は首を横に振って『人間のあなたが聞きづらいかと思ったので』と言った。

 それを聞いて『なるほどね。私はてっきり』と言うもまた二の句から先を不自然に言い止めた。

 

 アイリの様子に深海海月姫は怪訝そうな表情をする。

 その表情を見てか、アイリは先ほどの問いについて答えた。

 

 ほっぽちゃんというのは、北方棲姫のことだよと。

 

『なるほど。それは本人が認めてるの?』

 

アイリ「いいや? 影で私が勝手に言ってるだけ。くれぐれも言わないでね」

 

『分かりました。では、ワタシはこれにて失礼します』

 

 アイリに対して一礼すると、部屋を出て行った。

 

 

 部屋に残っているアイリは自分がやった行いの成功(ただし)さを実感していた。

 あの艦娘が先ほどの姫級になるのだったら、片っ端から艦娘を反転させれば思うように行くのでは?と思っていた。だが、まずはデータを集める意味でも【深海海月姫】を自分たちの良い様にしようと笑う。

 

 

アイリ「カインちゃんの死体にも作用するか分からないけど、早く見つけたいなあ。ま、それまでに色んな現地生物(モノ)で試さないとね」

 

 

 くつくつ、と笑いこれから起こることを考えただけでも震えが止まらなかった。

 

 長年の鬱憤を、怨みを憎き人間に向ける時が来たのだ。

 

 深海棲艦という最高のオモチャを用いて、破壊の限りを尽くしてやる。

 

 

 

 抑えていた感情が声となり狂ったように体外へ出て行く。

 笑い終えると、最後に『帰ります』と一言、紙に記して退室した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五月 二十日 午前五時 十二分

 

 北方海域観測所にて。

 

 

 昨日、南西諸島海域観測所の山方という職員からの伝言で『深海棲艦に変わった動きがあればすぐに指定するチャンネルに報告してくれ』とのことだ。

 

『南西諸島海域を観測するトコの職員がウチに指示をするなんて珍しい』

 

 北方海域観測所の職員の大半はそう思っていた。

 本土の方でなにかあったのかもしれない。

 

 だが、この指示はどこか変に思える。

 

 それにこちらは定期的に職員が望遠鏡や海上にいる巡視船が奴らの動きを逐一報告してくれている。

 

『海域に深海棲艦は――――いない?』

 

 いつもは何かしらが哨戒してるのに、と妙に思うも男は仲間に情報を共有する。ついでに指定されたチャンネルにも報告した。

 

 

 

 男は改めて山方という職員へこの伝言の意味を問いたいが、あいにく下っ端の自分にはそんな権限はない。ただ指示を聞いて、従うだけだ。

 

『深海棲艦もたまには休日という風にするのかな』

 

 なんて、お気楽な思考をさせていた。何回見ても深海棲艦のしの字もないのでついには帰ったら、なんてことを考えている時だ。

 

 ビーッ! ビーッ! ビーッ!

 

 けたたましいサイレンが聞こえた。

 慌てた男はつい、無線機のボタンを押してしまった。

 

 無線に出てかつスピーカーになってしまい大音量で報告が耳に入った。

 

『こちら、北方海域観測所巡視船!! AL海域にて奴らの不穏な動きを確認し、向かうとそこには姫級が五隻、大艦隊を組み本土へ向かっているもよう! 繰り返す――――』

 

 

 慌てた声色の言葉は、先ほどまでお気楽思考をしていた男の脳に衝撃を与えた。

 

 深海棲艦の姫が五隻。それに大艦隊を組んで本土へむかっている。

 その事実だけでもぶるり、と大きく身体が震えた。鳥肌が立ち、最悪の想像をする。

 

 恐怖にあてられた男は指定されたチャンネルへ聞いた情報を報告しようと無線へ手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 同日 午前五時 三十一分 東第一泊地 執務室

 

大淀「提督、目標が動き始めたようです。我々も動きましょうか」

 

芙二「そうだな。冷葉、話した通りだ。海は任せたが、()は俺に任せろ。建物の被害はあれど、死人は出さないように動く」

 

冷葉「ああ分かっている。なあ芙二、彼女は奥にいると思うか」

 

芙二「確実にいる。姫級が五隻いて、二隻は空母だと言っていたからな。事前情報と加味してもおおよそは、と言ったところだ」

 

冷葉「なら……いや全員でやるぞ」

 

芙二「当たり前だ」

 

 無言で頷く大淀。

 冷葉は放送室へ向かい艦娘へ作戦の開始を告げようとする。

 

 

 執務室を大淀に預け芙二は埠頭へ行き、水平線の向こうを見ていた。

 その眼には戦闘狂を思わせる意思が宿っていた。

 

 これから大義名分で殺戮の限りを尽くせると思うと、

 最高の実験場を提供してくれた深海棲艦に感謝していた。

 

 

 水平線の向こうから見えてくるものに対して、大鎌を取り出しながら不敵に嗤った。

 

 

 

 

 

 




ようやく開戦。
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