とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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また空いてしまった。


三章 21話『雨のように降る鉄屑』

 さぁて、やりましょうかねえ?

 

 そう呟き見つめる先は水平線のと空の境界を曖昧にするほどの艦載機群が迫っていた。

 

 太陽が上がり始めているのに、黒い影が見えて隠れして鬱陶しさを感じた。

 

 手元にある小型の無線機の電源をオンにし、いつでも冷葉たちと連絡できるようにしておく。

 予定とは違うが早めに空襲警報を鳴らしておいてもいいと思い始めていた。

 

 艦載機群が来てから鳴らすのは遅い。

 ちらちら見えて始めているから、あと一時間もすれば第一波が到達するだろう。

 

芙二「冷葉、予定よりちょっと早いが艦載機群がこちらに向かっている。すぐに鳴らしてくれ。それと俺はもう行くぞ」

 

『あい分かった。お前の武運長久を祈っている。深海海月姫を見つけたら、一本くれ。そこを艦娘で叩く。支援艦隊や友軍艦隊が来るタイミングでお前は退避しろ』

 

芙二「了解。なあ今更だが、お前が提督をやった方がいいんじゃないか?」

 

『バカ言え、俺にそんな力量はねえよ。それにほら、早く自分の仕事をしろ。今見えてるモノを処理できるのはお前だけだ。任せたぞ、親友(あいぼう)

 

 ピッと短い音を立てて通信が終わる。

 芙二は一度目を閉じて、ゆっくりと息を吐く。心を落ち着かせるため、ではない。

 いやある意味では心を落ち着かせるモノかもしれないが、この場合は敵を目前にして獰猛な笑みを浮かべないようにしていたのだ。

 

芙二「戦うのが楽しみで仕方がない。あんな無数の艦載機群(羽付きオモチャ)よりも深海棲艦(にんぎょう)とお遊びをしたいってな。……普段よりも破滅させたいと思うのはどうしてだろうな?」

 

 

 

 『魔竜騎装』と唱えると漆黒の騎士鎧を纏い、背からは黒い翼を四枚生やす。

 

 翼はゆっくりと展開するとぶわっという音がなりそうなほど勢いよく開く。

 周囲には黒々とした羽が落ちては、霧のように消えていく。

 

 

 自分に生えた翼の数や形が変化していることに驚きながらも急に加速したように空へ上がる。

 

 泊地やその周辺地域が一望できる高さまで上がると、ピタッと止まる。

 

 ゆっくりと艦載機群が迫ってきていた。

 戦闘に入る前に周囲に自分のことが認識できないように干渉していく。

 

 

芙二「よし、これで大丈夫。奴らにも冷葉達にも見えない。……ほんとは俺だって戦いたいさ。正面切って、奴らをぶっ殺したい。破滅させてやりたいよ、圧倒的な暴力の前にはそんなもの無意味だって教えてやりたいが…………」

 

 

 でも二の句を繋げない。

 今は空中にいるし、認識させない力を使ったから誰も聞いてないし見えていない。

 

 これはあくまでも艦娘と人間の戦争だからな。 

 

 ひと言付け加えて呟くだけなのに。

 それなのに喉元まで出かかった言葉は吐き出されることはなかった。

 

 気を取り直して、大鎌を虚空から取り出す。今はせいぜい小さな倉庫のような空間だがいずれは大きくしたい、と思った矢先だ。

 

 ちらっと形が見えた。

 白丸の赤い目がついた艦載機。それが無数に、黒いモノやカモメのような海鳥を模したものまで。

 バリュエーション豊かだと、再認識する。

 

 

 目を細め、数は……と測る。端から端まで目を凝らし、二分。

 向かってきている総数を把握した。

 

芙二「まずは、三百か。それだけいたら艦娘が対空砲火して百以下になるが被害は出る、な。空母棲鬼とか姫の方とかいたらもっと変わるだろうが……今は殲滅しよう」

 

 

 そういうと右手から小さな雷を発生させる。

 

 バチン、バチンと弾けるように白く輝きを放つ。

 それを大鎌に纏わせる。

 

 鎌の刃がバチ、バチと音を鳴らし紫色の光を発し始めた。

 頃合いを見て大鎌を揮う。繰り出された衝撃は雷を纏った斬撃となり、艦載機を破壊する。

 

 

芙二「う~ん。距離が遠かったからか、半分くらいだな」

 

 そうはいいつつも、あの時に受けたタケミカヅチ様の神雷がここでも活躍するとは神様の力は偉大だなあと感心していた。

 

 

 どれぐらい爆薬を積んでいたか分からないが、()()()百五十機ほどを潰しただけなのにかなりの周囲を誘発してか大爆発を起こし海へ墜ちていた。

 

 

 芙二が気づいたときにはほとんどの艦載機は墜ちて消えていた。

 残りは艦娘に任せようかと思ったけど、空から少しづつ元凶の元へ行こうと近づいていく。

 

芙二「冷葉のところに投げるか。冷葉、折り返しは要らんけど三百機ほとんど落としたから、少しづつ距離を詰める」

 

 無線は切らず繋げたまま、空を征く。残っている艦載機は味方が急に爆発し堕ちたことに驚いているものもあれば、他の機体は迷わず進むものもあった。

 

 

芙二(まあ分かる。きっと向こうにいるヲ級とかその辺はパニクってんだろーな? 隙だらけってことでぶっ壊すわ)

 

 一つ一つ丁寧に破壊する。

 止まっている機体よりも進んでいる機体を優先的に。

 

 

 あらかた全て破壊すると【深海神姫の寵愛】を発動する。

 大元と迫りくる艦載機を探るためだ。

 

 方向が分かったら速攻でケリをつける。 

 周囲にいる深海棲艦は全員、魂を抜き取り二つに分けて怨念の方は頂くつもりだ。

 

 だから容赦なくスキルを駆使していく予定でもあった。

 こりゃもしかしたら艦娘の出番がなくなるかも、なんて思ったがそんなに優しくないようだ。

 

「防衛線方面になんかいるな? そこら辺から匂いがビンビンすんよね」

 

 少し進路を変えて、速攻で向かった。

 第二波が生成される前に、もしくは艦娘が来る前に自分の力で相手を()()()()()()()()からだ。

 

 

 

 

 北方海域 本土空襲部隊 廃村内にて

 

 

 北方棲姫は部下のヲ級やヌ級に指示を出していた。北方水姫の指示通りにしろ、と付け加えて。

 やる事が終わったら、隣に居る港湾棲姫の元へ行き甘えていた。

 

『コラコラ、ホッポチャン……今ハ作戦中ダカラ……』

 

『イ~~ッ! ワタシハ、戦ウ気ナイ! 最近ハ人間ガ攻メテコナイカラ、暇ダッタケド。今回ダッテ~北方水姫ガ、言ッテ聞カナイカラ!!』

 

 

『ソウデモネ……我々ハ姫ニ座する者トシテ……』

 

 港湾棲姫が駄々を捏ね始める北方棲姫を宥めようとするも、言う事を聞かないため困っていた。

 

 そんなときだ。扉が勢いよく開く。急なことで驚いた顔をした二人は扉の方を向くと息を切らしたリ級がいた。

 

 

『北方棲姫様、港湾棲姫様! 大変デス! ヲ級、ヌ級ノ艦載機ガ全テ本土到達前ニ撃墜シテマス!』

 

『ホント? 艦娘ノ姿ハ?』

 

『イエ、確認デキマセン! ソレニ、コチラノ映像ヲ!』

 

 と、リ級の背後にいたヲ級に目配せする。

 ヲ級の表情は強張っていた。何も話さず、艦載機から送られてきた映像と海上にいる他のヲ級、ヌ級から送られてきた情報を北方棲姫と港湾棲姫に見せる。

 

 

『ホントダ。我々ノ部隊ガ殲滅シテ……』

 

『リ級、ヲ級。駆逐、軽巡、重巡ヲ用イテ倒サレテイク仲間諸共打ッテ。光学迷彩ヲ使ッテイタナラ、負傷ハ逃レラレナイハズ……!』

 

 

 先ほどまでの甘えん坊ではなく、戦闘と意識を変えた北方棲姫は部下に指示を出して自らも戦場へ向かおうとしていた。

 

 珍しく怒っている北方棲姫を見た港湾棲姫はハラハラしていた。

 

 北方棲姫は外へ出ると、少しずつ慣れていく。

 廃村内(なか)の空気と戦場(そと)の空気は全く違うからだ。

 

『ヲ級。ヌ級ノ所ヘ案内シテ。空襲部隊ト合流後、ワタシ自ラ光学迷彩(未知)ノ敵ニ引導ヲ渡ス!』

 

『ハ、承知シマシタ』

 

 ヲ級は部下に指示を出し、北方棲姫を囲うように陣形を組む。

 各方面の攻撃から身を護る為に護衛要塞を周囲に張らせる。

 

『……デハ、向カウゾ』

 

 この一声でゆっくりと前進していく。

 先ほどとは違い気迫に満ちた北方棲姫を見て、ヲ級は重い腰を上げたのだと思った。

 

 

 

 

 北方棲姫が海に出た後、アイリと北方戦艦神水姫が港湾棲姫とリ級達の元を訪れた。

 

アイリ「あれ? ほっぽちゃんは? 何処かへお出かけ?」

 

『アイリ……ホッポチャンハ、海へ向カイマシタ』

 

アイリ「へぇ~? 北方水姫(アイツ)の作戦を嫌ってたじゃん? どういう風の吹き回し?」

 

『ソレハ…………』

 

 

 言い淀む港湾棲姫を見てもアイリは表情を変えない。

 しばらく沈黙した港湾棲姫から視線を外すと、ヲ級が持っている端末を拝借する。

 

アイリ「ふむふむ? あ、これなんかいるねえ? どう思う北方戦艦神水姫?」

 

『ドウ、トハ? フム、人間ヤ艦娘ハ……ソンナモノニ頼ラザルヲ得ナイトハ……滑稽ダナ』

 

 と、鼻で笑う。

 しかし、と二の句を繋げる。

 

 

『コンナ存在ガコノ世ニ居ルトハ。港湾棲姫、モシヤコノ存在ニツイテ北方棲姫ハ何カ言ッテイタカ?』

 

『光学迷彩ヲ使ッタ敵ト……』

 

 港湾棲姫の回答を聞いて、ふむと頷く。

 考える素振りを見せるもすぐに答えをだす。

 

 

『コノ存在ハ我々ニハ手ニ余ル。ソコデダガ……』

 

アイリ「私が出ればいいわけね。はぁ、全く人使いが荒いよ。北方棲姫の回収だけでいい? 多分部下の回収は無理。だってあれ、正真正銘の化け物よ?あんな呪いの塊みたいな生物、近づきたくもない」

 

 と嫌そうな顔をする。

 それは同感だ、と頷く北方戦艦神水姫。

 

『アンナ穢レタ物……可能ナラ殺シテシマイタイ。アァ云ウ物ハ死ンダ時ガ一番恐ロシイナ?』

 

アイリ「まあその辺は私が考えるよ。それじゃ、私も北方棲姫の回収に向かうね」

 

 と、部屋を出た。

 北方棲姫の元へ向かうアイリの表情はどこか楽しそうであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方芙二はというと、前進している深海棲艦を見つけては片っ端から魂を奪っていた。

 命を失い、力なく沈んでいく個体を制御しようとするも、失敗ばかりで沈んで消えていく。

 

芙二「やっぱり魂を奪っちゃうと難しいか」

 

 と、残念そうな表情をしたまま呟く。

 どうにかして同士討ちをさせたい。それか敵全員の魂を短期間で掌握して、狂わせたいと邪悪な思考が芙二の脳内を支配しつつあった。

 

 とっくに芙二が形態変化で使用する怨念結晶の個数は満タンになっていた。

 

 ここいらで発散させておくか、と。

 貯めたばかりの怨念結晶を昇華させ、辺り一面を凍らせる。

 

 さっきまで二十度近くあった海上の空気が急に冷え、厚い氷が作られていく。

 深海棲艦は急な変化に対応できずに氷漬けにされる。

 

 

 足元は完全に凍って動けないし、なんならほとんどが凍傷を負った人型。

 魚のようなイ級は下半分が凍って進むことも潜ることも出来なくなる。

 

芙二「こうしたら、動けないよな」

 

 と、言いながら姿を露わにする。解除したから、氷漬けになった深海棲艦でも確認ができるだろう。

 もっとも視力が生きていれば、の話だが。

 

 海上に吹き荒れる吹雪が徐々に弱まると、また天候が先ほどのように回復していく。

 

 五分もすれば太陽が出ており、光が深海棲艦らを照らす。

 反射した光がキラキラとしており、とても綺麗だ。

 

 鎧姿のまま氷の上を歩き、半死半生のヲ級の顔を撫でる。

 しかし反応は薄く、今にも凍傷で死んでしまいそうだった。

 

 なので、解放する。

 魂を奪うと氷は砕け中にいた個体は死に、また氷ごと砕け散った。

 

 

 

芙二「…………さて、次へ行こう」

 

 氷の上を歩く。一歩、一歩と征く度に足元が凍り付く。

 深海棲艦の死体が周囲に浮くなか、騎士鎧の人物が歩き回るという異常な光景は港湾棲姫の元にいるヲ級らに送られたのだった。

 

 

 

 




深海側から見ても芙二君の存在は異様なもの。理解の範疇にない。
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